寺前総合法律事務所 パートナー弁護士
岡崎教行
今回は、就業規則において、従業員としての資格喪失の場面、具体的には退職と解雇に関する条文をどのように定めるかについて検討します。
退職(定年退職および再雇用を含む)
[1]退職事由
従業員が退職する場合としては、一定の事象(退職事由)が発生したときに当然に退職の効力が発生するものと、意思表示により退職の効力が発生するものとがあります。それらについて個別に定めておく必要があります。
意思表示による場合としては、従業員と企業との間で退職の合意が成立した「合意解約」と、従業員から一方的に労働契約を解約する意思表示がなされた「辞職」が典型例です。
他方で、一定の事象が発生した場合としては、従業員が死亡した場合や行方不明になった場合が典型的に挙げられます。そのほか、定年退職や、休職期間満了による退職を就業規則上で掲げている企業も数多くありますが、企業によっては、「定年解雇」「休職期間満了解雇」とするところもあります(第4回では、休職期間満了により解雇とすることもあり得るのではないかという問題提起をしました)。このように、就業規則に記載される退職事由にはさまざまなパターンがありますが、一般的なものが、以下の規定例です。
[具体例1]
(退職)
第●条 従業員が次の各号の一に該当するときは退職とする。
① 死亡したとき
② 退職を願い出て承認されたとき
③ 退職を願い出て2週間を経過したとき
④ 定年に達したとき
⑤ 休職期間が満了しても復職できないとき
⑥ 会社に連絡なく、欠勤して2週間が経過し、会社が所在を知らないとき
2号が退職の合意であり、3号が辞職の意思表示を意味しています。
一方で、当職は過去に、人事評価で毎年の個人目標を達成できなかった場合に自然退職とできないかという相談を受けたことがあります。イメージとしては、以下の規定例です。
[具体例1の追記案]
(退職)
第●条 従業員が次の各号の一に該当するときは退職とする。
①〜⑥(略)
⑦ 毎年の個人目標を達成できなかったとき
この点について、近時、参考になる裁判例として日本生命保険相互会社事件(東京地裁 令7.8.15判決 労経速2606号3ページ)があります。この事案では、期間の定めのない雇用契約を締結していた従業員について、営業成績が一定の基準に達しなかったことから雇用契約が終了とされました。本件の雇用契約書と就業規則には以下の記載がありました。
[雇用契約書の記載]
第8条
1 本契約締結後の本人の資格については、営業職員就業規則に定める選考を行った上で決定し、本人に通知する。
2 前項に定める資格選考において、本人の活動成果等が、営業職員就業規則に定める基準に達しない場合には、選考月の前月末をもって、営業職員としての資格を失い、本契約は終了する。
[就業規則の記載]
第43条の2(雇用契約の終了)
営業職員の資格選考において、本人の活動成果等が一般拠点営業職員規程その他の規程に定める基準に達しない場合には、選考月の前月末をもって営業職員としての資格を失い、会社と営業職員の締結する雇用契約が終了する。
この定めに基づいて雇用契約を終了とした措置について、裁判所は「本件雇用終了扱いは、原告の営業成績が一定の基準に達しないこと、すなわち、営業成績が不良であることを理由として、原告の意思に反して本件雇用契約を一方的に終了させるものであって、状況としては労働者の能力不足による解雇に類似する。加えて、(中略)原告の営業成績が本件職選基準を達成していない場合であっても、被告は、コロナウィルス感染症が蔓延する状況下や特認申請の承認がされたときには本件終了規定を適用せず、本件雇用契約を終了させることはなかったのであるから、本件雇用契約の終了については、被告による一定の裁量的判断が介在しているというべきであって、本件終了規定の効果によって本件雇用契約が常に当然に終了するともいえない。したがって、本件雇用終了扱いにも解雇権濫用法理は適用され、本件雇用契約を終了させるには、客観的に合理的な理由及び社会通念上の相当性を要すると解するのが相当である」としました。
