2026年04月09日掲載

就業規則のモデル条文 ~定め方・見直し方 - 第3回 人事施策関連②(配転、出向)

寺前総合法律事務所 パートナー弁護士
岡崎教行

 今回は、就業規則において、配転や出向に関する条文をどのように定めるかを検討します。

配転

 配転(配置転換)とは、従業員の配置の変更であって、職務内容または勤務場所が相当の長期間にわたって変更されるものをいいます。実務的には、「配転」と呼んだり、「配置転換」と呼んだり、「異動」と呼んだりとまちまちですが、企業によっては、「配転」と「異動」は異なるものとして定義しているケースがあります(「まさか」と思う人もいるかもしれませんが、当職が見たことのあるのは、「異動」は都道府県内に限られた配置の変更であり、「配転」は都道府県外への配置の変更を指すというものでした)。その場合には、両者の違いをしっかりと規定に落とし込む必要があります。
 企業が、従業員に対して配転を命じるためには、人事権の一内容として、従業員の職務内容や勤務地を決定する権限がなければなりません。そのため、雇用契約上、企業が、当該権限を持っていることが明確になっている必要があります。そして、就業規則の定めは、雇用契約の内容となることから、就業規則に配転に関する記載をしておかなければならないということになります。就業規則、雇用契約書のいずれにも配転に関する定めがない場合には、企業は従業員に対して一方的に配転を命じることはできず、従業員の同意を得なければなりません。多くの就業規則では、配転に関する条項が入っていますが、まれに記載されていないことがあるので、しっかりと確認をしておく必要があるでしょう。他方で、就業規則に配転に関する条項が入っていたとしても、企業と従業員との間で、勤務地を限定する特約や職種を限定する特約を締結していれば、企業は従業員に対して当該特約に反するような配転を一方的に命じることはできません。
 配転を就業規則で定めるに当たっては、業務上の必要に基づいて配転を行う場合があるという趣旨を記載することが最低限必要です。それは、東亜ペイント事件という有名な最高裁判決(最高裁二小 昭61. 7.14判決 労判477号6ページ)が、「業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であつても、(中略)他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき」は権利濫用になる、と判示しているためです。
 では、以下のような規定はどうでしょうか。

[具体例1]

(配転)

第●条 会社は、業務上の必要がある場合、雇用契約の内容に抵触しない範囲で配転を命ずることがある。

2 前項の「雇用契約の内容に抵触しない範囲」とは、雇用契約において職務の限定、勤務時間の限定、勤務地の限定などがある場合の、その限定の枠内のことをいう。

3 前項の命令を受けた従業員は正当な理由がない限り、これを拒むことができない。

4 会社は、配転を行うに当たり、本人に対して原則として4週間前までに部署、職務、役職、時期などを通知し、それに関する意向を聴取し、健康状態および家庭の事情などを十分に考慮してから行う。なお、当該異動で労働条件の変更により契約内容の変更を伴う場合には、従業員の同意を得て行うものとする。

5 会社は、配転を命じる場合において、子の養育または家族の介護を行うことが困難となる従業員がいるときは、当該従業員の子の養育または家族の介護の状況に配慮しなければならず、また、不利益が少なくなるよう努めるものとする。

 この規定は、見るからに書き過ぎです。例えば、第1項に「雇用契約の内容に抵触しない範囲で」とあるのに対して、第2項でどういう意味かを説明しています。内容自体は間違っていないのですが、あえて書く必要性はありません。書かなくても分かる “当たり前” のことを書くことによって、それが何か特別な意味があると捉えられる可能性があります。
 第4項では「4週間前までに部署、職務、役職、時期などを通知し」とありますが、実務上、4週間前までに通知できないことは多くあります。その場合、会社として定めたルールに違反するので、配転は無効と判断される可能性も十分にあります。「原則として」と書いているので問題ないと考えられそうですが、“原則” であれば、4週間前までに通知できないのは “例外” となるわけです。どうして “原則” の対応を取れなかったのか、その理由が問われる可能性も十分にあります。こういったことを考慮すると、できる限りシンプルに、余計なことを書かないというのが重要といえるでしょう。
 なお、体裁の問題ですが、第4項と第5項には、文末に「ものとする」という表現があります。就業規則のレビューをしているとよく見かけるのですが、なくても意味は通じるため、基本的には削除してお戻ししています。
 当職がお勧めしているのは、以下のような文言です。シンプル過ぎて不安になるかもしれませんが、これで十分だと考えます。

