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産業医が現地に住んでみてわかった! 東南アジアの新興国への赴任者と出張者のための健康管理 [2016.08.23]

第8回 海外からの訪問者や働く人の健康管理


国立研究開発法人 国立国際医療研究センター
国際医療協力局 医師 
和田 耕治

 

 近年、海外から訪日される方が増加している。企業が招聘(しょうへい)するのは、お客さんであったり、研修生であったり、働く人であったりさまざまである。2015年において、わが国の外国人労働者は約91万人。国籍別では多い順に、中国、ベトナム、フィリピンとなっており、東南アジアの新興国からも多くの方が日本に来ている。
 東南アジアの新興国は、これまでの連載で取り上げたとおり、現地を訪れるわれわれ日本人にとって多くの健康リスクがあるが、現地の人もさまざまな健康リスクに直面している。企業の招聘により日本を訪れる人は、ある程度衛生的な生活環境が整っている、いわゆる中流以上の人が多いかもしれないが、それでも健康管理面ではさまざまな対応が必要となる。今回は、東南アジアの新興国からの訪問者や働く人の健康管理として、日本の企業がどのような対応をすべきかについて取り上げる。
 海外から持ち込まれる感染症を輸入感染症と呼ぶ。日本人が現地で感染して国内に持ち込むこともあるが、海外からの訪問者によって病原体が持ち込まれることもわれわれの業界では常に話題になっている。最近では、結核、エボラウイルス感染症(幸いなことにまだ国内で1例もないが、米国や英国では感染者が出た)、中東呼吸器感染症(MERS こちらもまだ国内では1例もない)が話題になっている。数年前に代々木公園で広がったデング熱も、同様に海外からの持ち込みである。今年は、ジカウイルス感染症が広がる可能性が危惧されている。

結核の集団感染

 海外から持ち込まれる感染症としてよく報告されるのが、結核である。
 20代の結核患者のうち4割が外国人、新宿区の結核患者のうち7割が外国人という報告もある。2016年5月には、新宿区の日本語学校において結核の集団感染が報告された。特に、日本語の勉強で訪日している若い年代は、同じ国の人たちで狭い住居に同居していることも多く、同居人の間で濃厚な接触があり感染が容易に広がる。結局、この事例では感染者と濃厚に接したであろう同居人、教師、バイト先の人など約150人が保健所による健診などの対象になった。その結果、なんと44人が結核に感染し、このうち10人が発症していたことが明らかになった。最初に発症した結核患者(海外からの訪問者)は、咳や痰が続いていたが、受診がかなり遅れたようである。近年、日本に来る人の中で、海外旅行保険に入っていない外国人は珍しくない。そのため、受診が遅れる、受診がされないといったことがさらに流行を広げる。
 数年前の事例だが、神奈川県では、加工工場で働いていたベトナム人が結核を発症して、その後一緒にベトナムから来ていた20代から30代の技術実習研修生19人が結核に集団感染し、このうち8人が発症したという事例があった。この事例では、実際に日本に訪問する際に胸部レントゲン写真を撮影して結核でないということが確認されていたようだが、それが本人のものではなかった可能性があり、結核が診断できなかった。現地では、お金を出せば他人のレントゲン写真を手に入れることもさほど難しくないといううわさもある。もしかしたら、きちんと検査するよりも安価なのかもしれない。

麻しんの流入

 最近は、フィリピンやベトナムからの訪問者が麻しんを発症するという事例が報告されている。日本人のほとんどはワクチン接種がされているので感染は広がっていないが、麻しんは感染力が強いため、免疫が下がっていたりすると感染し、数人単位で感染が広がる可能性はある。近年、米国でもディズニーランドを訪問した外国人の発症をきっかけとして、全国的に麻しんが流行して大問題となった。なお、麻しんは重症化することもあり、重大な後遺障害を残す可能性もある深刻な感染症である。

デング熱の感染拡大

 代々木公園で感染拡大したデング熱は、蚊が媒介する感染症である。おそらく、デング熱を発症またはウイルスを体内に持った外国人が代々木公園を訪れ、そのときに蚊が刺し、そしてその蚊が他の人へ感染を広げていったのではないかと考えられている。100人以上に感染が広がったのは、同じ人たちが定期的に集まっていたことが原因とみられている。つまり、ジョギングをする人や通勤・通学で通る人たちの間で次第に流行が拡大していったと考えられている。

ある医療機関での海外からの訪問者への対応

 では、企業はどのように海外からの訪問者の健康リスクに対応したらいいのか。まずは、厳しい対応を行っている日本の医療機関の事例を紹介する。この病院では、海外からの研修生を多く受け入れており、特に、病棟での実習や見学がある場合には、患者さんに感染させるリスクがあるため厳格な対応を行っている。企業においてはここまでは必要ではないが、参考になるであろう。
 まず、結核の検査は、研修生が病棟に入る可能性がある(見学を含む)場合には、来日後すぐに日本国内の医療機関において胸部レントゲン検査を行う。そのため、研修生には検査によって結核が認められたら帰国させる可能性があることを伝えている。また、来日前に、信頼できる検査を行える場合は、事前にレントゲン写真を撮影してメールで送付させ、それを日本人医師が診断して結核ではないことを確認している。その際も、前述したように偽のレントゲン写真を送ってくる可能性は常に考慮している。また、病棟に入らない研修でも1カ月以上日本に滞在する場合には同様に結核の検査を行っている。
 このほか、研修生が病棟に入る場合には、感染症の抗体検査を来日前に行わせている。風しん、麻しん、水痘、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の抗体検査を現地で行い、抗体が不十分な場合には追加の予防接種を済ませてくることを求めている。予防接種は、複数回行う場合には一定期間を空けなければならないため、2カ月以上前には抗体検査を行って時間的な余裕をみておく必要がある。ただし、病棟に入らない研修の場合は抗体検査を求めていない。
 そして、研修中は毎日、発熱、咳、下痢、発疹などがないかを確認し、症状があればすぐに受診させるようにしている。実際には、デング熱など潜伏期間がある感染症の場合、事前の把握は不可能である。そのため症状が出た場合には研修や仕事を中止させ、速やかに受診させている。

