2025年08月20日掲載

中間管理職の業務負荷をいかに軽減するか - 第4回 人事部門が主体となってできる業務負荷軽減

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所
主任研究員 武藤久美子

管理職の「アタリマエ」を見直す

 今回取り上げる内容は、一言で言うと「管理職のアタリマエの見直し」です。管理職は、会社からこれまでの仕事ぶりが評価されて今のポジションに就いている場合が大半でしょう。このような会社からの評価には、仕事ぶりにおいて「いつでも、どこでも、何でもする」という要素が入っていることがあります。これが、見直すべき管理職の「アタリマエ」の一つです。「いつでも、どこでも、何でも対応できる人が管理職になるべき」「いつでも、どこでも会社や仕事のことを考えられる人が管理職にふさわしい」——こうした雰囲気は以前よりなくなってきているかもしれません。ただ、管理職の「アタリマエ」に応えてきた人たちが今の会社をつくってきたわけですから、今後も一般社員から管理職への “河” を渡った人には、同様のことを求めていきたいという会社の思いがあることも理解できます。

人事部門が主体となって支援できること

 とはいえ、管理職が疲弊したり、管理職になりたくない人の存在が話題になったりする中で、以下のような施策に取り組むことで管理職の業務負荷軽減に貢献する人事部門が増えています。

① 管理職への期待や昇進要件の見直し

② 対業務のマネジメントと対人のマネジメントの分離

③ 管理職の働き方改革

支援策①:管理職への期待や昇進要件の見直し

 管理職に対して「いつでも、どこでも、何でも」を求めていないか、画一的な行動を期待していないかを確認し、見直していくものです。管理職への期待としては、例えば「自組織のことをすべて把握してこそ優秀な管理職である」といったものが挙げられます。企業が管理職に対してこのような期待を持っていると、業務に一番詳しいのが管理職ではなくメンバーであるにもかかわらず、経営層や本部からの問い合わせ先をすべて管理職に集約したり、管理職に初期対応を求めたりします。管理職のスケジュールが、これらへの対応に係る会議で埋め尽くされることもあるでしょう。こうした期待の存在が、管理職の業務を増やすことにつながります。
 また、昇進要件においては、管理職への登用が人材開発会議や昇進昇格会議などで議論されるときに、管理職要件には記載がないにもかかわらず、「いつでも、どこでも、何でも対応できるか」が話題になることがあります。管理職の役割を果たすことができれば、その方法は管理職自身に任せてもいいように思いますが、こうした考えを持つ企業では、その努力と献身によって組織運営を支えるようなやり方を管理職に求めることがあります。
 人事部門としては、上記の状況に対応すべく、経営層や経営幹部、メンバーが期待する管理職像を明らかにしたり、それを変えていったりすることが可能です。例えば、人材開発会議や昇進昇格会議でファシリテーターやアドバイザーとして同席することも施策の一つです。「今話題に出た内容は、管理職の要件に書かれていますか」「過去の管理職のやり方とは違いますが、管理職として成果を上げ、役割を果たしているように見えます」といった投げ掛けを行って、経営層や経営幹部が持つアンコンシャス・バイアスに気づいてもらえるような取り組みをしているケースがあります。

支援策②:“対業務のマネジメント” と “対人のマネジメント” の分離

 通常、管理職は対業務・対仕事のマネジメントと対人のマネジメントの両方を担いますが、その二つを分けることで業務負荷を減らすものです。これらはそれぞれ、コトマネジメントとヒトマネジメントとも呼ばれます。分離の仕方は幾つかあり、「管理職の一部を対業務マネジャーと対人マネジャーに分ける」「管理職の一つ下のリーダー層に対人のマネジメントの一部を担ってもらう」「人事部門や管理職の経験者が対人のマネジメントのプロとして支援する」といった形態があります。
 ちなみに、この二つの分離には課題もあります。上級管理職(部長など)では対業務と対人の両方のマネジメントが必要になるため、中間管理職から上級管理職へと昇進する際に求められる能力のギャップが大きくなるところ、結局は問題の先送りになってしまうケースです。また、対業務と対人でマネジメントの役割を分けたとしても、実際には業務をメインに担当しながら対人のマネジメントを行ったり、その逆が発生したりします。加えて、対業務と対人それぞれのマネジメントを担うマネジャー間で、メンバーに関するコミュニケーションが必要となり、結果として会社や組織としては業務量が増えてしまう場合もあります。
 とはいえ、もちろんメリットもあります。例えば、事業の立ち上げ期において、組織の長となる管理職が対人のマネジメントを別の人に支援してもらうことで、事業の立ち上げに集中したり、負荷を軽減したりできます。各自が得意な分野を担うことで、全体として業務負荷を低減させることも可能でしょう。また、メンバーからすると、相談先(上司)が複数になることで相談しやすくなることも期待できます。さらに、管理職になりたくない人に対し、管理職昇進に係る心理的負荷を和らげることにつながる場合もあります。

支援策③:管理職の働き方改革

 働き方改革の流れで、一般社員を中心に長時間労働が解消されたり、リモートワークで働けるようになったりと、柔軟な働き方や仕事と生活の両立がしやすくなってきています。しかし、そのしわ寄せが管理職に来ているケースもあります。こうした状況は、業務改革をしないまま業務の担当者を変更しただけの場合に起こりがちなため、第3回で紹介した業務の総量の見直しが第一義的には重要です。
 今回注目したいのは、「管理職は実際に柔軟な働き方ができる状態になっているか」ということです。人事部門の方に話を伺うと、「柔軟な働き方を実現する制度は社内規定上、管理職も利用可能だが、実際にはあまり使われていない」ことが少なくありません。ぜひ、管理職も柔軟な働き方が可能となるように、人事部門からも利用促進や支援をしていただきたいと思います。
 加えて、最近の管理職は、リモートワーク環境でマネジメント業務を担う機会が増えています。新任管理職がリモートワーク下でうまくマネジメントできず疲弊してしまった結果、「管理職には柔軟な働き方は向かない」と判断するに至った企業もあるようです。確かに一般社員に比べ、働き方に制約を受ける面もあるかもしれませんが、管理職としての役割遂行と柔軟な働き方は両立できないのでしょうか。以前の管理職は基本的に対面で、「 “偶然” と “ついで” のマネジメント」(第1回参照)を得意としてきましたが、リモートワーク環境で新たに管理職になった人の中には、マネジメント経験の浅さや、リモートワークという「見えづらい、分かりづらい」環境を克服すべく、小まめにメンバーの様子を把握するなどして、自分なりのマネジメントの在り方を模索しているケースも見られます。管理職は改めて今日的なマネジメントの方法を学び、身に付けることで、自身の業務負荷を軽減できる可能性があるのです。これはまさに人事部門が担う業務改革ではないでしょうか。

 最終回となる次回は、AIの高度化により可能となってきた管理職の負荷軽減の方法を紹介します。

プロフィール写真 武藤久美子 ぶとう くみこ
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所 主任研究員

2005年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。組織・人事のコンサルタントとしてこれまで150社以上を担当。「個と組織を生かす」風土・しくみづくりを手掛ける。専門領域は働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、評価・報酬制度、組織開発、小売・サービス業の人材活躍など。働き方改革やリモートワーク、人事制度関連の寄稿多数。著書に『リモートマネジメントの教科書』(クロスメディア・パブリッシング)、『組織変革の教科書』(東洋経済新報社)がある。