2026年09月25日掲載

Point of view - 第308回 岩田健一 ― 経営理念と数字をつなぐOKR

岩田健一 いわたけんいち
岩田事務所 代表

組織開発コンサルタント、特定社会保険労務士、CFP®・1級ファイナンシャルプランニング技能士、キャッシュフローコーチ。心理学科卒業後、信用金庫、調剤薬局経理・労務職を経て2014年開業。真の悩みに寄り添い安心を与えるコンサルティングで、会社の成長と社員の幸せの両立を実現する。社長コーチングでビジョンと経営数字に基づく納得の経営判断をサポートし、理念策定、OKR導入、1on1導入等の組織開発で “人がイキイキ働き、成果が上がり続ける組織づくり” を伴走している。

導入-経営理念とビジョンは、なぜ数字と分断されるのか

 多くの企業が経営理念を掲げ、中期経営計画で売り上げや利益の目標を語る。ところが実務の現場では、「経営理念・ビジョン」と「経営数字」が別々に扱われることが少なくない。理念は理念、数字は数字で個別に管理され、両者の間にある「人と組織の活動」が空白地帯になりがちである。
 筆者は、この「ビジョン」と「数字」をつなぐ仕組みとしてOKR(Objectives and Key Results)に注目している。OKRは単なる目標管理手法ではない。定性的なビジョンと定量的な経営数字を、同じ目標体系の中で扱える点に真価がある。
 本稿では、経営理念の定義から経営数字、OKRの運用、さらには人と組織の成長に至るまでを一気通貫で論じていく。

1.経営理念では飯は食えない。しかし、経営理念なくして繁栄はない

[1]経営理念を構成する3要素
 筆者は、経営理念を「ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)の3要素で構成され、会社や組織のあるべき姿を示した文章類」と定義している。

・ミッション
「私たちは何のために存在するのか」という存在意義や目的、使命、社会的責任を言語化したもの

・ビジョン
「どんな会社・未来を実現したいのか」という、例えば3~5年後の「中長期的になりたい姿」を描いたもの

・バリュー
「すべての判断のよりどころとなる価値観・行動基準」

 一言で整理すれば、ミッションは存在意義、ビジョンは実現したい未来、バリューは判断・行動の基準であり、本稿では、この三つを合わせて経営理念と呼ぶ。

[2]経営理念が経営に及ぼす影響
 筆者は「経営理念では飯は食えない。しかし、経営理念なくして繁栄はない」と考えている。経営理念を掲げただけで売り上げや利益が生まれるわけではない。一方、経営理念には自社が過去の経験から学んだ「経営上の教訓」という側面があり、経営判断、採用、組織づくり、人材育成、評価、商品・サービスの差別化、ブランディング、ステークホルダーからの共感と協力、有事におけるリスク回避、従業員の主体的な意思決定など、さまざまな場面に影響する。その判断の積み重ねがその会社「らしさ」をつくり、長期的な繁栄につながると考える。

[3]先行研究に見る理念とビジョンの関係
 米国の経営学者であるジム・コリンズとジェリー・ポラスは著書『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』(日経BP)で、永続する企業の重要な特徴として「基本理念を維持し、進歩を促す」考え方を示した。また両氏はHarvard Business Review誌上で、Visionを「Core Ideology(基本理念)」と「Envisioned Future(実現したい未来)」に分け、前者をCore Purpose(中核となる目的)とCore Values(中核となる価値観)で構成した。この分類は本稿の定義と同一ではないが、Core Purposeはミッション、Core Valuesはバリュー、Envisioned Futureはビジョンに近い概念といえる。
 重要なのは、「変えてはならないもの」と「時代に応じて変化させるもの」を分けることである。ミッションやバリューは普遍的な軸となるのに対し、ビジョンは中長期でどこまで進みたいのかを描く役割を果たす。

[4]経営理念と業績の関係をめぐる実証研究
 ただし、「経営理念を掲げれば業績が向上する」という単純な因果関係が実証されているわけではない。ミッション・ステートメントと財務業績に関するメタ分析では、軽微ではあるが正の相関が報告されているものの、研究ごとの差も大きい。また、企業パーパスに関する研究では、パーパスへの信念そのものは財務業績と直接関連しないとされている。一方で、「パーパスへの信念」と「経営陣が示す方向性の明確さ」がともに高い企業では、将来的な業績向上との正の相関が報告されている。