そして裁判所は、規定自体については、「保険営業を行う営業職員の賃金の大部分は、営業成績等に基づく歩合給の性質を有した諸手当等によって構成され、また、営業職員は相当の裁量をもって営業活動を行っていたことからすれば、営業職員は保険営業により一定の水準の売上を挙げることが求められていたといえるところ、被告は、営業成績の如何にかかわらず、基本給及び最低賃金を保証するための最低保証手当を支給することとしているのであるから、所定の期間内に一定の営業成績を達成できないことを理由として雇用契約の終了を定める本件終了規定に合理性・必要性がないとはいえない。したがって、本件終了規定について、その全部が公序良俗に反して無効であるということはできないが、かかる規定を適用して雇用契約を終了させるに当たっては、上記のとおり客観的合理的理由及び社会的相当性を要すると解すべきであり、本件終了規定は、その趣旨を定める限りで有効と解されるものというべきである」としています。
つまり、実質的に解雇であるから、解雇が有効と判断される限りにおいて当該定めは有効であるとしているわけで、そうなると結局、自然退職としての効力は持っていない、つまりは、人事評価の結果によって自然退職とする定めは意味がないと言っているのではないかと考えます。
当職としても、個人目標を達成できなかった場合に雇用契約を終了するのは、本来は解雇の問題であり(もちろん解雇できるかどうかは別問題)、自然退職とすることについては、労働契約法(以下、労契法)7条で求められる就業規則の内容の合理性を満たすのが難しいと思われますので、現時点では、退職事由には入れないほうがよいと考えています。
[2]行方不明の場合の退職の取り扱い
まれに従業員が突然いなくなるということがあります。この場合に備えて、所在不明となって一定期間が経過したときには当然に退職とする規定を入れておく必要があります。当該定めがないと、従業員が所在不明となった場合、会社としては、無断欠勤を理由に解雇せざるを得ません。しかし、解雇は、その意思表示が従業員に到達しないと効力が発生しませんので、所在不明の場合には解雇の意思表示が到達せず効力が発生しないことになります。解雇ができないとなると、従業員の身分は継続することになりますので、社会保険料等を企業が納めなければならない事態になってしまいます。
これを避けるための方法として、裁判所に申し立てて、公示送達という手続きを取ることがあります。これは、意思表示が到達しない場合に、一定の手続きを踏むことで意思表示が到達したとして扱うものです。ただ、公示送達の申し立てに当たっては、相手方の所在の調査等を行う必要があり、手間がかかります。
したがって、企業としては、行方不明による当然退職の条項を就業規則に盛り込んでおくことは必須であると考えます。
過去に相談のあった企業で、従業員が行方不明となり、就業規則に行方不明に関する条項がなく、やむなく公示送達を行ったというケースがありました。また、従業員の親族から退職願を受け取って、退職処理を行うこともあるようですが、それは法的には有効ではありません。
なお、行方不明によって当然退職となるまでの期間について、法令上の定めはありませんが、14日、20日、1カ月などが多い印象です。
[3]定年退職および再雇用
当職が推奨している定年退職および再雇用の規定は以下のとおりです。
[具体例2]
(定年退職および再雇用)
第●条 従業員の定年は満60歳とし、定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
2 定年退職する従業員が定年退職後の再雇用を希望する場合は、定年の時点で、解雇事由または退職事由に該当する場合を除き、再雇用し、原則として65歳まで雇用を更新する。
3 定年後に再雇用を希望する従業員は、定年退職の3カ月前までに所定の様式により再雇用の申し出をしなければならない。
4 再雇用の対象者については、雇用期間1年の有期雇用契約で再雇用する。
5 会社は、①契約期間満了時の業務量、②勤務成績・勤務態度、③本人の能力、④健康状態、⑤会社の経営状況等を勘案し、再雇用後の契約更新の有無を判断する。
6 定年退職後再雇用者の賃金、就業時間、休憩、休日、休暇等の労働条件については、同人の能力、担当職務、勤務形態等を踏まえ、契約の都度、個別に決定するものとし、従前の契約内容を保証するものではない。
