2026年01月05日掲載

先進企業の人事トップ座談会 - [前編]「ビジネスを担うのは人。人材についての議論を後回しにしてはいけない」「人事は企業価値向上のために存在する。経営の視点を持つことは非常に重要」

【編集部より】
2025年に掲載した「先進企業の人事トップインタビュー」(全6回)では、伊藤忠商事株式会社 垣見俊之氏、株式会社学研ホールディングス 小林 徹氏、楽天証券株式会社 大橋統樹氏に、各社の変革に係る取り組みとその苦労、人事としての矜持(きょうじ)や企業への貢献の在り方について語っていただいた。今回、先進企業の人事トップ座談会と題して参集いただき、自身のキャリアを振り返るとともに、人材戦略と経営戦略との連動、若手社員の定着促進や効果的なキャリア採用実現に向けた取り組みなどを尋ね、議論を交わしてもらった。
※本連載は、全2回でお届けします

集合写真

写真右から
垣見俊之 氏 伊藤忠商事株式会社 上席執行理事、人事・総務部長
大橋統樹 氏 楽天証券株式会社 常務執行役員 人事総務本部 管掌
小林 徹 氏 株式会社学研ホールディングス 上席執行役員・人事戦略室長
佐藤文男 氏 佐藤人材・サーチ株式会社 代表取締役

経営企画の経験が人事としてのキャリアに与える影響

佐藤(司会) 皆さんは、それぞれの企業で人事部門のトップとなるまでに、人事としてのキャリアに加え、経営企画部門での経験を持っている点が共通しています。まず、経営企画での経験が、人事としての業務や役員としてのマネジメントにどのように生かされているか、お聞かせください。

垣見(伊藤忠商事) 企業によって違いはあるかもしれませんが、経営企画部門は企業経営に直結する戦略の中枢にあり、経営に最も近い部署ともいえます。事業戦略はもちろん、それに関わる人材戦略についても議論しますので、会社全体を広い視野で捉える力を養うことができます。

小林(学研ホールディングス) 近年、「人事戦略と経営戦略をいかに連動させるか」というテーマがたびたび議論されますよね。私自身は、“そもそも経営戦略と人事戦略は一体である” と考えており、これらは不可分の関係だと思うのです。私自身がこの考えに至ったのは、経営企画の経験があったからで、企業経営における人事の役割を俯瞰(ふかん)的に捉えられるようになったと感じています。

大橋(楽天証券) 私は最初に営業、その次に人事という順でキャリアを積み重ねてきました。大規模な企業で人事を担当すると、まず経営企画部が事業計画を立て、その後に要員計画の調整で人事部にやって来るんです。ただ、このプロセスは本当に正しい在り方なのかと疑問に思いました。人が先にあってこそ、経営戦略や事業戦略が成立し、誰をどこにアサインするかで事業の成否が決まるわけです。私は、アイ・ティ・フロンティア(編注:現・日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ)に転職した際、会社に対して「人事の担当部長と経営企画を兼務させてほしい」とお願いしました。当時は1500人ほどの規模の会社でしたので、戦略や計画の立案と人材のアサインが一貫していないとうまくいかないと考えたのです。“人をベースに事業を考える” という姿勢が大切だと思います。

佐藤 人材のアサインによる事業の成否について、商社の視点で垣見さんはどのようにお感じになりますか。

垣見 M&Aや新規ビジネスの立ち上げなどのケースで、人材についての議論は最後になりがちです。しかし、大橋さんが話されたとおり、やはりビジネスを担うのは人です。人材についての議論を後回しにしてはいけないと思います。ある企業の買収を検討する際に、HRに関するデューデリジェンスを精緻に行わないと、想定していなかった課題が後々浮き彫りになったりするため、その先にある成果は期待できません。そのビジネスに必要な専門性を持った人材を社内で抱えるか、社外に求めるかなども含め、各フェーズで人材に対しての判断が求められます。その意味でも、「経営と人事は一体」というのは、小林さんや大橋さんのおっしゃるとおりです。
 私は経営企画よりも人事のキャリアのほうが長く、いろいろな物事を人事視点で捉えてしまいます。しかし、人事単体で物事を推し進めるのは不可能ですし、うまくいきません。人事は、企業価値向上のために機能の発揮を求められているのであり、経営視点を持って人事業務に臨むことは非常に重要だと思います。そのため、人事として経営視点を身に付けられるような経験を早期に得ることは効果的です。その経験は自社でなくても、子会社や他社への出向でも構いません。いわゆる “経営に近いところ” での経験が、人事としての思考の幅を広げ、事業を推進する力を養うために有益だと思います。

