2026年01月13日掲載

発達障害グレーゾーンの人たちと “ともに働く” 上で知っておきたいこと - 第1回 発達障害とは何か ~基本的な類型や特性を知る

心理学者・博士
株式会社メンタルシンクタンク 副社長 舟木彩乃

【編集部より】

大人の発達障害は約51万人(令和4年 厚生労働省)とされ、いわゆる「グレーゾーン」を合わせるとさらに多数に上ると言われます。発達障害のある人やグレーゾーンの人と一緒に働くケースが一般的に想定される時代において、その類型や特性を正しく理解し、適切に対応することは重要です。
本連載では、発達障害グレーゾーンについて全5回にわたって解説していきます。執筆いただくのは、株式会社メンタルシンクタンクの舟木彩乃氏です。

大人の発達障害が注目されている背景、職場での現状
~社会に出てから発覚するグレーゾーン

 近年、社会に出てから初めて自分が発達障害であることを疑い、精神科や心療内科を受診する人が増えている。しかし、医療機関を受診しても「発達障害の傾向があります」などと説明され、正式に発達障害と診断されるわけではない。これがいわゆる「発達障害グレーゾーン」(以下、グレーゾーン)である。企業などでカウンセリングをしていると、「自分は発達障害かもしれない」という悩みを抱えて相談に来るが、実際にはグレーゾーンだと思われる人は少なくない。メディアなどで頻繁に発達障害が取り上げられることも影響していると考えられるが、社会構造が複雑になり、適応できない場面が増えてきているからだろう。
 筆者のもとに自身の発達障害を疑ってカウンセリングに来る人は、比較的若い世代が多いように感じられる。学生時代は環境に適応できていたが、社会に出てから適応が難しくなり、ネットなどで調べると発達障害の特性が自分に当てはまるため心配になったという人も多い。ただし、発達障害は脳機能の発達に関する障害で、先天的なものとされていることから、社会人になって初めて発達障害を発症することはない。
 グレーゾーンの人たちは、医師から発達障害と診断されてはいないため、他人とは違った特性に対する周囲の理解が得られにくく、職場や人間関係に摩擦が生じやすいことが特徴である。なお、相談は当事者本人だけでなく、グレーゾーンが疑われる周囲の人(上司や同僚、部下)との関わりに悩む人たちからも多く寄せられる。グレーゾーンの人たちのサポートに当たる社員の負担が過度にならないよう、組織としてフォローするなどしてサポートする側の心を守ることも重要となる。
 グレーゾーンは障害者枠での採用ではないため、職場での制度的な配慮が十分に行われにくい上に、配慮方法についても絶対的な正解があるわけではない。グレーゾーンは、環境や職場に適応できず困難さを抱えることになるため、柔軟に業務内容を考えるなど、本人の特性を生かす対応が必要になる。

発達障害の基本的な知識(類型や特性)

 社会に出てから発覚しやすいグレーゾーンについて掘り下げていく前に、まず発達障害について基本的な知識を共有したい。
 発達障害は細かく分類されているが、主に知られているのは次の三つである[図表1]

[図表1]発達障害の特性

図表1

① 自閉症スペクトラム障害:ASD(Autism Spectrum Disorder)
以下、「自閉スペクトラム症」または「ASD」という

② 注意欠如・多動性障害:ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder)
以下、「注意欠如・多動症」または「ADHD」という

③ 限局性学習症:SLD(Specific Learning Disabilities)
以下、「学習障害」または「SLD」という

 これら三つの発達障害は疾患として別々に分類されているものの、それぞれの特性は重なっていることがあり、複数の発達障害が併発(合併)することもある。そのため、どの疾患に該当するのか明確に分けられないことも多く、そのことが診断を難しくしている一因だといわれている。
 この中でSLDは、全体的な知的発達に遅れがなく、視聴覚にも障害がないにもかかわらず、読み・書き・計算など特定の領域で学習の遅れが見られる状態であるため、小学生になって国語や算数を学び始めたタイミングで発見されることが多い。ASDとADHDも、発達期に発見されて診断名がついた場合は、特性に合った訓練を受けたり障害者手帳が交付されたりして、適切な支援を受けることができる。しかし、発達障害の診断がつかなかった、すなわちグレーゾーンだった場合は、大人になって周囲に適応できないという状況などが生じ、問題になることが多い。大人になって発見されて職場で問題になるケースは、主にASDとADHDのグレーゾーンであり、実際に職場の発達障害に関する相談で圧倒的に多いのも、この二つのグレーゾーンである。
 ASDとADHDの特性について、多くの医療機関の診断基準として使われている『DSM-5-TR 精神疾患の診断・統計マニュアル』などをベースに整理していく。

① 自閉スペクトラム症(ASD)
 ASDは、主にコミュニケーションや他者の意図を想像する能力に困難を抱える一方、特定の知識や専門分野に関しては驚異的な集中力と記憶力を発揮するケースがある。例えば、「これはざっくりでいいから」などといった曖昧な指示をされると、その意図をくみ取ることが苦手なので、困ってしまうような傾向が見られる。一方で、研究者のように特定の専門性を追求する職務では、非常に高いパフォーマンスを示すことがある。
 なお、ASDは、以前(『精神障害の診断と統計マニュアル第4版(DSM-IV)』)は広汎性発達障害の中の「アスペルガー障害」と「自閉性障害」が別々に分類されていた。しかし、その後発表された『DSM-5』では、アスペルガー症候群と自閉症を区別せず、「自閉スペクトラム症」という一つの診断名に統合されている。これまで、この両者の違いについて議論されてきたが、現在は両者の間に境界線を引くのではなく、基本的な特性(コミュニケーションやイマジネーションの障害、強いこだわりなど)が共通しているものとして、軽症(アスペルガー障害)から重症(自閉症)へのスペクトラム(連続体)として捉えられている。
 職場でよく見られるASDの特性のエピソードには、次のようなものがある。

