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変化創出系ミドル「課長 夏川あい」の育て方 [2017.08.14]

第5回 異動先で専門能力を拡張する

~STAGE-4 多角的な専門性の形成期~


PMIコンサルティング 株式会社
マネジャー 石丸 晋平

【今回のあらすじ】

 夏川あいは、コンビニ営業部での活躍が評価されて課長に昇格、多忙な毎日を過ごしていた。そんな中、マーケティング本部 デジタルマーケティング推進室への異動が決まる。夏川は、基礎知識の理解もままならぬ状態で、マーケティング活動のデジタル化という経営課題を担うことになる。この職務経験が、夏川の多角的な専門性を形成していく。

■管理職昇格、そしてデジタルマーケティング推進室への異動

「夏川は、有能なプレイヤーだが、マネジャーとしては満足レベルではない」
 ABC食品は、コンビニ業態における一定の地位を確立し、その功労者である夏川は課長に昇格した。社内でも名の知れる存在となった夏川は、大いに期待された。しかし、管理職としての夏川は、営業本部長が求める満足レベルとは言えなかった。
 ABC食品の業態別売り上げを見ると、コンビニ業態は2番目の売り上げ規模にまで成長していた。取り引き規模が拡大する一方、得意先からの要求は高度化・複雑化し、独自の商品企画、物流機能の拡充、データ分析体制の構築など、夏川は、さまざまな社内外の調整を一手に担い、多忙を極めていた。
 夏川は、大きな責任を感じると同時に、周囲へのいら立ちを覚えていた。上司からは、自分が前面に出すぎて部下に任せられない仕事ぶりについて何度も注意された。夏川ではなく、部下が課題対応に駆け回る状況をつくるように指導されたが、経験不足の部下に任せてしまえば、トラブルの発生は免れないように思えた。コンビニ営業部の業績は、徐々に成長が鈍化し、得意先の要求に対して後手に回るシーンが増えていた。

「秋からデジタルマーケティング推進室に異動してもらう」。
 コンビニ営業部の中核を担っている自負のあった夏川にとって、異動の辞令は青天の霹靂(へきれき)であった。確かに夏川の存在は圧倒的ともいえる状況だった。営業本部は、夏川という圧倒的な存在が、組織的な成長を阻害しつつあることを懸念し、有能な営業人材の配置を計画していた。その一方で、就任間もないマーケティング本部の春木本部長は、夏川の異動を切望していた。春木は、営業畑のたたき上げであり、論理的でリアリスト、判断力と人心掌握に長ける業界でも名をはせる人物だ。そして、夏川にとっては、初めての配属先である近畿第一支店の初めての上司(支店長)であり、現在もメンター的な存在である。
 春木は、マーケティング本部の現状に強い危機感を覚えていた。業務の属人化がまん延しており、世の中の急速な変化への対応が機能していなかった。加えて、危機感を共有できる人物が見当たらないことを問題視していた。夏川には、旧態依然とした組織・業務を変え、新たな付加価値を生み出す求心力としての活躍を期待していた。

■新たな専門性の習得、そして組織的な課題の形成

「マーケティング本部は、直ちに変わらなければ会社のお荷物になり下がるだろう」
 春木は、夏川をあらゆる会議・会合に同行させた。TV媒体は、利用者が減り、視聴率が低下し続けているにも関わらず、莫大(ばくだい)な予算がつぎ込まれていた。部数が急激に減少している新聞折り込みチラシへの販促費用も増加が続いていた。各ブランドは、バラバラな広告を展開し、ターゲットである消費者へのマーケティング効果を測る指標設計は客観性に欠け、代理店の提示する検証結果には納得できなかった。外部環境を見渡すと、デジタル化された新たな手法が次々と生まれていたが、ABC食品には、それらのノウハウは皆無であった。春木は、マーケティング効果とコストの適正化に向けたマネジメント手法を確立すべく、組織改革に着手した。

