2026年03月09日掲載

発達障害グレーゾーンの人たちと “ともに働く” 上で知っておきたいこと - 第3回 立場や状況によって変わる発達障害グレーゾーン特性の現れ方と対策について

心理学者・博士
株式会社メンタルシンクタンク 副社長 舟木彩乃

自分も発達障害グレーゾーンかもしれない

 本連載の第1回では、発達障害グレーゾーンとは、発達障害の診断はつかないが、その傾向がある人たちを指すこと等について紹介した。続く第2回では、職場における発達障害グレーゾーン社員と適応障害との深い関係性や、二次障害(うつ病など)について取り上げた。第3回となる今回は、発達障害グレーゾーン社員の置かれた立場や状況によって、「特性」の現れ方や対応の仕方が異なる点について整理したい。

 ところで、本連載を含め、さまざまな発達障害に関する記事を読んで、「もしかしたら自分も発達障害(グレーゾーン)かもしれない」と疑ったことはないだろうか。これは決して珍しいことではなく、むしろ働く人が自分の特性を理解しようとすると、自然とそのように思えてくることがあるのだ。
 筆者が職場でのストレス相談を受けていると、次のようなエピソードから「自分は発達障害グレーゾーンではないか」という悩みにつながっていることが少なくない。

優先順位を付けるのが苦手で、気づいたら締め切り直前になってしまうことがある

忙しいのが分かっているのに予定を詰め込み過ぎてしまうことがある

人の表情や言い回しの意図を読み取るのが苦手で、誤解されたり意図せず怒らせたりすることがある

 確かにこれらのエピソードは、発達障害の特性と重なる部分がある。しかし、これらはストレス過多でも同じような状態が現れることがあるし、特性の現れ方が薄く(発達障害グレーゾーン)、置かれている環境や立場によっては全く問題にならないこともある。例えば、アシスタントや秘書などが付く立場の人であれば、予定を詰め込み過ぎることは回避できるだろう。しかし、疲れがたまっているときなどは、いつものペースでスケジュールを組み立てた秘書のメニューをこなせない——といったことがあるかもしれない。
 つまり、困り事が発達障害の「特性」から来るのか、そのときの「状態」が原因なのか、本人としては判断が難しい。また、発達障害グレーゾーンの特性があったとしても、置かれている立場や状況次第で特性が色濃く出る場合もあれば、薄まる可能性もあるということだ。

部下が発達障害グレーゾーンかもしれない
——管理職が直面する “違和感” の正体と向き合い方

 発達障害グレーゾーンに関する相談は、本人だけでなく、管理職や人事から寄せられることも多い。
 「特定の業務が極端に苦手」「高学歴なのに指示の意図が伝わりにくい」「何度教えても同じミスばかりする」——こうした説明しづらい違和感を抱えながら、どのように関わるべきか悩む上司は少なくない。

 ここでは、職場で実際に起こりやすい事例を基に、管理職がどのように対応すべきかを整理してみよう。

事例:Aさん(女性20代・企画職)
 有名大学出身のAさんは企画力があり、アイデアの質も高い。彼女の職場では、企画が採用されると企画者本人が実質的なプロジェクトリーダーの役割を担うことになっている。Aさんも、自身が提案したプロジェクトでは、進行管理などのリーダー役を任された。しかし、彼女は進行管理業務を任されると途端に混乱し、締め切り直前に慌ててしまった。そのことで困るのは、社内外を含むプロジェクト関係者である。全員で共有すべき内容や打ち合わせ時間を、彼女が連絡し忘れているようなことも少なくなかった。上司は、次第にAさんの行動に対して「やる気の問題なのでは」と感じるようになり、注意を繰り返したが、改善する様子は見られなかった。

 上司は、「Aさんは発達障害(グレーゾーン)ではないか」と心配して、カウンセラーである筆者のところに相談に来た。たまたま発達障害をテーマにした動画を視聴し、その特性がAさんと重なって見えたということだった。
 Aさんの状況について、次のような内容の相談があった。

タスクの優先順位を付けることが苦手
→関係者と情報共有しないと先に進めないのに、それが後回しになっていることがよくある

情報量が多い会議では処理が追いつかない

→企画のプレゼンテーションはうまくできているが、会議において具体的な進行スケジュールなどに落とし込む段階になると、詳細を把握できていない(自分の興味があるところにしかフォーカスできない)

口頭指示だと抜け落ちが生じやすい
→その場で決まったことなどを口頭で確認したりすると、抜けや漏れのほか、誤解も少なくない

 Aさんのこのような「特性」が、プロジェクト進行業務の複雑さや曖昧な役割分担と相互に作用して、困り事として表面化しているようだった。
 なお、上司から「Aさんに精神科受診を促したほうがよいか」という質問があったが、そのように促すことはハラスメントになる可能性があることや、診断の有無よりも具体的な対応が重要であることを伝えた。

管理職が取るべき具体的な対応

 発達障害グレーゾーンの可能性がある部下に対して、管理職が行うべきことは「診断を求めること」ではない。むしろ、業務の構造化とコミュニケーションの明確化が必要な対応である。Aさんの事例では、次のような対応を提案することが考えられる。

①指示の “見える化”

