2026年02月09日掲載

発達障害グレーゾーンの人たちと “ともに働く” 上で知っておきたいこと - 第2回 発達障害グレーゾーンと二次障害

心理学者・博士
株式会社メンタルシンクタンク 副社長 舟木彩乃

適応障害とうつ病の違い

 第1回では、発達障害グレーゾーンとは、発達障害の診断はつかないが、その傾向がある人たちを指すことなどを紹介した。第2回は、職場における発達障害グレーゾーンと適応障害との深い関係や、二次障害(うつ病など)について取り上げたい。
 ところで、休職や復職時の相談でよく聞かれることに、“適応障害とうつ病の違い” がある。両者の違いを理解しておくことは、メンタルヘルス対策を実施する上で重要である。とりわけ発達障害グレーゾーンの社員とともに働く上では、必須の知識といえる。
 適応障害は、「抑うつ状態」(気分が落ち込んでエネルギーが乏しくなっている状態)を特徴としていることから、「うつ病」との区別が難しい。適応障害の可能性が高いのにうつ病と診断された社員は、休職と復職を繰り返すことになったりもする。適応障害はどのような病気で、うつ病とどのように違うのだろうか。
 「適応障害」は、職場環境の変化や人間関係のトラブルなど、本人が思い当たるストレス要因から3カ月以内に情緒面(抑うつ状態など)または行動面(遅刻が多くなるなど)の症状が出現する。適応障害は「抑うつ状態」を一つの特徴としているため、「うつ病」と誤診断されることも少なくない。「適応障害」と「うつ病(うつ状態)」の違いを明確に理解することが重要で、うつ病の診断が出ていても適応障害を疑うことが必要な場合もある。
 両者の大きな違いは、適応障害ではストレッサー(どうしても今の仕事が合わない等)がはっきりしているのに対し、うつ病は原因が一つではなく複合的で、強い抑うつ状態が長く続くことである[図表1]。それ故、適応障害は原因が取り除かれると良くなることが多いが、取り除かれないままだと、うつ病に移行したり、休職を繰り返したりすることになる。うつ病などによる休職の場合、復職時には同じ部署に戻すことが原則である(環境の変化もストレスになるため)が、適応障害の場合は、職場環境を変えることも再発防止のための重要な選択肢となる。そのため、産業医などのアドバイスを聞き、慎重に復職先を検討することが重要となる。

[図表1]適応障害とうつ病の違い

図表1

発達障害グレーゾーンと適応障害

 発達障害グレーゾーンの人は、適応障害が併存するケースも少なくないが、本人が “自分はグレーゾーンだ” と自覚するのは、環境の変化に適応できないようなときだ。発達障害の傾向があっても職場環境に適応できているのであれば、医療機関を受診する必要はないため、発達障害の診断がついたり、グレーゾーンと言われたりすることもない。

 ASD(発達障害の一つである自閉スペクトラム障害の略。以下、ASD)の傾向があるAさん(女性30代)の事例から、両者がいかに密接に関連し、どのような負の連鎖が起きるのかを見てみよう。
 Aさんは、特定の作業に没頭する能力が高く、仕事の完成度が高いことから社内外で評価されていた。しかし、プロジェクトリーダーに抜擢(ばってき)されたことで、「プロジェクト管理」や「チーム間の調整」の仕事が増え、異変が生じた。Aさんの状況を整理すると、次のようになる。

1.ASD傾向による「隠れた困難」があった
 AさんはASDの診断こそ受けていないが、次のようなASDの特性を持っていた。

コミュニケーションのズレ: 「この資料を適当にまとめておいて」というような曖昧な指示が理解できず、過剰に細部まで確認したり、自分の解釈で進めたりしてしまう

変化への弱さ: 急な会議や仕様変更が入ると頭が真っ白になり、パニックに近い状態になる

感覚過敏: 職場内の周囲の雑談やコピー機の音が気になり、人一倍脳が疲れやすい

2.グレーゾーン故に「過剰適応」していた
 グレーゾーンは発達障害よりも特性が弱いことから、Aさんは自身の努力でなんとか対応していたが、限界に来ていた。

「自分は普通の人と同じように振る舞わなければならない」という強い意識から、Aさんは限界まで無理を重ねた。周囲の空気を読もうと神経を研ぎ澄ませ、帰宅後は動けなくなるほど消耗した

分からないことがあっても「聞き方や相談の仕方が分からない」ため、独力で解決しようと残業を繰り返した

3.適応障害の発症
 ある日、上司から「もっと要領よくやってくれ」と抽象的な叱責(しっせき)を受け、部下からは「指示が細かすぎて分からない」などと言われたことをきっかけに、次のような症状が現れてきた。

精神面:イライラしたり、抑うつ状態になったりと感情のコントロールが難しくなっていた

身体面: 朝、会社に行こうとすると激しい動悸(どうき)が起こった

行動面:遅刻が多くなり、得意だったプログラミングで初歩的なミスを連発した

 この事例を構造化すると、[図表2]のような負のスパイラルが見て取れる。

[図表2]Aさんに生じた負のスパイラル

図表2

 Aさんのようなケースでは、単に「休養」するだけでなく、復職時に次のような「職場環境の再構築」が必要である。

指示の具体化:「適当に」ではなく、「17時までにこの項目だけ埋めて」などと数値や期限を明確にする。完成イメージを共有するために過去の完成資料を見せるなど、視覚(発達障害では視覚的なものに働きかけるとよいことが多いが、人によっては聴覚のほうがよい場合もあるため確認が必要)に働きかける

