2026年02月26日掲載

キャリアコンサルティング―押さえておきたい関連情報 - 第29回 学びをどう設計するか ~厚労省キャリアコンサルティング研究会報告書を読み解く

浅野浩美 あさの ひろみ
事業創造大学院大学
事業創造研究科教授

1.はじめに

 2026(令和8)年1月21日、「経済社会情勢の変化に対応したキャリアコンサルティングの実現に関する研究会報告書」(以下、報告書)が公表された。2025(令和7)年2月から10回にわたって、経済社会情勢の変化に対応したキャリアコンサルティングに必要な能力、そのために有効な制度や施策、さらにキャリアコンサルティングの活用活性化策について議論がなされてきたが、本報告書は、これらを取りまとめたものである。
 どのような能力が必要とされたのかに目が向きがちだが、今回の報告書には、必要な能力の整理にとどまらず、キャリアコンサルタントが学びを進めていく上で重要な考え方が示されている。早速見ていきたい。

2.何が「追加・強化」されたのか

 キャリアコンサルティングに必要な能力については、従来から、厚生労働省によって「キャリア・コンサルティング実施のために必要な能力要件」という形で取りまとめられている。これは、すべてのキャリアコンサルタントにとって必要な能力を整理したものという位置づけだが、研究会では、さらに経済社会情勢の変化を踏まえ、追加・強化すべき能力、活動領域に応じた専門的な能力について検討が行われた。
 報告書の別添には、「今後のキャリアコンサルティングに必要な能力」が、7ページにわたって列挙されている。圧倒されそうな分量だが、順に見ていこう。

[1]すべての領域で共通して求められること
 報告書では、キャリアに関する問題を抱えた労働者の課題解決を支援する「解決型」の支援のほか、労働者が自らキャリアを形成し、自らを高め続ける力を身に付けることを支援する「開発型」の支援の必要性に言及している。また、すべての活動領域(企業領域、需給調整領域、教育領域、地域・福祉領域)において共通に追加・強化が必要な能力として、[図表1]の支援を行う能力が必要だという。

[図表1]すべての活動領域において共通に追加・強化が必要な能力

さまざまな情報を活用した自己理解・仕事理解・環境理解の支援

働くことの意義の理解まで含めた職業生活設計に関する支援

将来予測も含めた最新の情報を踏まえた職業の選択に関する支援

動機づけ支援や伴走支援も含めた職業能力の開発・向上に関する支援

組織・環境への働きかけおよび専門家等と連携した支援

AI等のデジタルツールを活用した支援

 AI等は新たなものだが、従来から必要とされていたことが多く含まれている。では、今回の整理をどう読み取ればよいだろうか。
 第一に、自律的・主体的なキャリア形成のさらなる重視である。もとより、キャリアコンサルティングには「育てる」要素が含まれているが、ただ「育てる」だけでなく、自律的・主体的にキャリア形成に取り組むことができるようになるところまでの支援が期待されている。
 第二に、リサーチ・リテラシーとデジタル・リテラシーの重視である。行政データ、研究機関の調査などの信頼性の高い情報や現場の実践知などの多様な情報を収集・分析し、AI等のデジタルツールを適切に活用し、将来予測も含めた最新の情報を踏まえて、支援を行っていくことが求められている。
 第三に、従来にも増して、組織・環境への働きかけや専門家との連携の必要性が示されていることである。労働者が抱える問題が複雑化・多様化していることに対応するものであろう。

[2]活動領域ごとに求められる専門性
 一方で、活動領域ごとに追加・強化が必要な専門的な能力も示されている。具体的には[図表2]のとおりである。

[図表2]各活動領域において追加・強化が必要な専門的な能力

<企業領域>
企業の理解の促進、経営層や人事部門との連携・協力、従業員のキャリア形成支援に向けた環境づくり

<需給調整領域>
労働市場や職種の情報の提供、マッチング、求職条件・採用条件変更への働きかけ、職場定着支援

<教育領域>
キャリア教育、就職支援・インターンシップ関連業務、カリキュラム設計への協力、リカレント教育

<地域・福祉領域>
情報収集とアセスメント、支援の方向性の提案、支援プログラムの企画運営、キャリアプランの作成・実行支援

 こちらも、従来から必要とされていたことが多く含まれている。では、どこに着目すべきだろうか。
 一言で言えば、キャリアコンサルタントが活動領域について関心を持ち、深く理解することであろう。企業領域であれば経営課題と人材戦略の関連性についての理解、需給調整領域であれば地域における求人・求職の最新の状況に加え、業務内容、必要な知識・技能、他社・他業界との違いや特徴の理解といった、かなり深いことなども挙げられている。これらは特定の知識や技能を学べばよいというものではなく、キャリアコンサルタント自身が、状況に応じて取捨選択し、適切なやり方で活用していくことが前提とされている。
 なお、今回、今後のキャリアコンサルティングに必要な能力が体系的に整理されたが、報告書では、これをベースに、さらに詳細な調査・検討を行い、必要な知識・技能について体系的な整理を行うべきであるとしている。

