育成担当者のための 今月の注目トピック [2012.05.16]

第1回 「いまどき新入社員」の自立性を育てよう

 


中川繁勝  なかがわしげかつ エスジェイド代表、人財育成プロデューサー

 企業の人材戦略において、人材育成の重要性は近年ますます高まっている。
 しかも、今日における人材育成は、単にOff-JTで社員各人の能力や業務スキルを高めるための研修メニューを設けることだけにとどまらない。キャリア支援やモチベーション対策、さらには組織風土活性化やエンゲージメントの醸成など、人材育成がカバーする領域は、従来に比べはるかに広くなっている。
 一方、いわゆる人材育成手法に限っても、日々新たなトレンドが生まれている。いったいどんな試みが自社の人材育成の目的に適合するのか、苦心している育成担当者も多い。
 本連載では、育成担当者が知っておくべき注目の最新トピックを取り上げていく。第1回のテーマは、4月に入社してきた新入社員育成について。「ゆとり教育世代」というレッテル貼りをされがちな彼ら/彼女らの自立性を、どのように育てていけば良いのだろうか。

1.「ゆとり教育世代」の新入社員の自立をどう育てるか

 「ゆとり教育世代」、という言葉を付けられている今時の新入社員。まるで何かが足りないような烙印(らくいん)を押されたような評価をされることも多い。「"ゆとり"だから」と言われて。
 しかし、そんな状況を作り出してしまったのは、ほかでもない先人の大人たちでありこの社会だ。だとすれば、私たちは責任を取って彼らを立派に社会で活躍できるよう支援していきたい。
 新人研修を担当する方々にしてみれば、少しでも早く自社の社員として一人前にすべく、あれやこれやと研修プログラムを作り、限られた時間で効果的に成長してもらうためにご苦労をされていることだろう。「自立」という言葉は必ずと言っていいほど新人研修の中に登場する言葉だ。では、その自立性はどうしたら育てられるのだろうか。

2.「教えない」という研修のアプローチ ~ロールモデル選びと「ワールド・カフェ」

[1]自分のロールモデルを自分で選んで決める

 「教えない」。実はここに自立性の種が眠っている。
 ある大手企業での例を紹介しよう。
 同社の新入社員研修では、まず新人たちに数名の先輩社員を紹介している。先輩たちには自分の仕事のこと、どうやってここまでやってきたのか、お客様とのかかわり方などのノウハウから考え方・ものごとのとらえ方までを話してもらう。人によって、まったく違うアプローチで成長していることを新入社員が実感するためだ。正解がどれということではない。
 先輩たちの話が終わった後、新人たちには自分のロールモデルを自分で選んで決めてもらう。"自分で選んで決める"というところがミソだ。
 その後、「ワールド・カフェ」※という手法を用いてグループごとの対話の時間をもつ。そこでは「そのロールモデルのどこがいいのか」「自分は何に心を動かされたのか」などの問いをテーマに、お互いに話をしてもらう。ここで自分の選択理由を明確にし、自分が何に反応しているのかを振り返る機会ができる。それを相互に話をしながら進める。いままで気づかなかった自分自身に改めて気づいたり、他者からの言葉に反応して気がつくこともあるだろうし、自分の意見が明確になる者もいるだろう。
 最後には、自分が目指す人材像が浮かび上がってくる。

※ワールド・カフェ:カフェのようなオープンで創造的な場を用意し、参加者が知識や考えを共有して、相互理解を深めることを推進するコミュニケーション手法。

[2]旧来型の「目指す人材像を書きなさい」という記述式と、何か異なるのか

 こういった試みと、「自分が目指す1年後の人材像を書きなさい」という穴埋め記述式との差がどこにあるか、賢明な読者諸氏であればお分かりであろう。
 与えられた空欄に機械的に回答を記入するということではなく、自ら選び、自ら考え、自ら語り、自ら軌道修正したり理由を解明したりすることで、自分なりの意見を形成していく。正解を求めるのではなく、自分を知るプロセスがそこにはある。
 その研修では、新人たちがイキイキと語り合う姿が見られるという。私たち人材育成に携わる者は、そんな自立性を育てる場を提供していくことが必要なのだろう。

[3]新入社員への世話は、あえて「場と機会を与える」ことにとどめる

 とにかく、いまどきの新入社員は手を掛けて育てられてきた。社会は成熟期に達し、食べるものにも着るものにも住むところにも困らず、すべて親や祖父母をはじめとした周りの大人たちによってそろえられてきているのだ。欲しいものはもちろん、特に欲しいと思っていないものまでどんどん手に入ってしまう。受験戦争を勝ち抜いてきた親たちによって、受験情報やノウハウも提供され、敷かれたレールの上をただ走って来さえすれば良かった人が多いのだ。就職もしかりだろう。
 よって、あえて「場と機会を与える」ところまでに世話をとどめて、何を得るのか、何を学ぶのかは一人ひとりの力に任せるというのが自立性を引き出す一つの手法だろう。自立性というのは、不安や不満の中から生まれるものだ。「どうしたらいいの?」「おかしいんじゃないの?」というような想(おも)いの中から「こうすればいいのに」という意見が生まれる。そして、それをアウトプットできる場があれば、その想いを発言から行動へと移していくことができる。決して一から十までを教えるのではなく、自ら歩き出してもらうきっかけを作ることで、一人ひとりが自立して考え、行動できるように促せるだろう。

