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産業医が現地に住んでみてわかった! 東南アジアの新興国への赴任者と出張者のための健康管理 [2016.07.26]

第6回 現地での受診、緊急搬送、そして帰国してから


国立研究開発法人 国立国際医療研究センター
国際医療協力局 医師 
和田 耕治

 

一度は訪問したい現地医療機関

 具合が悪くなったり、怪我(けが)をしたので受診する――となってから病院を探すようでは、はっきりいって遅い。診療時間も午前中だけであったり、そもそも、予約がないと診療してもらえないことも珍しくない。病院に行っても、入り口がどこか分かりにくかったり、外国人専用の受付が別にあったりする。また、初めて行ってみて病院の建物や内装などにちょっとがっかりすることもある。長期出張や赴任の際には、ぜひ一度現地でお世話になる可能性のある医療機関を訪問しておきたい。

地方の医療機関は特に脆弱

 医療機関の受診で特に困るのが、地方へ行ったときに具合が悪くなった場合である。国によっては、首都に次ぐ第2の都市といった規模でも、安心して受診できる医療機関がないこともある。ラオスは、首都ヴィエンチャンでも安心して受診できる医療機関がなく、むしろすぐそばの国境を渡ってタイの地方都市の医療機関を受診するほうが確実によい。
 仕事で地方に行くこともあるし、生活していると地方の観光地やビーチなどに行きたくもなる。そうしたとき、病気もさることながら、むしろ交通事故が心配である。地方都市への道路はあまり状態がよくなく、しかも1車線ずつの対面走行(正面衝突し得る)で、速い車とのろのろのトラックなどが混じり合い、混沌(こんとん)としている。こうした状況で事故になった場合、車が自走不可能にでもなろうものなら、車の手配、怪我の処置などすぐにはできない。場合によっては、命の危険にもつながる。

受診に当たって

 海外の医療機関では、検査や治療に当たって、前金の支払いが必要になることが多い。事故や急病などで医療機関に搬送されたとき、治療費の支払い能力が示されない場合にはすぐに治療をしてもらえず手遅れになる可能性もある。そのため、海外旅行保険加入やクレジットカードを示せるようにすることも必要である。ベトナムなどでも、意識を失って病院に運ばれた場合には、外国人というだけでは当然に治療はされず、放置され得るリスクがある。といっても、海外旅行保険加入の証書を常時持っていることも難しい。私自身海外では、意識を失うような重病には絶対になりたくないと思う。出張の際には、念のため財布の中に名前、パスポート番号、国籍、民間保険に入っていることを英語で書いた小さなカードを携行している。救急車も多くは有料で(公的で安価な救急車ほどすぐに来ない)、すぐに呼んでもらえる保証はない。救急車のサービスがない地域も珍しくない。
 具合が悪くなって、自分で医療機関へ行ける場合には、海外旅行保険の証書を持って受診することになる。言葉の壁も大きく、日本語での対応は難しいことも多い。そのため、日本よりは具合がすごく悪くなるよりも早めのタイミングで受診すべきである。特に、金曜日に具合が悪く、週末が不安な場合にはぜひともすぐに受診しておきたい。週末はかなり医療リソースが限られる。また、医師がいても、必ずしも症状に合った専門の医師がいるとは限らない。特に整形外科や眼科関連の疾患となると専門医はまだまだ数は少ない。
 高血圧や糖尿病などの慢性疾患の薬の処方ができる医療機関は現地でも増えつつある。そうした疾患で受診する場合には、日本の主治医から英語で紹介状をもらっておきたい。すべての日本の医師がすぐに書いてくれるとは限らない(むしろ英語での紹介状作成を苦手にしている医師のほうが多い)ので早めにお願いしておきたい。
 また、現地で滞在中に出産を迎える可能性がある場合も、医療機関の体制や選択には注意が必要だ。東南アジア新興国で日本人女性が出産した例も聞かれているが、現地の医療体制からすれば、急にトラブルが発生した場合のリスクは避けられないだろう。実際に、医療機関が整っているバンコクへ移動して出産するという話も珍しくない。このように赴任先から離れても安心できる環境を選ぶ手もあるが、加えて出産後のことについても考えておく必要がある。例えば、飛行機での移動に関しては、生後8日以内の新生児は搭乗できない規則がある。また、現地での生活はさまざまな病気のリスクと隣り合わせであるため、ワクチン接種を行っていない状態の赤ちゃんの健康をどのように守るか、自分で勉強して知識を得るとともに、医師ともよく相談をすべきだろう。ただし、現地では小児科医が少なく、特に新生児の対応には限界があることも知っておきたい。