 デジタルマーケティング推進室は、マーケティングのデジタル化を担う組織として本部長の肝いりで立ち上がった。その責任者として夏川を任命、マーケティング業務の経験豊富な夢見主任と、数名のスタッフが配置された。夏川はマーケティングの基礎知識さえ理解しておらず、推進室内の議論では、夢見の発言力が際立っていた。
 「消費者データのすべてを小売業が保持している現状が問題だ」「プラットフォームを構築し、データを制すべきだ」「カスタマージャーニー全体のデザインが求められる」…など、夢見は、在るべき姿や正論を展開するも、現場経験が不足しており、どの意見も実行可能性に乏しいものだった。推進室での議論は発散するばかりで、組織的に達成すべき課題の具体化に至らず、問題の核心を捉えることができなかった。
 夏川は、現状を俯瞰的に捉えることができず、適切な思考や判断を行えずにいた。悠長に状況把握している場合ではないと思った。そこで、毎週3回以上は図書館に通い詰め、2カ月で60冊以上の専門書を読みあさり、セミナーや異業種交流の場に足を運んでは、急速に専門知識を学習した。夏川は、専門知識をベースに現状を俯瞰的に捉え、組織の課題を丁寧に整理していった。

■ミッションは、部下を通じたマーケティング・プロセスのデジタル化

 夏川は、マーケティング・プロセスの全体像を明らかにし、現在のデジタル化の特徴を、膨大な消費者発信データの活用、インタラクティブなコミュニケーション、センシングによる新たな消費者行動の可視化、という3点に集約して理解した。そして、消費者行動の①情報処理、②購買行動、③使用行動の3段階に関連づけて課題を具体化した。
 ①情報処理の課題は、「消費者発信データによるマーケティング・プロセスの補完」とし、消費者からのSNS投稿データの分析プラットフォームを有するリテール・ビッグデータ社と業務提携し、TV広告/大規模キャンペーンの効果測定と改善によりマーケティング効果とコストの適正化を目指した。
 次に、②購買行動の課題は、「センシングによる店頭購買行動の可視化」とし、来店客の行動を把握するビーコン技術に優れたビーコン・アナリシス社と都市部の大手食品スーパーとの協業によるショッパー分析システムを試作した。
 最後に、③使用行動の課題は、「インタラクティブな自社サイトの構築」とし、レシピサイト運営会社との資本業務提携を締結、レシピ動画の投稿やコミュニケーション可能なWEBサイトを開発した。「本格」「家庭」「時短」などのカテゴリーに分けてレシピを投稿・評価・コメント可能にし、自社ブランドの使用価値向上を目指した。

 夏川は、コンビニ営業部の課長として組織をうまくマネジメントできなかった失敗を活かし、各課題の専任者を決め、その遂行を任せることにした。特に、顧客行動を捉えるセンシング技術は、小売業界への将来的なインパクトが大きいと判断し、夢見を専任者とした。夢見は、知識豊富で正論を唱えることができるが、粘り強く試行錯誤を積み重ねる実行段階の職務経験に欠けていた。どこか泥臭さを避けるような言動に無責任さを感じ、気になった夏川は、夢見に対し、センシング技術の活用と一過性の効果検証にとどめず、ABC食品がマーケットに影響を及ぼす具体策の提言/その後の実行までを課した。

 デジタルマーケティング推進室は、試行錯誤を重ねながら、徐々にマーケティング本部、ひいてはABC食品全体への影響力を増していった。夏川は、消費者行動に関する自らの専門性に関連づけながら、デジタルマーケティングやセンシング技術、ビッグデータ解析などの専門性を拡張し、管理職としてのマネジメント業務の成長課題も克服していった。

