判例温故知新 精選―女性労働判例
女性の活躍が雇用社会に不可欠となる中で、格差問題の変遷を紐解く
[2018.10.15]

第8回 エヌ・ビー・シー工業事件、タケダシステム事件、日本シェーリング事件、帝国興信所事件(生理休暇に係る賃金請求)


君嶋護男 きみしま もりお
公益社団法人労務管理教育センター 理事

 労働基準法の女子保護規定は、昭和60年の男女雇用機会均等法の制定と合わせて改正されたところ、その改正前の同法67条には、「生理休暇」の規定が設けられ、「生理日の就業が著しく困難な女子」または「生理に有害な業務に従事する女子」が請求したときは、使用者は生理休暇を与えなければならないこととされていた。上記改正により、「生理休暇」自体は廃止されたが、現在では、同法68条において、「使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休業を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」としている。以下の事例は、いずれも上記改正前の「生理休暇」に係るものである。

1.エヌ・ビー・シー工業賃金請求事件

精皆勤手当の支給に当たり、生理休暇取得日を欠勤扱いとする旨の労働契約は労働基準法67条に違反しない

東京地裁八王子支部 昭49.5.27判決 労判203号54ページ
東京高裁 昭55.3.19判決 労判338号13ページ
最高裁三小 昭60.7.16判決 労判455号16ページ

[1]事件の概要

 会社(被告)は精皆勤手当について、「出勤不足日数のない場合5000円、出勤不足日数1日の場合3000円、同2日の場合1000円、同3日以上の場合なし」との規定を設けていた。女子社員ら(原告)は、昭和46年10~11月に生理休暇を2日取得し、11月期の精皆勤手当が1000円とされたことから、その減額分の支払いを請求したが、第1審および控訴審とも原告の請求を棄却した。

[2]上告審判決および解説

 ①労働基準法は、生理休暇の請求により女子労働者がその間の就労義務を免れ債務不履行の責めを負わないことを定めたに留まり、生理休暇が有給であることまで保障したものではない、②生理休暇取得日を出勤扱いにするか欠勤扱いにするかは原則として労使間の合意に委ねられている、③生理休暇の取得を欠勤扱いとされることによって経済的利益を得られない結果となるような措置・制度は、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度に照らして、生理休暇の取得を著しく困難とし、労働基準法が生理休暇の規定を設けた趣旨を失わせるものでない限り、同法67条に違反するものではない。本件における約束についても、所定の要件を欠く生理休暇および自己都合欠勤を減少させて出勤率の向上を図ることを目的としたものであること等の理由から、同条等に違反するとはいえず、無効とすべき理由はない。
 本判決でいわんとしていることは、生理休暇は女子労働者の権利として認められているものの、賃金の支払いについて使用者は法律上の義務を負うものではなく、これを出勤扱いとするか欠勤扱いとするかは基本的に国の関知するところではないが、生理休暇を取得した女子が、賃金等の面で極端な不利益を被るような場合には、事実上生理休暇の取得が困難になって、制度の趣旨が失われる効果を生じるから許されないということであろう。本判決はこの立場に立って、本件精皆勤手当の差程度であれば受忍範囲と判断したものである。


2.タケダシステム未払賃金等請求事件

就業規則の生理休暇規定の一方的変更が合理的で有効とされた

東京地裁 昭51.11.12判決 労判 264号27ページ
東京高裁 昭54.12.20判決 労判 332号16ページ
最高裁二小 昭58.11.25判決 労判 418号21ページ
差戻審東京高裁 昭62.2.26判決 労判 492号16ページ

[1]事件の概要

 会社(被告)は、昭和49年1月に就業規則を改正し、従来有給の生理休暇の日数を「年間24日、賃金全額支給」であったものを「月間2日を限度とし、1日につき基本給1日分の68%保障」に改定した。これについて、女子労働者8名(原告)は、①労使協定化されていない就業規則の変更は組合員である原告らに効力を及ぼさないこと、②当該就業規則の変更は、女子労働者の既得権を奪い、一方的に労働条件を変更するものであるから、効力を生じないことを主張して、減額された賃金の支払いを請求した。
 第1審では、生理休暇について、その必要性、取得の実績から見て濫用があったと判断され、企業負担との調整等から判断すると、被告の措置は合理性があり有効であるとしたが、控訴審では、実質賃金の低下を生じさせるような就業規則の一方的変更は許されないとして、第1審判決を破棄して控訴人(原告)らの請求を認めた。第1審では、生理休暇の取得に当たって濫用があったことを就業規則改定の合理性を認める基本的な根拠としたが、控訴審では濫用の有無については判断を避け、仮に濫用があったとしても、別途方策を講じるべきであるとした。

[2]上告審判決および差戻審判決ならびに解説

 最高裁は、原審(控訴審)が就業規則の変更が合理的か否かを検討することなく判示しているのは法令の解釈運用を誤ったものであるとして、高裁に差し戻した。そして、差戻後の控訴審では、就業規則の変更の合理性について、

①有給生理休暇の取得が誠実に行われている限り、年24回から月2回への変更が従業員にもたらす実際上の不利益は僅少であること

②就業規則の改定後に30%以上のベースアップがあったことにより、具体的な保証額の減少は軽微に止まっていること

③生理休暇の約6割が土曜日および日曜日等の休日に接続して取得されているほか、取得回数が関連会社や一般企業に比して高く、有給生理休暇の濫用があったといわざるを得ないこと

