寺前総合法律事務所 パートナー弁護士
岡崎教行
今回は、就業規則における総則的な定めとともに、採用、試用期間関連の条文を検討します。
総則
就業規則策定の基本的な考え方は、第1回で記載をしたとおりですが、就業規則の冒頭に定められている総則的な事項について、検討を加えたいと思います。
[1]目的
就業規則の最初に、目的を定めることが多くありますが、当職の推奨している定めは以下のとおりです。
[具体例1]
(目的)
第●条 この就業規則(以下、本規則)は、会社の従業員の服務規律および就業に関する事項その他の労働条件について定めたものである。
2 本規則に定めのない事項については、労働基準法その他の法令の定めによる。
第1項については、まれに、就業規則の目的として、従業員だけではなくて企業に対しても遵守義務を認めるかのような記載があるのですが、そもそも、就業規則は、企業を縛るためのものではありませんので、そのような記載は不要です。
また、就業規則にすべての事項を定めることができるわけではないので、就業規則に定めのない事項については、第2項で、法律に従う旨を念のため記載しています。
[2]適用範囲
就業規則のレビュー等をしているときによく見られるのが、社員区分について、就業規則に反映されていないケースです。
例えば、正社員、契約社員、嘱託社員、パートタイマーといった社員区分があるにもかかわらず、就業規則には「社員」という言葉しかなかったり、また、「従業員」と「正社員」とが入り交じっていて整理されていなかったりするということです。
そのため、当職が就業規則の全面的なレビューをする際には、まず、「貴社の社員区分とその定義をすべて教えてください」とお願いしています。そして、その定義を踏まえて、就業規則に社員区分を明記することが大事であると伝えています。典型的には、以下の定めになるかと思います。
[具体例2]
(適用範囲・定義)
第●条 本規則は、従業員に適用する。
2 本規則でいう「従業員」とは、本規則第●条の手続きを経て採用され、期限の定めのない労働契約を締結した者をいう。
3 有期雇用従業員(契約社員およびパートタイマー)の就業に関する事項については、別に定めるところによる。
ほかにも、以下のような記載が考えられます。いずれにしても、社員区分が反映できているのかをしっかりと確認する必要があります。
[具体例3]
(従業員の種類)
第●条 従業員の種類は、以下のとおりとする。
- 常勤社員:フルタイム勤務で、雇用期間の定めがなく雇用される者
- 非常勤社員:常勤社員よりも労働日数、労働時間が短い者(雇用期間の定めがなく雇用される者、雇用期間の定めがあり雇用される者の両者がある)
- 嘱託社員:定年退職後、期間を定めて再雇用される者
(適用範囲)
第●条 この規則は、常勤社員に適用する。
2 非常勤社員および嘱託社員については、別に定める。
採用
[1]そもそも「採用」について就業規則に定める必要があるか
会社が誰を採用するのか、また、どのような基準で採用するのかは、企業の自由です。そして、採用に関しては、就業規則の絶対的必要記載事項でも、相対的必要記載事項でもありません。そのため、本来、就業規則で採用に関する定めを設ける必要はありません。
これは、就業規則とは何たるものか、という基本的な観点から考えても理解できるところかと思います。就業規則は、“事業場内の従業員が遵守すべき服務規律や就業に関する事項、労働条件等を定め、従業員に周知し、その遵守を促すために作成するもの” ですから、あくまで、採用後の従業員を対象にしているものです。
[2]採用基準
もっとも、さまざまな企業の就業規則を見ていると、採用基準を就業規則に定めている例もそれなりにあります。その理由としては、公正な採用手続きを行う姿勢を社内外に示すことによって、企業イメージの向上を図るためであるなどと言われます。
以下の例はいかがでしょうか。
[具体例4]
(採用基準)
第●条 会社は、次の各号の基準を満たした者を採用する。
① 筆記試験で70点以上
② 面接試験で協調性、責任感等を評価し、総合評価が「可」以上
一見、問題なさそうに見えますが、不合格者の視点から考えてみましょう。
企業には、採用選考の不合格者に対して、不採用となった理由を開示したり、説明したりする義務はありません(慶応大学附属病院事件 東京高裁 昭50.12.22判決 労判243号43ページ)。しかし、就業規則にこのような採用基準が書いてあった場合には、不合格者としては、自分の成績はどうだったのか、なぜ不合格となったのかを知りたいという思いが強くなるのではないでしょうか。また、人によっては、“自分はこの基準を満たしているはずなのに落とされたのはおかしい” と考え、「不採用は違法である」といった主張を始め、無用な紛争を引き起こす要因ともなり得るかもしれません。そのため、もし採用基準を定めるのであれば、以下のような抽象的な定めを推奨します。
