Point of view [2013.08.16]

第1回 神田 良

老舗企業に学ぶ 人づくりの極意


神田 良 かんだ まこと
明治学院大学経済学部 教授
1953年生まれ。一橋大学大学院商学研究科を修了し、明治学院大学専任講師、助教授を経て現在に至る。経営戦略論、経営組織論、労務管理論、国際経営論を教える。長期的競争力の構築・維持という経営戦略論の視点から老舗企業を研究。『老舗の教え』『よくわかる経営のしくみ』(ともに(日本能率協会マネジメントセンター、共著)ほか著書・論文多数。

 

企業永続のマネジメント

 ゴーングコンサーン(継続事業体)としての企業の基本的課題は企業永続である。そのためのマネジメントはどうあるべきなのかを、いわゆる老舗の経営行動を調査対象として研究している。東京商工会議所中央支部と協力して「老舗企業塾」を立ち上げ、老舗企業が多数存在する東京都中央区で100年以上事業を営んでいる企業のマネジメントのエッセンスを抽出して、企業の自己診断ツールを開発した。事例研究から仮説を導き出し、それを創業0年から400年を超える企業を対象にして質問票調査で検証した。老舗研究の多くは老舗だけを研究してその知恵を導き出してきたが、この調査では非老舗との比較を通して、永続経営の知恵を明らかにしたことが特徴である。

 老舗の経営では、長期にわたって顧客が愛顧し続ける、その企業ならではの企業個性が存在する。競合が真似できない「その企業らしさ」が形成され続けてきている。それは、「志のマネジメント」「強みづくりのマネジメント」「関わりのマネジメント」「活縁のマネジメント」そして「人づくりのマネジメント」から成り立っている[図表]。①創業以来の志を中核にして、②それを実現するために競争力を強化し(強みづくり)、③事業に直接関連する取引先や顧客との関係(関わり)を育み、④会社の存立基盤として欠かせない社会やコミュニティとのつながりを大切にしてきた(活縁)。そして、⑤これらを実際に実行する人材を育成・強化してきたことが、激しい競争に勝ち抜いて現在に企業寿命をつないできている老舗の強さの源泉といえる。


個性・強みをつなぐ

 人づくりでは、現場の従業員の育成がポイントの一つとなる。とはいえ、非老舗企業と比較すると、個別的な手法や育成の考え方にはそれほど大きな違いは見出せない。唯一の相違は、自社の志を引き継ぐための教育に力を注いでいる点にある。創業以来の自社の歴史や伝統を従業員に伝え、企業の価値観や文化の継承を重視しているのである。つまるところ企業らしさを体現するのは個々の従業員であり、彼らが自社らしさにこだわらずに事業に携わることは企業個性を失うことになりかねないからである。

 老舗企業は培ってきた伝統や技術を受け継ぎ、強化しながら伝えていくことに長(た)けている。それは単純にマニュアルで表されるものを越えている。そのため教育・訓練は長い時間軸で捉えなければならない。時間を掛けた育成には従業員の定着化が欠かせないことから、老舗が最も重視することは、従業員が長く働いてくれることである。そこで、目標となる姿や技能を示して将来に向けての夢を持たせ続けるといった動機付けに配慮し、継承すべき技術を伝える。しかもそうした技術やノウハウを意識してキャリア形成を進めている。老舗の強みの一つは模倣されにくい暗黙知の伝承・強化にある。この意味で、老舗企業における従業員教育は、企業個性や競争力の源泉である守るべき技術・ノウハウを伝え、引き継いでいるものといえる。

経営をつなぐ

 老舗の人づくりでは次世代経営者、つまり後継者育成に大きな特徴がある。非老舗企業との比較では、すべての項目に関して有意な相違を見せている。ここでも守るべき経営方針や技術を伝える志の継承が最も重視されている。守るべきものを知ることが、それ以外の革新を試みるための素地を創り込むことにもつながっている。
 また、入社後の計画的なキャリア形成を体系化し、仕事を学ぶことを通して社内人脈を構築させている。社内だけでなく、取引先など社外人脈の構築にも配慮して、事業で築いてきた関係性の継承も忘れない。老舗はそれだけで存在してきたわけではなく、他の企業などとの関係を保ちながら生きてきたのである。
 老舗はファミリー企業が多く、通常、後継者は創業家から出る。その際、入社前に他社で修行したりするなど、卒業後にすぐに入社することは少ない。外の目を養うことで自社を客観的に見る素地をつくろうとしているのである。これが後継者育成の、もう一つのポイントであり、ここでも伝統を守るだけでなく、革新を絶えず意識した人づくりを目指していることが理解される。

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