[5]経営理念を判断と行動に結びつける
 大切なのは、経営理念を掲げるだけでなく、それを日常の判断と具体的な行動へ落とし込むことである。ミッションやバリューは経営判断の軸となり、ビジョンは進むべき方向を指し示す。経営理念そのものが利益を生むわけではない。しかし、経営理念を日々の行動に接続することこそが、長期的な繁栄への道を開くと筆者は考えている。
 では、抽象的なビジョンをいかにして具体的な目標や日々の仕事に接続すべきか。そこに、OKRを取り上げる理由がある。

2.経営数字の裏側には、人と組織の活動がある

[1]経営数字は活動の結果である
 経営理念が経営上の判断における教訓であるとすれば、経営数字はその判断が導いた結果である。経営理念を実現するために経営戦略やビジネスモデルを構築し、人と組織がそれを実行する。その活動の積み重ねが経営数字として表れるのであり、決算書は、いわば会社の「通知表」といえる。

[2]「お金のブロックパズル図」というフレームワークで得られる視点
 筆者が実務で活用しているフレームワークが、 一般社団法人日本キャッシュフローコーチ協会代表理事の和仁達也氏が提唱する「お金のブロックパズル図」である。これは、一定期間内に会社に入るお金と出るお金を図式化し、売り上げ、変動費、粗利、固定費(人件費・その他固定費)、利益、税金、借り入れ返済などの流れを1枚で示す図である。
 これを用いることで、根拠ある売り上げ目標や適正人件費などの設計が容易になり、社員とのコミュニケーションツールにも使える。
 和仁氏は著書『年間報酬3000万円超えが10年続く コンサルタントの経営数字の教科書』(かんき出版)で、お金のブロックパズル図を「会社の組織図」として見る視点を提示している。

[3]経営数字と組織活動の対応関係
 筆者は「経営数字はビジネスモデルがもたらす結果であり、その結果を生み出すのは人と組織の活動である」と整理している。例えば、数字と現場活動は以下のように結びつけて考えられる[図表1]。

・客数の増加=営業・マーケティング部門の活動

・客単価の向上=商品・サービス開発部門の活動

・リピート率の向上=アフターフォロー部門の活動

・調達コストの改善=調達部門の活動

・適正な人件費管理=人事部門の活動

・その他固定費の管理=経理・財務部門の活動

[図表1]お金のブロックパズル図と組織活動

図表1

資料出所:和仁達也『お金の流れが一目でわかる! 超★ドンブリ経営のすすめ 社長はこの図を描くだけでいい!』『年間報酬3000万円超えが10年続くコンサルタントの経営数字の教科書』を基に筆者が整理したもの

 このように経営数字を結果として捉えるならば、次に問うべきは「その結果を生む活動を、どのように経営理念やビジョンと結びつけるか」である。この橋渡しの仕組みとして、筆者はOKRを位置づけている。

3.ビジョンと数字をつなぐOKR

[1]OKRとは何か
 OKRは「Objectives and Key Results」の略である。筆者はObjectiveを「目的・実現したい状態」、Key Resultsを「その実現度を測定する成果指標」と捉えている。OKRの最大の特徴は、定性的なビジョンと定量的な数字を、同じ目標体系の中で扱える点にある。
 例えば、ビジョンとして「地域No.1の繁盛ラーメン店」と掲げたとしよう。これは目指すべき未来として重要だが、それだけでは「当四半期において何を実現すれば、その未来に近づけるのか」が分からない。そこで、四半期ごとのObjectiveを掲げた上で、Key Resultsとして「平日ランチに10人以上の行列を作る」「口コミサイトの平均評価4.5以上を維持する」といった具体的な成果指標を設定する。

[2]OKR運用がもたらす二つの利点
 OKRの運用では、一つのObjectiveに対して3~5個程度のKey Resultsを設定し、全社から部門、チーム、個人へと階層的につなげて、組織全体で共有する。筆者は、この構造には組織にとって二つの利点があると考えている。
 一つ目は、全社目標と個人目標の統合である。従来の目標管理制度では、個人目標と全社目標が連動していないことが多い。OKRでは、全社から個人まで目標を関連づけることで、「自分の目標達成が会社全体のどの目標に貢献するのか」を各人が明確に自覚できるようになる。
 二つ目は、ほかのメンバーの目標達成に向けた支援の促進である。OKRを組織全体で共有すれば、誰がどのような目標に掲げ、挑んでいるのかが可視化される。ほかのメンバーの目標も全社目標とつながっているため、部門や職種を越えて互いに助け合う風土が醸成される。

