判例温故知新 精選―女性労働判例
女性の活躍が雇用社会に不可欠となる中で、格差問題の変遷を紐解く
[2018.10.26]

第9回 広島中央保健生活協同組合病院地位確認等請求事件、東朋学園産休等取得不利益取扱事件ほか(妊娠・出産、産休等を理由とする不利益取り扱い)


君嶋護男 きみしま もりお
公益社団法人労務管理教育センター 理事

 妊娠・出産、産前産後休業の取得等を理由とする不利益取り扱いは、一般にマタニティハラスメント(マタハラ)と呼ばれ、男女雇用機会均等法9条3項で禁止されている。

1.広島中央保健生活協同組合病院地位確認等請求事件

妊娠中の軽易業務への転換を契機とした降格は、均等法が禁止する不利益取り扱いに当たり、管理職手当等支払い請求・損害賠償請求を一部認める

広島地裁 平24.2.23判決 労判1100号18ページ
広島高裁 平24.7.19判決 労判1100号15ページ
最高裁一小 平26.10.23判決 労判1100号5ページ
差戻審広島高裁 平27.11.17判決 労判1127号5ページ

[1]事件の概要

 病院(被告)に勤務する女性の副主任の職位にあった理学療法士(原告)は、第二子を妊娠し、軽易業務転換を請求して外回りのない病院リハビリ業務に移ったところ、ここには既に主任がいることから、異動日付で副主任を免除されたが、異議を述べなかった。原告は育児休業後に復職することとなったが、原告が配置されるなら辞めるという理学療法士がいるなど復帰先が限られたことから、被告は抗議を受けつつも、原告を後輩の副主任のいる部署へ一般職員として異動させた。これに対し原告は、本件措置は男女雇用機会均等法(均等法)9条3項が禁ずる不利益取り扱いに当たり無効であるとして、被告に対し、不払いの副主任手当(月額9500円)および慰謝料等総額約175万円を請求した。第1審および控訴審では、本件措置は、原告の同意を得た上で、業務遂行・管理運営上の必要性に基づいて行ったもので、均等法が禁止する不利益取り扱いには該当しないとして、いずれも原告の請求を棄却した。

[2]上告審および差戻後控訴審

 女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる措置は、原則として均等法9条3項の禁止する不利益取り扱いに当たると解されるが、当該労働者が軽易業務への転換等により受ける有利な影響ならびに不利な影響の内容や程度、事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向に照らして、当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したと認められる合理的な理由が客観的に存在するとき、または事業主において降格することなく軽易業務への転換をさせることに業務上の支障がある場合であって、その措置につき同項の趣旨・目的に実質的に反しないと認められる特段の事情が存在するときは、同項の禁止する不利益取り扱いには当たらない。本件の場合、上告人(原告)が、軽易業務への転換および本件措置により受けた有利な影響の内容や程度は明らかでない一方、本件措置により受けた不利な影響や内容(非管理職への降格、副主任手当の不支給)の程度は重大である。また、主任または副主任の職務内容等は判然とせず、上告人が副主任に就いた場合の業務の支障の有無・程度も明らかでない。したがって、本件措置については、均等法9条3項に実質的に反しないと認められる特段の事情の存否について更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻す。
 差戻後の控訴審では、最高裁の判断を踏まえて審査した結果、本件措置についての承諾は、控訴人(原告)の自由意思に基づく合理的な理由が存するとはいえないこと、本件措置は控訴人の業務負担を軽減させる利益とはいえても、降格は利益といえないことから、均等法9条3項に違反しないと認められる特段の事情があったとはいえないなどとして、被控訴人(被告)に対し、副主任手当(月額9500円)、慰謝料100万円等総額175万円余の損害賠償を命じた。

[3]解説

 本件は、第1審および控訴審と上告審およびこれを受けた差戻後の控訴審で見解が分かれているが、その主たる理由は、①本件降格についての原告の承諾の存否、②職場復帰後に原告を副主任に戻すことによる業務執行体制上の重大な支障の有無についての判断の相違といえる。「原告が同じ部署に復職すれば退職する」との意向を示した職員が2名いたこと、労働組合が原告の降格撤回を病院に要求しようと、職場の同僚に協力を求めたところ、これを拒否されたため要求を見送ったことなどからすると、原告と周囲との協調性にかなり問題があったようで、病院としては原告の復職に当たって、その配属先について相当頭を痛めたことがうかがえる。最高裁は、本件措置が違法な不利益取り扱いでないことについて使用者側に立証責任を負わせ、差戻審では、その立証が不十分であるとして、原告の請求を認めている。最高裁の考え方は、労働者保護の観点からは理解はできるが、本件では、病院は育休後の復帰先について、原告の希望を聞きながら丹念に検討したことがうかがえ、いじめの意図が感じられないことからすれば、少なくとも、本件をマタハラの代表事例のような扱いをすることは適当とは思われない。
 本件以前に、産休等の取得による不利益取り扱いが問題とされ、最高裁まで争われた事例として次のものがある。