[具体例4の変更例]
(採用基準)
第●条 会社は、採用を希望する者の中から、選考試験に合格し、所定の手続きを経た者を従業員として採用する。
ただ、上記であれば、あえて就業規則に書く必要はない内容に思われます。以上から、当職としては採用基準に関する記載は不要だと考えています。
[3]内定取り消し
次に、内定取り消しについてはどうでしょうか。内定によって雇用契約が成立すること、また、内定取り消しは解雇の一種であるため、絶対的必要記載事項に該当すると考えることもできます。その一方で、就業規則の解雇の条項の中に、「その他、前各号に準ずるやむを得ない事由があるとき」とあるのが一般的ですので、内定取り消し事由はその記載で十分と考えることもできます。いずれの考え方もあり得るところですが、ここでは、就業規則に規定する場合について見ていきたいと思います。
以下の例はどうでしょうか。
[具体例5]
(内定取り消し)
第●条 会社は、次の各号の一に該当するときは、入社30日前までに限り、採用内定を取り消すことができる。
① 採用に当たり提出した書類に虚偽があったとき
② 病気、事故等により、会社での正常な勤務に堪えられないとき
③ 犯罪行為またはそれに類する非行を犯し、もしくは会社の社員として不適格ないし品位を害する事由を生ぜしめたとき
④ その他前各号に準ずる採用内定を取り消されてもやむを得ない事由が生じたとき
この規定では、入社30日前までに限ってしか内定取り消しができないことになります。不都合な事由が発生しても、それが入社30日前の時点よりも後であった場合には、内定取り消しができないという不都合が生じますので、避けたほうが良いでしょう。
また、この規定の場合、内定取り消し事由を追記したいという場合には、就業規則の変更が必要になります。その手間を省くという観点から、次のとおり、就業規則には簡易的なことだけを記載し、委細を内定通知書に委ねるという方法もあり得るところです。ここは企業によって、どちらが望ましいかを判断してもらえればよいところかと思います。
[具体例5の変更例]
(内定取り消し)
第●条 会社は、内定通知書に記載された内定取り消し事由がある場合に、採用内定を取り消すことができる。
試用期間
[1]試用期間の重要性
最近、試用期間満了で本採用拒否(解雇)したいという相談が増えています。おそらくは、慢性的に続く人手不足が影響し、即戦力を採用したいけれども、なかなか良い人材が見つからず、焦って採用したところミスマッチであったという現象が増えているのだと思われます。
そのため、試用期間は、企業の労務管理において、とても重要な位置づけになってきているのではないでしょうか。しかし、実際の企業の就業規則を見てみると、案外、必要なことが書かれていないというケースがあります。
[2]規定策定に当たっての留意点
試用期間は、いわば従業員としての適格性を判断するためのテスト期間ともいうべきものです。次の定めを見ていきましょう。
[具体例6]
(試用期間)
第●条 新たに採用された従業員については、入社日から3カ月間を試用期間とする。
2 試用期間満了時に、従業員として適格がないと認められたときは本採用しない。
一見問題なさそうな規定例だと思いますが、いかがでしょうか。
試用期間を定めるに当たって最初に考えるべきは “期間をどうするか” という点です。この規定例のように、3カ月としている企業は多いと思いますが、入社して1カ月で新入社員の人となりを見定めることは難しく、新入社員研修を1~2カ月設ける企業もそれなりに多いようですので、3カ月では少し短いという印象です。そのため、当職がお勧めしているのは6カ月です。また、2項で、「試用期間満了時に」とありますが、この記載だと、厳密には試用期間中の本採用拒否(解雇)ができないと解釈されてしまうおそれがありますので、「試用期間中または試用期間満了時に」という形にしておくことを推奨しています。
さて、次の規定はどうでしょうか。
[具体例6の変更例]
(試用期間)
第●条 新たに採用された従業員については、入社日から6カ月間を試用期間とする。
2 試用期間中または試用期間満了時に、従業員として適格がないと認められたときは本採用しない。
これは[具体例6]の試用期間を6カ月に変更し、本採用拒否についても「試用期間中」にできるようにしたものです。これで問題ないでしょうか。
