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土肥優扶馬 どひ ゆうま 大阪教育大学大学院修了。会社員として働く中で、読書によって人生や働き方の選択肢が広がった経験から、InstagramやYouTubeなどで本の要約と学びを発信している。発信歴は約6年、SNS総フォロワー数は20万人を超える。著書に『賢者病 考えすぎて動けないがなくなる本』(サンマーク出版)がある。 |
「賢者病」だった私が動き始めるまで
私は現在、読書インフルエンサーとして、InstagramやYouTubeなどで本の要約や、読書から得た学びを発信している。発信を始めて約6年になり、SNSの総フォロワー数は20万人を超え、書籍を出版する機会にも恵まれた。
このように書くと、以前から明確な目標を持ち、計画的に現在の仕事を築いてきたように見えるかもしれない。しかし、最初から「読書を仕事にしよう」「発信者になろう」と考えていたわけではない。
もともと私は会社員として働いていた。与えられた仕事に取り組み、求められる役割を果たす一方で、「自分は本当は何をしたいのか」「これからどのように働きたいのか」という問いに、明確な答えを持っていなかった。
組織では担当業務や達成すべき目標が示される。それは会社員として働く利点である。しかし、用意された仕事や目標に応えることだけが続くと、自分で問いを立て、選ぶ機会が少なくなることもある。私自身も、目の前の仕事をこなすうちに受け身になり、仕事を通して何を身に付けたいのか、自分の力を将来どう生かしたいのかを考える余裕を失っていた。
私は、考え過ぎることでかえって動けなくなる状態を「賢者病」と呼んでいる。何かを始めようとすると、「もっと知識を身に付けてからのほうがよい」「失敗したらどうしよう」「自分より詳しい人がいる」と考えてしまう。慎重さは大切だが、正しい答えを求めるあまり一歩も動けなくなると、考えることが行動を避ける理由になってしまう。
かつての私も、自分らしい仕事をしたいと思いながら、自分に何ができるか分からなかった。やりたいことを見つけてから動こうとしても、その「やりたいこと」が見つからない。正解を出してから行動しようと考えるうちに、時間だけが過ぎていった。
その状態から抜け出すきっかけの一つが読書だった。本を通して、自ら仕事をつくった人や、試行錯誤しながら人生を変えた人の考えに触れた。目の前にある道だけが唯一の正解ではないと気づいたのである。ただし、本を読んだだけで人生が変わったのではない。そこで得た気づきを基に、小さく動いたことで変化が始まった。
自分の軸は行動と振り返りから育つ
約6年前、私はInstagramで本の要約や、読書から得た学びの発信を始めた。当初から大勢の人に読まれたわけではない。何を伝えればよいのか、どう表現すれば届くのか、分からないことも多かった。それでも完璧な答えを求めず、一つずつ発信を続けた。
やがて発信を待ってくれる人が増え、SNSの総フォロワー数は20万人を超えた。さらに、自分が悩んできた「考え過ぎて動けない」という問題を、一冊の本として届ける機会にもつながった。
初めから自分の強みを理解していたわけでも、将来の姿を描けていたわけでもない。興味を持ったことを小さく始め、行動と修正を繰り返す中で、自分の得意なことや届けたい価値、つまり自分の軸といえるものが見えてきたのである。
「自分の軸」と聞くと、揺るがない信念や明確な将来像を持たなければならないように感じるかもしれない。しかし、自分の軸は最初から完成した形で存在するものではないと私は考えている。
興味を持ったことを調べる。小さく試す。人から反応をもらう。そして、「何がうまくいったか」「自分はどう感じたか」を振り返る。こうした経験を重ねる中で、自分が大切にしたいことや、力を発揮できる場所が少しずつ分かってくる。
個人で仕事をするようになり、自分で物事を選ぶことの責任も知った。誰に何を届けるのか、そのために何を学び、どう行動するのかを自分で決めなければならない。仕事を待つだけでは何も始まらない。相手が何を求めているかを考え、自分にできることを伝え、信頼を積み重ねる必要がある。同時に、会社員時代は組織の仕組みや周囲の人に支えられていたことにも改めて気づいた。
「個人の力」とは、一人ですべてを成し遂げる能力ではない。できることとできないことを理解し、必要なときには周囲の力を借りながら、自分で選択して前に進む力である。そして、自分のやりたいことを、相手や組織、社会にとっての価値へ変える力でもある。
もちろん、誰もが独立したり、発信者になったりする必要はない。会社員であっても、自分は何を大切にしたいのか、どのような仕事にやりがいを感じるのか、何を学びたいのかという問いを持つことで、与えられた仕事にも自分なりの意味を見いだしやすくなる。
人材育成に必要な「小さく試せる余白」
企業では、社員の主体性やキャリア自律の重要性が語られている。しかし、私の会社員時代の経験や、多くのビジネス書・自己啓発本を読み、紹介してきた立場からすると、本人に「主体的に行動してほしい」と伝えるだけでは、主体性は生まれない。主体性は、自分で考え、選び、試す経験の中で育つものだからである。
失敗できないと感じる環境では、社員も「賢者病」に陥りやすい。正解を出さなければならない、十分な準備をしてから提案しなければならないという意識が強いほど、最初の一歩を踏み出しにくくなる。
人材育成では、研修で知識や技能を教えることに目が向きやすい。しかし、学んだ内容を行動に移し、その結果を振り返るところまで含めて全体を人材育成と位置づけるべきであるし、そうすることで初めて学びが本人の力になるのではないだろうか。
例えば研修後に、「何を学んだか」だけでなく、「明日から何を一つ試すか」を考えてもらう。一定期間後に、成功か失敗かだけで評価せず、試したことで何が分かったかを振り返る。また、定期的な面談で、担当業務に限らず、関心のあるテーマや挑戦してみたいことを尋ねる。このような小さな工夫が、社員が自分の軸を見つける助けになる。
私の場合、最初の一歩は、読書で得た学びをInstagramに投稿することだった。人によっては資格の勉強、社外の人との交流、副業、新しい社内プロジェクトへの参加かもしれない。一見すると現在の仕事に直結しない取り組みでも、視野を広げ、隠れていた強みを見つけるきっかけになる。
人事担当者や管理職が、社員に代わってキャリアの答えを用意する必要はない。むしろ、「どのようなことに興味があるのか」「何をしているときに力を発揮できるのか」「まず小さく試せることは何か」と問い掛け、本人が考え、行動できる余白をつくることが大切ではないだろうか。
その際、目に見える成果をすぐに求め過ぎないことも重要である。小さな挑戦には、うまくいかないこともある。しかし、経験から自分の得意・不得意を知り、次の行動を選ぶことも成長の一部である。
社員が自分の軸を持つことは、組織から気持ちが離れることと同じではない。自分の意思で仕事に向き合い、その意味を理解して取り組む社員が増えることは、組織にとっても価値がある。個人の成長と組織の成長は、本来対立するものではないはずだ。
私も、最初から自分の軸を持っていたわけではない。読書を通して外の世界を知り、小さな発信を始め、それを続けることで、少しずつ自分の道が見えてきた。
考えたから動けたのではない。小さく動いたからこそ、新たに考えるための材料を得ることができたのである。
自分の軸を持って働くことは、特別な才能を持つ人だけができることではない。「今の働き方を、自分自身で選んでいるだろうか」と自らに問い掛け、完璧な答えを待たなくても、今日できる小さな行動を一つ選ぶことから始まるのだ。
