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企業がEAPを活用するコツ [2011.12.08]

第11回 EAPによるストレス調査の是非 ~標準的サービスである「ストレス調査」の落とし穴と活用のコツ~

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師

ストレス調査とは?

EAP機関をウェブで検索し、そのホームページを見てみると、大抵、ストレス調査を提供していることが分かる。そのようなストレス調査は、メンタルヘルスにあまり詳しくない人事労務担当者にとって、一見、魅力的に見えるものである。

かなりの数の社員に実際のサービスを提供でき、何かをやったと経営層や労働組合にも説明しやすい。実際、データが集約されたものを見て、他社や同業との比較が出ているとなんだか自社の傾向が把握できたような気になるのである。

もちろん、何も行わないよりは、ストレス調査を実施すると、従業員にとっては確かに対策が行われていると感じられるものだ。また、結果を適正に活用すれば効果的である可能性もある。

けれども、EAPの活用の一環としてストレス調査のサービスを購入する場合には幾つかのポイントがある。今回は、EAP機関が、サービスとして提案することの多い、ストレス調査に関する課題や問題の防止について、紹介する。

まず、そもそもストレス調査とはどのようなものかを考えてみたい。

ストレス調査とはアンケート形式で、質問票の一つ一つの項目に選択式で回答するものである。質問に対する“ある・なし”か、もしくはその程度を点数化して、集計された合計点等を評価するものが多い。

通常ストレス調査には、ターゲット、つまり目的とするメンタルヘルスに関わる課題が大きく三つある。それは、(1)職場のストレス要因の有無や背景となる事項、(2)社員がストレスを感じている状態なのか、あるいは、(3)すでにメンタルヘルス不調かどうか、である。

例えば、ストレス状態なら疲労の蓄積を測ることになる。また、不調の有無を確認する、いわゆるスクリーニング検査のターゲットはうつ病やうつ状態ということになる。

その結果の評価には主に2種類あって、個人ごとに「異常のある・なし」か「疑いのある・なし」に振り分ける場合と、職場単位や企業単位で平均点を取って、サンプル、つまり他社や平均的なデータに対して比較を行う場合である。

適正にストレス調査を実施するならば、評価に応じた事後措置が大切になる。例えば、個人のストレス状態が悪い、あるいはうつ病などが疑われるのであれば、医師やEAPカウンセラーによるアセスメントや診断を受けて、治療や療養の要否を判断してもらうことが望ましい。

集団としての評価の場合には、その職場や企業としての特徴や特定の職場に問題があると分かるのだから、職場環境のためのグループワークや環境改善を計画し、実行するといった事後措置が必要だとされている。

ストレス調査の問題点

では、実際に行われるストレス調査にはどのような問題があるのだろうか?最大の問題点は、「やりっぱなし」であると思われる。

日本人は国際的に見ても、健康診断が好きな国民だと私は考えるが、健診にせよ、人間ドックにせよ、結果がよいことを確認するためだけに行うという傾向がある。心情的には理解できるが、精密検査や治療が必要ならそれを受けるべきだし、治療が将来必要になりそうなら、これを防止するために生活習慣を見直すのが理屈としては正しい。しかし、企業で働く人たちの中には、チェックだけして、後は放っておく人がかなりいる。

これと似たような状況がストレス調査にも起こり得る。例えば、ストレスが高いとか、不調の可能性があるとか、そのような結果が出ても、ストレスの状態を改善するのは簡単ではないし、スクリーニング検査でメンタルヘルス不調の可能性があると言われても、素直に精神科を受診する人はそれほど多くない。

ストレスの状態が高いなら、それを改善する手だてを、できれば従業員の側だけでなく、企業側としても講じるべきである。また、スクリーニング検査で不調の疑いがあるなら、産業医等の専門家によって、しかるべき精神科クリニックや病院で専門医の診察を受けられるよう、紹介してもらう必要がある。これらの事後措置が無いのなら、ストレス調査をやる意味はほとんどない。

同様に、職場全体のストレス要因の測定を行い、職場単位の点数を他の職場や企業と比較したとしても、そのまま放っておくのは大変よくないことだ。通常、職場単位での測定を狙ったストレス調査に回答した従業員は、職場でのストレス状況の改善を自然と期待するものである。ところが、測定だけして、結果も公表されず、改善活動もないとなると、会社側はポーズでストレス調査をしただけで、本気で対策を行うつもりがないことを従業員は見抜いてしまう。そのことは職場のストレス要因を改善するどころか、深刻なロイヤリティやモチベーションの低下を助長することになる。

次に、EAP機関の提案するストレス調査には、科学的根拠の乏しいものがあるという懸念がある。

ストレス調査は自覚的なアンケート形式が多いため、その分析は心理学や精神医学の分野で精密に行われてきた歴史がある。例えば、実際に何割くらいの人に異常がでて、そのうちの何%くらいで本当に問題となる不調が発見されるという予測、あるいは異常を異常と判定する精度や正常を正常とする精度等、入念な解析や追試を行って、使用できるものかどうかの検討を経ていないと危なくて使えない。また、アンケートだから、うその回答をしてもそれを是正することは難しい。

ストレスの状態やメンタルヘルス不調が血液検査や画像診断で行うことができればよいのだが、一般的に活用できるものはないに等しい。そうすると、質問に答える形のアンケート形式にならざるを得ない。あくまでも自覚的な状態から測定するので、そもそも、精度は高くならないのである。

