2025年06月26日掲載

中間管理職の業務負荷をいかに軽減するか - 第2回 負荷軽減のために管理職ができること

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所
主任研究員 武藤久美子

管理職自身だけで解決するテーマではない

 第2回のテーマは、管理職自身ができる業務負荷軽減の方法や考え方です。
 本題に入る前に、「管理職の業務負荷軽減は管理職自身だけでなんとかするようなテーマではない」ということについて触れたいと思います。業務の総量の削減や効率化は、業務プロセスの見直しなど本社や本部、他部署とともに、全社または大きな組織単位で実施する必要があります。人材要件や働き方など、主として人事部門が検討できる内容もあります。むしろ、これらのほうが管理職の業務負荷軽減という観点では効果が大きいかもしれません。[図表1]は、筆者がリクルートワークス研究所で行った調査です※注。管理職(調査上は「組織長」)がムダだと思う業務ランキングでは、誰かのフォロー・穴埋めといった、上司や関係者との間で生じる業務・作業・対応がランキングの上位に挙がっていることが分かります(こうした管理職との協働や、管理職の行動を規定するようなプロセス・ルールに関連することなど、全社や本部、人事部門などが取り組めることは次回以降で紹介します)。

[図表1]自組織の業務におけるムダな業務 上位10

「以下は、よくムダが指摘される業務・作業、対応です。あなたの『組織』において、以下のようなものはありますか」と尋ねた結果
(経営層以外の組織長が回答)(単一回答/n=481)

図表1

[注]1.回答に際しては、ムダと思われる業務を27列挙した上で回答いただいた

2.本調査では、「選択肢5(とてもよくある、多い)」~「選択肢1(まったくない)」とし、5~1から選択。選択肢3以上を、そのムダがあると回答したと推定し、上記のとおり記載

資料出所:リクルートワークス研究所「企業のムダ調査」(2023年)を基に株式会社リクルートマネジメントソリューションズが作成([図表2]も同じ)

管理職自身による主体的な取り組みも必要

 「管理職の業務負荷軽減は管理職自身だけでなんとかするようなテーマではない」と書きましたが、管理職自身ができることが重要ではないという意味ではありません。管理職自身が「自分の業務負荷については自分でなんとかできることがある」、つまり、自分の影響力発揮が可能なテーマだと捉えられることは良いことでしょう。自分の働き方や業務負荷がすべて自分以外の環境や周囲に委ねられているとしたら、苦しいものがあると想像されます。また、業務負荷軽減といった全社的に影響のあるテーマについては、多くの関係者が実現に向けて役割を果たすことが重要です。もし管理職が、自身の働き方や業務が大変であることをすべて周囲の責任だと捉えて、自分のできることをしなければ、周囲も本気で取り組むことは難しくなるでしょう。

 実際に、管理職は「自分の力で減らせるムダな業務もある」と回答しています。前述の調査で「自組織におけるムダを全部で100とした場合、あなたの力で減らせそうなものはどれくらいありますか」と組織長に尋ねたところ、削減できるのはムダな業務のうち20.0%(平均値)という回答でした[図表2]。また、自分の力で3割以上減らせると回答した人も、全体の27.2%いました。

[図表2]全業務に占める「自分の力で削減できる」ムダな業務の割合

「自組織におけるムダを全部で100とした場合、あなたの力で減らせそうなものはどれくらいありますか」という質問に「自分の力で減らせそうなものはまったくない」と回答した “以外” の方に、「自分の力で減らせそうなものの割合は何%くらいあるか」を整数で尋ねた結果

(経営層以外の組織長が回答)(単一回答/n=349)

図表2

 では管理職が、自分の裁量でできそうな業務改善とは何でしょうか。自分の組織以外(全社や人事部門、他部署など)が関係しない範囲で管理職ができることについて、組織として成果を上げている、かつ長時間労働に頼らない働き方をしている組織長に筆者がインタビューしてきた中でよく挙がった2点を紹介します。

改善策①:期の方針を上司とネゴシエーションする

 管理職の皆さんは、上位組織や本部の方針に沿って自組織の方針を決めていることでしょう。もちろんそれは大事ですが、自組織の対峙(たいじ)するマーケットや組織構成員の状況などからして、方針が合っていないと感じることがあるのではないでしょうか。
 組織として成果を上げている管理職で、「自組織が注力する方針について、あらかじめ上司と交渉して合意を得ておく」という方がいました。具体的には、管理職が上司に、自組織を取り巻く状況(市場や顧客、メンバーの状況や組織のコンディション)を説明した上で、「自組織はA方針に注力したい。ここではより大きな成果を上げるので、C方針はウエートを減らしてほしい、または追いかけなくていいことにしてほしい」と、確かな見通しを持った上で、事前に相談(交渉)して合意を得ているのです。筆者が最初にこの話を聞いたのはだいぶ前で、当時は「部下が上司に対してそんなことができるのだろうか」「言われた方針はすべてやらないといけないのではないか」と思いましたが、その後、何人もの方がそう話すのを聞くことになりました。これは「上通性」と呼ばれ、上司を動かしたり、自分や自組織がすることを、上司に認めてもらえるよう働きかけたりすることを指します。管理職自身とメンバーの大切な時間や能力を、効果的なところに配分するという考え方は、管理職の業務負荷軽減という観点でも大事となるでしょう。