口頭だけでなく、簡潔なメモやチャットで補足したり、最終的にメールなどで確認したりする

期限、優先順位、成果物のイメージ(類似した完成プロジェクトの視覚的な全体図など)を明確に伝える

大きなタスクは小さな工程に分解し、優先順位を付ける

②情報量の調整
 会議前に以前の議事録や資料を共有したり、重要な変更点は繰り返し確認したりすることが有効である。こうした工夫により、誤解や抜け漏れが減少する。会議では、あらかじめ議事録係や進行係などを決めておくとよい。

③役割や期待の明確化
 「何をどこまで求めているのか」が曖昧だと、発達障害に通じる特性のある人ほど混乱しやすい。「担当範囲」「判断してよい領域」「上司に相談すべきタイミング」「全員で共有するタイミング」などを明確にすることで、本人の負荷は大きく減少する。

④ “困り事” の言語化を共有
 管理職が「どの場面でつまずきやすいか」を本人と一緒に整理することで、対策の方向性が見えやすくなる。これまで部下に感じていた違和感は、部下自身も悩んでいることが多い。課題を可視化して共有し、環境調整をするとよい。その際、環境調整は “特別扱い” ではなく、マネジメントの一環であることを意識することも重要だ。

上司が発達障害グレーゾーンかもしれない
——部下が感じる “戸惑い” と組織としての向き合い方

 発達障害グレーゾーンの問題は、部下だけに限られたものではない。管理職自身が特性を抱えているケースも珍しくなく、部下がその影響を受けて困難を抱えてしまうことも少なくない。

 ここでは、上司側に特性がある場合の典型的な事例を通して、組織として取り得る対応を整理する。

事例:Bさん(男性40代・マーケティング)
 Bさんは営業畑で成果を上げてきた実力者だが、部下からは次のような声が上がっていた。

指示がその場の思いつきや気分で変わり、方針が安定しない

会議で話が脱線しやすく、結論が曖昧なまま終わる

感情の起伏が読みにくく、叱責(しっせき)が突然始まることがある

 Bさんの部下数人は、業務の優先順位が定まらず、常に緊張状態を強いられていた。その中でも、部下CさんはBさんと関わる機会が多く、ストレスチェックで「高ストレス者」と判定され、産業医やカウンセラーに相談するようになった。人事がBさんとCさんにヒアリングしたところ、Bさんには「衝動的に判断しやすい」などの特性が見られ、部下の混乱につながっていることが明らかになった。
 しかし、Bさん自身は「自分は元々こういうタイプだ。だから勘が良くて営業で成功した」と、自身の特性がマネジメントに影響しているという自覚はなく、その特性故に成功したと考えているようだった。

 ここで、上司が発達障害グレーゾーンの場合に起こりやすい問題について整理する。上司に発達障害に通じる特性がある場合、部下の困り事は次のような形で現れやすい。

指示の曖昧さ・変更の多さによる混乱

感情のコントロールの難しさによる心理的負荷

コミュニケーションの偏りによる誤解や摩擦

 これらは、部下のパフォーマンス低下だけでなく、離職やメンタル不調にもつながりやすい。

組織として取り得る対応

 部下から上司に直接「あなたは発達障害(グレーゾーン)ではないか」と言うことは難しいが、組織としてできる支援は多い。

①マネジメント研修で “構造化” を標準化する
 指示の出し方、会議運営、業務の見える化などの具体的な方法を、組織全体の標準として整備することで、特性の影響を緩和できる。その後、フォロー研修などで、それらを実際に取り入れてどう変わったかを共有していくことも重要となる。

②部下側の “受け止め方” の支援(研修などをしてもよい)
 部下側は、上司のタイプごとに指示の確認方法、優先順位の擦り合わせ方、感情的な場面での距離の取り方など、実務的な対処スキルを学ぶことが有効である。

③上司本人へのフィードバックを具体的な事例ベースで行う
 「特性」ではなく「事例性」に焦点を当てることが重要である。

例:

×「あなたは衝動的だ」

○「会議で結論が出ないため、予定時間を30分オーバーしている上に、部下が動きづらくなっている」

こうすれば、客観的な行動の改善を、本人のプライドを損なわずに進めることができる。

④業務設計の見直し
 発達障害に通じる特性が強く影響する業務(細かな進行管理、複雑な調整など)を、チーム内で分担し直すことで、上司・部下双方の負荷を軽減できる。誰か1人だけに負担をかけないことがポイントとなる。

 上司が発達障害グレーゾーンかもしれないと感じることは、実はよくある。管理職になって初めて特性が顕在化することが多いからだ。企業は、管理職にも一定数の発達障害グレーゾーン社員がいることを前提として、先述した研修を提供したり、いつでも相談できる体制を整備したりしておくとよい。

 どのような立場の人であっても、発達障害グレーゾーンの議論で重要なことは、“特性そのもの” よりも、“その特性が職場でどのように困り事として現れているか” に目を向けることである。特性を「個人の問題」として扱うのではなく、職場環境との相互作用として捉えることで、支援の方向性が見えやすくなるだろう。

プロフィール写真

舟木彩乃 ふなき あやの
心理学者〈ヒューマン・ケア科学博士/筑波大学大学院博士課程修了〉
株式会社メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長

博士論文の研究テーマは「国会議員秘書のストレスに関する研究」/筑波大院専攻長賞受賞。官公庁カウンセラーでもあり、中央官庁や自治体での研修・講演実績多数。保有国家資格として公認心理師、精神保健福祉士、キャリアコンサルタント技能士2級など。著書に『発達障害グレーゾーンの部下たち』(SB新書)、『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(集英社インターナショナル新書)など。