言葉や視線、表情、身ぶりなどで他人とコミュニケーションを取ることが苦手である

例:会議などでポイントがずれた質問を執拗(しつよう)にするため、会話の内容がかみ合わない

他人に対する興味が薄く、相手の気持ちや状況を理解することが苦手である

例:クレーム処理や謝罪などの場面で、気持ちを込めず淡々と話したりするため、お客さまの余計な怒りを買って周囲を凍らせる

特定のことに強い関心を持ち、こだわりが強い傾向がある

例:データ分析やプログラミング、品質管理など、自分に関心がある領域に関しては非常に深く掘り下げ、専門家並みの知識や技能を発揮する

② 注意欠如・多動症(ADHD)
 ADHDの中核症状に遂行機能障害(例:企画書どおりに仕事を実行できない)があるため、社会に出て職業に就くと困難なことが多くなる。ADHDには、❶不注意(忘れっぽく集中できない)、❷多動性(じっとしていられない)、❸衝動性(考える前に行動してしまう)の三つの主要な特性が挙げられ、ドラえもんの登場人物を引き合いに出して説明すると分かりやすい。
 不注意が優勢なタイプは、うっかりミスや先延ばしが多く、のび太型(寝坊したり、宿題を後回しにして昼寝したりしてしまう)に例えられる。多動性・衝動性が優勢なタイプは、物理的あるいは思考がせわしなく動き、考える前に行動してしまう傾向があり、ジャイアン型(カチンときたら先に手が出てしまう)に例えられる。これらは混在する場合も多く、人によって現れ方が異なる。なお、大人のADHDは “多動性が目立たなくなってくる” といわれている。
 職場でよく見られるADHDの三つの特性ごとのエピソードには次のようなものがある。

〈不注意のエピソード〉

会議の準備で資料を忘れる

例:重要な会議の直前に、必要な資料をデスクに置き忘れてしまい、慌てて取りに戻る

整理整頓が苦手である

例:職場のデスクの上が常に乱雑で、必要なものがすぐに出てこないため、いつも捜し物をしている

〈多動性のエピソード〉

会議中に落ち着かない

例:長時間の会議で椅子に座っていられず、ペンを回したり、すぐに立ち上がって飲み物を取りに行ったりする

雑談が止まらない

例:同僚に話しかける回数が多く、結果的に自分も相手も作業が中断されてしまう

〈衝動性のエピソード〉

人の発言を遮る

例:他の人が話している途中で「それ違うと思います!」などと口を挟んでしまい、場の空気が少しぎこちなくなる

メールを即送信してしまう

例:内容を十分に確認せずに「送信」ボタンを押してしまい、メールに誤字や不完全な情報が含まれている

グレーゾーンとは何か、どのような特徴があるか

 グレーゾーンの最も分かりやすい特徴は、“生きづらさ” である。生きづらさとは、自分が置かれている環境に違和感を持ち、さらにその違和感がストレスになっている状態である。当然、既に発達障害の診断名がついている人でも、環境に対する違和感がストレスになっているケースは多い。しかし、彼らの場合は、幼少期から発達障害と診断され、自分自身の特性を自覚していることが多いため、大人になって初めて “生きづらさ” を感じるわけではない。
 発達障害がない人は「定型発達」と呼ばれる。定型発達とは、“生後何年でこういうことができます” という「年齢ごとの発達の特性と比較して一般的な基準をおおむね満たしている」ことを指し、いわゆる「発達障害がない」という意味で用いられる。小学校入学以降は、生活面(日常生活・授業態度や人間関係など)のほか、“その学年で学ぶ内容が定着しているかどうか” という学習面で判断されることもある。社会人になれば、職場環境や仕事などの社会生活に適応できるかどうかが一つの指標になる。
 「グレーゾーン」は、ASDやADHDなど、これまで説明してきた発達障害の傾向がある場合を指す[図表2]。発達障害をブラック、定型発達(健常者)をホワイトとした場合、両者の間にある領域が「グレーゾーン」になる(ブラックが悪い、ホワイトが良いという意味ではない)。発達障害の特性を濃度に例えるなら、ブラックに近づくほど発達障害の明確な「特性」となり、ホワイトに近づくほど「個性」ということになる。

[図表2]グレーゾーンとは

図表2

 グレーゾーンは、発達障害の特性そのものが明確にあるわけではなく、置かれた環境などにより特性が強くなったり弱くなったりする。グレーゾーンの中でもブラックに近い場合は、発達障害と診断されることもあれば、されないこともあり、それがグレーゾーンの難しさの一つとなっている。
 グレーゾーンに関してもう一つ留意しなければならない点は、発達障害よりも特性の凹凸が少ない傾向にあることだ。そのため、本人なりになんとか環境に適応しようと無理をし続けて、努力次第でどうにか適応できていることもある。しかし、それ故に心身ともに疲弊して、うつ状態になってしまうなど、グレーゾーン特有の大変さがあるといえる。

プロフィール写真

舟木彩乃 ふなき あやの
心理学者〈ヒューマン・ケア科学博士/筑波大学大学院博士課程修了〉
株式会社メンタルシンクタンク(筑波大学発ベンチャー)副社長

博士論文の研究テーマは「国会議員秘書のストレスに関する研究」/筑波大院専攻長賞受賞。官公庁カウンセラーでもあり、中央官庁や自治体での研修・講演実績多数。保有国家資格として公認心理師、精神保健福祉士、キャリアコンサルタント技能士2級など。著書に『発達障害グレーゾーンの部下たち』(SB新書)、『あなたの職場を憂鬱にする人たち』(集英社インターナショナル新書)など。