※デューデリジェンス:投資・M&A・取引などを行う前に、対象となる企業や事業について詳しく調査し、リスクや価値を見極めるプロセスのこと

垣見俊之氏
伊藤忠商事株式会社 垣見俊之氏

小林 ただし、“経営企画を担えるなら、人事も担える” という話でもないんですよね。経営企画では、中短期業績を目標に据える必要があります。一方で、人事の視点はもっと先にもあって、長期の人材育成や社員一人ひとりのキャリア形成などにも目を向けます。人事・経営という異なるキャリアを経て、中短期・長期両方の視点を持っているメリットは大きいと思います。

各社で注力する取り組みと、AIへの向き合い方

佐藤 2026年、特に力を注いでいきたいと考えている取り組みなどについてお聞かせください。

垣見 当社では、2026年度に向けた経営計画を策定する中で、人的資本を活用して生産性を高め、企業価値向上を図るべく、何をすべきかを議論しています。やるべきことは非常にシンプルで、「優秀な人材を採用し、その人たちの能力をしっかり高める」となります。そのためには、「高めた能力を100%発揮するには健康である必要があるので、健康経営を強化し、そして各人の成果を公平・公正に評価して報酬に結びつける。同時にエンゲージメントを高め、業務に集中できる環境をしっかり整備する」といったプロセスを回しています。具体的には、“女性活躍推進” “働き方改革” “処遇や報酬制度の見直し” “デジタル人材の育成” など、さまざまな観点から施策を推進し “生き生きと働ける環境づくり” “人的資本向上” を図っています。“人事が行う環境づくりとは何か” を常に自問していますが、当社としては、“人を育成する” のではなく “一人ひとりが生き生きと働ける環境を整備する” ことが大切だと考えています。人は自発的に意識や意欲を持って働くことでこそ成長できるからです。

小林 当社では、新しい2カ年の中期経営計画を2026年度から開始します。このタイミングで、新たな人事施策を推進しています。
 当社は、教育、医療・福祉をビジネスの大きな柱に据えています。教育に関して言うと、塾や保育の現場では、社員が子どもたちの成長に日々寄り添っています。医療・福祉における介護現場の社員は、入居者であるお客さまの心豊かな生活へのサポートに尽力しています。社員一人ひとりが当社のサービスそのものであり、競争力の源泉だと捉えています。私たち社員の提供する価値や魅力を認めていただけないと、お客さまは離れていってしまいますし、逆に各社員がスキルアップし、より高い満足を感じてもらえるサービスが提供できれば、お客さまをもっと増やすことができると考えています。このような観点から、当社では人材育成に最も注力しています。

大橋 当社が現在最も注力しているのは、AIの活用ですね。当社の場合、例えば2025年であれば、お客さまに対して、AIが分析した日本と米国株式の企業や決算データを投資情報として提供することを開始しました。このサービスは、当社が国内主要証券で初めて提供することができたのですが、お客さまにいち早く、資産づくりにAIを活用する機会を提供しています。お客さま向けだけでなく、社内でもAIの活用は進んでおり、当社の社内専用生成AIの活用率は80%を超えていて、“全員がAIをExcelのように使いこなせて当たり前” といった環境が求められています。個人的に、AIについては “次の産業革命がやって来た” というくらいのインパクトを感じています。当社は、何かを始める、何かを起こす際には、「組織内で上に立つ人間が最も多くの知見を持っているべき」という社風なので、私も含め役員は相当勉強させられます。例えば、トップが「RPAに注目すべきだ」と言った際に、コストを気にした現場のネガティブな意見で動きが封殺されないよう、上位層が率先して「まず理解しよう」と学び、体得した知見をトップダウンで伝えていくのです。そのような意識で、人間がAIを活用していく世界をどう生き抜いていくかを常に考え、「生産性向上を実現し続けないと自分たちの仕事がなくなるぞ」という危機感を持って日々の業務に当たっています。

