マネジメントの視点からみた ワーク・ライフ・バランス時代の長時間労働削減とは [2011.06.27]

第4回 「ノー残業デー」の真の狙いは、優先順位の高い仕事を効率的に行う癖をつけさせること

広田 薫 ひろたかおる

日本能率協会総合研究所 組織・人材戦略研究部 主幹研究員

前回は、生産性の向上とは、最大の成果を上げるために最短の距離で進むことであると述べた。とりわけ、長期的な電力不足などに対処するためには、今までのようなエンドレスな働き方を容認するのではなく、仕事の効率化を図り、限られた時間内に最大の成果を上げるように、個人、組織、会社それぞれが意識を持ち、実際にできるところから着実に実行していかなければならない。

それでは、こうした意識を持ち、仕事の仕方を見直していくためにはどうしたらよいのだろうか。

1.なぜ「ノー残業デー」は定着しないのか

「ノー残業デー」を導入している会社が多い。週に1回か2回、定時で退社しようというのである。なかには、定時に消灯したり、音楽を流したりして退社を促す会社もある。

先日、ある調査会社の人事部の方とお話しする機会があった。その方の勤務する会社では、社長の鶴の一声で、昨年4月から毎週水曜日をノー残業デーにしたとのことである。その会社では毎週水曜日には、朝と夕方にグループウエアを使ってノー残業デーのお知らせを流したり、経営者自ら蛍光灯を消しに職場を回ったりすることで、定時退社を促しているそうだ。

ただし、ノー残業デーを導入した当初は、ほとんどの者が定時に帰っていたが、しばらくするとデスクライトを点灯させ、当然のように仕事をする者が出てきたり、いったん電気を消してもすぐに点灯させて仕事を続ける職場もあったりしたという。なかにはノー残業デーのことなんかすっかり忘れて、夕方から会議を開催してしまう管理職がいるなど、せっかくのノー残業デーが有名無実化してしまったそうである。

加えて、せっかくノー残業デーだからといって早く帰っても、その分翌日に残業が増えてしまい、週のトータルの残業時間は変わらないとか、家に持ち帰って仕事をせざるを得ないので意味がない――などといった従業員の不満の声も聞き漏れてきているとのことである。こういった職場、会社はこの会社に限ったことではない。いったいこうした事態を招いてしまうのは、なぜなのだろうか。

ノー残業デーを導入する意義としては、この会社でもそうであるように、「週に1回くらい早く帰って家族で食事をしよう」とか、「たまには友達と会おう」とか、「自己啓発のために勉強会に通おう」といった、Off(生活)の充実が挙げられる。すなわち、Off(生活)の充実をOn(仕事)の充実に結び付け、OffとOnのメリハリをつけながら、相乗効果を図ろうといった、狭い意味での「ワーク・ライフ・バランス」施策1の一環としてノー残業デーが位置づけられているのである。

ただし、こういったOff(生活)の充実というのは、「ノー残業デー」で早く帰った結果として可能になるのであり、そもそも「どうすれば仕事が遅れることなく早く帰ることができるのか」「どうすれば翌日に仕事を持ち越さなくてもすむのか」といった、定時に帰るための仕事の仕方や具体的な取り組みに関しては、特に会社として意識して社員に浸透させようとはしていないケースがほとんどである。「早く帰ることがワーク・ライフ・バランスの充実につながる」といったノー残業デーの結果に重点を置き過ぎており、残念ながら、「早く帰るためにはどうしたらよいのか」といった仕事に対する意識や働き方の見直しの視点が欠けているのである。明るい未来は示しても、そこに至るまでのプロセスを提示していないために、ノー残業デーは定着しないのである。

1筆者のワーク・ライフ・バランスに対する考え方は、第1回連載「ワーク・ライフ・バランスとはライフステージに応じた労働時間の多様性を担保すること」を参照のこと。

2.早く帰るためにはどうしたらよいのか、といった発想が重要

それではどうしたらよいのか。ノー残業デーを働き方や仕事に対する意識、仕事の仕方を見直す契機としてとらえるのである。終業時刻までには仕事を終わらせようという意識を高め、残業するのが当たり前という意識を払拭させることで、実際の仕事の進め方に好影響を及ぼすように促すことから始めなくてはならない。