3.Face to faceのコミュニケーションを生む研修手法「タグラグビー」

[1]「自ら気づく」ことに、大いなる成長の種が隠されている

 「いまどきの新入社員」は、ITの発達によってFace to faceのコミュニケーションが少なくなり、集団の中での関係性作りにも弱さが見られるという。それは多くのご担当者も感じていることだろう。多くの企業でグループワークやグループ活動、体験型研修を積極的に取り入れている。その意図は、

  • コミュニケーションをとる
  • 絆(きずな)を深める
  • チームワークを学ぶ
  • リーダーシップについて考える
  • 自ら気づく

という辺りにあるようだ。この中の「自ら気づく」という点には大いなる成長の種が隠されている。自らを振り返ることで気づきを得る時に、人の成長が始まるからだ。

[2]体感型研修「タグラグビー」が生む効果

 そんな場を提供する研修を一つ紹介しておこう。
 「タグラグビー」というラグビーの簡易版スポーツがあり、いくつかの企業で新人研修をはじめとした研修プログラムに導入しつつある。このスポーツは、子供から大人まで楽しめるようタックルなどの激しいアクションを取り除いているので、研修でも安心して取り組める。腰にベルクロテープで留められたタグをぶら下げ、ボールを持っている人のタグを取ることがタックルの代わりとなる。タグを取られたプレイヤーは3秒あるいは3歩以内にボールをパスしなければならない。
 身体を動かす体感型研修はいくつかあるが、タグラグビーには仕事に共通する要素、モチーフとして適切な要素がある。その一つが"ボール"だ。タグラグビーではボール="仕事"ととらえる。大事な仕事を他のメンバーにパスしながらトライを目指す。
 ラグビーの難しいところは、ボールを自分の後ろにしかパスできないということだ。仕事で言えば、仕事を「引き継ぐ」あるいは「引き渡す」というところか。その場合に確実に自分の理解や進捗(しんちょく)よりも遅れやスピードダウンが生まれるだろう。しかし、それを繰り返しながら、仲間と共に"仕事"をゴールに向けて進めていく必要がある。このとき、お互いに声を掛け合ったり、サポートしたりということの必要性を実感する。
 プレー中には何度か作戦タイムが設けられ、自分たちのプレーを振り返る。不思議なもので、戦術に溺(おぼ)れるチームはなかなかトライが奪えない。むしろお互いの関係性や、相互サポート、貢献する気持ちにあふれたチームは流れるようにパスが回ったり、トライが決まったりする。プレー中に興味深いのは、一人ひとりの個性や仕事の仕方が如実に表れることだ。とにかく突進するタイプ、自信のなさに後方で見守るタイプ、ボールが来るとすぐにパスしてしまうタイプ、人のプレーの欠点ばかりを指摘するタイプ、指図をして人を動かそうとするタイプなど顕著に見えてくる。
 頭で考えた言葉では自分を偽り、期待されるように見せることはできるけれども、瞬間で判断し行動することを求められる状況で、私たちは自分の素が出てしまう。だからこそ、そこを仲間とともに振り返り自ら気づくことで、どうしなければいけないのか、どうしたいのかという意志が生まれてくる。

 タグラグビーに限らず、体感型研修は新人が楽しんで取り組みやすい一方、正解を求める傾向にある「いまどきの新人」のあるがままの態度が表出しやすい。そして、喜びも怒りも不安も安堵(あんど)も含めて、素の感情があふれてくるのも体感型研修の重要な要素だろう。心が動き、それを表現することで、気づきや仲間との共感も生まれる。
 仕事そのものを研修内で体験させることは、現場との調整も必要なうえに、都合のいい問題解決の場が提供されるとも限らない。また、社内にいればやはり会社頭で考えてしまうこともある。外へ出て、いつもと違う環境の中で仲間とかかわり身体を動かすことで、仕事と同じ状況を体験できる体感型研修は新人研修にうってつけだろう。

[3]社会人になりたての新人には、「学び方のチェンジ」というマインドチェンジも必要

 座学での限界を多くの人材育成担当者が認識し、座学離れが進むことはいいことだと思う。なぜなら、社会人の学びの場は教室やテキストの上にあるものではないからだ。日々の仕事、人とのかかわりの中に学びは多く存在している。そこに気づけるかどうかが成長を左右する。
 研修という場でできることは、そういう学び方ができるようにすることでもあり、社会人になりたての新人たちには、マインドチェンジの中に「学び方のチェンジ」も認識してもらう必要があるだろう。「学ぶ気になればいつでもどこでも学べるのだ」ということが分かれば、新人たちは自立的に成長するのだ。

※本記事は、人事専門資料誌「労政時報」の購読者限定サイト『WEB労政時報』にて2011年5月に掲載したものです

 

中川繁勝中川繁勝 なかがわしげかつ エスジェイド代表、人財育成プロデューサー

システムエンジニア、ネットワーク技術者養成のマーケティングを経て、ITコンサルティング会社の人財開発マネジャーとしてコンサルタントの育成に従事した後、独立。現在は、研修講師としてロジカルシンキングやプレゼンテーション等のコミュニケーション系研修を提供するとともに、人財育成を支援するためのコンサルティングサービスも提供している。NPO法人人材育成マネジメント研究会理事。ワールド・カフェをはじめとした対話の場の普及を促進するダイナミクス・オブ・ダイアログLLPのパートナーとして、各種ワールド・カフェとワールド・カフェ・ウィークの開催を推進。また、場活流チェンジリーダー塾にてメンターとしてリーダーのあり方を養成する活動にも従事する。

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