2025年09月29日掲載

中間管理職の業務負荷をいかに軽減するか - 第5回・完 テクノロジーが支える管理職の業務負荷軽減

株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所
主任研究員 武藤久美子

 最終回のテーマは、管理職の業務負荷軽減に資する生成AIやAIエージェントなどのテクノロジーの活用です。既に、生成AIの利用によって、日常の業務のさまざまな生産性向上を実感している方も多いのではないでしょうか。情報収集、アイデアの壁打ち、企画書の作成、会議のファシリテーター役など、管理職の日常業務においても、生成AIの活用は進んでいます。

管理職の役割において、生成AIが担うこと・もたらす変化

 人材育成や評価など、マネジャーの役割[図表]において生成AIはどのような変化をもたらすでしょうか。筆者がリクルートワークス研究所で実施した「生成AIが変えるマネジャーの役割と業務」プロジェクトにおいて、例えば生成AIは近い将来、以下のような役割を担うのではないかと整理しています。

※AIエージェントの活用などによって管理職の負荷が軽減できる可能性がありますが、筆者が行ったプロジェクトで検討の中心としていたのは生成AIであったため、以下では「生成AI」という表現に統一します

[図表]マネジャーの11の役割

図表1

資料出所:リクルートワークス研究所「生成AIが変えるマネジャーの役割と業務」プロジェクト報告書

①採用、②仕事の割り当て
 生成AIが、社内外の人材のスキル・経験からメンバー構成の提案を行うことで、目的や期待成果に基づいたプロジェクトを機動的に組成することが可能になると考えています。これが実現した場合、仕事で成果を出す上で必要な人材を見いだしやすくなると同時に、「自分が所管する組織」というような “組織の境界線” が曖昧になることにつながるかもしれません。また、今後は人材獲得のプロセスの多くを生成AIが担うようになるのではないかと思います。

③評価、④人材育成
 生成AIによって、メンバーの情報を日々の活動レベルで把握・分析することが可能になっていくと考えています。これにより、アセスメントとフィードバックのサイクルの短期化も進むのではないでしょうか。さらに、イベント的に行われることもあった評価や人材育成施策は、日常の業務完遂と一体的に運用されることになるかもしれません。
 また、メンバー自身が生成AIを活用して、基礎的な知識・スキルを適宜習得することができるようになり、マネジャーの役割として人材育成の重要度やこれにかける時間が減るのではないかと考えています。
 さらに、AIエージェントを用いることで、相棒やコンシェルジュ、または優秀なメンバーを得たときと同じような感覚で業務を進めることができるようになるかもしれません。いずれにせよ、今後は “管理職自身の力” と “AIを使いこなしてできること” の足し合わせが、管理職の総合力として判断されるようになるのではないでしょうか。

⑤メンバーの心身のケア、エンゲージメント
 生成AIの活用で仕事の基礎レベルが引き上がると、人のやる気や心身の状況がアウトプットを左右する側面が大きくなると想定されます。また、生成AIの活用による環境や業務の大きな変化がメンバーのストレスを生むこともあるでしょう。一方で、生成AIはこれらへの対応の一部を担うことにもなるのではないかと考えています。例えば、メンバーに合わせた動機づけの支援、メンバーのコンディションの変化発見などが、生成AIによりサポートでき得ることとして該当します。
 管理職においては、生成AIを活用しながら、メンバーがモチベーション高く働けるように、また、心身健やかに働けるように支援することになるのではないでしょうか。

⑥組織風土づくり
 生成AIの高度化そのものが大きな環境変化であり、組織や個人に対して変化対応の必要性をもたらすと想定したとき、管理職自身やメンバーが、その環境変化にいかに身を置いて対応していくかがより重要になってくると考えています。

⑦計画・企画立案、⑧業務進捗(しんちょく)管理、⑩例外処理・法対応、⑪業務の改善
 これらは生成AIが担える部分が特に大きい役割・業務なのではないでしょうか。判断や意思決定の手前までは、生成AIが担えるようになる可能性があります。また、メンバーの定常業務のモニタリングや進捗管理は、生成AIの高度化によって、これまでよりも正確に、かつリアルタイムまたは短時間でできるようになると考えられ、これは「③評価、④人材育成」でも述べたとおりです。

⑨関係構築
 生成AIが人材の探索を支援することにより、これまで出会えなかった人との関係構築の機会が増えていくでしょう。一方で、生成AIで得られる情報は他社やほかの人も入手しやすいと想定できるため、社内外の人とどのように関係を構築するかを考えることが管理職の役割として重要になるかもしれません。

