Happiness insight合同会社 CEO/ベンチャー採用コンサルタント
津田恵子
生成AIの急速な普及により、企業の業務構造や人材戦略は大きな転換点を迎えている。多くの議論は「AIが仕事を奪うのか」という問いから始まるが、実際に起きている変化は、それほど単純ではない。歴史的にみても、技術革新は「仕事そのもの」を消すのではなく、「仕事の構造」を変えてきた。AI時代も同様であり、重要なのはAIと人間の役割分担をどのように再設計するかという点である。
現在、海外ではAIを「単なるツールとして導入する」段階から、「組織の一員として活用する」段階へと移行しつつある。近年のHRテック領域では、AIを “AI Colleague(AIの同僚)” として位置づける考え方が広がっている。AIは単なる作業補助ではなく、業務の一部を自律的に実行し、人間の意思決定を支援する存在として設計され始めているのだ。
こうした変化に対応するためには、従来の職務設計や人材モデルを根本から見直す必要がある。本稿では、AI導入によって変化する仕事の構造を整理しながら、AI時代の組織に必要な人材モデル、そして人間とAIの役割分担を再設計する具体的な方法について考えていく。
AI導入による「職務」と「スキル」の変化
AI時代の組織設計で最も重要なポイントは、「Job(職務)」中心の設計から「Task(タスク)」や「Skill(スキル)」中心の設計へと発想を転換することである。
従来の組織では、営業職、マーケティング職、エンジニアなど、職務単位で仕事が定義されてきた。しかしAIの導入が進むと、仕事はより細かいタスクの集合として再定義されるようになる。つまり「誰の仕事か」ではなく「どのタスクを誰が担当するか」という視点で業務を捉える必要がある[図表1]。
[図表1]AI導入による「職務」と「スキル」の変化

実際、AI導入に当たっては、業務タスクを次の三つに分類するアプローチが取られている。
① AIに任せるタスク:反復的でルール化できる業務や、大量データの処理など
② 人間が担うタスク:判断、創造、共感など、人間の認知能力が強みとなる領域
③ AIと人間が協働するタスク:AIが分析や提案を行い、人間が意思決定を行う領域
このようなタスク分解が進むことで、組織の設計単位は「職種」から「スキル」へと移行していく。つまり、AI時代の人材戦略とは、どの職種の人材を採用するかではなく、「それぞれの人材のどのスキルを組み合わせて価値を生み出すか」を設計することである。
AI時代の組織に必要な人材モデル
AIが業務の一部を担うようになると、人材に求められる能力も変化する。米国の戦略系コンサルティングファームであるマッキンゼー・アンド・カンパニーによると、AI時代の人材は大きく三つのタイプに分類できるとされている[図表2]。
[図表2]AI時代の組織に必要な人材モデル

[注]McKinsey & Company「The agentic organization: Contours of the next paradigm for the AI era」(2025年)から筆者翻訳
タイプ1:M字型ゼネラルマネジャー
複数領域に専門性を持ち、横断的に組織を統合する人材である。AI時代の経営では、複雑な問題を統合的に判断する能力が重要になる。データ分析、事業理解、組織マネジメントなど複数の視点を持ち、AIを活用した意思決定を行うことができる人材が求められる。
タイプ2:T字型スペシャリスト
特定領域で深い専門性を持ちながら、AIや他分野との連携ができる専門家である。AIが一般的な分析を担うようになると、人間にはより高度な専門知識が求められる。そのため、専門性を深めつつAIと協働できる人材の価値はむしろ高まる。
タイプ3:AI活用型フロントライン人材
AIを日常業務の中で使いこなし、生産性を大きく向上させる現場人材である。生成AIの普及により、専門的な技術を持たなくても高度な分析や資料作成が可能になった。AIを使いこなす能力そのものが、新しい基礎スキルになりつつある。
重要なのは、これら三つの人材モデルが互いに補完関係にあるという点である。AI時代の組織では、専門性、統合力、AI活用力という三つの能力を組み合わせることで、組織全体のパフォーマンスが最大化される。
AIと人間のすみ分け
AI時代の組織設計では、「AIができること」と「人間が担うべきこと」を明確に整理することが重要になる。一般的にAIが得意とする領域は次のとおりである。
・大量データの高速処理
・パターン分析や予測
・反復業務の自動化
・文書生成や情報整理
一方で、人間の強みは次のような領域にある。
・不確実な状況での意思決定
・創造的思考
・共感や対人関係
・複雑な問題の統合
つまりAIは「分析と処理」を担い、人間は「判断と創造」を担うという役割分担が基本になる。
ただし重要なのは、AIと人間の関係が単なる「分業」ではなく、「協働」であるという点だ[図表3]。AIが分析した結果を人間が解釈し、その結果を再びAIにフィードバックすることで、より高度な意思決定が可能になる。このようなAIと人間の協働構造を設計することが、AI時代の組織マネジメントの核心となる。
[図表3]AIと人間のすみ分け

