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船見敏子 ふなみ としこ 大手出版社で雑誌編集に携わった後、2005年にカウンセラーに転向。以後、組織のウェルビーイング向上支援を行い、約1000社、10万人のメンタルヘルスケアに携わってきた。不調者を6割減らした実績のほか、心理学をベースにしたリーダー育成プログラムにも力を注ぐ。著書に『戦略的休暇 休むほど成果が出る新しい働き方』(ぱる出版)、『結局、いいかげんな人ほどうまくいく 先入観を捨ててより良く生きるための60の習慣』(PHP研究所)など。健康経営エキスパートアドバイザー、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー等の資格も保有。 |
年次有給休暇の年5日取得義務化、時間外労働の上限規制。働き方改革関連法の施行から数年が経過したが、現場の実態はどうだろうか。リーダーがメンバーの仕事を巻き取って長時間働く、あるいは、業務量が変わらないまま残業制限をしているため社員がこっそり残業をする。このように、「改革」どころか「改悪」になってしまっている職場を数多く見てきた。
特に深刻なのは、管理職の疲弊である。ある調査によれば、働き方改革実施後に中間管理職の負担が増えていると感じる人は74%に達する。メンバーの健康は保たれているが、一番元気でいなければならないリーダーが疲れ切っている——このような職場は決して珍しくないだろう。
さらに問題なのは、日本人の58%が「休暇を取ることに罪悪感を持っている」という事実である。特に若い世代ほど「同僚に迷惑をかけるから」と休むことをためらう傾向が強い。その上、リーダーはヘトヘトなのに休まない。それによって職場内に遠慮が蔓延し、皆が休まず働いて疲弊する。そして生産性が下がるという負のループが生まれている。
休暇は未来への投資である
では、どうすればこの状況を変えられるのか。カギとなるのは「戦略的休暇」という考え方である。
私が提唱する戦略的休暇とは、疲労を回復させ、エネルギーをチャージし、生産性を高めるために計画的に休むことを意味する。休暇は損失につながるものではなく、「未来への投資である」という発想の転換がまず必要だ。
ストレスは、高すぎても低すぎても生産性は下がる。適度な量と質のストレスが保たれているとき、私たちは最も高いパフォーマンスを発揮できる。計画的に休暇を取ることで、疲労の蓄積を防ぎ、適度なストレスを保つことができ、常に高いパフォーマンスを維持できるのだ。
実際に、20年ほど前から「残業ゼロ」を掲げ、18時に全員退社のルールを作ったアパレル企業は、19期連続増収増益を達成している。ある老舗菓子メーカーは25年以上にわたり年次有給休暇取得率100%と残業ゼロを継続し、売上高は年々上昇傾向にある。休暇を意識的に取るからこそ、生産性が高まるという好事例だ。
休暇が個人と組織にもたらす効能
戦略的休暇は、個人と組織の両方に多大なメリットをもたらす。
<個人への効能>
①ストレス低減と自律神経のバランス改善
②心のリセットとリフレッシュ
③生産性向上と集中力の回復
④心身の健康増進
⑤人間関係の充実
⑥創造性と発想力の向上
<組織への効能>
①業務効率と生産性の向上
②メンタルヘルス不調や離職の予防
③チーム力の強化と組織の柔軟性向上
④イノベーションの活性化
⑤職場満足度とエンゲージメントの向上
⑥企業イメージの向上と採用力強化
⑦経営リスクの回避
つまり、戦略的休暇は、個人と組織を強く、しなやかに成長させる効果があるのだ。
休めるチームをつくる三つのステップ
では、休める組織をつくるための三つのステップを紹介しよう。
<ステップ1 リーダー自身の意識改革>
まず取り組むべきは、リーダー自身の認知をアップデートすることである。「リーダーたるもの誰よりも働くべきだ」「休むことは良くないこと」「自分の管理能力が問われる」——このような認知のゆがみが、休まない働き方を自分自身に強いている。
自分の思考パターンを客観視し、「自分が休むことでメンバーも休みやすくなる」「リフレッシュすることで生産性が上がる」という適応的な認知に更新していくことが有効だ。
<ステップ2 休める仕組みづくり>
次に、明確なルールを設定することが重要である。人はルールがないと安心して休めない。以下のような具体策が有効だ。
・退社時間の宣言:朝の出勤時に退社予定時間を決めて宣言する
・年次有給休暇の取得計画をチーム全員で立てる:年度初めに希望日を共有し調整する
・誕生日休暇ルール:自分の誕生日は休むことを習慣化する
・土産話タイム:ミーティングで休暇の過ごし方を共有する時間を設ける
<ステップ3 助け合いの文化醸成>
週に1回、進捗状況を口頭で共有する機会を設けることで、自然と助け合いが生まれる。「今は余裕があるので手を貸せる」「手を貸してほしい」という情報を共有するだけで、残業が激減した事例もある。
さらに、感謝を伝え合う仕組みをつくることも効果的だ。感謝の循環が生まれると、相互依存しやすい職場が築かれ、誰かが不在でも自然にカバーし合えるようになる。
休めるリーダーが最高のロールモデル
休める組織づくりのために最も重要なのは、リーダーが率先して休むことである。メンバーは良くも悪くもリーダーのコピーをする。リーダーが休まず働いていると、「時間をかければいいものができる」という誤った認識が広がる。逆に、リーダーが上手に休み、生き生きと働く姿を見せれば、メンバーは「自分もあんなふうになりたい」とロールモデルにする。
休暇は単なる休息ではない。個人の健康と組織力向上への投資である。年次有給休暇取得率100%を目指し、まずはリーダー自身が休む勇気を持つことを徹底して喚起したい。それが、強くしなやかな組織づくりの第一歩となる。