 以下に、東南アジア新興国で外国人が多く受診している医療機関の例を挙げた。もちろん、これらですべてということではなく、都市部では近年、日系の新しい医療機関もできているようなので、参考として見ていただきたい。また、情報が変わる可能性があるので、ある程度長期で滞在する場合などは、現地に着いた後に利用可能な医療機関へ足を運んでみるなどして、自分なりにも情報収集をしておきたい。
 日本大使館には、医務官が駐在していることもある。大使館に電話をするなどして、アポイントをとると、医療機関などについて情報提供を受けたり、健康相談にも乗っていただけるようである。ただし、治療のための検査や薬の処方はできない。
 ※2016年現在の医務官駐在公館一覧はこちら(外務省ホームページ)

東南アジアの新興国の医療機関の例

※病院名のリンクからホームページを参照できる。

1.ベトナム

 国立の総合病院は大都市にあるが、日本人が期待する医療レベルではない。日本人医師もクリニックなどに数名いる。基本的に入院となるような場合には、タイへ移動するか日本への帰国が望ましい。

[ホーチミン]

Franco Vietnamese病院(私立総合病院)

24時間オープンの私立総合病院。脳外科、心臓外科、精神科医以外は対応可能

インターナショナルSOSクリニック

ロータスクリニック

Family Medical Practice

スマイルデンタル

[ハノイ]

2.カンボジア(プノンペン)

 日本人医師のクリニックがある。入院が必要な場合はバンコクに搬送する。

3.ミャンマー

 日本人医師もいるが、入院案件はバンコクに搬送する。

インターナショナルSOSクリニック

Asia Royal Hospital

・Shwe Gon Dine Specialist Centre(現在ホームページは設けられていない)

4.ラオス

 医療レベルは低く、直ちにタイへ搬送する。バンコクまでは遠くとも、首都ヴィエンチャンからであれば、タイのノーンカーイやウドンタニまで緊急搬送すると2時間程度で到達できる。なお、陸路による国境は、夜などに閉まると翌朝まで移動できないため、夕方に具合が悪くなった場合には特に迅速な対応が必要である。