[3]ビジョンから経営成果への接続
 重要なのは、ビジョンそのものを安易に数字に置き換えてはいけないという点である。ビジョンは、数字には還元しきれない「あるべき姿」だからだ。
 筆者は、経営理念から最終的な成果に至るまでを、次のような流れで整理している[図表2]。

経営理念(MVV)→ ビジョン → Objective → Key Results → 組織・個人の具体的な活動(ToDo)→ 経営成果(経営数字)

[図表2]MVVからOKRへ——ビジョンと数字をつなぐ全体像

経営理念を起点に、人と組織の力で持続的な成果をつくる

図表2

 つまりOKRは、ビジョンを実行可能な短期目標に翻訳し、その実現度を数字で確認する仕組みである。上記2.で見た客数、客単価、リピート率、人件費、固定費などの経営数字や、それらを左右する指標はKey Resultsの候補になり得る。
 前述の『ビジョナリー・カンパニー』の表現を借りれば、ミッションやバリューという「守るべき核」を持ちながら、ビジョンに向かって「進歩を促す」。OKRは、その進歩のプロセスを四半期などの具体的な目標へ落とし込むための仕組みの一つと位置づけられる。

[4]OKR導入の効果と限界
 近年、企業を対象としたケース研究でも、OKRが社内コミュニケーション、情報の透明性、従業員への権限委譲、部門横断の協働などを通じて、戦略実行を推進する可能性が報告されている。ただし、OKRを単に導入するだけで自動的に業績が向上するわけではない点に留意する必要がある。

4.OKRはStructureとRelationを強化する

[1]「SSR理論」による組織分析
 OKRを組織に定着させる上で筆者が参照しているのが、組織開発コンサルタントの石見幸三氏が提唱する「SSR理論」である。SSRとは、成果を上げるチームづくりに必要な三つの力のことである。

・Strength(人材力)
一人ひとりの強みを最大限に引き出す力

・Structure(組織力)
目的・目標、経営理念、ビジョン、戦略、ルール、役割分担など、組織として決定すべき事項を明確化・共有化する力

・Relation(関係力)
Structureで決めた目的や目標を実現するためのコミュニケーションの力

 SSR理論では、この三つをStrength → Structure → Relationの順に循環させながら、段階的に高めていくことが推奨される。

[2]OKRによる組織基盤の強化
 筆者は、OKRによって目的、目標、責任者、責任範囲が明確になることでStructure(組織力)が強化され、さらに後述する運用イベントを通じて進捗(しんちょく)共有、相談、問題解決、成果の承認といった対話が増えることでRelation(関係力)が高められると考えている。
 つまり、OKRのフレームワーク自体がStructureを強固にし、そのR運用プロセスがRelationを深めるという相乗効果を生み出すと筆者は理解している[図表3]。

[図表3]OKRはSSRの「Structure」と「Relation」を強化する

図表3

資料出所:石見幸三『最強のチームビルディング技術が身につく レベル別 課長養成講座』(秀和システム)P155~160を参考に筆者作成。OKRとSSRの関係は筆者の考察

5.OKRは「設定」ではなく「運用」で組織を動かす

[1]五つの運用イベント
 筆者は、OKRの価値は目標設定後の運用イベントの積み重ねに現れると考えている。主なイベントは五つある。

① 週初めの「チェックイン」
全社・部門のOKRを確認し、今週取り組むタスクを宣言する。四半期目標と「今週のタスク」を同期させる場である

② 週末の「ウィンセッション」
今週達成できたことや進展したこと、成果を全員で共有し、たたえ合う。目標管理制度では未達成の原因追求に目が行きがちだが、それだけでは目標に向かう推進力を維持できない。筆者は、毎週目標を確認し、小さな前進をともに祝うことこそが、組織の一体感とモチベーションの維持につながると考えている

③ 月次の「コンフィデンスミーティング」
Key Resultsの責任者が達成への自信度を10点満点で自己評価・報告する。自信度が2~4点程度の低いKey Resultsに対しては、早期に問題解決の打ち手を講じる

④「四半期中間チェックイン」
各四半期の折り返し時点で進捗を確認し、残りの期間での打ち手を再検討する

⑤「四半期結果レビュー」
四半期の終わりに最終的な達成状況と得られた学びを振り返って、次期のOKR設定につなげる

 これらの運用イベントを通じて、OKRは単なる管理手法にとどまらず、「目標設定→実行→進捗確認→対話・問題解決→振り返り→修正→再実行」というサイクルを回す仕組みへと進化する[図表4]。