佐藤 楽天証券は金融という業種上の特性もあり、AIに関する取り組みが進んでいますね。他社のAIに関する取り組みはいかがでしょうか。

垣見 当社でも、CXO(CXO:Chief Transformation Officer、最高変革責任者)の旗振りの下、全社的に進めています。例えば、人事では議事録をすべてAIで作成していますし、さまざまな政策の立案時にも、AIと “壁打ち” しながら「どんな視点で」「どんな課題があるか」などを読み込ませて、立案の糸口を捉えようとしていますが、楽天証券さんの取り組みと比べると当社はまだまだだなぁと感じます。

佐藤 業種によってAIに求めるものは異なりますしね。

垣見 全社的な取り組みの一つとしては、社内AIアシスタントという位置づけで「i-Colleague(アイカリーグ)」を導入し、検索機能やデータ分析なども含め、「1日15分でも30分でも使おう」と働きかけています。私を含め、当部の社員も積極的に活用しているのですが、ふと「人事の領域でAIをどこまで活用すべきか」と悩むことがあります。
 最近、将来に向けた管理職クラスのマネジメントスタイルについて社内で議論する中で、部下が大勢いる管理職は1on1面談の重要性を理解しつつも、時間的な制約により十分に対応できていないケースが散見されるようになっています。そのような状況下で、AIが部下に対して30分間の1on1コーチングをし、その内容を集約してくれるツールを使えば、より効率的に1on1面談を行い、しっかりとコミュニケーションを図ることができます。
 しかし、われわれが今日まで直接的な対人コミュニケーションによって培ってきた、いわば “アナログなマネジメント力” も重要です。顔を見ながら直接コミュニケーションを取らないと、部下のちょっとした変化や、何かに悩んでいるような様子など、今まで肌感覚で得られていたものが得られなくなってしまうでしょう。人事の領域において、どの部分をAIに任せてよいのかという業務分掌的な観点からも議論も進めています。AIの活用方法により、今後、マネジメント層に求めるスキルも変わりますし、それに合わせて研修プログラムを変更する必要性も生じるため、人事領域におけるAI活用は非常に悩ましい問題です。

小林 当社では、“AIの活用は社員次第” というのが基本的なスタンスです。会社として、AIについて学習する機会を用意していますが、さまざまな事業とそれぞれの専門性の中でAIをどのように利用するかは、社員に委ねています。
 当社の働き方として、出版部門を例に取ると、社員一人ひとりが厳守するマニュアルのようなものは存在せず、企画して本として作り上げるまでのプロセスはすべて社員に任せています。もちろん、個人ごとの目標は定めていますが、その目標を達成するためのプロセスは各社員で異なります。業務の大半をフルリモートで行う社員もいますし、勤務時間もさまざまです。そのような一人ひとりで異なる環境において、「AIをどのように活用すればよいか」についても各人に任せています。
 日々の現場では、より高いクリエイティビティを発揮した商品・サービスの企画立案や、お客さまへのより良いサービス提供を常に考えています。思考のアシスタントとして、また時間を生み出すための業務改善の方法の一つとしてのさまざまなAIの活用法を、研修プログラムとして提供しています。

小林 徹氏
株式会社学研ホールディングス 小林 徹氏

若手社員の日本語力低下への対策など、効果的なコミュニケーションを促進する取り組み

佐藤 AIの導入や利用の浸透に伴って、特に若年層を中心にたびたび日本語力の低下が議題に上りますが、皆さんはそれを感じる場面はありますか。

垣見 われわれの世代と比べて、日本語力が「落ちているのかな」と感じる場面もあります。デジタル社会で育った若年層の時代背景もあるかと思いますが、コミュニケーションの方法が変わってきていることもその要因の一つになっていると考えられます。現在では、提案書の作成でも、趣旨や実現したい方向性などの情報をAIに読み込ませて、「○○字で要約して」と指示すれば精度の高い文書があっという間に完成してしまう。ますます自分で考えなくとも対応できる環境になっていきます。