この規定は、試用期間の延長の定めがない点が問題です。裁判例の中には、就業規則に定めがなくても試用期間の延長ができると判示したものがありますが(中田建材事件 東京地裁 平12.3.22判決 労判792号141ページ)、試用期間の定めは、従業員の労働条件や身分に影響を与える事項ですし、従業員に不利益をもたらす(本来であれば本採用されたのに、それがまだ先になる)ものですので、使用者が何の根拠もなく一方的に試用期間を延長することはできないのではないかという見解が多いところです。そのため、試用期間の延長は就業規則に定めておいたほうがよいと考えます。
試用期間の延長期間については、3カ月程度が妥当なところです。ここでの一つの基準は、試用期間と試用期間の延長を合計して1年未満というところですが、当職の見解としては、合計で9カ月がギリギリのラインだと考えます。大阪読売新聞社事件(大阪高裁 昭45.7.10判決 判時609号86ページ)では、1年間の試用期間自体は肯定していますが、かなり古い裁判例であり、現状どこまで認められるのか、明確に示した裁判例は見当たりません。
そして、延長事由については、「従業員としての適格性を判定するために必要と認める場合」など、抽象的に定めておくことをお勧めします。この部分を、「懲戒処分を受けた場合」などと限定してしまうと、使い勝手が悪くなってしまうためです。
これらを踏まえて、当職がお勧めする規定例が、次のものです。
[具体例6の望ましい変更例]
(試用期間)
第●条 新たに採用された従業員については、入社日から6カ月間を試用期間とする。ただし、従業員としての適格性を判定するために必要と認める場合、3カ月を限度として、試用期間を延長することがある。
2 試用期間中または試用期間満了時に、従業員として適格がないと認められたときは本採用しない。
[3]実務上の留意点
試用期間中あるいは試用期間満了時(延長期間満了時)に本採用拒否をすることを想定した場合の実務上の留意点について取り上げます。
①記録の重要性
まず大事なことは、記録を「しっかり」と取るということです。記録は取ればよいというものではなくて、「しっかり」取ることが重要です。これは5W1Hを意識すること、つまり、“何月何日何時ごろ、職場内のどこで、誰が、何を、どのようにしたのか” を記録するということです。企業から相談を受けていると、この記録が不十分というケースが多くあります。注意や指導をしているのに、記録がないというのは非常にもったいないことです。
②延長の場合の留意点
次に、試用期間を延長する場合の留意点ですが、前掲大阪読売新聞事件が参考になります。この裁判例を踏まえると、“試用期間延長後の勤務状況に問題がなかった場合、試用期間延長前の事由のみをもって本採用を拒否することはできない” という点は押さえておく必要があるでしょう。それを踏まえて、延長するかどうかを決定することになります。
③本採用拒否をする際の留意点
本採用拒否をする場合の留意点ですが、基本的には、解雇予告手当を支払って即時解雇することをお勧めしています。解雇予告手当を支払わないで、30日前に解雇予告をするという方法もあるのですが(労働基準法20条1項)、解雇予告を告げられた従業員が、その後真面目に働くとは思えません。仕事をしないで、将来の裁判のための資料を集めるということも十分にあり得ます。そう考えると、解雇予告はリスク以外の何物でもないと思います。
また、即時解雇の際は、解雇の意思表示をするだけではなく、解雇予告手当を試用期間満了日までに着金するようにしてください。なぜなら即時解雇は、厳密には、解雇予告手当を支払ったときに効力が発生するものだからです。解雇の意思表示が試用期間満了日よりも前だったとしても、その時点で予告手当を支払っていなければ、効力は発生しないとされています。解雇予告手当を試用期間満了日後に支払った場合には、試用期間が満了し、本採用された後の解雇として取り扱われてしまう可能性がありますので注意してください。このことから、おおよそ試用期間満了日の3日前には即時解雇し、解雇予告手当を振り込めるように手続きをしておくのが望ましいということになります。
※本稿は個人的見解であり、スタンスの問題による点が含まれることに留意してください。
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岡崎教行 おかざき のりゆき 寺前総合法律事務所 パートナー弁護士 2000年法政大学法学部卒業、2001年司法試験合格、2002年法政大学大学院卒業、2003年弁護士登録。第一東京弁護士会所属。経営法曹会議幹事。2015年中小企業診断士試験合格。専門は人事労務を中心とした企業法務。主な著書に『使用者側弁護士からみた 標準 中小企業のモデル就業規則策定マニュアル』(日本法令)。 |
