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Point of view [2020.11.27]

第169回 上村紀夫

現役産業医 兼 経営コンサルタントが語る、
組織の病との向き合い方

上村紀夫 うえむら のりお
株式会社エリクシア 代表取締役
産業医 経営学修士(MBA)

1976年兵庫県生まれ。名古屋市立大学医学部卒業後、病院勤務を経て、2008年ロンドン大学ロンドンビジネススクールにてMBAを取得。戦略系コンサルティングファームを経て、2009年「医療・心理・経営の要素を用いた『ココロを扱うコンサルティングファーム』」として株式会社エリクシアを設立。心理的アプローチによる労使トラブル解決やメンタルヘルス対策の構築、離職対策のコンサルティング、研修、講演などを行う。著書に『「辞める人・ぶら下がる人・潰れる人」さて、どうする?』『組織と働き方を「変える・変えない・先延ばす」さて、どうする?』(ともに、クロスメディアパブリッシング)がある。

組織の病が組織成長の足かせに

 「組織の病」、皆さんはこう聞いて何を思い浮かべるだろうか。
 筆者は12年にわたる産業医活動を通じて、メンタル不調、離職や欠勤、人間関係、モチベーション低下、ハラスメントといった組織の病について、日々人事担当者や経営者から相談を持ち掛けられることが多い。それらの課題は組織成長の足かせとなっているのが現状である。

社員を幸せにする前に、マイナス感情に向き合う

 こうした課題を対処するために、多くの企業が健康経営、EAP(社員支援プログラム)、リモートワーク、フレックスタイム制、フリーアドレス、副業等、社員に「快適」かつ「幸せ」に働いてもらうための施策を導入している。ただ一方で、どんなに施策を手厚くしても、組織活性への効果を感じていない組織も多い。ここで問いたい。「社員の幸せを追求する施策に取り組めば、課題は本当に改善するか?」その疑問に対して、筆者は強くNOだと主張したい。
 なぜならば、課題を抱えている組織の多くは、既にマイナス感情が蓄積した、「病んでいる組織」だからである。ここで言うマイナス感情とは、多くの人が経験しているネガティブな感情を指す。諦め、不公平感、ねたみ、怒りといった感情である。
 このマイナス感情は個人レベルで蓄積するのは当然のこと、組織全体にも影響を及ぼす。全く課題がない組織なら、幸せ追求型の施策は効果的かもしれない。ただし、既にマイナス感情を抱えている組織が「幸せ」という高みを目指すのは、背中に重りを抱えて山を登るのと同じである。もし今、皆さんの組織で思うように施策の効果を感じることができていない場合には、会社が与えるものと、社員が求めるものにズレが生じている可能性が高いため、根本にあるマイナス感情と向き合うことを勧めたい。

施策を通じて組織活性を上げる前に押さえるべき三つの視点

[1]組織活性3因子
 組織活性を上げる施策を講じる際に必要な視点が、組織活性3因子だ。社員や組織にはびこるマイナス感情の発生対象として、ターゲットは次の三つに絞られる。一つ目が「心身コンディション」、二つ目が「働きやすさ」、三つ目が「働きがい」である。
 「心身コンディション」とは、抑うつ、疲労、不安、身体的病気といった要素が該当する。「働きやすさ」には、業務負荷、人間関係、制度などの要素が、「働きがい」には、強み、成長、居場所感などの要素が該当する。
 3因子は相互に影響し合うという点も重要である。分かりやすく例えるならば、「心身コンディション」は組織活性の土台となる。これがグラつくと、「働きやすさ」にも「働きがい」にも悪い影響を与え、組織活性低下を招く。その一方、「働きやすさ」や「働きがい」が乏しい場合も、「心身コンディション」に悪い影響を与えてしまう。つまり、家のように基礎・骨組み・内装・外装どれも欠くことはできず、どれかが欠けると欠陥住宅になるのと同じである。

[2]ぶら下がりに注意
 中でも特に注意したいのが、「働きやすさ」が異常に高まって「ぶら下がり化」してしまうことである。ぶら下がり化とは、会社に何かしらの不満はあるが、転職しない・できない人たちによる消極的な定着のことを指す。通常、「ぶら下がり化」は「働きがい」が低下した場合に起きやすくなるため、"離職者がいない=問題ない"、とはならないことに注意が必要だ。
 ぶら下がり化の段階で働きやすさを上げることは、ますます彼らの居心地を良くしてしまう。だからこそ、"組織活性を上げる=働きやすい環境を作る"という短絡的思考ではなく、組織活性3因子がしっかりとバランスよく保たれているかを確認する必要がある。特にコロナをきっかけに社員の思考は「安全」「快適」を求める傾向にある。働きがいやエンゲージメントがトレンドだったここ数年と比べ、しばらくは「働きやすさ」を求める従業員と、どこまで社員の気持ちに応えるべきか悩む会社が増えてくるであろう。

[3]組織活性向上への最短ルートを目指す、ターゲティング戦略
 組織の病を引き起こすマイナス感情がどの因子に蓄積しているのかを理解した後は、具体的な施策といきたいところだが、「社員全員を幸せにする施策は無理」という前提について触れておきたい。社員みんなに幸せに働いてほしい、えこひいきはしたくないという思いは当然である。ただ、組織成長の担い手として期待できる人材と、業務を遂行するだけの人材は明らかに区別ができる。
 例えば、離職が課題ならば、組織活性を上げる人材を明確に設定し、他の人材と差を付けてでも、その人材層の育成と定着には注力する必要があるのだ。それによって組織活性を効率的かつ効果的に上げることができ、結果的に社員全員の活性を持ち上げることにつながる。これを筆者は「ターゲティング戦略」として提唱している。
 例えば、優秀(すでに組織の牽引役となっている人材)、ハイポテンシャル(3~5年後に優秀人材となるであろう人材)、立ち上がり(入社から1年以内の人材)、普通(やるべきことをきちんとこなす人材)等、人材の層を設定し、優先度を付けて施策を講じていくのも一案である。このターゲティング戦略の肝は、WHO(誰の)、WHAT(どのような課題に)、HOW(どう取り組むか)の三つである。やみくもに社員みんなにとって「良い施策」を行うのではなく、今ある組織の病を解決し、組織活性を上げるために、どの層にとって「良い施策」であるかを見極めたい。

組織の病に立ち向かう前に、関心と想像力を

 われわれの働く環境は大きく変わりつつある。ただ「組織は人ありき」ということは変わらない。組織の病はさまざまな要因で引き起こされるが、その最大の敵は「無関心」と「想像力の欠如」にある。実際に筆者は「社員のココロに関心を持っている経営・人事・管理職が少ない会社であればあるほど、マイナス感情が蓄積している」というのを目の当たりにしている。シンプルな話ではあるが、関心と想像力を持つことが、病に立ち向かう第一歩である。
 皆さんの組織にはどんな病があるだろうか。社員の幸せを叶える施策を講じる前に、一歩立ち止まって組織に向き合ってほしいと願いを込めて、本稿の筆を執った次第である。

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