小林 世代的な要因なのか、コロナ禍の影響もあるのか、コミュニケーションの在り方自体にも変化が生じているように思います。WEB上では、聞き手、読み手の温度感を把握しづらいこともあり、一方的なコミュニケーションになることも多いですよね。「言いましたよ」みたいな伝達だけで終わってしまったり、お互いの理解が深まらなかったりすることも増えているように思います。WEBの利便性を生かしつつ、相手からより共感を得るための熱意や表現の面で工夫することが必要ではないでしょうか。

大橋 日本語力の変化は、単なる世代間ギャップの問題なのかなと感じる部分もあります。一方で当社は事業の特性から、言葉の使い方について明確な “二面性” があります。一つ目は金融機関に勤める者として、金融商品取引法などの条文を全部理解した上で、広告を出す際の文言一つ、使用フォント一つについても気を配らなければいけない、言うなれば “ガチガチ” な言語運用を求められる側面です。もう一つは、当社のお客さまは若年層が半数近くを占めるので、彼ら・彼女らに伝わるようなメッセージをWEBサイトやSNSなどを使って伝えなければならない、という側面です。この場合 “おじさん構文” でメッセージを送るよりも、受け手に刺さるメッセージを発信するよう心掛けています。
 また、若手社員には「日経新聞を紙面で読んでみるように」と伝えています。紙面の内容だけでなく、広告部分にもしっかり目を通して、最近のコマーシャルの特徴やトレンドを把握することが、BtoCのビジネスを進める上で重要な視点の獲得や気づきにつながります。まず、情報を吸収して型を作るのが大切であり、いったんきちんと型を作ったなら自ら破ってもいいのです。新聞のような紙のメディアは、最近は古いと言われますが、こういうものからしか得られない視点もあると思います。

大橋統樹氏
楽天証券株式会社 大橋統樹氏

垣見 一方で、最近の若い社員は、われわれが若いときほどテレビを見ません。しかし、テレビで発信される情報をインターネットやSNS経由で把握しています。情報獲得のスピードにも()けています。
 一つの傾向として、自らの好き嫌いがはっきりしていて、興味や関心がないものに対しては非常に消極的でドライです。学生時代はそれでも問題ないのですが、社会に出るとそうはいきません。入社してつまずくことも多々あると思います。ですが、周囲がきちんときっかけを与えることで鍛えられていきますし、困難を乗り越えたときの成長度合いは他の世代よりも大きいと感じます。
 デジタル社会で育った分、コミュニケーションの方法はわれわれ世代と大きく異なるのは必然であり、何が良い・悪いではなく、時代の変遷に合わせて守るべきもの、変えるべきものを適切に判断し、皆が力を発揮できる環境づくりが大切だと思います。

若手社員の育成・キャリア形成方針を定める施策

小林 伊藤忠商事さんは、入社3カ月が経過した時点で、今後8年間の育成・キャリア形成方針をすべての新入社員に「キャリアビジョンイメージ」として提示されているとのことで、非常に興味深く感じます。もちろん、本人との面談を介して、会社側の見立てと本人の希望を擦り合わせる機会を設けているとは思いますが、入り口の段階で今後のキャリアルートを縛ってしまうことになるのでは、とも思います。どのように運用されているのでしょうか。