[具体例1の変更案]

(配転)

第●条 会社は、業務上の必要に基づき、従業員に配転を命ずることがある。

出向

 出向とは、従業員が自己の雇用先の企業に在籍をしたまま、他の企業の従業員(ないし役員)となって相当長期間にわたって当該他企業の業務に従事することをいいます。出向は、通常、①労働者を離職させるのではなく、関係会社において雇用機会を確保する、②経営指導、技術指導の実施、③職業能力開発の一環として行う、④企業グループ内の人事交流の一環として行う等の目的の下で行われています。
 出向の要件ですが、労働契約法14条が、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする」と定めています。この中に、「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合」という文言がありますが、これは先ほどの配転と同じで、人事権の一内容として従業員を出向させる権限がなければならないということですので、やはり出向についても就業規則に明記をしておく必要があります。
 就業規則にどのように明記をするかという点を考える前提として、出向における法的な関係を整理しておきます。
 出向では、出向元と従業員との労働契約は保持されたまま、出向元と出向先との間の出向協定の合意を介して、労務指揮権の全部または一部が出向元から出向先に移転することになります。
 通常の場合には、賃金の支払い義務(一次的には出向先が支払うことが多くありますが、最終的な支払い義務は出向元が負う場合がほとんどです)および解雇権など労働契約の基本部分は、出向元が保持します。一方で、労働時間等の就業管理および職場秩序維持に関する権限は出向先が保持し、労働安全衛生法上の事業者責任についても出向先が負担し、労災保険上の事業主も、原則として出向先となります。
 そして、雇用保険上の事業主は、主たる賃金の支払者と認められるほうであり、出向元で発生した年次有給休暇については、出向先で行使することもできます。また、出向者が休職(病気)となった場合には、出向を解除して出向元に戻した上で、休職とする取り扱いが一般的です。
 懲戒処分については、懲戒解雇、諭旨解雇を除いて、出向先・出向元のそれぞれにおいて可能です。出向元と出向先の企業秩序を乱したということができれば、双方で処分をしても二重処分に該当しないとされています。ただし、出向者の出向先における非違行為等が出向元の企業秩序に与える影響は間接的なので、出向元における懲戒処分は慎重に判断する必要があるでしょう。
 これらを踏まえて、出向があまりない中小企業の場合には、以下のとおりの定めをしておき、出向が発生した際に出向先企業との間での出向契約書に基づいて処遇を決定するというのでも構わないと思います。

[具体例2]

(出向)

第●条 会社は、業務上の必要に基づき、従業員に出向を命ずることがある。

 この規定に基づき、出向の都度、以下のような出向契約書を締結するイメージです。

[出向契約書の例]

出向契約書

●●株式会社(以下、「甲」という)と■■株式会社(以下、「乙」という)は、甲の従業員が乙に出向するに当たっての取り扱いについて、以下のとおり契約する。

(出向期間)
第1条 出向期間は原則として3年とする。ただし、業務上の必要に基づき延長・短縮することが必要な場合には、双方で協議して延長・短縮することがある。
(労働条件)
第2条 出向中の従業員の労働時間・休憩時間・休日・休暇に関する取り扱いについては、原則として乙の就業規則を適用する。
(賃金)
第3条 出向中の従業員の給与および賞与は、甲の就業規則の規程を適用し、甲が支給する。
(社会保険)
第4条 出向中の従業員の健康保険・厚生年金保険・雇用保険は甲の被保険者資格を継続し、労災保険については乙で加入する。
(費用負担)
第5条 甲が出向中の従業員に支払った賃金および社会保険料の事業主負担分については、乙が全額を負担し、後日、甲に支払う。
(情報の提供)
第6条 乙は、出向中の従業員の勤怠および勤務状況を毎月●日までに甲に通知する。
(表彰および制裁)
第7条 出向中の従業員の表彰および懲戒は、乙の就業規則に基づいて乙が行うことができる。ただし、懲戒解雇についてはこの限りではない。
(協議)
第8条 本契約に定めのない事項および疑義が生じた場合は、甲乙協議の上、決定する。

