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産業医が現地に住んでみてわかった! 東南アジアの新興国への赴任者と出張者のための健康管理 [2016.07.12]

第5回 心の健康を守る

  ~自分を守り、家族を守る~


国立研究開発法人 国立国際医療研究センター
国際医療協力局 医師 
和田 耕治

 

海外での仕事のストレスは「かなり」大きい

 海外での仕事ではさまざまなストレスに見舞われる。文化や仕組みの違いから、仕事を進める上で、日本のように思ったとおりにいかないことも多い。何が言いたいか分からない、だまされた、約束を破られた、といったことを「思う」または「感じる」こともしばしば起きる。
 家族を帯同している場合には、配偶者や子どものストレスにも対応しなければならない。生活のストレスも多い。東南アジアの雨期には、町は洪水のようになる。また、運転手の態度が悪い、遅刻して子どもが学校に遅れる、盗難に遭うなどさまざまなことが日常的に起こり得る。さらに、日本と比べて友人や同僚も減り、社会的な支援が減る。単身赴任の場合には家族の支援もない。
 海外への赴任や長期出張には、これまで希望していなかった人も会社の命令により行かなければならない。国内にいる人に、海外での仕事の大変さを分かってもらえず、ストレスに感じている人も多い。赴任先で日本よりも広い家に住んでいたり、運転手やお手伝いがいて、「気楽でいいですね」などと言われることもあるようだ。一方で、国内の人事担当者が「海外勤務者はいろいろと要求も多くて…」とこぼしている話を聞くこともある。こうした違いも両者のコミュニケーションや現地のストレスや不安などを反映しているのかもしれない。
 短期の出張者でも、気候や文化の違い、思ったように物ごとが進まないといったことでストレスをため、極度の疲労や、キレやすくなるといったことはしばしばである。
 外務省「海外法人援護統計」によると、2014年の1年間でみた、アジア地域での日本人自殺者数は21人(未遂も含めると26人)に上り、交通事故による死亡者数(9人)の2倍あまりとなっている。また精神障害で保護された人は1年間で49人であった(ちなみに犯罪被害での死亡は5人である)。
 現地にいると噂レベルであるが、帯同してきた妻が体調を崩して帰国したり、離婚するといったこともちらほら聞く。現に、「海外赴任」「離婚」と検索すると、結構いろいろと記事が出てくる。当然、離婚も心身の健康には大きな影響を与える。
 まず、本人、家族、そして会社が理解しておかなければならないのは、「海外への赴任や出張はストレスが大きい」という前提である。

メンタルヘルスを普段から良好に保つために

 出張でも、赴任でも、海外での生活中はメンタルヘルスを積極的に良好に保つようにしなければならない。普段から運動をしたり、意識して休息を取るようにしておきたい。特に出張や赴任の前など忙しいことも多いが、睡眠を確保して体調を整えておきたい。運動は、心の健康を保つ上でとても効果があることが分かっている。運動靴や水着を持っていき、空いた時間にはジムなどにできるだけ通いたい。外を走る場合には、当然ながら交通事故のリスクが高いため公園などに限りたい。
 現地に着いてからも、さまざまなトラブルが待ち受けているので、あまり急がず、おおらかに構えることを心掛けたい。とはいうものの、日本から多くの指示があり、すでに現地で生活を安定させ、バリバリ仕事をしている上司に追われるといったこともある。そこはうまく自分自身の健康と生活を安定させたい。
 赴任者は、現地での生活が落ち着いたら、周囲との人間関係を大事にするよう心掛けたい。日本人とはあまり接したくないという人もいるだろうが、家族を帯同している場合の住まいは、お互いに支え合える日本人の多いアパートがよいだろう。単身赴任の場合も、病気になったりトラブルにあったりした際にお互いに助け合えるようなところに住みたい。現地の日本人会などの集まりにもできるだけ参加するようにしたい。サークル活動や出身県での集まりなどに顔を出すのもよいだろう。
 最初の2~3カ月は、勢いに任せて乗り切るといったこともあるようだが、ここをゆっくり過ごすことがその後をうまくやっていくために重要である。逆に、この最初の2~3カ月で難しい状況になると、その後立て直すことが困難になる。最悪の場合には家族だけ帰国、または体調を崩して本人が帰国を余儀なくされることもある。
 3カ月を過ぎると、より周囲のことが見えてくるようになり、日本との違いが心にこたえて、引きこもりがちになったりする。また近年は、東南アジアの経済発展によって外国からの赴任者が増え、運転手やお手伝いさんなどのニーズが高まって、給与の高騰と人手不足が続いている。そのために優秀な人がなかなか雇えなかったり、雇ってもすぐに辞めたりすることもあって、子どもの世話などを任せられず、引きこもったりする妻も増えている。また、赴任者の家族同士でのお付き合いが増えてきたりすると、それがストレスになる場合もある。人にもよるだろうが、この時期は赴任者や家族にとって、思いのほかつらいことも多いようである。
 ただ、そうした時期を経て1年も過ぎると、いろいろと慣れてくることもあり、さらにもう1年というのも何とかなるようである。
 こうした見通しを持ちながら、悩みがあれば言葉にして周りに助けを求め、家族や周囲とお互いに助け合うことが大事である。
 家族がいる場合には、できるだけお互いの批判やけんかは避ける。行く前から、家族みんなで支え合おうということを方針とし、明るく、前向きに日々を過ごしたい。