国外への緊急搬送

 ある海外の途上国で活動を行っている団体の調べによると、職員が病気のため空路で緊急に脱出した理由で多かったのは、成人では外傷(33%)、一般的な内科問題(24%)、神経学的問題(15%)であった。小児では、髄膜炎(21%)、頭部外傷(17%)、足の骨折(8%)であった。
 海外旅行保険への加入は必須である。特に近隣諸国への搬送が必要になった場合には、チャーター便の手配や医師の帯同などで高額な費用がかかる。国外への緊急搬送については、上記の医療機関からであれば手配できるだろう。その際には、本人や家族が説明をよく聞き、明確に意思表示をするようにしたい。また、保険が第三国への緊急搬送をカバーしていることも伝えなければ、選択肢として挙がらない恐れもあるので注意したい。
 一方で、チャーター便を使って緊急搬送するほどではないが、なかなか治らない状態が続くこともある。こうした場合、定期便を使って国外で受診させるかを判断するのはなかなか難しい。私自身も、3歳の子どもがミャンマーで肺炎(おそらくマイコプラズマによる)にかかり、熱が2週間下がらなかったときには大いに悩んだ。抗生剤も3種類くらい変えて、これで熱が下がらなければバンコクの病院で受診という状況まであった。幸いなことに、日本から小児科専門医が別件で来ていて相談できたこともあり、最終的にはバンコクまで行くことにはならなかった。その小児科専門医によれば、「まずこの状態で日本にいたら入院ですね」という状況であった。
 仕事もある程度スケジュールが決まっていてキャンセルが難しく、また海外に出るには事前の申請(といっても緊急事態は許されると思うが)が必要などのルールがあったことも悩ましかった。航空券も、さすがに直前でも短距離のため高額すぎることはないが、それなりに費用がかかる(なお、こうした自主判断により第三国で受診する場合の交通費は、保険があっても自己負担となる)。
 また、航空機内には酸素ボンベの持ち込みができないため、肺炎などの場合には搭乗できない可能性もある。さらには、隠して飛行機に乗ったとしても、気圧が低く酸素濃度が下がるため、急に具合が悪くなる可能性がある。酸素が必要になる状況が想定されるなら早めにバンコクなどへ飛ぶ必要がある。日本までも結構時間がかかるし、夜便で具合が悪い子どもを連れていくのもなかなか難しいだろう。
 あるお子さんは、ジャングルジムで遊んでいて転び、腕を骨折した。現地の比較的有名な医療機関の整形外科を受診し、固定により回復したが、その過程で腕の動きが悪くなっていたことが次第に分かった。もっと早めにバンコクや日本の医療機関に行けばよかったと悔やんでおられた…(実際にバンコクに行けばよかったのかは、私にはちょっと分からなかった)。
 以上から、緊急搬送までではないにしても、ちょっとした怪我でも病気でも、いつでもパスポートを持って、バンコクやシンガポールの病院または日本に帰るという心構えと交通費は確保しておくことをお勧めする。

帰国してから

 もし、日本に帰国して体調に問題がある場合、注意が必要な二つのパターンがある。発熱、下痢、発疹などの症状があって帰国した場合と、帰国してから具合が悪くなった場合である。
 感染症の場合は、周りの人に感染させる可能性があるため、具合が悪くて帰国したときには空港の検疫所に相談する。ぜひ相談したい(無料である)。
 医療機関もどこでも対応できるわけではないので、どの医療機関に行ったらよいのかも検疫所で相談するとよい。特に、国内の大都市以外では、海外で感染した場合には対応ができる医療機関が少ないため、検疫所と相談するか、都市の慣れた病院に受診することを勧めたい。
 帰国した後に具合が悪くなった場合には、まず「海外に行っていた」ことを伝えることが大事である。さまざまな病気の潜伏期間を考えると、帰国してから1カ月から45日ぐらいまでは「ちなみに〇〇国に行ってました」と医療機関に伝える。いきなり受診するのではなく、できるだけ電話で事前に相談して、医療機関にも感染予防の準備をさせ、他の患者さんに感染させないようにする配慮が必要である。特に、発熱、下痢、発疹が要注意である。咳をしている場合には、咳エチケットとしてマスクを着用していきたい。
 海外出張の前後はとても忙しい。しかし、感染症を職場にばらまいたとなれば大問題になる。特に帰国後2週間以内に具合が悪くなった場合には直ちに受診したい。

[参考資料]
 東京都福祉保健局『海外旅行者・帰国者のための感染症予防ガイド』
  ⇒資料はこちら

和田 耕治 わだ こうじ
国立国際医療研究センター 国際医療協力局
2000年産業医科大学医学部卒業、臨床研修医、専属産業医を経て、カナダ国マギル大学産業保健学修士課程修了、ポストドクトラルフェロー。2007年北里大学医学部衛生学公衆衛生学助教、その後講師、准教授を経て、2012年より国立国際医療研究センター国際医療協力局に勤務。ミャンマーにおける感染症対策ならびにベトナムを中心とした医療機関の質改善重点事業に従事。

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