2026年04月30日掲載

キャリアコンサルティング―押さえておきたい関連情報 - 第30回 キャリア支援はなぜ進まないのか ~大規模調査結果から読み解く「導入の偏り」と「運用の課題」

浅野浩美 あさの ひろみ
開志創造大学大学院
事業創造研究科教授

1.キャリア支援の「実施」と「実態」

 企業におけるキャリア支援は、どこまで進んでいるのだろうか。
 厚生労働省の令和6年度「能力開発基本調査」によると、キャリアコンサルティングを行う仕組みを導入している企業は50.0%である。半数の企業が、何らかのキャリア相談の仕組みを導入していると答えているが、これには「慣行として行われるもの」が含まれている。実際に、キャリア相談の専門家であるキャリアコンサルタントが行うものは11.2%にとどまっており、専門的なキャリア支援が十分に進んでいるとは言い難い状況が続いている。
 2026年3月31日に労働政策研究・研修機構が公表した「調査シリーズNo.264 企業におけるキャリア支援の現状と課題——セルフ・キャリアドック導入を中心として——」(以下、報告書)ではこの問題を取り上げ、セルフ・キャリアドックに焦点を当て、企業内キャリア支援について行った調査結果を基にその実態を把握し、導入を促進・阻害する要因などについて検討している。なお、セルフ・キャリアドックとは、定期的に自身の職務能力を見直し、どのようなキャリアを歩むべきかを確認した上で、身に付けるべき知識・能力・スキルを確認する機会のことである(「日本再興戦略」改訂2015——未来への投資・生産性革命——)。
 本稿では、この調査結果を紹介するとともに、国の人材開発施策の動向なども踏まえ、企業はこの結果をどのように読み取り、実務に生かせばよいのかについて解説する。

2.導入は何によって左右されるのか

 企業によって、キャリア支援策の導入・活用状況が大きく異なることはよく知られている。一般に、従業員規模が大きい企業では、相対的にキャリア支援策が充実している。一方で、「わが社は大企業でないから、キャリア支援にまで手が回らない」といった話をよく聞く。確かに企業規模による影響はあるが、導入を進めるためには、さらに詳しいことを知ることが必要だ。
 労働政策研究・研修機構の上記報告書(2026a)では、2025年8月から9月にかけて、従業員規模300人以上の全国の企業1万4511社を対象に調査を行い、うち1936社から回答を得て、分析を行っている。

 [図表1]は、セルフ・キャリアドックの認知・活用、教育訓練費に影響を与える要因を示したものである。ここからは、やはり従業員数や教育訓練費といった要因が、統計的に有意な関連を持つことが分かる。すなわち、企業規模が大きく、人材育成に一定の資源を投入している企業ほど、セルフ・キャリアドックの認知・活用がなされ、教育訓練費も高い傾向がある。また、教育訓練費は、売上高の増加や採用の状況といった経営指標とも関連がみられる。

[図表1]セルフ・キャリアドックの認知・活用および教育訓練費に影響を与える要因

図表1

[注]順序ロジスティック回帰分析を実施。B=回帰係数、exp(B)=オッズ比、sig.=有意確率 p<.05 ∗∗ p<.01

資料出所:労働政策研究・研修機構「調査シリーズNo.264 企業におけるキャリア支援の現状と課題——セルフ・キャリアドック導入を中心として——」(2026a)

 さらに、セルフ・キャリアドックの認知・活用に絞り、教育訓練費を含むほかの要因の影響を考慮した上で、個別の要因との関連を見ると、従業員規模や業種による違いが示唆される。社風、すなわち、組織の在り方やマネジメントの特徴との関係もうかがわれる。
 これらの結果は、キャリア支援は企業の意思だけで導入できるものではなく、経営資源や組織条件と密接に関係するものであることを示唆している。

※ Nagelkerke R² = 0.08であり、セルフ・キャリアドックを被説明変数としたモデルの説明力には一定の限界がある

3.担い手の問題とセルフ・キャリアドック

 報告書では補節を設けて、セルフ・キャリアドックの導入の有無とキャリア支援の担い手についての整理を行っている。
 具体的には、セルフ・キャリアドック導入企業と未導入企業とでは、体制面に大きな差があり、その整備にかなりの費用負担を要するが、これを「社内の取り組みの工夫や努力によって克服するには一定の限度があり、その重要性を軽視すべきではない」と述べている。
 確かに、セルフ・キャリアドックの導入は体制整備と結び付いており、その負担は小さくない。一方で、キャリア支援は制度の有無にかかわらず、日常的なマネジメントの中でも行われ得るものである。このように考えれば、体制・制度の整備と現場における運用との関係をどのように捉えるかが、実務上の重要な論点となる。

