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変化創出系ミドル「課長 夏川あい」の育て方 [2017.07.03]

第2回 営業先で仕事の考え方が変わった日

~STAGE-1 ビジネスOSの導入期~


PMIコンサルティング 株式会社
マネジャー 石丸 晋平

【今回のあらすじ】

 夏川あいは、ABC食品に新卒で入社、近畿第一支店の営業課に配属される。最初の3カ月はOJTリーダーの先輩に付いて、実務のイロハを学んだ。その後、地場の食品スーパー『菜食健美』を担当することになる。ある日、『菜食健美』の担当バイヤーから難題を課せられ、その経験が仕事の価値観を大きく変えることになった。

■従来の業務が顧客の価値につながらない

 その日、得意先の本社から近畿第一支店に戻る夏川の足取りは軽快だった。
 地場の食品スーパー『菜食健美』を担当して約半年、得意先に毎日通い詰め、ついに担当バイヤーへの自社単独提案の機会を獲得したのだ。早速、夏川は提案の準備を始めた。本社が提供する市場データや、ABC食品の商品別販売傾向などをマニュアルどおりに整理し、詳細な商品紹介をまとめた。配属前の研修から配属後のOJTを通じて徹底的に指導された作業なので、手際よく進めることができた。上司である営業課長から効率的な準備を褒められ、自信を持って提案当日を迎えた。

 「取り引きの拡大どころか、縮小を検討せざるを得ない!」 
 夏川の提案に対する担当バイヤーの評価は散々なものだった。ABC食品の売りたい商品紹介に過ぎず、『菜食健美』の課題をまったく分かっていないとの厳しい評価だった。夏川は、マニュアルどおり自社商品を詳細にアピールできたから、高い評価が得られると思っていた。
 必死になって担当バイヤーの求めることを聞き出した。それは、「買い物客の来店頻度を高めること、ファンを増やし毎日でも足を運んでもらえる店づくり」という『菜食健美』の課題への貢献だった。
 3週間後に再提案のアポイントを取り付けたものの、夏川は何をすべきかが分からなかった。ただ、直観的に理解できたことは、「入社以来、徹底して教育されたやり方を続けてもまったく通用しない」という現実だった。

■顧客の課題を理解することから始める

「なぜ、ファンづくりと来店頻度の向上が『菜食健美』の課題なのかは、理解しているのか?」
 報告を聞き終えた支店長からの想定外の問い掛けに夏川は戸惑った。
 支店長は話を続けた。『菜食健美』の商圏への競合他社の出店攻勢が一つの理由だという。数年前から商圏の人口は減少に転じている。その上、競合の出店攻勢によって買い物客の争奪戦が激化している厳しい状況なのだ。『菜食健美』は、優良客を囲い込み、安定的な売り上げと利益をつくる必要があった。
 加えて、支店長は"北海道のジャガイモ不作"というニュースも気になるという。『菜食健美』は生鮮食品の品ぞろえが強みであり集客の柱である。ジャガイモの価格高騰と品薄は、集客の柱に穴があくことを意味する。この集客の穴埋めを企画できれば、バイヤーの課題に貢献できるはずだ。支店長は、『菜食健美』との取り引き縮小の危機に対し、3週間後の再提案を支店長直轄プロジェクトとして立て直すことを決定した。

「得意先の課題を正しく理解したいならば、世の中を知る努力を徹底しなさい」
 支店長からの指示はシンプルだった。それは、毎日繰り返し、新聞を読み、店舗現場に通い、消費者や関係者の話を聞いて回ることだ。夏川は、自分の常識のなさと、愚直に作業をこなせば認められるという浅はかさを反省した。やるべきことはシンプルで明快だと知り、徹底的に実行してみようと心に決めた。

■顧客価値は試行錯誤から生まれる

 夏川は、翌日から毎朝1時間早く起床し、経済紙・業界紙・地方紙に目を通すことを徹底した。1日も欠かさず『菜食健美』の店舗と競合店を巡回した。地道に買い物客や店員に話しかけ、1週間後には300名以上の意見を集めた。その情報は、『菜食健美』のファンになりやすい客層、あるいは奪われやすい客層の仮説を立てる際に役に立った。また、自社の冷凍食品が、北海道の不作の影響がないことを担当部門に確認し、集客の穴埋め策として、コロッケ等の冷凍食品の特売企画をまとめた。再提案は、支店長が同行することになり、担当バイヤーの上司である商品部長も同席することになった。

 支店を挙げての再提案だったが、それでも芳しい成果とはいえなかった。
 「『菜食健美』の視点に立った提案だった」との一定の評価を得たものの、価格条件が折り合わず、採用に至った企画は一部のみだった。ただし、商品部長が一部の調査結果に強い関心を示したことが一番の成果であった。

「なぜ、このエリアの買い物客は、憩いの場を求めているのか? 」
 確かに、競合出店の影響が著しいエリアにおいて、「憩いの場」を求める買い物客の声が多い傾向があった。
 夏川には、思い当たる節があった。そのエリアでは、公民館が建て替えとなったため、そうした場を求める高齢者からの要望が多かったことと、競合店ではイートインスペースが整備され、利用者が増加しているという調査結果である。夏川の情報提供への商品部長の反応は大きかった。支店長は機転を利かせ、店舗責任者を交えた議論を要請した。商品部長は、要請に応え、「憩いの場づくり」を継続的に検討することになった。

 この取り組みが、買い物客の奪回の成果につながるのは、少し先のことになる。
 その間、一向に成果の出ない議論にしびれを切らした意見が、両社から聞こえてきたが、商品部長と支店長が責任をもって指揮し、完遂したことで大きな成果につながった。得意先との継続した議論と試行錯誤の中で関係者も増え、新たな課題の協議や取り引き拡大の機会につながっていった。

