2026年03月12日掲載

就業規則のモデル条文 ~定め方・見直し方 - 第1回 就業規則の策定・変更に当たっての考え方(総論)

寺前総合法律事務所 パートナー弁護士
岡崎教行

【編集部より】
今回から、テーマ別で全10回にわたり、寺前総合法律事務所の岡崎教行弁護士に「就業規則のモデル条文 ~定め方・見直し方」について解説いただきます。就業規則は、単なる従業員の労働条件や服務規律をまとめたルールブックという位置づけにとどまらず、労使間の係争時の根拠ともなるため、常に規定の各条文に抜け漏れが生じないよう確認・整理しておきたいものです。
本連載では就業規則の基本的な考え方、モデル条文、規定の変更・運用方法、実務上の留意点等について、昨今の法改正や人事分野のトレンドを踏まえて、幅広く “指南” いただきます。

就業規則の策定・変更に当たっての当職の考え方

 初めに、当職がどういうスタンスと姿勢で、就業規則の策定・変更についてアドバイスをしているのかという点を説明します。このスタンスは、本連載に当たり、当職の中心に据えられている考え方ですので、十分に説明しておきたいと思います。
 当職は、就業規則の策定・変更に当たっては、「余計なことを書かない」ということを軸にしています。なぜかというと、就業規則にいろいろなことを書けば書くほど会社の足かせになり、いざ問題が起きて裁判になった場合に不利に働いてしまうからです。これまで20年以上、企業側からの依頼を受け、労働紛争を数多く見て体験してきましたが、「どうして就業規則にこんなことを書いているかなぁ」と思うことが多数ありました。その苦い経験も踏まえてのスタンスです。
 こういった話をすると、一定数の人が、「逆に、書かないほうが不安になりませんか」という趣旨の感想を漏らします。就業規則は会社にとって極めて大事なものであるから、できる限り細かく書く必要があるのではないか、そうでなければ問題が起きたときに適切に対応できないのではないか、という不安もあるようです。
 一方で、書いていないということは、「後から補充することができる」ということです。例えば、「書いていないが、これまで運用上はこのように対応していました」という説明をすることで、問題を回避することができる場合もあるのです。ところが就業規則にはっきりと書いてあると、「どうして書いてあるとおりにしなかったのか」と指摘され、裁判で不利になることが確定します。ここまで説明しても、まだ半信半疑の人はいると思います。
 本連載では、当職がこれまで出合った “書き過ぎ就業規則例” を幾つか見ていきます。お読みいただくと、「あぁ、なるほど」と思ってもらえるでしょう。

具体例を基に考えてみよう

 以下、ありがちな条文例とその修正ポイントについて解説していきます。

[1]有期雇用契約の更新に関しての定め

[具体例1]

第●条(雇用契約の期間)

