2026年07月10日掲載

Point of view - 第303回 高橋暁子 ― なぜ新人は「電話恐怖症」なのか? ~理由と企業がすべき対策は

高橋暁子 たかはし あきこ
ITジャーナリスト
成蹊大学特別客員教授

SNSや情報リテラシー教育が専門。スマホやインターネット関連の事件やトラブル、ICT教育事情に詳しい。『若者はLINEに「。」をつけない 大人のためのSNS講義』(講談社+α新書)、『スマホで受験に失敗する子どもたち』(星海社新書)など、書籍は単著・監修を含め30冊以上。NHK『あさイチ』『クローズアップ現代+』等テレビ出演多数。元小学校教員。教育出版の中学校国語の教科書にコラム掲載。

 「新入社員がかかってきた電話に出ない。絶対に出ないので、仕方なく仕事に追われる上司が出ている」——こんな話をよく聞く。電話が苦手な若者は多く、会社でもかかってきた電話にうまく出られなかったり、出るのを避けたりする傾向にあるようだ。背景と若者の感覚について解説するとともに、企業ができる対策について見ていきたい。

「電話が苦手」は若者世代に多い

 「自宅に固定電話がない」ことが珍しくなくなっている。マーケティング・リサーチ会社のクロス・マーケティングが実施した「電話での声と文字のやり取りに関する調査(2024年)」によると、自宅に固定電話があり通話もしている人は17.7%である一方、固定電話が自宅にない人は43.8%と、なんと4割超に上る。
 なお、自宅での固定電話の所有状況は年代が若いほど低く、通話での利用も減少傾向にある。若者が1人暮らしを始める際などには、固定電話をあえて引かず、スマホで済ませているというわけだ。
 電話やスマホでのコミュニケーションはメールやSNSなどのテキストと通話のどちらが多いかについて聞いたところ、20〜50代のすべてで「テキストでのやりとりが多い」が半数を超えており、通話でのやりとりの機会が減少していることが分かる。その結果、「電話で話すことが苦手」という回答の割合は20〜40代で高くなっている。若者世代は、電話で話すことを苦手とする「電話恐怖症」の傾向が強いのだ。
 若い世代の中には、電話を嫌い、連絡ツールを限定している人も少なくない。ある20代女性は、「連絡はXのDM(ダイレクトメッセージ)で。電話には出ません」と公言している。「電話をかけてこられると集中が途切れてしまって業務効率が悪い。ずっとオンラインだからDMのほうが早く連絡がつく」そうだ。これは少々極端ではあるが、上の世代とは感覚が異なってきていることが分かる例といえるだろう。
 そもそも、固定電話契約数は年々減少し続けている。NTTによると、ピークの1997年11月には固定電話の契約数は6322万あった。ところが携帯電話やスマホの普及により、固定電話を設置せず、携帯電話やスマホだけという家庭が増加した。2025年3月には、ピーク時の約6分の1にまで減っている状態だ。

LINEの普及、固定電話経験の減少が影響

 なぜ若者世代は、「電話恐怖症」となっているのだろうか。
 背景にあるのは、固定電話経験の乏しさだ。携帯電話やスマホがなかった時代は、用事がある場合には固定電話にかけ、相手を呼び出してもらうことが当たり前だった。電話に出るときの言葉遣いもその際に覚えたし、遅すぎる時間にかけて叱られるといった失敗から学ぶことも多かった。
 ところがスマホや携帯電話が普及したことで、相手に直接連絡できるようになった。同時に、個人情報保護の観点などから学校から電話連絡網も消え、固定電話をかける機会は徐々になくなっていった。
 さらに近年、詐欺電話や勧誘電話が増加し、誰からかかってくるか分からない電話は警戒されるようになってきている。詐欺対策として「誰からか分からない電話は出ない」ことが推奨されており、実際に出ない人も増えている。知らない人と話す電話への苦手意識は、このあたりも影響していそうだ。
 また若者世代は、LINEやSNSのDMでのやりとりが当たり前の中で育ってきている。送るタイミングや時間帯を気にせず気軽に送れるLINEに慣れてしまうと、通話へのハードルはさらに上がる。
 つまり、利用経験が減少し、苦手意識が重なり、ほかの便利なツールに慣れたことで、電話が不慣れで苦手とする若者が増えたというわけだ。

電話・メールの新人研修やマニュアルが必要

 電話を苦手とする若者世代が増えた一方で、電話は相変わらずビジネスの主要なコミュニケーションツールの一つだ。公式の連絡や記録に残したい場合などはメールを使用するが、急ぎの連絡や詳細を説明したいときなどには、やはり電話は欠かせない。苦手だからといって、使わないのではビジネスは成り立たない。
 若者世代が会社の電話に出ない理由は、「何と言って出ればいいか分からない」「何を聞けばいいか分からない」からだ。電話に出る際には社名と名前を名乗り、相手の所属と名前、用件を聞いてメモするという基本を押さえた上で、新人研修として電話に出る練習をするといいだろう。
 なお、新入社員世代はメールの経験も少なく、件名、相手の所属と名前を記載の上、挨拶をして名乗り、用件の後に結びの挨拶、署名が必要——などのメールのルールも身に付けていないことがある。ビジネスメールについても、改めて新人研修で取り上げるようにすると安心だ。
 若者世代は、「自分の知識で正しく回答できるか」「上司にうまく取り次ぎできるか」などの不安から、電話に出られないことが多いようだ。電話やメールなどの基本ルールが確認できるマニュアルを用意し、質問や相談をしやすくすることで、そのような不安を取り除けるのではないだろうか。ぜひ、参考にしていただければ幸いだ。