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Point of view [2019.12.13]

第147回 治部れんげ

人事がちゃんと知っておきたい、
世界の「ジェンダー論」の現在地点

治部れんげ じぶ れんげ
ジャーナリスト

1997年一橋大学法学部卒、株式会社日経BPにて経済誌記者を16年間務める。2006~07年ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年よりフリージャーナリスト。2018年一橋大学大学院経営学修士課程修了。現在、東京大学大学院情報学環客員研究員。日本政府(外務省)主催の「国際女性会議WAW!(World Assembly for Women)」アドバイザー、東京都豊島区男女共同参画審議会長など行政のジェンダー平等政策に関与。著書に『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版社)など。

 グローバルな経済成長に関する議論の中で「ジェンダー」という言葉を見る機会が増えています。例えば、多くの企業が関心を寄せるSDGs。2015年の国連サミットで採択されたSustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略称で、途上国だけでなく先進国にも、政府機関だけでなく企業にも取り組みを求めるものです。17ある目標のうち5番目が「ジェンダー平等を実現しよう」です。
 また、日本が議長国を務めたG20大阪サミットで発表された「首脳宣言」にも、ジェンダーという言葉が何度も出てきます。

G20大阪首脳宣言(抜粋)

22.ジェンダー平等と女性のエンパワーメントは、持続可能で包摂的な経済成長に不可欠である。(以下略)

23.(前略)あらゆるジェンダーに基づく暴力、虐待及びハラスメントを根絶するために措置を講じることの重要性を再確認する。(以下略)

 本稿では「ジェンダー」とは何なのか「女性」と何が違うのか、考えます。

 ジェンダーは「社会的な性」と言われます。つまり、生まれつき持っているものではなく、社会規範によって決められるものということです。規範ですから法律ではなく、破ったからといって処罰されるわけではありません。それでも、規範に従わないと「変な人」と思われたり批判されたりといった不利益を被ることがあります。
 ジェンダーに基づく規範は、私たちの生活の中に深く浸透しています。ですから、頭では「性差別はしない」と思っている人でも「つい、うっかり」出てきてしまうのです。

 私自身の反省を踏まえた事例をご紹介しましょう。
 一つ目は20年以上前、経済誌記者をしていた時のことです。IT系のスタートアップ企業を取材に行きました。社長をインタビューするため会議室で待っていると、男性と女性がひとりずつ、部屋に入ってきました。
 社長の名前は知っていたものの写真を見たことがなかった私は、男性の方を社長だと思い込んで先に名刺を渡そうとしてしまったのです。実は社長は女性で、同行していた男性は広報室長でした。ここで私は「男女がいたら地位が高いのは男性」という思い込みに基づいて行動してしまったわけです。謝ったときの反応から、社長と広報室長が、この種の誤解に慣れていることがうかがえました。
 二つ目はごく最近の話です。小学生の息子から「ママ、これ面白いよ」と勧められた冒険小説がありました。非常に長い物語で、主人公は10代前半の男の子、正体不明の強い悪役が登場します。途中まで読んだところで、私は息子に言いました。
「こういうものすごい悪者って、主人公のお父さんだったりするんだよね」
 すると息子はぶぜんとした表情で「何で"お父さん"だと思うの? どうして男が悪者って決めつけるの!?」。ここで私は「悪いことをするのは男性」という思い込みに気づきました。
 講演や執筆や企業・政府機関向けの助言でジェンダー平等に関する仕事をしている私ですが、このような「間違い」を経験していますから、あまり偉そうなことは言えません。

 なぜ、私は間違えたのでしょうか。大きな要因として挙げられるのは、統計的事実に加えて、無意識のバイアスです。
 例えば日本企業全体を見ると、経営者も管理職も男性が圧倒的に多いことは、皆さんご存じでしょう。ただし「これから社長が来ます」とか「常務が来ます」というとき、その人が必ず男性であるとは言い切れません。それでも多くの人は、何となく「社長」とか「常務」と言われたら男性の姿を思い浮かべるのではないでしょうか。一方で「秘書」とか「保育士」と言われると何となく女性の姿が思い浮かぶ人が多いと思います。
 私自身、20代の頃、九州の大手通信会社に取材に行った際、「女性の記者さんなのですね!」と驚かれたことがあります。たぶん先方に悪気はなく、「記者といえば男性」と思っていたのでしょう。これまで女性の記者を見たことがなかったのかもしれません。