④生理休暇に係る就業規則の改定について労働組合と再三にわたり交渉を行っても、なお調整が困難な状況にあったこと

⑤生理休暇の取得に際し、会社側は出勤率加給および賞与の算定に当たって、欠勤、遅刻、早退などとみなさないなど相当な配慮を行っていること

⑥昭和53年11月20日の労働基準法研究会報告においても、生理休暇は本来廃止すべきであるとされていること

 以上の諸事情を総合考慮すると、本件就業規則の変更は労働者にとって不利益なものではあるが、十分な合理性があり、原告らにおいて、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。
 この判決については多くの批判が寄せられ、朝日新聞は社説(昭和62年3月2日付)で、「生理休暇訴訟判決に一言」と題して、批判を展開している。「向かい風‥‥とでも評したい司法の判断が示された」という書き出しで、濫用があったとの判決の指摘について、企業の論理を優先した女性労働者に冷淡な判断と批判している。同社説では、「お茶くみ、コピー取りなどの雑用係にだけ閉じこめていたのでは、働く意欲も自覚も育たない」と締めくくっているところからすると、「女性に働きがいを与えていない以上、会社は生理休暇の濫用くらいは我慢しろ」と言っているようにも見える。しかし、このような論理が成り立つとすれば、生理休暇の濫用に目をつぶりさえすれば、女性を補助的業務に据え置くことも許されるということにもなりかねないわけで、かえって職場における女性の活躍を阻害することになろう。おそらく社説の趣旨はそうではないのだろうが、生理休暇の濫用を女性労働者の働かせ方にすり替えることは適切とは思われない。


3.日本シェーリング賃金請求事件

稼働率80%条項につき年休、生理休暇、産休等の不就労時間を欠勤扱いすることは無効

大阪地裁 昭56.3.30判決 労判361号18ページ
大阪高裁 昭58.8.31判決 労判417号35ページ
最高裁一小 平元.12.14判決 労判553号16ページ

 会社(被告)は、欠勤のほか、年休、生理休暇、産休、育児時間等による不就労時間を算定基礎とした稼働率が80%以下の者は賃金引上対象者から除外するとの条項(80%条項)を定めていたところ、女性従業員24名(原告)が、80%条項の違法性を主張し、被告に対し、賃上げがなかったことによる賃金の差額および慰謝料等の支払いを求めた。
 第1審では、80%条項の算定基礎の不就労時間に、欠勤のほか、年休、生理休暇、産休、育児時間等を含めることは、憲法、労基法等の規定ないしはその趣旨に反し、ひいては民法90条の公序良俗に反し無効と判断した。被告は控訴したが、控訴審では、80%条項は、実質的に労働者に対し休暇の取得等を抑制する機能を有しており、全体として、強行法規である労基法のほか、労働組合法7条(不当労働行為)、憲法28条(団結権、団体行動権)の各規定ないしその趣旨に反し、ひいては民法90条の公序に反するとして、控訴を棄却した。
 控訴審判決では、年休、生理休暇、産休、育児時間のそれぞれについて、80%条項の合理性を吟味しているところ、年休については労基法の趣旨に反する、産休については不当である、育児時間については労基法の趣旨に照らして許されないと、明確にその不当性を指摘しているのに対し、生理休暇については、その権利行使を抑制するものとして、労基法に違反する疑いを残すと、温度差を感じさせる表現としている。


4.帝国興信所賃金請求事件

生理日の就労困難な女子に1日の有給休暇を与える旨の就業規則の趣旨が一生理期間中に1日の意味であるとされた

名古屋地裁 昭46.2.24判決 労判122号6ページ
名古屋高裁 昭48.10.15判決 労判191号69ページ

 この事件は、上記各事件よりも早い時期に争われたもので、賃金計算期間(暦月)ごとに1日有給の生理休暇が認められていた会社(被告)において、生理周期ごとに1日の生理休暇を取得した女子労働者(原告)が、就業規則の範囲を超えるとして、3日分の賃金カットを受けたことから、これを不当としてその支払いを求めたものである。
 第1審および控訴審とも、就業規則は生理周期ごとに1日与えると解すべきとの原告の主張を認め、被告に賃金カット分(5900円)の支払いを命じた。生理の周期と暦月とは必ずしも一致するわけではないから、月初に生理休暇を取得した後、その月末にまた生理が来ることも当然あり得るわけで、有給の生理休暇を暦月単位で与えることの合理性は認めることは困難と考えられる。

君嶋護男 きみしま もりお
公益社団法人労務管理教育センター 理事
1948年茨城県生まれ。1973年労働省(当時)入省。労働省婦人局中央機会均等指導官として男女雇用機会均等法施行に携わる。その後、愛媛労働基準局長、中央労働委員会事務局次長、愛知労働局長、独立行政法人労働政策研究・研修機構理事兼労働大学校長、財団法人女性労働協会専務理事、鉱業労働災害防止協会事務局長などを歴任。主な著書に『おさえておきたい パワハラ裁判例85』(労働調査会)、『セクハラ・パワハラ読本』(共著、日本生産性本部生産性労働情報センター)、『ここまでやったらパワハラです!―裁判例111選』(労働調査会)、『キャンパス・セクハラ』(女性労働協会)ほか多数。


管理職のeラーニング講座、お試しできます

無料トライアル受付中

禁無断転載
▲ ページの先頭に戻る

ログイン

  • ログイン

人事・労務に役立つ商品・サービス検索

  • カテゴリとジャンルから検索

検索

注目商品ランキング 新着商品