垣見 この取り組みの主たる実施目的は二つあります。
 一つは、会社としてのキャリアプランを各人にきちんと示すことです。最近の若手社員は自らの成長を強く意識して入社しますので、成長がイメージできないとモチベーションが下がりますし、他社に目を向けてしまいます。人材の流動化は認識しながらも、人事としてそのような状況に危機感を抱いています。そんな中で、入社してから8年間について、“あくまで想定であり、プラン変更は生じ得る” という前提で、「20代のうちはこのようなキャリアを積んで専門性を高めてほしい」といった育成・キャリア形成方針を各ライン長が中心となって作成し、本人に示しています。そして1年に一度、上司との間でキャリアプラン面談を行う際に、入社初年度に作成したキャリアビジョンイメージを共有し、進捗(しんちょく)状況を確認し変更が必要となったら適宜アップデートします。例えば、「2年前にはこのような計画を立てたけど、こういう理由で新規プロジェクトにチャレンジしてもらいたい」といったように、ガチガチな運用をするものではありません。あくまで、本人たちに異動・配置を含めた成長をしっかりイメージしてもらうために実施しているものです。
 二つ目の目的は、マネジメント側における、個々の若手社員の育成・成長に対する意識を高めることです。これがないと、「3年経過したからAさんを異動させる」とか「このポストが空いたから」というように、場当たり的あるいは機械的に異動・配置を進めてしまいがちです。しかし、今は “先輩の背中を見て自発的に後輩が育つ” という時代でもないので、部門・部のレベルでしっかり若手社員に対する育成意識を持ってもらいたいと考えています。
 このキャリアビジョンイメージの実施を機に、若手社員の離職率が大きく下がりました。離職率低下の要因はほかにもあると思いますが、若手社員からは「自分たちのキャリアを真剣に考えてくれている」との声が非常に多く、導入目的に沿う形で実施できているので、今後も継続していく方針です。
 このような施策は本来、人事部が担わなければいけないと感じています。人事は、社員の急な退職や異動などにより、考えている配置を変更せざるを得ないケースも多々あります。あまり先の人事まで言わないというのが一般的な人事の要諦ですが、当社ではあえて真逆のことをしています。

小林 人事としては、事業推進に即応するための人員配置はもちろん必要ですが、社員一人をどのように育成し、その中から将来の幹部候補をどう育てるかという長期的な視点での異動計画も必要ですよね。それこそ人事の本来業務であると思うのです。一方で、現実問題として、ある社員を異動させるときに、現場から、「今この人がいなくなったら困る」「この案件はどうやって進めればいいんだ」と抵抗されることもあります。そうした現場の声に、どのように折り合いを付けているのかお尋ねした次第です。
 ちなみに、キャリアビジョンイメージの運用を開始した年度の前年、あるいはその2年前に入社した社員には、どのように対応されたのでしょうか。

垣見 キャリアビジョンイメージは、2024年4月の新入社員約130人を対象にスタートしました。つまり、2023年以前に入社した若手社員には実施していなかったわけです。そこで、2025年度は、入社3年目と6年目の社員を対象に開始しました。2024年度から向こう2~3年で、入社8年を迎える若手社員全員を対象に作成が完了することになります。社員一人ひとりのキャリア志向や強みなどを勘案しながら、各年代の若手社員のキャリアビジョンイメージを作成するのは相当の負担を要しますが、非常に重要なプロセスと認識しています。対象となる世代の作成が完了したら、その後は毎年実施する上司とのキャリア面談にて進捗確認などを進めていく運用となります。

大橋 若手社員も新卒入社者も、自分のキャリアをしっかり考え、自分が望むキャリアについて積極的に発信する機会は、現実的にそう多くないと思います。各社員が自ら望むキャリアについて上司がきちんとコミットすることで、例えば異動の際にも「自分の描いていたキャリアがまた一つ、実現していくんだな」と納得できる点で、よい取り組みだと感じました。

垣見 若年層を中心にキャリアオーナーシップの考え方が浸透して久しいですが、この施策はお二人の話にもあった “中長期的な視点の育成” を下支えするものであると考えています。人材は上司の私物ではなく、会社の資産ですので、上司が「自組織の優秀な部下を異動させずに抱え込む」という状況は問題です。
 制度を開始してから2年目を迎えていますが、社内では想定以上に好評です。開始当初は、キャリアビジョンイメージについて賛否とともにいろいろな声が上がりましたが、現在も試行錯誤を続けながら、うまく運用できていると考えています。