 ある業務に携わる人に男性/女性のほうが多いというのは、統計的な事実です。事実を把握することは大切ですが、同時に、多数派ではない属性の人のやる気をそいだり「あなたには無理」と門戸を閉ざしたりすることは避けるべきです。
 そこで学校で行われている、ジェンダー平等やジェンダーに基づく無意識のバイアスを減らすための取り組みをご紹介しましょう。
 千葉県の海沿いの街にある小学校では、子どもたちに「仕事」と「性別」について考えてもらう授業を行いました。「大工さん」「保育士さん」などの仕事について「男の人の仕事? 女の人の仕事?」というイメージを話し合ったのです。予想どおり「大工さんは男の人の仕事」「保育士さんは女の人の仕事」と答える子どもが多かったのですが、実はその街には女性の大工さんがいました。教室に来てもらい話をしてもらったところ、子どもたちの考えに変化が生まれたそうです。
 また、同じ千葉県の別の小学校では「ランドセルと色」をテーマにディスカッションをしました。「あなたに弟がいると想像しましょう。どんな色のランドセルを買ってあげたい?」と尋ねると、黒、青、緑といった色は多くの子どもが認めたものの、赤、オレンジ、ピンクなどは「ちょっと変」という子どもが多かったそうです。
 先生と子どもたちが「男の子にピンクは変かな?」という議論をしているところに校長先生がやってきます。実は校長先生は男性ですがピンクが好きで、その日はピンクのシャツを着て登校していたことから、子どもたちは考え直します。「ピンクのシャツの校長先生はカッコいい」「ピンクのシャツはいいと思う」「ランドセルはどうだろう」と。
 身近な事例を使って「男/女だからこうしなくちゃいけない」という「無意識の思い込み」に気づく授業は「ジェンダー平等」を目指す上で大変有効だと思います。
 このような授業実践は、先に挙げたG20大阪首脳宣言に記された「ジェンダーに関する固定観念の排除に向けた意識向上」に役立つものだと思います。

 それでは、企業の人材マネジメントに「ジェンダー」の視点は、どのように生かせるでしょうか。

 ある時、30代前半の男性から、こんな相談を受けました。
「夜のシフト勤務に入ることが多い。妻が妊娠して体調があまりよくないので、家のことをもっとやりたいのだけれど、これってどう思いますか?」
 彼が所属する部署には子育て中の女性社員がたくさんいます。男性部長は優しい人で、ママ社員たちを夕方までの勤務に就かせています。夜勤が必須の職種であり、夕方から夜中までのシフトには、男性と独身や子どもがいない女性が入っているといいます。
 相談を受けて、私は「部長に話したほうがよい」と言いました。部長自身は、家庭のことを妻に任せてきたのかもしれません。彼らにとってはそれが自然だったかもしれませんが、男性の家庭役割も時代により変化しています。
 G20大阪首脳宣言が述べている「我々はまた、女性の労働市場参加に対する主要な障害となっている、無償ケア労働におけるジェンダー格差にも取り組む」という部分は、まさに、男性の家事育児介護への参加を促すものです。
 初めての子どもの誕生を楽しみにしている「彼」が仕事と家庭を両立できるように支援することは「男性は仕事優先が当たり前」というジェンダーに基づく思い込みへの挑戦であり、国際的にリーダーが合意した方向性でもあるのです。

 ジェンダーに基づく無意識の思い込みは根強いものです。ひとりで考え込むより、周囲の人と話し合ってみることをお勧めします。できるだけ、自分と違う属性の人、違う経験をしている人と話すことで視野が広がり「ジェンダー」に対する理解が深まるでしょう。

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