物理的配慮: 集中するためにイヤマフ(防音・遮音するためのヘッドセット型の保護具)や耳栓の使用を許可したり、静かな席へ移動したりする

業務の切り分け: 苦手な「交渉」を減らし、得意な「実務・分析」に特化させる

役割の補完:リーダーを続ける場合であっても、進捗(しんちょく)管理やコミュニケーションが得意なサブリーダーを付けてサポートさせる

 グレーゾーン社員は、「一見普通に見える」、場合によっては「ずばぬけて仕事ができるように見える」ため、しばしば能力に見合わない高い負荷(期待)をかけられる。そのため、適応できない状態が出現したとき、周囲も本人も「単なる努力不足」や「性格の問題」と片付けてしまいがちだが、その裏では脳の特性による深刻な疲弊が起きている。これは、フルマラソンを全力疾走している状態で「もっと速く走れ」と言われ続けるようなもので、心が折れてしまう(適応障害)のは自然な反応だともいえる。

発達障害グレーゾーンとうつ病などの「二次障害」との関連性について

 発達障害(および発達障害グレーゾーン)は、二次障害を発症することが少なくない。二次障害とは、発達障害を一次障害としたとき、二次的に発症するうつ病などの精神疾患等をいう。なお、中程度以上の明らかな発達障害(発達障害特性に該当し、環境に適応できていない)の場合、多くは幼少期に発見されて特性に合った支援を受けたり、障害者雇用枠で就職して配慮を受けたりするので、グレーゾーンのほうが二次障害の影響を受けやすいともいわれる。いずれにしても、発達障害(グレーゾーン)の代表的な二次障害には、うつ病や不安症、依存症などが挙げられる。以下、それぞれの概要を紹介する。

【うつ病】
 基本的には、常に気分が落ち込んでいる状態である。睡眠や食事といった生命維持に欠かせない活動に問題が生じ、意欲が湧かない、頭が働かないなどの症状が現れることから、仕事のみならず日常生活にも支障が生じる。
 発達障害特性により、努力しても失敗が重なって自己肯定感が下がり、強い自責の念を抱き、うつ病を発症することがある。また、同様に発達障害特性により、職場への適応が難しくなって抑うつ状態が固着してしまい、うつ病になっていくこともある。この点も踏まえた上で、適応障害とうつ病の関連性および違いを明確に理解しておくことが非常に重要なポイントとなる。

【不安症】
 精神的な不安や心配が過度になり、心身にさまざまな不快な変化が起こる疾患である。代表的なものに社交不安障害(人からどう見られているかに過剰な不安を感じ、対人場面を避けるようになる)や強迫性障害(「鍵をかけたか」「メールに誤字はないか」など、自分の意に反して強迫的な考えが浮かび、それを打ち消すための儀式的な行動を繰り返す)、パニック障害(突然、理由もなく激しい動悸や息苦しい発作に襲われ、「このまま死んでしまうのではないか」というほどの強い恐怖を感じる)がある。心の中に不安があり、ネガティブな予測ばかりになることから、気持ちを前向きに切り替えることが難しくなる。
 発達障害(グレーゾーン)は、コミュニケーションが苦手なことから社交不安障害を、独特なこだわりによる完璧主義的な特性が強迫性障害を、感覚過敏が多いことから騒音や人混みなどの刺激が脳のキャパシティーを超えてパニック発作を、それぞれ誘発することがある。

【依存症】
 発達障害(グレーゾーン)、特にADHD(注意欠如・多動障害)傾向の人にとって、依存症は陥りやすい二次障害である。依存の対象はアルコール、ギャンブル、ゲーム、買い物、SNSなど多岐にわたり、それらには共通の構造がある。アルコールやゲームなどでストレスを発散することを繰り返すうちに、その状態が恒常化し、それ以外のことでは何をしても刺激を感じなくなり、やがてはそれらがなくてはいられない状態(依存症)になる。依存症にADHDの人が多いのは、脳内のドーパミン不足を補うために刺激を求めたり、ADHD特有の衝動性(ブレーキの弱さ)によってコントロールを失ったりするからである。一次障害との関連では、仕事などがうまくいかなくてアルコールなどに逃避しているうちに、依存症を発症することになる。

 発達障害(グレーゾーン)社員にとって有効なメンタルヘルス対策をしていく上で重要なポイントの一つは、適応障害および二次障害へと移行していく代表的な精神疾患が、発達障害(グレーゾーン)とどのような関連性があるかを把握しておくことである。

プロフィール写真

舟木彩乃 ふなき あやの
心理学者〈ヒューマン・ケア科学博士/筑波大学大学院博士課程修了〉
株式会社メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長

博士論文の研究テーマは「国会議員秘書のストレスに関する研究」/筑波大院専攻長賞受賞。官公庁カウンセラーでもあり、中央官庁や自治体での研修・講演実績多数。保有国家資格として公認心理師、精神保健福祉士、キャリアコンサルタント技能士2級など。著書に『発達障害グレーゾーンの部下たち』(SB新書)、『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(集英社インターナショナル新書)など。