具体的には、ノー残業デーの日に出社したら10~15分でその日にやらなければならない仕事を洗い出し、優先順位をつけ、優先度の高い仕事を限られた時間内で効率的に行うにはどうすべきか考える。そのうえで、このとおりに仕事をこなして行くのである。

まずは、週1回、意識的にこうした働き方を行い、それができれば、週2回、3回…、と回数を増やしていく。仕事に優先順位をつけ、優先度の高い仕事を効率的に行う習慣が身に付けば、最短距離でゴール(成果)に到達することができるようになり、結果として、トータルの労働時間が減少する。その分、家族サービスや自己啓発、趣味、部下の育成等に費やす時間が増え、ワーク・ライフ・バランス確立の前提条件が整うことになる。併せて節電にもつながる。電力不足時代を生き抜くためにも、こういった好循環を生み出すような働き方を身に付けさせる契機として、改めてノー残業デーをとらえ直さなければならないのである。

3.最短距離で成果に到達する際に障害となっているムダな働き方とは

とはいっても、「毎日、自分は優先順位の高い仕事からやっているのに、なかなか定時には帰れない」と嘆いている方も少なくない2。そういった方がまずやらなければならないのは、最短距離で成果に到達すること、要は最小限のエネルギーで最大のアウトプットを上げることの障害となっているムダな働き方を見つけることである。ムダな働き方は残業という形で表に出てくる。よって、残業の内容を詳細に見ていくことによって、その裏に潜んでいるムダな働き方をあぶり出し、それを一つひとつつぶしていくのである。

それでは、ムダな残業というのはいったいどういうものなのだろうか。ムダな残業には、一見してムダだと分かる残業と、一見問題のない、いやむしろ一生懸命頑張っているように見えてしまう残業の2種類ある。それぞれを細かくみていくと、以下のように9つに分類することができる。まずは見てほしい。

図:ムダな残業のタイプ 一見してムダだとわかる残業:1.生活残業、2.罰ゲーム残業、3.付き合い残業、4.ダラダラ残業、5.なりゆきまかせ残業 一見問題のない(むしろ一生懸命がんばっているように見えてしまう)残業:6.自己満足残業、7.独りよがり残業、.がむしゃら残業、9.抱え込み残業

2だれがどう見ても仕事量そのものが多すぎる、などといった仕事の配分にかかわるマネジメント上の問題については、本連載の中で改めて触れることとしたい。

どうだろう。すぐにイメージが湧く残業もあれば、文字だけではどういった残業なのかまったく理解できない残業もあるに違いない。

次回からは、それぞれの残業の特徴とその発生原因、対策について述べていきたい。

※次回は2011年7月11日に掲載します。

写真:広田 薫さん

Profile

広田 薫 ひろたかおる

日本能率協会総合研究所 組織・人材戦略研究部 主幹研究員
1962年神奈川県横須賀市生まれ。1985年中央大学法学部卒業。2003年法政大学大学院政策科学専攻修士課程修了(政策科学修士)。
厚生労働省などから労働時間管理に関するプロジェクトを20年以上にわたって多数受託・研究。民間企業に対する残業削減、ワーク・ライフ・バランス推進といったテーマの研修・コンサルティング・ソリューション提案などにも豊富な実績を持つ。
主な著書:『経営環境の変化に応じた労働時間管理の進め方(厚生労働省「労働時間制度改善セミナー」テキスト)』(全国労働基準関係団体連合会)、『義務化!65歳までの雇用延長制度導入と実務』(2004年7月発行:日本法令)。なお、本テーマでは『労政時報』第3735号(08.10.10)に『マネジメントの視点から見た残業削減の進め方-生産性向上とワーク・ライフ・バランス実現に向けた長時間労働削減の視点と対応策』を執筆。

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