Point of view [2016.04.22]

第62回 苅宿俊文

企業内でワークショップ型研修を機能させる
ための三つの考え方


苅宿俊文  かりやど としぶみ
青山学院大学 社会情報学部 教授

 モンゴル国立教育大学大学院博士課程修了、Ph.D.(教育学)。専門は学習コミュニティデザイン論、学習環境デザイン論、教育工学。
 現在、ワークショップに代表される協働的な学びの場の分析やデザインの実践研究に取り組んでいる。また、社会人のための学校教育法に基づく履修証明プログラムとして青山学院大学社会情報学部ワークショップデザイナー育成プログラムを運営。

 

私たちは人にものを教える時、どんなことを考えるのだろうか。自分が考えた通り相手に伝わったり、相手が分かってくれたり、そんな姿を思い浮かべるのではないだろうか。しかし、現実の教える場面では、自分の思い通りにいくことはあまり見受けられない。それよりも、自分が一生懸命考えたのに分かってもらえなかったり、自分が工夫したところが人に伝わらなかったり、何か徒労感を味わうために考えているのではないかとさえ思ってしまうこともあるくらいだ。
 でもなぜそう思うのだろう。それは人に教える時の考えが"自分が中心になっている"ことに気づいていないからである。人に教えるということは、教わっている人と教えている関係の中で生まれていくものだ。そういう出来事こそが教え・学びの関係なのだ。

最近、「学習者中心」という声も聞くが、何より大切なのは教え手と学び手の相互作用にこそ大きな意味があり、そこに注意を十二分に払うべきだということである。これらのことを念頭に、ワークショップが大人の学びに生かされる考え方を三つ紹介していきたい。

■「参加の保証」という考え方

ワークショップはその源をアメリカに求めることができる。アメリカは移民の国として発展していた。その時、もともとの出自などで区別することなく、すべての人が組織に参加していく。そして、自分たちの町や学校を協働で作ってきたという歴史に自負を強く感じている国である。この風土で育った考え方がアメリカのアソシエーショニズム(共通の関心による結び付きを重視する考え方)と言われるものだ。このアソシエーショニズムが源泉となって、アメリカがワークショップの源とされているのである。

この前提条件を考えると、私たちはワークショップを研修で使う時、その参加者に対して、既有の知識や社内のステータスなどを横に置くことを前提にするデザインが重要である。このことをフラットインポータンス(重要性の平板化)と呼ぶ。いわゆる肩書き外しをして、対等な関係で話し合える条件があることが参加の保証になる――という重要な考え方をまず周知していきたいものである。

■「他者理解や合意形成を味わうゆとり」という考え方

ワークショップはその前提条件の定義として、「コミュニティ形成(仲間作り)のための他者理解と合意形成のエクササイズ」と表すことができる。つまり、すれ違いやズレが頻繁に起こる社内のコミュニケーションの課題を少しでも改善するために、ワークショップの特質である他者理解や合意形成のエクササイズの部分を利用していくという考え方が重要なのである。

しかし、最も重要なのは、他者を理解することや合意を形成することのプロセスの中でさまざまな意見を並べ、比較し、それを吟味していくという時間的なゆとりである。つまり、他者理解や合意形成の質を味わうという感覚のことである。私たちは、効率性という条件とワークショップが持つ時間的ゆとりの必然性の間で大いに悩む。しかし、ワークショップであるとするならば、やはり時間的なゆとり――つまり、人は"円環的に学ぶ"ものであって、理解したからといって行動が即変容するものではないということ――を強く共有していきたいと考えている。

■「大人の学びは円環的な構造である」という考え方

子供と大人の学びの違いは何だろう。それは「知識の獲得」と「意味生成」という学び方の違いである。つまり、子供は正しい知識を学び、それをテストされ、その知識を再生産することによって評価され、その再現性の高さがあれば学習は終了したとみなされる。
 しかし、大人の学びは知識を獲得するだけで終わるわけにはいかない。その経験や知識が認識を変え、行動を変容させていくというところに少しでも繋(つな)がっていかなければならないからである。だから、大人の学びは同じようなことを何回か繰り返しながら、少しずつ認識や行動が変化していき、定着していくことを狙っていかざるを得ない。

また、普段当たり前のようにやっていることはだんだん無意識にやるようになり、その無意識にやってしまっていることが実はミスを生み出すことにつながっていく。ミスが起こった時に省察をすれば、なぜこんなミスが分からなかったのだろうと考えてしまうが、そのミスを生み出してしまっている時は無意識にやっているものだ。それが正しいことなのかという判断を吟味する時間的ゆとりがとれていなかったことが、大きな課題として残る。ゆえに、非日常的な体験であるワークショップの中に無意識を意識化させる気づきのデザインを埋め込むことで、ルーチンの仕事に込められた自明性、つまり、やることが目的になってしまうことに危機感を持っていくことが重要である。

この三つの考えを持ち、ワークショップの内容一つ一つの細かい吟味の前に前提条件として共有していくことが、参加する人たちや実施する人たちのギャップを埋める役に立つ。「対立という共通項」という考え方だ。異なっていることだけに注目するのではなく、重なり合っている場面や重なり合っていることが無理ではない場面を前提条件として進めていくことで、ミッションやゴールイメージの共有という大きな目的を合致させることができる。これが、企業でワークショップ型研修が定着するための重要な考え方となる。

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