メンタルヘルスの不調に早めに気づく

 不調は、まず体の症状として出てくることが多い。頭痛、腰痛、倦怠感、不眠、食欲低下などから始まる。また、行動にも影響し、喫煙や飲酒の増加、怒りやすくなる、ミスが増える、職場へ行きたくなくなるといった行動が現れる。さらには気持ちが沈む、焦り、集中できないといった心理面への影響が出る。こうしたサインに、早めに自分自身や家族、そして同僚が気づくことが大事である。
 そっとしていればそのうち改善するだろうという期待よりも、海外というリソースが少ない場であることから、積極的にお互いに声を掛けるようにしたい。
 海外赴任者への介入はどうしても後手に回りがちなので、早めの対応が必要である。現地でのメンタル疾患の治療は難しい。また、職場としての介入も難しい。日本からの業務指示も多く、少ない人数でこなさなければならず過重労働になる傾向もある。
 出張者の場合には帰りのフライトが決まっていたりするため、時間的制約を課せられることもある。それゆえに過重労働になることも多い。さらには、意外なことでもないが、日本人職員同士の人間関係のほうが、現地の職員との人間関係よりもストレスになることもよくある。
 海外でのうつ状態などの事例では、タイミングよく介入をし、様子を見て帰国させることで多くは比較的早く改善する。しかし、海外からの出張や赴任から日本に急に戻るとなるとそれなりに目立つため、本人にとってもできるだけ症状を隠したいという方向性につながりやすいので注意が必要だ。

日本側の対応

 大きな企業では、産業医や産業保健職へメールで相談ができるような体制を構えていることもある。中小規模の企業でも、非常勤の産業医や産業保健職がいる場合はメールでの相談窓口を開設することも検討に値する。しかし、毎日対応できるわけではないので限界もある。もちろん、メール相談窓口もただ開設すればよいというわけではない。赴任前に本人と産業保健職が面談をするなどして、お互いの顔が見えるような関係性ができていないと相談にはつながらない。また、メールで相談した場合にどのような対応がなされるかをきちんと説明しておかなければ、「上司に伝わるのでは」とか「人事査定に響くのでは」といった不安が先立ち、相談窓口が活用されなくなる恐れもある。
 産業医や産業看護職に、海外で勤務する従業員のメンタル不調を伝えるためにはさまざまなチャネルを通じた情報収集が必要である。同僚や上司などからの情報も得ながら、早めに対応するようにしたい。
 実際には、産業医でもメールや電話による面談だけで正しく判断することは難しい。かといって、現地に行くことも難しい。海外赴任者に定期的に一時帰国の機会を提供し、その都度、管理者、人事、そして産業保健職が面談をする体制が必要である。また緊急事態生じた場合は、人事や現地の職員が帯同して帰国できるような体制ももちろん重要である。

対象者を適切に選ぶ

 さまざまな予防策を構えることも重要だが、海外に長期出張または赴任させる社員の人選についても注意を払いたい。プライバシーに配慮しながら、本人(家族帯同の場合には家族も含めて)にメンタル的な課題がないかといったことを、対話を通じて可能な範囲で確認をした上で適切に対象者を選ぶようにしたい。
 以前にうつ病などのメンタルヘルス疾患で休職をしたり、精神科での治療を継続している人は、できるだけ海外への出張や赴任は避けたい。冒頭にも書いたが、社員を残して帯同家族だけが帰国したり、ましてや離婚にまで発展することがないよう、会社としてもしっかり支援するようにしたい。
 すでに年配の方で、かつてさらに厳しい状況の中で赴任をしていた人からすれば、最近の状況は当時よりも格段によくなったと感じるだろう。ただ、「昔はもっと大変だった」と言われてももはや時代が変わっている。海外という、だれもが大きなストレスを抱えるような環境の下では、もともと元気だった人でも体調を崩すことがある。
 そうした意味からも、人選は本当に難しい。しかし、さまざまな工夫により、会社にとっても、本人にとっても、家族にとってもよい方向性が得られるはずである。

和田 耕治 わだ こうじ
国立国際医療研究センター 国際医療協力局
2000年産業医科大学医学部卒業、臨床研修医、専属産業医を経て、カナダ国マギル大学産業保健学修士課程修了、ポストドクトラルフェロー。2007年北里大学医学部衛生学公衆衛生学助教、その後講師、准教授を経て、2012年より国立国際医療研究センター国際医療協力局に勤務。ミャンマーにおける感染症対策ならびにベトナムを中心とした医療機関の質改善重点事業に従事。

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