企業に求められる対応

 東南アジアの新興国からの訪問者で、1カ月以上日本に滞在して研修する者や働く者に対しては、まず結核の検査は行いたい。現地の検査が信用できない可能性があるなら、日本に来てから検査をするとよいだろう。そのために、検査ができる医療機関を確保しておく必要がある。
 検査によって結核と診断された場合、直ちに帰国させなければならない可能性もある。また、帰国させる際に航空機内で感染を広げるリスクがあるため、結核菌を排菌している場合にはすぐに帰国させることができない場合もある。こうしたことも考慮して対応を検討したい。
 訪問者が多い場合には、現地の日系の医療機関やその他の信頼できる医療機関と連携するという方法もあるだろう。オーストラリアなど結核対策に厳しい国では、現地の指定された医療機関(外資系が多い)で結核の検査を受け、陰性でなければビザを出さないという例もある。今後はわが国としても、そのぐらい徹底した対応をしてもよいと私は考えている。費用はかかるが、本人にとっても、日本にとっても便益がある。
 また、感染症の抗体検査までは、企業では必要ないかもしれない。ただし、発熱、下痢、発疹、咳などの症状がないかを毎日確認することは徹底すべきである。そして、症状があった場合に対応を依頼できる医療機関を探しておく必要がある。日本の医療機関は海外の患者の対応に慣れていないことも多いため、検疫所に問い合わせて近隣の対応可能な病院を確認するか、地域の感染症指定医療機関に電話相談してから受診をさせることが望ましい。

※関連情報(厚生労働省ホームページ)
・全国の検疫所(支所)一覧
・感染症指定医療機関の一覧

 電話相談が必要なのは、医療機関の側で事前に感染対策が必要であったり、場合によっては他の医療機関の受診を薦められる可能性があるからである。移動距離を減らして、症状のある人の体力を失わせないことはもちろんであるが、感染を拡大させないことが重要である。また、多言語対応が必要となるため、どこの医療機関でも対応できるというわけではない。イスラム教徒の場合にはお祈りの場所やハラルと呼ばれるイスラム教の教えにのっとった食事が食べられる医療機関を見つけておく必要がある(まだまだハラル食にまで対応できる医療機関は少ないが)。
 「公的」病院では安価に治療が受けられると勘違いしている外国人もいる。ベトナムやミャンマーでは、確かに公的病院はプライベートの病院よりも安価に治療が受けられる体制となっている。しかし、日本では、国立病院でも県立病院でも、同じ治療をした場合にはプライベートの病院と同じ値段である。また近年は、健康保険証がない場合には、日本人の保険診療の2倍の費用を請求する医療機関も出ている。外国人への診療は自由診療となるため、こうした対応でも法的には問題ない。そのため、病気になった場合の保険は日本を訪問した時点で十分に確認しておく必要がある。

先進国からの訪問者への対応

 最後に、東南アジアの新興国だけでなく、先進国からの訪問者への対応も少しだけ紹介する。2013年に起きた日本での風しんの流行は、日本のワクチン施策の不備を世界に知らしめる事態となった。妊婦が風しんに感染すると、胎児に重大な障害が残る可能性がある。現在は風しんの継続的な流行は発生していないが、今後また発生する可能性もある。最近は、妊婦はジカウイルス感染症の流行地に行かないほうがいいという話があるが、他の国から見ると、日本では風しんが流行しているから妊婦は行かないほうがいいという話になっていた。オリンピックも今後開催されることから、今後は日本での健康リスクも外国人に対してきちんと伝えないといけないと考えている。
 外国から来る方からの質問で多いのは、日本訪問に当たって日本脳炎(Japanese encephalitis)のワクチン接種は必要かという問いである。病名に「日本」と入っているので、多くの外国人が日本で流行しているのではないかと思っている。実際には、国内での日本脳炎の患者数はわずかであり、ブタの飼育数が多い地域等で見られるのみである(東南アジアでは特に地方を中心に流行している)。そのため東京や京都などの観光地だけの訪問の場合には、ワクチン接種は必要ない。米国の米国疾病予防管理センター(CDC)では、「日本に1カ月以内の滞在の場合には日本脳炎のワクチンは不要であろう。田舎に行く可能性があるなら1カ月以内の滞在でも必要かもしれない」といった表現になっている。
 また、感染症ではないが、日本でも夏場は熱中症のリスクがある。東京オリンピック期間中の熱中症のリスクはワイドショーでも取り上げられていた。特に暑さに慣れていない南半球(現地は冬)からの訪問者や高齢者はリスクが高く、水分摂取や、休息を適宜とることなどをきちんと説明する必要がある。

和田 耕治 わだ こうじ
国立国際医療研究センター 国際医療協力局
2000年産業医科大学医学部卒業、臨床研修医、専属産業医を経て、カナダ国マギル大学産業保健学修士課程修了、ポストドクトラルフェロー。2007年北里大学医学部衛生学公衆衛生学助教、その後講師、准教授を経て、2012年より国立国際医療研究センター国際医療協力局に勤務。ミャンマーにおける感染症対策ならびにベトナムを中心とした医療機関の質改善重点事業に従事。

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