2.東朋学園産休等取得不利益取扱事件

出産休暇および育児時短を欠勤扱いにし賞与を全額支払わないことは違法だが、賞与額を不就労日数に応じて減額することは直ちに違法とまでいえない

東京地裁 平10.3.25判決 労判735号15ページ
東京高裁 平13.4.17判決 労判803号11ページ
最高裁一小 平15.12.4判決 労判862号14ページ
差戻審東京高裁 平18.4.19判決 労判917号40ページ

 私立学校に勤務する女性事務職員(原告)が、産前6週間、産後8週間の休業の後、更に子が1歳になるまで1日1時間15分の短縮勤務をしていたところ、これらが欠勤扱いとされ、賞与の支給基準である出勤率90%(90%条項)に満たなかったとして賞与が不支給とされたことから、賞与の支払いを求めた事件である。第1審、控訴審とも、90%条項自体は有効としつつ、産休等を本人の責めによる休業と同視してこれを適用すると、労働者は不利益を恐れて権利の行使を控え、結局法が労働者に保障した権利を没却するとの判断を示した上で、産休等を出勤日数から除外することは公序良俗に反して無効であるとして、私立学校を経営する学校法人(被告)に対し不払い分の賞与の支払いを命じた。本件は被告が上告したところ、最高裁も基本的には原審と同様な見解を示したものの、産休等についての90%条項部分が無効とされても、産休等の部分は欠勤の対象となるとして、原審において各賞与全額の支払いを肯定した部分は法令違反があると判断し、原審に差し戻した。そして、差戻後の控訴審では、最高裁の判断を踏まえて、出勤すべき日数に産休等の日数を算入し、出勤した日数に産休等の日数を含めないとしている部分は公序良俗に反し無効であるが、90%条項の一部が無効としても、産休等の時間については欠勤として減額の対象となるとした。
 要は、賞与の算定に当たって、産休等の時間を遅刻や早退など自らの責めによる欠勤と同視して90%条項を適用することは、法で定められた権利の取得を抑制するから許されないとする一方、この間は就業規則上無給とされているから、出勤と同じ扱いまで求められるわけではなく、産休や勤務短縮に見合った賞与の減額は許されるとしたわけである。


3.その他

 妊娠・出産、産休の取得等を理由として不利益取り扱いがなされた事例としては、松蔭学園女性教諭損害賠償等事件(東京地裁 平4.6.11判決 労判612号6ページ、東京高裁 平5.11.12判決 判タ849号206ページ)がある。この事件は、組合活動家の女性教諭(原告)が2度目の産休を取得した後に復職すると、校長から「公立学校の先生でも同じ学校で2度産休を取ったりしない」「出産届等の書類を提出しに来た際の態度に腰の低さが欠けていた」などと叱責されて始末書を求められ、これを拒否したところ退職を迫られ、その後10年以上にわたって隔離、自宅待機を強いられたことから、損害賠償を請求したものである。第1審、控訴審とも、学校側の不当労働行為、不法行為を認め、第1審では400万円、控訴審では600万円の慰謝料の支払いを学校に命じた。この事件は、産休の取得自体を妨害したというよりも、産休の取得を口実に組合潰しを図ったという側面が強いが、それにしても産休を取得した女性について、いかにそれまで労使間の対立があったとはいえ、10年以上にわたるすさまじいハラスメントを継続することは他に例を見ないほど悪質なものであり、こうしたことが教育現場で行われたことは極めて深刻といえる。

