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「採用学」の視点から探る、これからの新卒採用の方向性 [2014.10.29]

第6回・完 16年卒採用の分析と展望:大変化にいかに立ち向かうか?


服部 泰宏
横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 准教授

1.はじめに

 これまで、第1回の連載で採用の現状と課題の整理を行い、その後第2回から第5回の連載まで、さまざまなテーマについて対談をしつつ採用に関する知見を深めてきた。今回は、これまでの連載のまとめとして、16年卒以降の採用活動についての私見を述べていきたい。

2.16年卒以降の採用はどうなる?

 制度の変更に伴って、16年卒以降の採用はどうなっていくのか、また、採用をどのようにしていくべきなのか。これらは、現在の採用活動における最重要かつ喫緊の課題であるだろう。これらの課題について、はじめに変更点をおさらいしたのち、その展望について論じていく。

(1)16年卒採用における変更点
 これは第1回の連載でも述べたことであるが、16年卒採用から[図表1]のような変更が行われる。すなわち、採用活動の期間は後ろ倒しにされる。採用の広報解禁の時期は従来の12月から3月になり、選抜の開始時期は4月から8月になる。そこで、企業が求職者と関われる期間は10カ月間から7カ月間へと短縮されることになる。

[図表1]採用活動・スケジュールの変化
区  分主導とその目的広報の開始選抜の開始広報解禁~内定解禁の期間(企業が求職者と関われる期間)
12年卒採用
⇒14卒採用
 への変更
経団連主導
採用活動の過熱化
への抑制
 
10月⇒12月
2カ月の後ろ倒し 
変更なし
4月スタート 
10カ月間
広報解禁~選考解禁
4カ月(12月~4月) 
16年卒採用政府主導
人材育成システムの強化
12月⇒3月
3カ月の後ろ倒し 
4月⇒8月
4カ月の後ろ倒し 
7カ月間
広報解禁~選考解禁
5カ月(3月~8月)
選抜~内定解禁
2カ月(8月~10月) 

(2)16年卒採用の企業行動に関する予測
 この環境変化に対して、楽観的な予測と悲観的な予測ができる。楽観的な予測とは、採用活動期間の短縮化という、新卒採用に比重を置く大多数の企業にとって脅威となるような変化が生じることで、多くの企業がこれまでのやり方を見直し、採用のイノベーションが生起するということである。他方、悲観的な予測とは、逆に変化に対して脅威を感じることで企業は保守的になり、かえって慣性のロックがかかることで変革が妨げられる――つまりイノベーションが起こりにくくなるということである。一体、これらの予測のどちらが当てはまるのであろうか。
 この問いに答えるために、ここで一つ示唆的な研究を紹介したい。それは、ハーバードビジネススクールの教授であったクラーク・G・ギルバートの研究である[注]。ギルバートは、デジタル化という大きな環境変化に対するアメリカの八つの新聞社のケース分析から、環境変化に対する企業の対応について明らかにした。
[注]Gilbert, C. G. (2005) Unbundling the structure of inertia: Resource versus routine rigidity, Academy of Management Journal

 その研究によれば、企業組織が持つ慣性は二種類ある。それは、①「資源配分パターンにおける慣性」と、②「組織のルーティンにおける慣性」である。①「資源配分パターンにおける慣性」はヒト・モノ・カネなどのリソースを、どこにどれだけ配分するかというその配分における慣性であり、②「組織のルーティンにおける慣性」は仕事のやり方・考え方・使用するツール・施策・仕事プロセスに関わるルーティンのことである。ギルバートは、環境の変化・脅威は、①「資源配分パターンの慣性」を打ち破る契機にはなるが、②「組織ルーティン的な慣性」については、かえって強化されるということを明らかにした。
 ここから得られる採用活動に関する示唆は、次のようなものだ。すなわち、「16年卒採用」において、採用時期の変更という「脅威」に直面すると、一方ではインターンシップへの時間的・金銭的な投資、ナビサイトに掲載する広告量(料)など、資源配分についてこれまでと違ったパターンが生じる。しかし他方で、採用活動のフロー、使用されるツール、設定される人材像や採用基準など採用実践そのものについては、これまでと同じやり方が継続される。つまり、「16年卒採用」においても、企業の人材獲得競争は、第1回の連載で問題として提示したような、相変わらずの「同質的」なものになってしまうのではないだろうか。

3.16年卒以降の採用を生き抜いていくために

 上記の懸念を克服していくために、ここでは「戦略論」の観点から採用活動を整理してみたい。ギルバートの議論の帰結と同じ状態に陥らないために、一つの参照点になれば幸いである。