1 会社は、原則として契約社員と期間を定めて雇用契約を結ぶものとする。

2 雇用契約は、本人の希望を考慮した上1年以内とする。ただし、必要に応じて契約を更新することができる。

3 会社は、雇用契約の更新に当たっては、本人と面接の上、契約期間、労働条件等必要な事項を取り決めるものとする。

4 雇用契約の更新の有無の判断基準は、次のとおりとする。

(1)契約期間終了時の業務量

(2)当該契約社員の勤務成績、勤務態度

(3)当該契約社員の能力

(4)会社の経営状況

(5)従事している業務の進捗状況

5 当該雇用契約の更新について、次のいずれかに該当する場合は、その労働契約を終了し契約を更新しないものとする。

(1)会社が求める業務量・質に十分対応できていないとき

(2)協調性に問題があり、円滑に仕事をこなせていないとき

(3)与えていた職務自体が、会社として継続する必要がなくなったとき

(4)会社業績が思わしくなく、再雇用が難しいとき

(5)欠勤・遅刻・早退などがたびたびあり、安定した勤務がなされていないとき

(6)勤務態度が不良で、誠実な勤務がなされていないとき

(7)個別の労働条件通知書に明示された契約更新をしない事由に該当したとき

(8)本規定に定める解雇の事由に該当したとき

(9)その他、前各号に準ずる事項に該当したとき

6 第5項の規定により契約更新を行わない場合は、会社は少なくとも契約が満了する日の30日前までに予告する。

 上記は、過去に当職が相談を受けた企業における就業規則の抜粋です(一部改編しています)。このケースは、入社当時は1年間の有期雇用契約を締結した労働者が、1回目の更新では6カ月の有期雇用契約を締結し、2回目の更新でも6カ月の有期雇用契約を締結したものの、3回目の契約は更新されず、雇止めとなった案件であり、労働審判が申し立てられました。労働者側の主張は、“1回目・2回目の更新ともに契約期間について希望を聞かれていないし、面接もしていない。また、雇止めに当たっても面接はなく、しかも契約期間満了の1週間前に雇止めの旨が通知された” という内容でした。
 上記で分かるとおり、「雇用契約は、本人の希望を考慮した上1年以内とする」という定め(2項)、「会社は、雇用契約の更新に当たっては、本人と面接の上、契約期間、労働条件等必要な事項を取り決めるものとする」という定め(3項)、「契約更新を行わない場合は、会社は少なくとも契約が満了する日の30日前までに予告する」という定め(6項)があることから、出てきた争点です。

 これらの文言は、果たして必要なものだったのでしょうか。
 まずは、「本人の希望を考慮した上」という文言ですが、会社として、改めての契約締結をするに当たり、労働者の希望を考慮して契約期間を定めなければならないということはありません。しかし、“希望を考慮する” と書いてしまうと、当然のことですが、その前に労働者から希望を聞くことが前提となるため、“希望を聞かなければならない” という解釈になります。そうすると、当職としては不要だろうと考えるわけです。
 次に、「本人と面接の上」という文言ですが、契約更新に当たり、面接をすることは必須ではなく、電話で話をする形であっても問題ないわけですから、これも余計な文言といえるでしょう。
 さらに、「契約更新を行わない場合は、会社は少なくとも契約が満了する日の30日前までに予告する」という文言ですが、これは、「有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準」(平15.10.22 厚労告357、平20. 1.23 基発0123004、最終改正:令 5. 3.30 厚労告114)を踏まえたものと思われます。ただ、同告示は、「3回以上更新されている場合」「1年以下の契約期間の有期労働契約が更新または反復更新され、最初に有期労働契約を締結してから継続して通算1年を超える場合」「1年を超える契約期間の労働契約を締結している場合」に限って30日前の予告を求めているのであり、すべての有期労働契約において求めているわけではありません。そうだとすると、この条文も書き過ぎであり、不要であると考えます。まして、この告示違反の雇止めが、即無効になるという裁判例は現時点ではありません。実務的にも、最後の最後まで熟慮を重ねた結果、30日前に雇止めの予告ができないというケースもそれなりにあります。そのような中で、就業規則に30日前予告を書いてしまうと、会社側が自ら決めた「雇止めをする場合には30日前に通知する」というルールに違反しているのであるから雇止めは無効になる、という判断を誘発しかねません。
 加えて、この定めでは、4項と5項にほとんど同じ内容が書かれており、意味がなく紛らわしいため削除するのがよいでしょう。
 なお、本論からは外れますが、企業間の契約書、就業規則や雇用契約のレビューをしていると、語尾に「ものとする」という表現をよく見かけます。これは意味がないのではないかと思い、削除をすることが多いです。

 以上を踏まえ、次のとおり修正することが適切でしょう(以下、枠内の    は削除箇所、    は追加箇所)。

[具体例1の修正]

第●条(雇用契約の期間)