 このほか、妊娠・出産、産休取得等を理由とした嫌がらせとしては、以下のものがある。
①(宇和島)病院准看護師雇止事件
 (松山地裁宇和島支部 平13.12.18判決 労判839号68ページ)
②洋酒輸入等商社退職強要事件
 (東京地裁 平27.3.13判決 労経速2251号3ページ)
③医療法人社団介護員嫌がらせ事件
 (札幌地裁 平27.4.17判決 労判1134号82ページ)
④介護サービス会社有期労働者給与減額事件
 (福岡地裁小倉支部 平28.4.19判決 労判1140号39ページ)
⑤鞄製造等会社妊婦解雇事件
 (東京地裁 平28.3.22判決 労判1145号130ページ、東京高裁 平28.11.24判決
  労判1158号140ページ、最高裁三小 平29.7.4決定)

 ①は、期間雇用の准看護師(原告)2名が、3回目の契約更新に当たって妊娠を理由に雇止めされた事件で、判決では、原告らが雇止め通告に当たって「わかりました」と回答した事実を認定しつつ、雇止めの承諾の意思表示は積極的・能動的にされることが必要であり、本件は、その後原告らが労組に相談していることなどから、積極的な承諾があったとはいえないとして、雇止めを無効とした。
 ②は、洋酒の輸入等を営む会社(被告)に勤務する女性(原告)が代表者に対し妊娠の事実を告げ、産休および育休の取得を伝えたところ、代表者は、復帰した時に同じ仕事はできないかも知れないと、産休、育休の取得に消極的な姿勢を示し、出産後には、出産したら一度は終わりで、産後に復職したかったら再度面接すると告げ、その後も退職扱いか職場復帰か不明確な態度を示したことから、原告は、退職に応じつつも、不就労期間の賃金と慰謝料を請求した事件である。判決では、被告に対し、不就労期間中の賃金の支払いと慰謝料15万円の支払いを命じた。
 ③は、医療法人(被告)に勤務する女性介護員(原告)が、理事(被告A)および女性上司(被告B)に誘われて頻繁に食事をしたり、プレゼントを受けたりしていたが、それを拒否するようになった後に異動を命じられ、さらに妊娠したところ、被告Bから「想像妊娠」などと言われて中絶を示唆されるなどした事件である。判決では、不当な異動、「想像妊娠」などの発言は不法行為に当たるとして、被告らに対し慰謝料等77万円の支払いを命じた。
 ④は、介護サービスを営む会社(被告)に有期雇用されていた女性(原告)が女性所長(被告)に妊娠を報告し、可能な業務を挙げて業務の軽減を求めたところ、妊娠以前から勤務態度に問題があったとして、妊婦として扱うつもりはないなどと言われ、勤務時間を半減させられたことから、被告らに対し、慰謝料500万円を請求した事件である。判決では、原告が労働時間の軽減を求めていることからすると勤務時間の短縮は違法とはいえないが、所長による流産しても構わないなどの発言は原告の人格権の侵害に当たるとして、被告らに慰謝料35万円の支払いを命じた。
 ⑤は、靴の製造等を営む会社(被告)に勤務する妊娠中の女性(原告)が、周囲の社員に対し罵倒を繰り返して一部の社員を退職に追い込み、社長が再三注意しても改善されなかったことから解雇され、妊娠を理由に解雇されたとして、解雇の無効を主張した事件である。第1審では、被告の主張する解雇事由を認めるに足りる証拠はないとして解雇を無効とした(妊娠を理由とまでは言っていない)が、控訴審では、本件解雇は被控訴人(原告)の劣悪な勤務態度が原因であるとして、解雇を有効と判断した。この件は、妊娠中の解雇という事実には争いがなく、専ら解雇の理由が妊娠か勤務態度不良かが争点になったもので、今後も、妊娠中の女性の解雇の効力が争われた場合に、同様な問題が生じる可能性がある。

君嶋護男 きみしま もりお
公益社団法人労務管理教育センター 理事
1948年茨城県生まれ。1973年労働省(当時)入省。労働省婦人局中央機会均等指導官として男女雇用機会均等法施行に携わる。その後、愛媛労働基準局長、中央労働委員会事務局次長、愛知労働局長、独立行政法人労働政策研究・研修機構理事兼労働大学校長、財団法人女性労働協会専務理事、鉱業労働災害防止協会事務局長などを歴任。主な著書に『おさえておきたい パワハラ裁判例85』(労働調査会)、『セクハラ・パワハラ読本』(共著、日本生産性本部生産性労働情報センター)、『ここまでやったらパワハラです!―裁判例111選』(労働調査会)、『キャンパス・セクハラ』(女性労働協会)ほか多数。


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