(1)「戦略論」の発想から見る採用
 戦略論の観点から、採用をターゲットの広さ(広い/狭い)、およびどのような特色で引き付けるか(採用リソース/特異性)の2軸のマトリクスで見てみることにする。ここでいう「採用リソース」とは、待遇や知名度、採用予算などであり、どちらかというと求職者に「来てもらう」という発想の"守り"の戦略、「特異性」とはどちらかといえば求職者を「取りに行く」という"攻め"の戦略となる。すると、[図表2]のような四つの戦略を見いだすことができる。

[図表2]採用における四つの戦略
 区  分 特  色
採用リソース 特異性
ターゲット 広い ①アトラクション戦略
豊富な採用リソースを背景に、労働市場にいる多くの求職者を引き付け、そのうちの上位者を採用する
②差別化戦略
現有リソースでは他社と伍(ご)していけないため、それとは違った独自性を打ち出すことで多くの求職者の獲得を目指す
狭い ③集中アトラクション戦略
豊富なリソースで求職者を引き付けるが、多数の求職者を集めることには関心を持たず、一部の優秀層のみをターゲットにする
④差別化集中戦略
多数の求職者を引き付けることを目指さず自社に必要な人材を細かく定義した上で、それに適合した人材だけを採りにいくニッチ戦略

 四つの戦略とは、具体的には次のようになる。

①アトラクション戦略:ターゲットが広く、採用リソースで求職者を引き付けるのが「アトラクション戦略」である。豊富な採用リソースを活用して多くの求職者を引き付け、そのうちの上位者を採用する。いわゆる採用強者のみが取り得る物量戦略である。

②差別化戦略:現有リソースでは他社と伍していけないため、自社なりの独自性を打ち出すことで多くの求職者の獲得を目指すのが「差別化戦略」である。大企業の大部分が選択しようとしているものの、①との差異が分かりにくいため、実際には難しい。

③集中アトラクション戦略:豊富なリソースで求職者を引き付けるが、多数の求職者を集めることには関心を持たないのが「集中アトラクション戦略」である。採用のハードルを上げることで、一部の優秀層だけをターゲットにした採用活動を行う、一点突破型の戦略である。

④差別化集中戦略:多数の求職者を引き付けることを目指さず、自社に必要な人材を細かく定義した上で、それに適合した人材だけを取りにいくニッチ戦略が「差別化集中戦略」である。第3回の連載における三幸製菓株式会社の採用活動はこの戦略に当たるであろう。

 これらの戦略のうちどの戦略を採るにせよ、大切なのは求職者を引き付けるための特色を明確にすることである。つまり、採用リソースから求職者を引き付けるのか、それとも特異性から求職者を引き付けるのか、これらのどちらを打ち出していくのかをはっきりとする必要がある。どっちつかずの戦略は求職者にとって分かりづらく、またそれを実行する採用担当者が「ブレる」原因となる。
 しかし、他社と差別化しつつも、多数派を狙いにいく差別化戦略は、求職者の目から見ると「ユニーク」ではないことが多い。言ってみれば、採用活動においても"Stuck in the middle仮説(=どっちつかずの戦略をとることが、企業にとって最もマイナスの結果を生むという仮説)"が存在するのではないだろうか。自社なりの明確なメッセージを込めて採用活動を行わなければ、自社内では他社との違いを「黄色と赤」だと思っていても、求職者からしてみれば「黄色と黄土色」にしか見えていない、差別化したつもりができていないという悲しいことが起こる可能性がある。

(2)いかに戦略を立てるか?
 企業の競争戦略の要諦を一言で言えば、「他社とは違った、良いことをすること」となる。これは一橋大学大学院教授 楠木 建氏の表現である。「他社と違う」からこそ、他社よりも自社がもうかる可能性が開かれ、「良いこと」だからこそ利益が出る。しかし、「良いこと」はたちどころに他者に模倣され、早晩「他者と違う」ことではなくなる。リソースや物量であれば容易には模倣されないだろうが、「特異性・ユニークさ」は模倣可能である。
 とはいえ、第3回で取り上げた三幸製菓の事例であれ、採用エントリーに受験料を採り入れたドワンゴの事例であれ、優れた採用が模倣されずに「ユニーク」なものとして成り立っている。これは一体なぜだろうか。その答えは、これらの採用の背後には隠された「叡智(えいち)」があるからだと考えている。例えば、「カフェテリア採用」の話を初めて聞いた時、どのような印象を抱いただろうか。それは「面白い!」「ユニーク!」でも「うちがすぐに導入はできない」というものではなかっただろうか。ここに「叡智」があるのである。
 こうした採用の背後にあるロジックを深く理解すれば、大企業にもベンチャー企業にも使えるものであるのだが、すぐには模倣されない。それは、地方に本社、伝統的企業、巨大企業でないという企業の特殊性や「ニイガタ採用」や「おせんべい採用」というユニークなネーミングゆえかもしれない。ここには、意図せざる結果かもしれないが、模倣障壁、すなわち他者には真似できない障壁を構築することで自社の競争優位を持続的なものにするという発想が用意されている。