1 会社は、原則として契約社員と期間を定めて雇用契約を結ぶものとする

2 雇用契約は、本人の希望を考慮した上1年以内とする。ただし、必要に応じて契約を更新することができる。

3 会社は、雇用契約の更新に当たっては、本人と面接の上、契約期間、労働条件等必要な事項を取り決めるものとする

4 雇用契約の更新の有無の判断基準は、次のとおりとする。

(1)契約期間終了時の業務量

(2)当該契約社員の勤務成績、勤務態度

(3)当該契約社員の能力

(4)会社の経営状況

(5)従事している業務の進捗状況

(6)当該契約社員の健康状態

(7)その他の事情

5 当該雇用契約の更新について、次のいずれかに該当する場合は、その労働契約を終了し契約を更新しないものとする。

(1)会社が求める業務量・質に十分対応できていないとき

(2)協調性に問題があり、円滑に仕事をこなせていないとき

(3)与えていた職務自体が、会社として継続する必要がなくなったとき

(4)会社業績が思わしくなく、再雇用が難しいとき

(5)欠勤・遅刻・早退などがたびたびあり、安定した勤務がなされていないとき

(6)勤務態度が不良で、誠実な勤務がなされていないとき

(7)個別の労働条件通知書に明示された契約更新をしない事由に該当したとき

(8)本規定に定める解雇の事由に該当したとき

(9)その他、前各号に準ずる事項に該当したとき

6 第5項の規定により契約更新を行わない場合は、会社は少なくとも契約が満了する日の30日前までに予告する。

[2]懲戒に関しての定め

[具体例2]

(懲戒の基本原則)
第●条 会社は、第●章の服務規律に従わず、是正が必要な従業員に対し、適切な指導および口頭注意を行うものとする。口頭注意は、当該従業員に非違行為の内容を口頭で指摘し、必要な助言を行い、改善策を求めることにより行う。
2 前項にかかわらず、なお改善が行われず企業秩序を維持するために必要があると認めるときは、本章に定める懲戒処分を行うことができる。
(懲戒の種類・程度)
第●条 懲戒の種類および程度は、その情状により次のとおりとする。
(略)
2 懲戒は、当該非違行為に関する教育指導とともに前項第1号から第4号または第5号の順に段階的に行うものであり、各号の懲戒を行ったにもかかわらず、改悛の見込みがなく、かつ、非違行為を繰り返す場合には、上位の懲戒を行うことを原則とする。

 上記は当職が過去に実際に見たことのある規定例です。懲戒の基本原則として、まずは、「是正が必要な従業員に対し、適切な指導および口頭注意を行うものとする」「口頭注意は、当該従業員に非違行為の内容を口頭で指摘し、必要な助言を行い、改善策を求めることにより行う」とありますが、口頭注意は指導の一環であり、使用者は指揮命令権を持っている以上、就業規則に根拠がなくとも行えるので、わざわざこれを記載する必要性はないはずです。
 次に、「前項にかかわらず、なお改善が行われず企業秩序を維持するために必要があると認めるときは、本章に定める懲戒処分を行うことができる」とありますが、これを素直に読む限り、“口頭注意をしてそれでも改善されない場合かつ企業秩序を維持するために必要があると認めるとき” でなければ懲戒処分が発動できないことになります。しかし、これまで何ら問題を起こしてこなかった従業員が、横領をした場合にはどうなるのでしょうか。この規定があることで懲戒できないという結論になってしまうのではないかとヒヤヒヤします。
 さらに、「懲戒は、当該非違行為に関する教育指導とともに前項第1号から第4号または第5号の順に段階的に行うものであり、各号の懲戒を行ったにもかかわらず、改悛(かいしゅん)の見込みがなく、かつ、非違行為を繰り返す場合には、上位の懲戒を行うことを原則とする」とあります。このように書きたい気持ちはよく分かります。世間一般では懲戒処分は軽いものから重いものへと順番にやっていきましょうということが言われており、それ自体は正しいのですが、譴責(けんせき)の後に、減給を飛ばして、出勤停止にすることも実務上はあり得ます。しかし、この定めだと、「段階的に行うものであり」という点が問題になり、そして「懲戒を行ったにもかかわらず、改悛の見込みがなく」かつ「非違行為を繰り返す」場合でなければ、上位の懲戒処分ができないということになってしまいます。
 ここで「最後に『原則とする』という文言を付けているから問題にはならないのではないか」という声も聞こえてきそうです。そういう考え方もありますが、裁判所が判断する場合には、「原則に該当しない “例外” であるならば、どういう点で例外に当たるのか」についての立証まで求められることも十分にあり得ます。こういったことを踏まえると、有事に備えて余計なことは書かないほうが無難だと現時点では考えます。