ポイントとしては、定年退職の日をしっかりと明記するということです(1項)。60歳に達した日とする例もあれば、60歳に達した日の属する給与計算期間の最終日とする例など、いろいろと考えられます。
第3項は企業の内情にもよるかと思いますが、再雇用者の配置や処遇等を事前に検討する必要があるため、一定の期日までに申し出てもらうという形にしています。
第5項は、当職として特に重要だと感じているところです。65歳までの再雇用については、期間中の雇止めができないと考えている経営者が多くいます。厳密には労契法19条の要件を満たす限りにおいて、65歳前であったとしても雇止めは可能ですが、「解雇事由または退職事由」がなければ雇止めできないと誤解している人が多いです。これらの事由は、再雇用後の契約更新の場面では適用されません。一方で、雇止めがあり得る旨の条項がないと、法的な紛争となった際に、雇止めを予定していなかったのではないかと揚げ足を取るような主張がなされる可能性があるため、当職は第5項のような条項を入れています。
第6項では、「従前の契約内容を保証するものではない」という文言を明記している点がポイントです。定年退職後再雇用において、契約更新の際に従前の労働条件を変更するケースも数多くあるため、上記の文言を記載することで、従前と同じ条件での契約更新についての期待はないことを明らかにしておきます。
解雇
企業から、ある従業員を解雇したいという相談はかなりの頻度で持ち掛けられます。解雇をする際に企業としてまず確認しなければいけないのが、就業規則における解雇事由です。なお、解雇手続き(解雇予告手当の支払い)や解雇制限などは基本的に法律の定めのとおりですので、それらの条項については省略します。
[1]解雇事由の6類型
就業規則の絶対的必要記載事項である「退職に関する事項」には、解雇の事由が含まれるとされていますので、就業規則に定めておく必要があります。解雇事由は、おおまかに、①業務遂行に耐えない類型、②勤務成績不良の類型(いわゆるローパフォーマーの類型)、③試用期間時の本採用拒否の類型、④懲戒の類型、⑤整理解雇の類型、⑥包括的な類型——という6類型を定めているのが一般的かと思います。以下、それぞれについて見ていきます。
(1)業務遂行に耐えない類型
業務遂行に耐えない類型としては、精神的もしくは身体的な問題によって業務を行うことができない場合です。基本的には、解雇ではなく休職による対応となりますが、場合によっては解雇とせざるを得ないケースもありますので、解雇事由に定めておくべきでしょう。当職がお勧めしている規定の一例は以下のものです。
[具体例3]
(解雇事由)
第●条 従業員が次の各号の一に該当するときは解雇する。
① 精神または身体の故障によって業務の遂行に耐えないと認めたとき
(以下略)
(2)勤務成績不良の類型
勤務成績が不良である場合を解雇事由として定めるのは当然のことですが、その場合の定め方が問題となります。まれに見受けられるのが、「勤務状況・勤務成績が著しく不良であるとき」といったものです。
[具体例4]
第●条 従業員が次の各号の一に該当するときは解雇する。
①(略)
② 勤務状況・勤務成績が著しく不良であるとき
(以下略)
しかしながら、「著しく」が具体的にどの程度を指すのかは明らかではありません。解雇事由該当性のところで無用な争点を増やさないためにも、「著しく」といった表現はできる限り削除したほうがよいと考えています。同様に「過度に」という表現も避けるべきでしょう。当職がお勧めしているのは以下の規定例です。「向上の見込みがない」という文言を入れているのは、労働紛争で裁判所が解雇を有効とするケースが、“改善の見込みがない” すなわち “向上の見込みがない” というケースにほぼ限られているためです。
[具体例4の変更案]
第●条 従業員が次の各号の一に該当するときは解雇する。
①(略)
② 業務遂行能力、勤務成績が劣り、または業務に怠慢で向上の見込みがないと認めたとき
(以下略)
(3)試用期間時の本採用拒否の類型