[図表4]OKR運用イベントの循環

図表4

[注]イベント名・運用方法は筆者の実務で用いている例

[2]戦略実行との接点
 この考え方は、戦略コンサルタント・経営学者の清水勝彦氏の著書『戦略と実行 組織的コミュニケーションとは何か』(日経BP)とも接点を持つ。清水氏は同書で、戦略を企業の未来に関する「仮説」と捉え、その実行を通じて顧客や競合からのフィードバックを得ながら、仮説を検証し、誤りを正してより精度の高い仮説へ組み替えていくプロセスの重要性を説いている。
 清水氏自身がOKRについて論じているわけではないが、筆者は、この「仮説を実行しながら検証し、修正する」という営みは、OKR運用イベントを日常のマネジメントに組み込むことで体現できると考えている。

6.業績と人・組織の成長を両立する

[1]経営管理と人事管理の接続点
 最後に、この考え方を経営管理と人事管理の関係から整理したい。
 目標管理は、経営管理と人事管理をつなぐ「センターピン」の役割を果たす。経営管理の領域には、経営理念、経営戦略、経営組織、業績管理などがあり、人事管理の領域には、役割・等級制度、人事評価、賃金管理、能力開発などがある。その両者を接続すると、次のように整理できる。

経営理念 → ビジョン → 経営戦略 → OKR → 組織・個人の目標 →役割・行動 → 評価・能力開発 → 人の成長 → 次の目標

 OKRは、ビジョンを起点とする「経営管理」と、日々の役割・評価・能力開発という「人事管理」を結ぶ接続点として機能する。これは筆者独自の整理であり、確立された理論という意味ではない。
 この整理の先に見据えることができるのは、業績の持続的拡大と、管理職や社員の成長を同時に実現する組織である。

[2]「学習する組織」との接点
 米国の経営学者ピーター・M・センゲは『学習する組織 システム思考で未来を創造する』(英治出版)で、「自己マスタリー」「メンタル・モデル」「共有ビジョン」「チーム学習」「システム思考」という五つのディシプリン(修練し続けるべき対象)を示している。センゲ自身がOKRを論じているわけではないが、Objectiveをめぐってビジョンを語り合い、運用イベントを通じてチームで対話し、進捗を振り返る一連のプロセスは、この「学習する組織」に通じると筆者は捉えている。

[3]業績と人の成長が循環する組織へ
 筆者が最終的に主張したいのは、次の循環である。

1.挑戦的な目標を目指すことで、業績が伸長する

2.目標への挑戦を通じて、人が成長する

3.成長した人材が、より高い目標に挑戦する

4.その結果、企業がさらに成長する

 OKRは、この循環の起点として、ビジョンと数字をつなぎ、高い目標を設定し、対話と実行と続ける役割を担う。
 経営理念だけでは飯は食えない。しかし、経営理念とビジョンを具体的な数字と人・組織の活動へと結びつける仕組みがあれば、業績の向上と管理職や社員の成長を両立する組織が実現できる。これこそが、筆者がOKRに期待を寄せる理由である。

【参考文献・出典】

・ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス著、山岡洋一訳『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則』(日経BP、1995年)

・Collins, J. C., & Porras, J. I. (1996). “Building Your Company’s Vision.” Harvard Business Review, September–October 1996.

・Desmidt, S., Prinzie, A., & Decramer, A. (2011). “Looking for the value of mission statements: A meta–analysis of 20 years of research.” Management Decision, 49(3), 468–483.

・Gartenberg, C., Prat, A., & Serafeim, G. (2019). “Corporate Purpose and Financial Performance.” Organization Science, 30(1), 1–18.

・和仁達也『お金の流れが一目でわかる! 超★ドンブリ経営のすすめ 社長はこの図を描くだけでいい!』(ダイヤモンド社、2013年)

・和仁達也『年間報酬3000万円超えが10年続く コンサルタントの経営数字の教科書』(かんき出版、2017年、P264~265)

・石見幸三『最強のチームビルディング技術が身につく レベル別 課長養成講座』(秀和システム、2023年、P155~160)

・Wowerath, C. (2026). “Engaging the entire organization: How OKRs enhance integrative strategy implementation.” Journal of Business Strategy, 47(1), 52–70.

・清水勝彦『戦略と実行 組織的コミュニケーションとは何か』(日経BP、2011年)

・ピーター・M・センゲ著、枝廣淳子・小田理一郎・中小路佳代子訳『学習する組織 システム思考で未来を創造する』(英治出版、2011年)