 ここまで紹介した内容で、管理職のすべての役割・業務について、AIが代替したり、AIとともに行ったりすることになり、AIの影響を強く受けそうだという感想を持った方もいると思います。実際に筆者は、すべての役割について「人か生成AIか」の二者択一ではなく、AIとともに担うことになると考えています。
 また、管理職の役割の中で、時間的負荷や心理的負荷を感じていることについて、AIが役立つ存在になり得ることもお分かりいただけたと思います。

今後の管理職の役割

 本連載は「管理職の負荷軽減」をテーマとしていますが、管理職が何に注力することになるかを捉えることは、その「負荷軽減」の観点で重要だと考えています。そこで最後に、今後の管理職の役割はどうなっていくと考えているかをお伝えします。

(1)パフォーマンスとモチベーションのマネジメント
 今後、管理職は組織の成果を上げるためにメンバーに関わる活動への役割期待度が高くなり、そこにかける時間も長くなると考えています。メンバー個々人が組織から期待される役割を果たしているか、そのためのスキルを有しているかをアセスメント→メンバーにフィードバック→評価実施、という一連のサイクルは、すべて個人のパフォーマンスを上げるための関わりであり、それ自体が育成にもなります。
 このパフォーマンスマネジメントに大きく影響を与えるのが、メンバーのやる気やマインドです。管理職には、個々人の個性や状況などを深く理解し、メンバーそれぞれに応じた関わり方をしていくことが、より求められるでしょう。

(2)メンバーと自身の変化の機会の担い手となる
 生成AIの高度化への適応など、ビジネス環境や働き方の変化に対応する力を持てるような場と機会を、メンバーや組織、そして管理職自身に提供することができるかどうかで、今後の管理職の成否が変わるといっても過言ではないと思います。

(3)管理職の「人としての魅力」づくり
 今後大切になると考えられるのは、人材獲得や関係構築において、いかに管理職自身が組織や仕事の魅力を生き生きと語れるか、人として信頼されるかという点です。生成AIによってスキルが可視化され、マッチングがしやすくなっていくからこそ、人材獲得においても、協働のための関係構築においても、メンバーにとって「管理職自身が一緒に働きたい相手か」ということが重要になっていくと思います。自身のチャーム(人を()きつけ魅了する力)を磨くことが、管理職が役割を果たす上での武器となるのではないでしょうか。

 このように整理してみると、これからの管理職は業務進捗管理やモニタリングのような伝統的な管理能力に依存する役割が小さくなる一方、いかに未来を描けるか、スピード感を持って意思決定できるかに重心が移り、将来像を描くリーダーとしての個の能力・資質がより問われるようになると考えられるのではないでしょうか。

終わりに

 従来、管理職の業務負荷は「この仕事は本当に自分がしなければならないのだろうか」という意味での不明瞭さや、業務の集中といった “ムリ・ムラ・ムダ” から生まれている部分が多かったかもしれません。しかし、このような状況は、生成AIやAIエージェントの存在によって徐々に解消されていくように思います。
 一方で、今後は、連続した意思決定が求められるような、より重要な業務の割合が増えていくことが想定されます。これまでとは異なる種類の業務負荷に、管理職はこれからどのように向き合っていくべきでしょうか。
 この状況は、「管理職の業務負荷」という課題自体が、新たな観点で語られるべきテーマとして変化を遂げていることを示します。単なる “業務量的な負荷” と捉えきれないこの変化は、管理職の役割定義や登用要件そのものの在り方を変える契機となり得ます。また、これからの時代、こうして「管理職の業務負荷」とどう向き合うかを考えることは、管理職を支援する環境整備の在り方を変えていくことにもつながるのではないでしょうか。

プロフィール写真 武藤久美子 ぶとう くみこ
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
技術開発統括部 研究本部 組織行動研究所 主任研究員

2005年株式会社リクルートマネジメントソリューションズ入社。組織・人事のコンサルタントとしてこれまで150社以上を担当。「個と組織を生かす」風土・しくみづくりを手掛ける。専門領域は働き方改革、ダイバーシティ&インクルージョン、評価・報酬制度、組織開発、小売・サービス業の人材活躍など。働き方改革やリモートワーク、人事制度関連の寄稿多数。著書に『リモートマネジメントの教科書』(クロスメディア・パブリッシング)、『組織変革の教科書』(東洋経済新報社)がある。