3.報告書が示した「能力開発」の考え方

 キャリアコンサルタントには、資格取得に先立って養成講習を受け、資格取得後は5年ごとに更新講習を受けるという仕組みがある。更新講習は、専門職としての質保証の一部だが、これだけでは十分ではない。
 報告書では、キャリアコンサルタントが、更新講習の受講や自己研鑽(けんさん)だけでなく、現場でも学びを行うことは、知識・技能の向上につながるだけでなく、キャリアコンサルタントとして目指す姿を改めて自覚する契機にもなるとし、キャリアコンサルティング場面への陪席、インターンシップ、事例検討会、スーパービジョンなどが重要であるとしている。
 すなわち、能力開発は一度きりでなく、継続的に行うべきプロセスであり、更新講習など制度としての学び、自己研鑽など自発的な学びに加えて、現場での学びを組み合わせることの重要性が示されている。

※ スーパーバイザー(指導者)がスーパーバイジー(指導を受けるキャリアコンサルタント)に対し、①面談記録に基づく事例の理解や対応方針の検討などの技術的な面での指導に加え、②キャリアコンサルタントとしての成長を図るための支援を行う教育的対応を指す

4.キャリアコンサルタントとしての学びをどう設計するか

 報告書の別添には、追加・強化が必要な能力項目が数多く列挙されている。確かになるほどと思う項目が並んでいるが、1人のキャリアコンサルタントが、すべての領域について深く学ぶことは難しいだろう。
 そのため、どの領域を活動のメインに位置づけるか、そこでどのような人を対象に、どのような支援をしたいのか。そのためには、どのような現場で、何に重点を置いて専門性を伸ばしていくのかを考える必要があるだろう。
 制度としての学び、自発的な学び、現場での学びを組み合わせるという道筋は示されている。
 今回の報告書からは、キャリアコンサルタント自身がキャリアを設計し、「学びの設計者」として行動していく姿勢が強く求められていることが読み取れる。

5.おわりに

 筆者は、今から14年前(2012〔平成24〕年)に、厚生労働省のキャリア形成支援室長として、「『キャリア・コンサルティング研究会——キャリア・コンサルタント自身のキャリア形成のあり方部会』報告書」を取りまとめた。当時はまだ国家資格となる前の時代で、学びの必要性は強く認識されていたが、「どこで、誰と、どのように学べばよいのか」については見通せていなかった。登録制度も更新講習もなく、継続的な学びが個人の努力に委ねられていた。
 それから14年がたち、キャリアコンサルタントを取り巻く環境は大きく変わった。2016(平成28)年4月より国家資格となり、2025年12月末の登録者数は8万5000人を超えた。世の中では、キャリアに関する自律性・主体性が強く求められるようになり、AI等のデジタル技術も活用されるようになった。キャリアコンサルタントに対する期待も高まったが、同時に、学ぶべきことが増え、「何を、どう学ぶか」が改めて問われるようになっている。
 このような中、今回の報告書は、更新講習や自己研鑽に加え、現場での実践的な学びを組み合わせることの重要性を示した。学びの道筋を描いただけでなく、キャリアコンサルタントが自ら学びを設計する存在であることを、改めて浮かび上がらせたものだといえるだろう。

【参考文献】

・厚生労働省(2012)「『キャリア・コンサルティング研究会——キャリア・コンサルタント自身のキャリア形成のあり方部会』報告書」
https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000026lgi.html

・厚生労働省(2026)「経済社会情勢の変化に対応したキャリアコンサルティングの実現に関する研究会報告書」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_68886.html

・厚生労働省(2019)「キャリアコンサルタントの継続的な学びの促進に関する報告書」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000199011_00001.html

浅野浩美 あさの ひろみ
事業創造大学院大学 事業創造研究科教授
厚生労働省で、人材育成、キャリアコンサルティング、就職支援、女性活躍支援等の政策の企画立案、実施に当たる。この間、職業能力開発局キャリア形成支援室長としてキャリアコンサルティング施策を拡充・前進させたほか、職業安定局総務課首席職業指導官としてハローワークの職業相談・職業紹介業務を統括、また、栃木労働局長として働き方改革を推進した。
社会保険労務士、国家資格キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。日本キャリア・カウンセリング学会副会長、日本キャリアデザイン学会会長、人材育成学会常任理事、NPO法人日本人材マネジメント協会執行役員など。
筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程修了。修士(経営学)、博士(システムズ・マネジメント)。法政大学キャリアデザイン学研究科非常勤講師、産業技術大学院大学産業技術研究科非常勤講師など。
専門は、人的資源管理論、キャリア論。

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