2025年06月11日掲載

中間管理職の業務負荷をいかに軽減するか - 第1回 管理職はなぜ忙しく負荷が高いのか?

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所
主任研究員 武藤久美子

 近年、管理職の業務負荷が高いという話をしばしば見聞きします。また、管理職になりたくないという声を耳にすることも多いでしょう。実際に筆者がさまざまな企業で管理職の業務負荷の見直しや働き方改革の支援をしてきた中でも、そうした相談がありました。本連載では、「中間管理職の業務負荷をいかに軽減するか」をテーマに、全5回にわたり掘り下げていきます。
 第1回では、管理職がなぜ忙しいのかを考えます。

管理職はなぜ忙しく負荷が高いのか?

 1950年代から行われていた管理職の行動に関する調査研究において、カールソンの研究[注1]とスチュワートの研究[注2]では、「管理者は、多くの人々との接触で時間を費やし、対面でのコミュニケーションを好み、自部署メンバーばかりでなく他部署の人や他社の人、経営の上層部との接触にも多くの時間を割き、活動は小刻みで断片的である」という実態が明らかになりました。

 また、中間管理職に当たるマネジャーの役割は多岐にわたります。[図表]は、部下育成行動に関してマネジャーが何を行っているかを過去の研究から整理したものです[注3]。これらをすべてしっかり実施することに加えて、組織の方針や計画を立てたり、他部署との折衝や交渉を行ったり、業務改善をしたりするわけですから、忙しくなるのも当然と言えます。

[図表]部下育成行動に関するマネジャーの役割

資料出所:原著[注3]を基に株式会社リクルートマネジメントソリューションズが作成

 このように、以前から管理職は忙しかったことが見て取れます。そして、管理職の仕事が、主として社内外の関係者との間で発生するということは、筆者がリクルートワークス研究所で行った「企業のムダ調査」においても明らかになり、今も同様の傾向にあることが分かります[注4]

 こうした以前から続く傾向と、昨今の管理職の忙しさの状況を踏まえ管理職の負荷について二つのキーワードにまとめると、「管理職は会社側の人間である」「マネジメントの難度が上がっている」となるでしょう。

管理職の負荷についてのキーワード①:「管理職は会社側の人間である」

 一つ目のキーワードは、管理職の位置づけや、管理職が管掌組織における役割、求められる成果を達成する役割を担っていることから指摘されるものです。

 「管理職の位置づけ」においては、特に管理監督者として労働基準法の労働時間、休憩、休日に関する規定が適用されない(深夜業に関する規定、年次有給休暇に関する規定を除く)点が特徴的です。もちろん、管理職の労働時間を確認して健康管理に利用する企業もありますが、上述の役割を果たすためには自分の労働時間をいったん脇に置いて働くことも多いでしょう。加えて、昨今の働き方改革では、労働時間管理の下にあるメンバー(部下)の時間外労働削減が注目されました。業務の見直しや効率化が進まない中でも、メンバーの時間外労働を最小限に抑えつつ、組織から期待される役割を果たす必要があるという状態が生まれた結果、管理職がそのしわ寄せを受ける形となりました。

 この影響は、育児や介護などのライフイベントにも及びます。仕事と育児・介護の両立体制が整っている企業においても、管理職になった途端に「ようこそこちら側の世界へ」と言わんばかりにライフイベント関連の制度や支援が活用しづらくなるのです。こうした状況は、管理職になりたがらない人が増えている一因にもなっています。

 また、管理職は経営層や会社から「組織のことを何でも知っておくべき」と期待されることもあります。筆者が東証プライム上場企業を中心に女性活躍推進に関して行った調査(回答企業が29社につき参考程度ではありますが)では、「貴社で女性の課長級の人数が少ない理由や候補者が少ない理由、思うように増えていない理由として、以下はどれくらいあてはまりますか」と尋ねた設問のうち、「課長級には、いつでも・どこでも・なんでもできることが求められる」と回答した企業は29社中19社でした。この「いつでも・どこでも・なんでも」という部分について企業の事業部門や人事部門の方に話を伺うと、「細かい相談事でも部長や課長に判断を仰がなければならない決まりになっている」「現場のことは担当者が一番よく知っているはずなのに、経営層や本社から、組織長が細かいことまで把握していないと注意を受ける」「メンバーが入っているグループチャットやメールではそのようなことはないが、管理職以上のチャットでは、休日であっても多くの人が即レス(=即座の返信)、即対応している」といった類いの事例がたくさん出てきます。

 数多くの会議への参加を求められる、各種依頼の窓口となるなど、一つひとつの役割としては小さくても、積み重なるとかなりの量になり得ます。家庭における「見えない家事」と同じような構図が、会社の中にも生まれているのです。手始めに、管理職への依頼内容を発信部署、概要、依頼日、対応期日といった項目でリスト化すると、管理職の置かれた状況の理解につながるでしょう。