 そこで、以下のとおり修正するのがよいと考えます。

[具体例2の修正]

(懲戒の基本原則)
第●条 会社は、第●章の服務規律に従わず、是正が必要な従業員に対し、適切な指導および口頭注意を行うものとする。口頭注意は、当該従業員に非違行為の内容を口頭で指摘し、必要な助言を行い、改善策を求めることにより行う。
2 前項にかかわらず、なお改善が行われず企業秩序を維持するために必要があると認めるときは、本章に定める懲戒処分を行うことができる。

(懲戒の種類・程度)
第●条 懲戒の種類および程度は、その情状により次のとおりとする。
(略)
2 懲戒は、当該非違行為に関する教育指導とともに前項第1号から第4号または第5号の順に段階的に行うものであり、各号の懲戒を行ったにもかかわらず、改悛の見込みがなく、かつ、非違行為を繰り返す場合には、上位の懲戒を行うことを原則とする。

コピー&ペーストはしない

 現代は人手不足も相まって、効率化が声高に叫ばれている中、コスパ、タイパという言葉がもてはやされています。就業規則を策定、修正するに当たっても、どこからかデータを持ってきてコピー&ペースト(以下、コピペ)することがよく行われているようです。
 当職は、就業規則を策定、レビューをする際には、さまざまな書籍やWEBサイト等の情報を参考にしますが、その際は自分の手を使ってキーボードで「打ち込む」ということをしています。データのコピペの場合には、「読む」という作業しかないのですが、「打ち込む」場合には、「読む」だけでなく、「考える」という作業が確実に生まれるからです。もちろん、「読む」作業の中でも「考える」作業はしているのですが、「打ち込む」作業のほうが、より深く考えるのではないかと思っています。文書の校正をする際、目視するだけだとミスが見つからなかったものの、声に出して読み上げたらミスが見つかったという経験は誰しもあるでしょう(最近のWordには文書の読み上げ機能があり、大変便利です)。同じように「打ち込む」場合でも、「なぜこういう文言を使っているのか」「どうしてこれを書いていないのか/ここまで書いてあるのか」といった違和感を覚えることがたびたびあるのです。ですので、皆さんもコピペは避け、自分の手を使って打ち込み、考えながら就業規則を作成することをお勧めします。
 次回からは、具体的な項目ごとに検討を進めていきます。

※本稿は個人的見解であり、スタンスの問題による点が含まれることに留意してください。

<本連載のテーマ一覧>(予定)

第1回 就業規則の策定・変更に当たっての考え方(総論)

第2回 総則、人事施策関連①(採用、試用期間)
第3回 人事施策関連②(配転、出向)
第4回 人事施策関連③(休職、復職)
第5回 人事施策関連④(退職、解雇)
第6回 服務規律(ハラスメントを含む)

第7回 労働時間・休憩・休日①(労働時間の原則、休憩、休日、変形労働時間制)

第8回 労働時間・休憩・休日②(フレックスタイム制、裁量労働制、事業場外労働みなし労働)

第9回 休暇(年次有給休暇、特別休暇)
第10回 懲戒

プロフィール写真 岡崎教行 おかざき のりゆき
寺前総合法律事務所 パートナー弁護士
2000年法政大学法学部卒業、2001年司法試験合格、2002年法政大学大学院卒業、2003年弁護士登録。第一東京弁護士会所属。経営法曹会議幹事。2015年中小企業診断士試験合格。専門は人事労務を中心とした企業法務。主な著書に『使用者側弁護士からみた 標準 中小企業のモデル就業規則策定マニュアル』(日本法令)。