「多角的な専門性の形成期」の育成施策を考える

 新任課長は二つの重大な成長課題を克服しなければならない。一つ目の成長課題とは、「専門性の多角化」である。第2・第3の専門性を身に付けていくことで、立体的に能力を拡張していくことが重要だ。二つ目の成長課題とは、「プレイヤーからマネジャーへの転換」だ。スタープレイヤーが、有能なマネジャーになるとは限らない。この段階で、他人に仕事を任せる能力を身に付ける必要がある。
 しかし、実際の昇格運用は、プレイヤーとして培った専門性を従来どおり活かせる職務範囲で行われるケースが一般的だ。その結果、専門性の多角化が未習熟となるばかりか、マネジャーへの成長が促されず、スタープレイヤーのまま先頭に立ち、幅広い業務遂行を行う管理職は少なくない。
 二つの重大な成長課題を克服するためには、管理職への昇格と異動を同時に課すことがセオリーである。夏川は、偶然ではあるが、昇格後に異動の声がかかったことで、専門性の多角化とマネジャーへの転換という二つの成長課題を克服していった。
 昇格と異動が適切に機能していない場合は、昇格人事が現場任せになりすぎているかもしれない。現場では業績こそ重要視されやすく、有能な人材は組織内にとどめたい心理が働きやすい。そのため、これから経営の一端を担い、経営資源の一部を委ねるにふさわしい人材であるという客観的な評価と、実際の昇格・異動の判断がうまく結び付かないケースもしばしば生じ得る。
 多角的な専門性の形成期において、夏川のような偶発的な成長の軌跡を、計画的な結果に変えるには、「本部主導による客観的なアセスメント評価」と「全体最適の人事判断を行える環境や仕組みづくり」が必要だ。
 人材育成設計の具体例[図表]を示すならば、昇格判断の時点で、マネジメントに適した人材であることをアセスメントすることが重要だ。例えば、マネジメントに関する基礎知識を有し、経営環境動向の情報収集や経営課題の形成を行う能力の習熟度を評価し、マネジメントとしての適性を見極める。現場での活躍のみを重視して昇格判断を行えば、マネジャーの役割に転換できない人材を生み出してしまう。そのため、いくら業績への貢献度が高くともマネジメント適性に関する評価結果が一定水準に満たない人材は、マネジャーにすべきではない。
 その後に、アセスメント結果や人材特性、意向に応じて昇格判断を行い、併せて、専門性の多角化が求められる異動を課す。新たな役割の下での生活学習を通じて、多角的な専門性を短期間で習得させ、実践活用を促すことが重要だ。

[図表]人材育成設計の具体例:STAGE-4多角的な専門性の形成期

 旧態依然とした固定的な業務行動や思考が定着してしまった管理職は少なくない。しかし、そのような状況を許容していては、変化に抵抗する組織風土を生み出しかねない。「多角的な専門性」の形成期にある人材を見極め、変化に対応する組織課題を企画・推進させることが重要だ。経営環境の変化に適応した組織課題を形成し、経営資源を管理・活用する職務経験を与え、定期的に評価・フィードバックを繰り返すことで、有能な人材であれば成長課題を克服していく。

 次回、夏川は大きな職務転換を経て、組織的な変化創出を実現していく職務経験の軌跡をたどりながら、変化創出力を計画的に形成していく職務経験のデザインについて考えていきたい。

[編注]本文ストーリー中に登場する企業名は、いずれも架空のものです。

<主人公のプロフィール>

氏  名: 夏川あい

生年月日: 1977年7月12日

学  歴: 早稲田大学 法学部卒

職  歴: 2000年4月 食品メーカーABC食品に入社

【連載全7回のテーマ(予定)】

[第1回] 序章 人材育成への問題提起

[第2回] 営業先で仕事の考え方が変わった日 STAGE-1 ビジネスOSの導入期

[第3回] 実務を通じて汎用能力の土台をつくる STAGE-2 多面的な思考力の形成期

[第4回] 再び営業現場で専門能力の柱をつくる STAGE-3 専門的な思考力の形成期

[第5回] 異動先で専門能力を拡張する STAGE-4 多角的な専門性の形成期

[第6回] 職場改革をリードする STAGE-5 夏川あいの後日談

[第7回] 終章 新たな人材育成の仕組みづくり

石丸 晋平 いしまる しんぺい
PMIコンサルティング株式会社 マネジャー
人事、組織、マーケティングなど、多岐にわたる分野で、多くの企業に対するコンサルテーションの実績を持つ。企業の競争力の源泉である「人」を徹底的に洞察するアプローチから、人材開発戦略の立案、次代のリーダー開発、営業組織改革、ダイバーシティ経営の支援など、人材開発を中核としたコンサルティングに従事している。
http://www.pmi-c.co.jp/

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