管理職の負荷についてのキーワード②:「マネジメントの難度が上がっている」

 これまで管理職が得意としてきた「 “偶然” と “ついで” のマネジメント」[注5]が通用しなくなっています。加えて管理職は、メンバーの多様性を生かし、コンプライアンスやハラスメントに留意しながら、プレーヤーとしての役割を担いつつマネジメントする必要があるというハードな状況に置かれています。

 コロナ禍とともに一斉・大規模・急速に広まったリモートワークも、マネジメントに影響を与えました。リモートワークの普及前は、管理職は “偶然” と “ついで” の機会を使ってメンバーや関係者とコミュニケーションを取り、うまく役割を遂行していました。しかし、リモートワークでメンバーの状況が見えづらく、分かりづらくなったことで、管理職によっては、もっと小まめにメンバーと接触しようとする動きが現れました。また、リモートワーク下で1on1ミーティングを行う組織が増えました。こうした取り組みは、メンバーとのコミュニケーションを支援する部分が大きい一方で、メンバーがこれまで横や斜めの関係にある同僚や先輩社員に相談して解決していたことについても上司である管理職に相談がいくようになり、管理職の業務が増えるケースも出てきました。リモートワークの下では「 “偶然” と “ついで” のマネジメント」から「意識的なマネジメント」への転換が必要となりますが、それができていないと管理職は自分の時間を割いて対応することになりがちです。

 加えて、コロナ禍前に「リモートワークは絶対にできない」と言っていた企業・組織も、方針の転換を余儀なくされました。リモートワークが広く行われるようになったことで、個々の社員が、人生や生活において仕事以外にも大切なことがあることを痛感したり、従来当たり前に行われてきた人事施策(転勤など)に疑問を抱いたりするようになりました。筆者はこれを「いろいろ気づいてしまった状態」と呼んでいます。現在、企業・組織ではリモートワークが定着したところと原則出社に戻ったところがありますが、後者のように働く風景がコロナ禍前に戻ったように見えても、社員の気持ちは変化しています。「これまでと同じようにマネジメントしてもメンバーに動いてもらえなくなった」「説明を尽くさないと納得してもらいづらくなった」といった思いを持つ管理職もいるのではないでしょうか。

 また、最近はDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)における多様性を生かす流れや、自己申告制度・社内公募制度など働く側の意思を尊重する施策の普及もあり、個々の社員の声が重視されていることも、管理職が上記のように “一方的な指示だけではメンバーが動かない” “指示の仕方が難しい” と感じるようになった背景にあると思います。

 ここまで、管理職がなぜ忙しいのかの背景について見てきました。次回からは本連載のテーマである「管理職の負荷をどのように軽減していくか」について検討していきます。
 第2回では「管理職自身ができること」について考えます。

※注1 Carlson,S.(1951).Executive Behaviour: A Study of the Work Load and the Working Methods of Managing Directors. Stockholm: Strömbergs.

※注2 Stewart,R.(1967).Managers and their jobs. Macmillan.

※注3 Heslin, P. A., Vandewalle, D. & Latham, G. P. (2006). KEEN TO HELP? MANAGERS'IMPLICIT PERSON THEORIES AND THEIR SUBSEQUENT EMPLOYEE COACHING. Personnel psychology, 59(4), 871-902./毛呂准子・松井 豊(2009)「上司による部下育成行動 研究動向と探索的検討」筑波大学心理学研究37,59-67./毛呂准子(2010)「上司の部下育成行動とその影響要因」産業・組織心理学研究23(2),103-115./松尾 睦(2013)「育て上手のマネジャーの指導方法——若手社員の問題行動と OJT」日本労働研究雑誌55(10),40-53./松尾 睦(2014)「経験から学ぶ能力を高める指導方法」名古屋高等教育研究(14), 257-276./中竹竜二(2014)『自分で動ける部下の育て方——期待マネジメント入門』ディスカヴァー・トゥエンティワン/中原 淳(2017)『フィードバック入門 耳の痛いことを伝えて部下と職場を立て直す技術』PHP 研究所

※注4 リクルートワークス研究所「企業のムダ調査」エグゼクティブサマリー
https://www.works-i.com/research/report/forecast2040_muda_summary.html

※注5 武藤久美子 (2021)『リモートマネジメントの教科書』クロスメディア・パブリッシング

プロフィール写真 武藤久美子 ぶとう くみこ
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所 主任研究員

2005年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。組織・人事のコンサルタントとしてこれまで150社以上を担当。「個と組織を生かす」風土・しくみづくりを手掛ける。専門領域は働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、評価・報酬制度、組織開発、小売・サービス業の人材活躍など。働き方改革やリモートワーク、人事制度関連の寄稿多数。著書に『リモートマネジメントの教科書』(クロスメディア・パブリッシング)、『組織変革の教科書』(東洋経済新報社)がある。