4.キャリア関連施策導入と運用の障壁

 報告書では、キャリア研修、キャリアコンサルタントによるキャリア面談、人事によるキャリア面談、上司によるキャリア面談の四つを「キャリア関連施策」とし、これらを既に導入している企業に対して、何が障壁となっているかを尋ねている。その結果は[図表2]のとおりで、最も大きな障壁として挙げられたのは、「人材・予算・時間の不足」であり、これに「施策の浸透不足」「業績との優先順位」が続いている。制度を導入しても、それが理解されず、現場で十分に活用されないという課題もうかがえた。
 人的資源管理の観点からは、人事施策の効果は制度設計だけでなく、現場での運用を担う管理職の関与に依存する側面があると指摘されている(Purcell & Hutchinson, 2007)。報告書では、専門家が担っているのか、専門家以外の者が担っているのかに着目しているが、実務的に見ると、キャリア支援は専門家による面談だけで完結するものではなく、日常業務の中での上司との対話や関わりを通じて継続的に行われる側面を持つ。
 こうしたことを考えると、専門的なキャリアコンサルティングの導入と、現場でのマネジメントにおける支援との関係をどのように位置づけるかが重要となる。

[図表2]キャリア関連施策の障壁

図表2

資料出所:労働政策研究・研修機構「調査シリーズNo.264 企業におけるキャリア支援の現状と課題——セルフ・キャリアドック導入を中心として——」(2026b)

5. おわりに

 以上のように、本調査からは、キャリア支援施策の導入・活用が企業によって大きく異なり、その背景には企業規模だけでなく、業種や社風など組織の在り方、さらには経営資源の状況が関係していることが示唆される。また、制度として導入された施策も、現場での運用や管理職の関与の在り方によって、その実効性が左右される可能性がある。
 厚生労働省によって2026年3月31日に策定された「第12次職業能力開発計画」には、セルフ・キャリアドック、キャリアコンサルティングについて、引き続き力を入れていく旨が記載されている。セルフ・キャリアドックは、経済社会環境の変化に対応するため、働き手が自らのキャリアについて主体的に考える習慣を身に付ける環境を整備することを目的としたものである。この点を鑑みれば、その重要性は今後さらに高まっていくことが見込まれる。
 以上を踏まえると、キャリア支援を進めるに当たっては、制度の導入そのものに加えて、それをどのように運用し、現場に根付かせていくかを併せて検討することが重要となる。本報告書は、そのための視点を整理する上で、有用な示唆を与えるものといえる。

【参考文献】

・独立行政法人労働政策研究・研修機構(2026a)「調査シリーズNo.264 企業におけるキャリア支援の現状と課題——セルフ・キャリアドック導入を中心として——」
https://www.jil.go.jp/institute/research/2026/264.html

・独立行政法人労働政策研究・研修機構(2026b)「調査シリーズNo.264 企業におけるキャリア支援の現状と課題——セルフ・キャリアドック導入を中心として——」
https://www.jil.go.jp/institute/research/2026/documents/264.pdf

・厚生労働省(2026)「第12次職業能力開発基本計画」
https://www.mhlw.go.jp/content/11801000/001683729.pdf

・内閣官房(2015)「日本再興戦略」改訂2015——未来への投資・生産性革命——(2015年6月30日閣議決定)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2015/0630/shiryo_02-1.pdf

・Purcell, J., & Hutchinson, S. (2007). Front–line managers as agents in the HRM–performance causal chain:Theory, analysis and evidence. Human Resource Management Journal, 17(1), 3–20.

浅野浩美 あさの ひろみ
開志創造大学大学院 事業創造研究科教授
厚生労働省で、人材育成、キャリアコンサルティング、就職支援、女性活躍支援等の政策の企画立案、実施に当たる。この間、職業能力開発局キャリア形成支援室長としてキャリアコンサルティング施策を拡充・前進させたほか、職業安定局総務課首席職業指導官としてハローワークの職業相談・職業紹介業務を統括、また、栃木労働局長として働き方改革を推進した。
社会保険労務士、国家資格キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。日本キャリア・カウンセリング学会副会長、日本キャリアデザイン学会会長、人材育成学会常任理事、NPO法人日本人材マネジメント協会執行役員など。
筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程修了。修士(経営学)、博士(システムズ・マネジメント)。法政大学キャリアデザイン学研究科非常勤講師、産業技術大学院大学産業技術研究科非常勤講師など。
専門は、人的資源管理論、キャリア論。

キャリアコンサルタント・人事パーソンのための
キャリアコンサルティング

——組織で働く人のキャリア形成を支援する——
 浅野浩美 著

キャリアコンサルタントを目指す人はもちろん
資格保有者、企業の人事パーソンに最適な一冊です!

内容見本・ご購入はこちらから