撮影:安達英莉

インタビューの様子

<座談会登壇者プロフィール>

垣見俊之 かきみ としゆき
伊藤忠商事株式会社 上席執行理事、人事・総務部長

1990年、伊藤忠商事株式会社に入社。主に人事業務(採用・評価・制度企画)などを担い、1990年代後半には職務職責ベースの処遇制度導入に向けた人事制度改定プロジェクトを担当。2003年に米国ニューヨークの現地法人に出向し、ディレクターとして米国やカナダの人事業務全般および経営企画に従事した後、2007年にグローバル人材戦略の責任者として帰任。2010年代からは、一連の働き方改革を担当室長として推進し、2016年に人事・総務部長に就任。2019年にはユニー・ファミリーマートホールディングス株式会社(現・株式会社ファミリーマート)に出向し、執行役員CAO兼管理本部長を歴任。2023年4月より伊藤忠商事株式会社 執行役員 人事・総務部長に就任、2025年4月より現職。
先進企業の人事トップインタビュー 第1回
先進企業の人事トップインタビュー 第2回

小林 徹 こばやし とおる
株式会社学研ホールディングス 上席執行役員・人事戦略室長

1990年、株式会社学習研究社(現・株式会社学研ホールディングス)に入社し、公教育領域の営業を担当。2002年に文教事業部営業企画室長、2003年に同部大阪支局長に就任し、西日本エリアの事業所閉鎖に伴うリストラの進行役を担う。2006年に人事部へ異動後、業績悪化による早期退職施策や会社分割による持株会社制への移行に従事。2011年に株式会社学研ホールディングスの人事戦略室長に就任し、会社別人事制度の構築やダイバーシティ推進室の立ち上げ、売上高1000億円回復イベントに携わる。その後、秘書室長、経営戦略室長、執行役員、株式会社学研教育みらい(現・株式会社Gakken)代表取締役社長を歴任。現在は上席執行役員・コーポレート本部副本部長を兼務しながら、人事戦略室長としてグループの人事戦略策定などの実務を担う。
先進企業の人事トップインタビュー 第3回
先進企業の人事トップインタビュー 第4回

大橋統樹 おおはし とうき
楽天証券株式会社 常務執行役員 人事総務本部 管掌

1992年、三井海上火災保険株式会社(現・三井住友海上火災保険株式会社)に入社。営業でキャリアを積んだ後、1998年から外務省に出向。2000年の復職時に人事部門へと配属され、企業合併の業務に携わる。この経験を生かし、2003年に株式会社アイ・ティ・フロンティア(現・日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ株式会社)に転職して経営企画部兼人事部の部長職に就き、5社合併後の再構築を担う。2004年からはソニー生命保険株式会社の人事部マネジャーとして人事企画・採用・IPO等に関わったほか、2008年からBNPパリバ証券株式会社、2017年から株式会社アコーディア・ゴルフを経て、2019年に執行役員として楽天証券株式会社に入社。2021年より同社の常務執行役員、2022年より楽天証券ホールディングス株式会社執行役員に就任(いずれも現職)。
先進企業の人事トップインタビュー 第5回
先進企業の人事トップインタビュー 第6回

<司会者プロフィール>

佐藤文男

佐藤文男 さとう ふみお
佐藤人材・サーチ株式会社 代表取締役
一橋大学法学部卒業後、日商岩井株式会社(総合商社/現・双日株式会社)、ソロモン・ブラザーズ・アジア証券会社(外資系証券/現・シティ・グループ証券株式会社)、株式会社ブリヂストン(メーカー)等異業種において人事および営業(マーケティング)を中心にキャリアを積み、1997年より人材紹介(人材サーチ)ビジネスの世界に入る。2003年10月に佐藤人材・サーチ株式会社を設立して代表取締役社長に就任する。2013年5月から1年3カ月にわたりシンガポールに拠点を移して人材紹介(人材サーチ)ビジネスに携わる。本業の傍ら、2017年4月から山梨学院大学(C2C)の客員教授として「実践キャリア論」の授業を通年(前期および後期)ベースで実施している。著書は共著1冊を含め20冊出版。近著は『自助の時代 生涯現役に向けたキャリア戦略』(労務行政、2020年)、『働き方が変わった今、「独立」か「転職」か迷ったときに読む本』(クロスメディア・パブリッシング、2022年)等がある。