試用期間中の解雇あるいは試用期間満了時の本採用拒否については、試用期間の条項で定めがあれば、解雇事由の中で定める必要はありません。ただ、試用期間と解雇事由の条項で同じ規定があっても特段問題はないため、両方の条項に定めを設ける企業もそれなりに多くあります。試用期間(第2回)のところでも解説しましたが、試用期間満了時だけではなく、試用期間中にも解雇ができるよう、以下のような定めをしておくべきでしょう。
[具体例5]
第●条 従業員が次の各号の一に該当するときは解雇する。
①~②(略)
③ 試用期間中または試用期間満了時に従業員として不適格と認められたとき
(以下略)
(4)懲戒の類型
普通解雇における解雇事由として懲戒の類型を挙げる場合については、問題のある規定例が散見されるところです。まず、以下の規定例を見てみましょう。
[具体例6]
第●条 従業員が次の各号の一に該当するときは解雇する。
①~③(略)
④ 第●条の懲戒解雇処分に処せられたとき
(以下略)
「懲戒解雇処分に処せられたとき」は解雇するとありますが、懲戒解雇したのだから、もはや普通解雇をする必要はありません。実務上、まれに懲戒解雇が無効であった場合に備えて、予備的に普通解雇するということはありますが、この条項があることで、常に予備的に普通解雇をすると読めてしまいます。
それでは次の規定例を見てください。
[具体例6の別案]
第●条 従業員が次の各号の一に該当するときは解雇する。
①~③(略)
④ 第●条の懲戒解雇事由または諭旨解雇事由に該当するとき
(以下略)
この定め方だと、懲戒解雇や諭旨解雇ができるほどの非違行為がなければ普通解雇もできないことになってしまいます。しかし、実務上、懲戒解雇事由や諭旨解雇事由にまでは該当しない行為であっても、それが繰り返された場合に普通解雇するケースもあれば、勤務成績不良等と懲戒事由を併せて普通解雇とするケースもありますので、それらの場合にも対応できるように、ただ単に「懲戒事由に該当するとき」と定めておいたほうがよいでしょう。当職がお勧めするのは次のものです。
[具体例6の変更案]
第●条 従業員が次の各号の一に該当するときは解雇する。
①~③(略)
④ 第●条の懲戒事由に該当するとき
(以下略)
(5)整理解雇の類型
整理解雇に関する規定例は以下のとおりです。
[具体例7]
第●条 従業員が次の各号の一に該当するときは解雇する。
①~④(略)
⑤ 事業の廃止・縮小、その他会社の経営上やむを得ない事由があるとき
(以下略)
文言上で問題になることはあまりありませんが、当然のことながら、使用者側の都合による解雇ですから、解雇の有効性の判断に当たってはハードルが高くなります。
(6)包括条項
包括条項は、解雇事由に遺漏がないように、また予期しない解雇事由の発生に備えるという観点等からも必ず入れておくべき条項です。包括条項が明記されていない就業規則を見ることはほとんどありませんが、念のため示しておきます。
[具体例8]
第●条 従業員が次の各号の一に該当するときは解雇する。
①~⑤(略)
⑥その他、前各号に準ずるやむを得ない事情があるとき
[2]まとめ——お勧めする解雇事由の規定例
最後に当職がお勧めする解雇事由の規定例全体を掲げます。
[解雇事由規定のまとめ]
第●条 従業員が次の各号の一に該当するときは解雇する。
① 精神または身体の故障によって業務の遂行に耐えないと認めたとき
② 業務遂行能力、勤務成績が劣り、または業務に怠慢で向上の見込みがないと認めたとき
③ 試用期間中または試用期間満了時に従業員として不適格と認められたとき
④ 第●条の懲戒事由に該当するとき
⑤ 事業の廃止・縮小、その他会社の経営上やむを得ない事由があるとき
⑥ その他、前各号に準ずるやむを得ない事情があるとき
※本稿は個人的見解であり、スタンスの問題による点が含まれることに留意してください。
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岡崎教行 おかざき のりゆき 寺前総合法律事務所 パートナー弁護士 2000年法政大学法学部卒業、2001年司法試験合格、2002年法政大学大学院卒業、2003年弁護士登録。第一東京弁護士会所属。経営法曹会議幹事。2015年中小企業診断士試験合格。専門は人事労務を中心とした企業法務。主な著書に『使用者側弁護士からみた 標準 中小企業のモデル就業規則策定マニュアル』(日本法令)。 |