ところがEAP機関では独自開発と言ったりしながら、このような科学的な検証の手順を踏んでいないのに、あたかも素晴らしい分析ができるかのようなストレス調査の宣伝を行っている場合がある。

また、健常な人でも調子のよいときと悪いときがあるように、ストレス調査や不調のスクリーニングも、測定された時期によって変動する。例えば年1回しか実施しないなら、それは偶然の結果かもしれないということになる。繁忙期ならストレスの状態は悪いことが多く、比較的余裕のある時期なら、ストレスの状態がたまたまよいということもある。だからと言って毎月、ストレス調査やスクリーニング検査を行うのは、現実的ではないのだが…。

さらに、従業員の側も、窓口となる人事労務担当者もその効果がよくわからないのに、ストレス調査に過剰な期待をしがちだという問題点もある。先に説明したようにストレス調査そのものに意味があるわけでなく、むしろ事後措置があって、ストレス調査には価値が出てくるのである。EAP機関が確実に効果的な事後措置を提供できないようだと、それは実施することによる効果が無いばかりが、従業員側の失望を招くことにもなる。

EAP機関によるストレス調査を賢く買う方法

以上のように問題の多いストレス調査だが、なぜ、EAP機関は積極的に展開しているのだろうか?やはり、商売であるから、つまり利益を出しやすいという理由が一番強いように思う。

ストレス調査は数多く行うほど、コストが少なくて済む。通常、従業員一人当たり幾らという設定になっていることも利益につなげやすい点だ。特にウェブで行う形式のものは初期投資だけで、その後のランニングコストは極めて少ないものとなってくる。

ストレス調査を受けた従業員には何らかのフィードバックが行われるし、企業側には何らかのレポートが出ることになるから、人事労務担当者の側も印刷された成果物を手に入れることができるので、見る目も甘くなりがちなのではないだろうか。

そもそも、ストレス調査を行うのなら、人事労務担当者として、目的や目標をよく考えなくてはならない。例えば、うつ状態を持つ可能性のある従業員を確実に治療に結び付けたいのか、職場のストレス要因を明らかにして介入を行い、それを改善したいのか――というようなことをEAP機関のストレス調査を購入する前に自社で決めておかなくてはならない。特に不調の早期発見をターゲットとした場合に、すべての種類の不調を一網打尽にはできないことを認識してほしい。職場で問題となりやすく、介入もしやすいうつ病やうつ状態を想定するのが現実的ではないかと考えられる。

もしも、よく分からないなら、産業医やEAPカウンセラーに相談して、きちんとした考えを持たなくてはならない。

次にEAP機関に提供しようとしているストレス調査の科学的根拠やその精度のデータを提供させ、説明を求めるのがよい。その説明に産業医や看護職に同席してもらって、適切な説明になっているかを確認してもらうのもいいだろう。

その上で、ストレス調査にコストや従業員の時間を費やすだけの効果や価値があるのかを具体的に尋ねるとよい。さらに事後措置の方法や、他社での効果や実績についても率直に説明を求めよう。同時に従業員のプライバシー保護の具体的な方法や、事後措置を行うことができるのかを確認する必要もある。

科学的な根拠がなく、やりっぱなしのストレス調査しかしていないEAP機関はこれらの説明をすることができないはずである。

また、ストレス調査は、原則はスポットで実施するようなものでなく、継続して実施するものである。そして、経年変化を見たり、不調者の把握をできる限り行うものである。だから、実施した効果を明示した報告書の提出を求めるだけでなく、説明会の開催を要求するのがよいと考えられる。

なお、去る12月2日に、すべての労働者に対するメンタルチェックの実施を盛り込んだ「労働安全衛生法の一部を改正する法律案」が国会に提出され、衆議院で審議が開始されている。12月9日の会期末が目前であるため今国会での法案成立は難しい模様だが、これもストレス調査の一種である。今後、EAP機関や健診機関から提案のあった場合には、上記のようなポイントをよく確認していくのもよい対応方法ではないだろうか。

※なお、法改正の動きに合わせて、“メンタルチェック”実施に当たっての実務上の留意点をまとめたコラムを『WEB労政時報』と『ジンジュール』に掲載予定である。

次回は、東日本大震災のような惨事があった場合の従業員のストレス反応や急性ストレス障害、あるいは心的外傷後ストレス障害(PTSD)の防止や不調者への対応といった、特殊な事態に対するEAPの対応サービスについて、説明する予定である。

写真:亀田 高志さん

Profile

亀田 高志 かめだ たかし

株式会社産業医大ソリューションズ 代表取締役社長・医師
1991年産業医科大学医学部卒業後、NKK(現JFEスチール)や日本アイ・ビー・エム(株)で計11年間、専属産業医の実務に従事。2005年に産業医科大学産業医実務研修センター講師となり、2006年10月に産業医科大学による(株)産業医大ソリューションズ設立に伴い現職。
職場の健康管理対策、特にメンタルヘルス対策を専門とし、現在は、企業に対するコンサルティングサービスと研修講師を手がけている。メンタルヘルス相談機関であるEAP(従業員支援プログラム)の活用やゆとり世代等の若手問題の防止やその育成にも詳しい。


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