 支店長がリードする仕事に一貫して携わることとなったこの職務経験は、夏川の仕事観を大きく変えた。
 夏川は、目の前の作業を愚直にこなせば認められると信じていたが、現実はまったく異なるものだった。顧客との対話を繰り返し、粘り強く試行錯誤を続けることが、価値ある仕事だと学習した。そして、顧客に価値を提供できる人材になるために、変化への感受性を磨き、顧客の価値を考え抜き、学び続ける必要性を強く自覚した。

「ビジネスOS形成期」の育成施策を考える

 変化創出力を備えたミドルの育成が、喫緊の経営課題であるという主張に賛同し、危機感を示す経営者は少なくない。しかし、現場の人材育成は、職務熟練力を磨くことが競争優位につながった時代からさほど変化していない。むしろ、若年層に対し、早期に職務熟練力を高める「即戦力化」を志向する現場が散見される状況だ。入社直後から作法や手段の指導が徹底され、限られた職務領域にいち早く順応させる人材の"限定的な戦力化"が促される一方、人材の"小粒化"という新たな問題が顕在化している。
 若年層の人材の持続的な成長を促すためには、入社直後から「変化創出を前提としたビジネスOS」を形成する職務経験のデザインが求められる。ビジネスOSとは、ビジネスにおいて価値を生み出すための基本的な型である。学生の型のまま、マナーや思考・コミュニケーションのスキル、業務知識などを詰め込んだところで、ビジネスの世界では使いこなせず、目の前の仕事のみに埋没してしまう。顧客への価値提供を通じて対価を得ることの重要さや厳しさ、価値を生み出すための継続的な学習や鍛錬の必要性を理解し、持続的な成長の土台を築くことが肝要である。
 成長ステップを見通しながら、どのような経験を通じて学びを積んでいくか、その具体的な設計例を前回の序章で紹介した「人材育成のミクロモデル」と「人材育成施策のフレームワーク」に即して示すと[図表]のような形となる。

[図表]人材育成設計の具体例:STAGE-1 ビジネスOSの形成期

 夏川の職務経験を振り返ると、顧客から難題を課されたことで、「即席で学んだ作法・手段では、まったく通用しない」という現実に気が付いた。そして、圧倒的な上位者の薫陶を受け、その仕事ぶりを目の当たりにする中で、「顧客の課題を正しく理解することの重要性や、変化への感受性を高める必要性」を理解した。このような偶発的な職務経験を、計画的な育成施策として落とし込むことが重要である。夏川は反省から学んだが、あらかじめセットアップされるほうが合理的だ。

 まず、本物のプロの世界にいる上位者からの薫陶を受け、これから歩む世界の高みを知ることが重要だ。即席で身に付けた作法・手段では一切通用しない現実と、変化創出力を修練し続ける必要性を早々に実感させる。こうした機会を入社直後のOff-JTに織り込み、人材要件の前提が変わったことを強烈にマインドセットする。
 次に、目的に向かい粘り強く試行する力を養う訓練を徹底する。ビジネスを学ぶには、顧客への価値提供業務を通じて反復することが重要だ。併せて、変化への感受性を高める情報収集習慣を定着させる。[図表]に示したように、現場のOJTと生活学習を反復することで、相乗効果を期待する。OJT担当には、若手人材が、まるで世の中の変化とは無縁であるかのように限定された業務に埋没し、視野狭窄(きょうさく)に陥ることがないよう、育成のねらいとプロセスをしっかり理解させる必要がある。
 最後に、組織的な価値創出業務に従事させる職務経験を与える。新たな価値を生み出す現場で、本物のプロの仕事ぶりを間近で見て、無我夢中になって学ぶ経験が、若年層のキャリアにおける大きな財産になるはずだ。ただし、若手社員の多くにとって、このような職務経験に巡り合う機会はごく限られることになろう。そのため、必要なタイミングに必要な職務経験を意図的に与えるMBE(Management By Experience)プログラムにより、強制的に機会提供することが重要だ。中堅や大手企業では難しい面もあろうが、この段階までは、例えば人事部預かりの社員とするなど、対象社員の職務経験を比較的自由にコントロールできる状態に置いておくことが好ましい。今すぐ活躍できずとも、将来を担う人財として持続的な成長を志向させたい。

 次回は、夏川が多面的な思考力を形成していく過程を通じて、視野を広げる職務経験のデザインについて考えていく。

<主人公のプロフィール>

氏  名: 夏川あい

生年月日: 1977年7月12日

学  歴: 早稲田大学 法学部卒

職  歴: 2000年4月 食品メーカーABC食品に入社

【連載全7回のテーマ(予定)】

[第1回] 序章 人材育成への問題提起

[第2回] 営業先で仕事の考え方が変わった日 STAGE-1 ビジネスOSの導入期

[第3回] 実務を通じて汎用能力の土台をつくる STAGE-2 多面的な思考力の形成期

[第4回] 再び営業現場で専門能力の柱をつくる STAGE-3 専門的な思考力の形成期

[第5回] 異動先で専門能力を拡張する STAGE-4 多角的な専門性の形成期

[第6回] 職場改革をリードする STAGE-5 夏川あいの後日談

[第7回] 終章 新たな人材育成の仕組みづくり

石丸 晋平 いしまる しんぺい
PMIコンサルティング株式会社 マネジャー
人事、組織、マーケティングなど、多岐にわたる分野で、多くの企業に対するコンサルテーションの実績を持つ。企業の競争力の源泉である「人」を徹底的に洞察するアプローチから、人材開発戦略の立案、次代のリーダー開発、営業組織改革、ダイバーシティ経営の支援など、人材開発を中核としたコンサルティングに従事している。
http://www.pmi-c.co.jp/

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