 しかし、模倣障壁を備えるような採用活動を実施することは、決して容易ではない。ただ、これをいかに行っていくかについては、これまでの連載である程度示唆されたように思う。そこで、これまでの連載の要点についてまとめていきたい。
 まず、採用は慣習・経験則で行うことではない。慣習・経験則で行う採用活動には、次のように三つの問題点がある。一つ目は、その施策の実効性を検証できないことである。二つ目は、採用施策がブラックボックス化し、次の世代に継承されていきづらいことである。最後に三つ目は、他の施策、例えば育成や人事、と一貫した施策が取れないということである。そこでこうした点を解決するために、採用活動は数値で表されるデータと、そのデータを活用するためのロジックに基づいて行われるべきである。
 次に、採用戦略全体を適切に位置づけるべきである。企業戦略とどれだけ厳密にひも付けていくかという点では、その度合いや形は多様と思われるが、少なくとも入社後の育成まで踏まえて、そして人材マネジメント全体の展望の中で採用活動をいかに行っていくべきかを考慮するべきである。こうした視点で見るからこそ、採用の成果を正しく把握し、また大きな枠組みの中での成果を採用活動にフィードバックしていくことができる。
 最後に、採用戦略全体を見据えた上で、各種の採用施策の位置づけを明確にしておくことが必要である。求職者はどのような行動をとるのか、どのような特性を持っているのかを正しく認識した上で、就職情報サイトの利用の仕方、企業説明会の運営の仕方、インターンシップの実施の仕方、そして選抜をどのような観点から、いかに行っていくかを定めていくことが求められる。
 このように、採用戦略の枠組みの外部からの観点、採用戦略の枠組みの内部からの観点、この両者の観点を持ちつつ、データとロジックで採用活動を行おうと考えていくからこそ、「叡智」が潜んだ採用活動を実施していけるのではないであろうか。

4.最後に

 「リバース・イノベーション」という言葉をご存じだろうか。これは、ダートマス大学タック・スクール・オブ・ビジネスの教授であるビジャイ・ゴビンダルジャンが提唱した概念である。この言葉の意味することは、資源が限られた途上国でこそイノベーションが生じ、それが富裕国に広がり、現状の市場に影響を与えていくということである。
 私は、日本の16年卒採用において、中小・中堅企業から発したアイデア・施策が広く波及していくようなリバース・イノベーションが起こることを期待したい。確かに、今回の制度変更は採用活動を行う採用担当者にとっては大きな困難に思えるだろう。ギルバートの研究からは、より硬直した採用競争が起こってしまうという示唆も得られている。しかし、16年卒採用においてゴビンダルジャンの「リバース・イノベーション」の指摘が心強いものになるように期待したいし、またそのようにするための参照点はこれまでおよび今回の連載で提示してきたつもりである。
 16年卒採用は、大きな転換期である。これを節目として、これまで慣習・経験則で行われがちであった採用活動全体を見直し、精緻なデータとロジックに結びついた、企業と学生の双方にとってより良い採用活動が展開されていくことを願っている。

※編集部より
  本連載は今回で最終回となります。全6回までお読みいただき有り難うございました。

 

PROFILE
服部 泰宏
 はっとり やすひろ
横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 准教授
1980年神奈川県生まれ。滋賀大学経済学部情報管理学科専任講師、准教授を経て現職。組織コミットメントや心理的契約といった日本企業における組織と個人の関わりあいや、経営学的な知識の普及の研究等に従事。2010年に第26回組織学会高宮賞を受賞。2013年以降は、人材の「採用」に関する科学的アプローチである「採用学」の確立に向けて「採用学プロジェクト」を立ち上げ、主宰者として精力的に研究・活動に従事している。
 採用学プロジェクト ホームページ: http://saiyougaku.org/ 


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