令和●年●月●日

甲 ●●株式会社
代表取締役 ▼▼
乙 ■■株式会社
代表取締役 ▲▲

 ただし、関連会社への出向等、頻繁に人事交流がある大企業などでは、出向に関して詳細に定めをしておくことをお勧めします。具体的には、①出向先企業の範囲、②出向に当たっての手続き、③出向期間、④出向中の労働条件、⑤復帰時の手続き、⑥復帰後の労働条件を定めておく必要があるでしょう。

[具体例3]

出向規定

(目的)
第1条 この規定は、就業規則第●条に定める出向の取り扱いを定めるものである。
(出向条件の明示)
第2条 会社が出向を明示するときは、その目的、出向先の内容、労働条件その他の必要事項を出向者に明示する。
(出向者の所属)
第3条 出向者の所属は原則として人事部とする。
(出向者の身分)
第4条 出向者は、出向期間中は就業規則第●条に基づき休職扱いとなる。
(出向期間)
第5条 出向期間は、原則として●年以内とする。ただし、会社または出向先の業務の都合によりその期間を延長または短縮することがある。

2 出向者の出向期間は、勤続年数に通算する。

(出向者の労働条件)
第6条 出向者の労働時間、休憩時間、休日、休暇、その他の労働条件は、特に定めた場合を除き、出向先の就業規則の定めによる。
(年次有休休暇等)
第7条 出向期間中の年次有休休暇、特別休暇は、出向先の定めるところによる。ただし、出向先における年次有給休暇、特別休暇の日数が会社の基準を下回るときは、会社の基準による日数の休暇を認める。
(給与・賞与)
第8条 出向者の給与および賞与は、会社の就業規則を適用し、会社が支給する。
(社会保険等)
第9条 出向者の健康保険、厚生年金保険、雇用保険は、原則として会社の適用とするが、労災保険は、原則として出向先の適用とする。
(人事評価)
第10条 出向者の人事考課、昇格・降格、昇給・降給等は、出向先における勤務成績および評価等を踏まえ、会社が行う。
(表彰・懲戒)
第11条 出向先において表彰または懲戒に該当する行為があった場合には、懲戒解雇を除き、出向先の就業規則の定めにより出向先が取り扱う。ただし、出向先と会社が協議の上、会社の就業規則の定めにより会社も取り扱うことがある。
(退職・解雇)
第12条 出向者が出向期間中に退職または解雇となるときは、会社への復職を命じた上で、会社の就業規則に基づき退職または解雇となる。
(出向解除)
第13条 会社は、いつでも出向者の出向を解除することができる。

●年●月●日施行

 数年前を思い出すと、コロナ禍で仕事が激減したことにより、他社への出向で雇用を確保するという動きもありました。現在も、出向によって労働者のスキルアップを行う場合については、一定の要件の下、助成金が支給されることになっています。出向規定を定める場合には、厚生労働省が公表している『在籍型出向 「基本がわかる」ハンドブック(第3版)』を参考にするのが良いでしょう。

※本稿は個人的見解であり、スタンスの問題による点が含まれることに留意してください。

プロフィール写真 岡崎教行 おかざき のりゆき
寺前総合法律事務所 パートナー弁護士

2000年法政大学法学部卒業、2001年司法試験合格、2002年法政大学大学院卒業、2003年弁護士登録。第一東京弁護士会所属。経営法曹会議幹事。2015年中小企業診断士試験合格。専門は人事労務を中心とした企業法務。主な著書に『使用者側弁護士からみた 標準 中小企業のモデル就業規則策定マニュアル』(日本法令)。