改善策②:「相談タイム」等をスケジュールに組み込み開示する

 メンバーからの相談に乗る時間を事前にスケジュールに組み込んでおき、開示しておくという方法です。相談でも雑談でも “一緒に企画を考える” でもよいので、声を掛けてほしい時間としておき、誰も声を掛けてこなければ、別の業務・作業をしていればよいでしょう。
 メンバーを直接マネジメントする管理職の中で、長時間労働に頼らない働き方をしている人がこの方法を採っていることがありました。第1回で、管理職の活動は小刻みで断片的である、と述べました。しっかりと時間を取って考えたいことがあっても、誰かによって中断を余儀なくされるという実感がある管理職も多いのではないでしょうか。まとまった時間を取れるようにすることは、管理職の業務負荷軽減につながるでしょう。

 しかし、「メンバーが困ったときにすぐに対応する上司だから信頼されるのではないか」と思った方もいるのではないでしょうか。それはそのとおりだと思います。緊急での対応が必要なときは、もちろん上述の限りではありません。また、スケジューリングを行うには、「信頼残高の獲得方法の変更」を伴う場合があります。ある小売業で、ハイパフォーマーの店長は開店から閉店までずっと店舗にいました。これは、シフト制で働く店舗において、店長が店舗スタッフみんなに声をかけ、気にかけていることを示したり、店舗でのちょっとした困り事に即座対応したりすることが、「店長は頼りになる」「店長が困ったときには自分たちが助けよう」という気持ちを店舗スタッフが抱くのに重要だということを経験から会得していたからです。このような場合には、信頼残高の獲得方法を、長時間労働を前提としないものにする必要があります。例えば、前述のスケジュールでいえば、メンバーから、「店長はいつもいろいろな人に声を掛けられて時間がなさそうだから、簡単な相談しかできなかった。店長に、事前にスケジュールを決めて開示してもらうことで、じっくり相談できるようになった」「店長の顔色を見て、今は機嫌が悪そうだとか、今は忙しそうだと考える心配が減った」といった声が出るようにしていくことが大事です。

ジョブ・クラフティングやメンバーとの業務分担も有効

 ここまで、管理職ができる業務負荷軽減について紹介してきました。業務負荷の大幅な軽減とはいかないまでも、管理職の皆さんが自分の意思で導入できそうなものを取り上げました。ちなみに上記以外にも、「ジョブ・クラフティング」や「管理職業務の一部についてのメンバーとの業務分担」など、考えられるものはまだあります(なお、AIの活用については、本連載の中で別途取り上げる予定です)。

 ジョブ・クラフティングは、仕事の意味ややり方などを主体的に変えることを通じて、仕事にやりがいを持てるようにすることです。管理職に話を聞くと、「今、管理職として実施していることが自身のスキルとして蓄積されているのか分からない」「いろいろな業務がありすぎて、それに対応しているだけで一日が終わる」という声が上がります。そのような中で、ジョブ・クラフティングは打ち手の一つとなります。特に、“業務負荷に対する心理的負荷を減らす” という意味では奏功するでしょう。しかし、これだけに頼ってしまうと、管理職の業務負荷軽減が管理職自身の責任と捉えられたり、物理的負荷が心理的負荷にすり替わったりして、会社や組織全体としての業務全体を見直すという観点が薄れてしまう点には留意が必要です。

 また、「管理職業務の一部についてのメンバーとの分担」は重要な観点です。これは一見すると、管理職が自組織でやると決めればできそうに思えます。もちろんそうした組織もあります。しかし、「なぜ現状では管理職に業務が集中するか」を考えると、経営層や本社・本部などといった周囲からの期待・要請や、これまでの自社の業務プロセスに根づく風土からくるところも大きいのです。よって、こちらについては、管理職自身以外の力を使って行う取り組みに分類し、別の回で取り上げることとします。

 次回は、業務そのものの量や内容の見直しについて解説します。

※注 リクルートワークス研究所「企業のムダ調査」(2023年)データ集
https://www.works-i.com/research/report/item/forecast2040_muda_data_1.pdf

プロフィール写真 武藤久美子 ぶとう くみこ
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所 主任研究員

2005年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。組織・人事のコンサルタントとしてこれまで150社以上を担当。「個と組織を生かす」風土・しくみづくりを手掛ける。専門領域は働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、評価・報酬制度、組織開発、小売・サービス業の人材活躍など。働き方改革やリモートワーク、人事制度関連の寄稿多数。著書に『リモートマネジメントの教科書』(クロスメディア・パブリッシング)、『組織変革の教科書』(東洋経済新報社)がある。