業務を「分解 → AI統合 → 再設計」する手順
では、企業はどのようにAIと人間の役割分担を設計すればよいのだろうか。多くの企業で採用され始めているのが、「業務分解 → AI統合 → 再設計」という三段階のアプローチである。
ステップ1:業務の分解
まず、既存業務をタスク単位まで分解する。営業、マーケティング、開発などの職務をそのままAIに代替するのではなく、業務を細かいタスクに分解し、それぞれの作業内容を明確にする。筆者が作成している人事の業務棚卸しシートもぜひ参考にしてほしい[図表4]。
[図表4]業務棚卸しシート(中途採用の例)
ステップ2:AIの統合
次に、各タスクの中でAIが担える部分を特定する。文書作成、データ分析、レポート生成などはAIが担当し、人間は意思決定や戦略立案に集中する。
ステップ3:業務の再設計
最後に、人間とAIの役割を前提として業務プロセスを再設計する。この段階では、従来の組織構造や職務定義も見直す必要がある。AIが業務の一部を担うことで、人間の仕事はより高度な意思決定や創造的活動へと移行する。
AI時代の組織設計とは何か
AI導入は単なるITプロジェクトではない。組織の設計思想そのものを変える経営課題である。
これまでの組織は「人をどう配置するか」を中心に設計されてきた。しかしAI時代の組織では、「人とAIをどう組み合わせるか」が競争力を決定する。
そのため人事や経営企画には、新しい役割が求められている。それは、単に要員計画をつくることではなく、スキル、業務プロセス、AI技術を統合した組織アーキテクチャを設計することである。
AIは人間の仕事を奪う存在ではない。むしろ、人間の能力を拡張するパートナーである。AIと人間が互いの強みを生かしながら価値を生み出す組織を、どのように設計するか。それこそが、これからの企業経営における最も重要なテーマの一つとなるだろう。
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津田恵子 つだ けいこ Happiness insight合同会社 CEO/ベンチャー採用コンサルタント 岐阜県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、2002年より株式会社リクルートスタッフィングにて人事採用業務に従事。2004年より伊藤忠人事総務サービス株式会社にて、グループ会社向け採用アウトソーシングや伊藤忠商事向け研修企画・運営に従事。 2019年9月に独立し、「一人ひとりの能力が活きる社会を実現する」をビジョンにHappiness insightを創業。企業における採用活動支援では、2022年の面接実績は350名、ダイレクトリクルーティングに関しては、複業クラウド、LinkedIn(リンクトイン)、LabBase、Wantedly、アサインナビ、キミスカなど対象別にプラットフォームを使い分けて実績を出す。その他リカレント教育普及やRPO(採用代行)を通して、働き方に悩んだ自身の経験を活かし、人々の幸せな働き方を支援している。 2023年3月、早稲田大学大学院経営管理研究科修了・MBA取得。稲門会会員。プライベートは三児の母。生成AIプロダクト「Crew」を提供する株式会社クラフターでは、2023年3月から2025年11月まで人事を担当。生成AIに関する資格「生成AIパスポート」取得。現在は従業員幸福度測定のAgentic AI「ハピ子」についてプロダクト構想中。 |

