|
|
松田 チャップマン 与理子 まつだ チャップマン よりこ 2010年桜美林大学大学院国際学研究科博士後期課程修了。同年に博士(学術)を取得。国内外の企業に約20年勤務し、その間にウエストミンスター大学ビジネススクールで経営学修士(MBA)、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院でVisiting Fellow Program修了。ポジティブ組織心理学と健康心理学を専門とし、働く人のウェルビーイングや中小企業の管理職向けコーチングの研究と実践、近年はMeeting Scienceの普及に努めている。著書に『従業員-組織の関係性とウェルビーイング』(晃洋書房)、共訳として『ポジティブ心理学コーチングの実践』(金剛出版)など。 |
職業生活から切り離せない「会議」
職場における会議は、職業生活の日常的かつ不可欠な要素の一つである。米国における調査によると、多くの従業員は、平均して週に11~15回の会議や打ち合わせに参加しているとされている。会議は、問題を議論し、アイデアを創出し、解決策を検討し、合意形成を図り、意思決定を行うための場として機能している。しかし、会議の役割はそれにとどまらない。会議は本来、意図された “業務成果を生み出す場” であると同時に、意味形成(センスメイキング)、リーダーシップの影響力行使、関係性の構築、チーム・ダイナミクス、集団内の葛藤の顕在化、さらには従業員の態度や認知の形成といった、多様な組織現象が生起する場でもある。すなわち、会議の影響は会議という「場」に限定されるものではなく、個人・チーム・組織全体に波及する広範な影響力を有している。
このように、現代組織において会議が極めて遍在的な現象となっていることを背景に、2000年代以降、「Meeting Science(会議科学)」と称する研究領域が独立した分野として発展してきた。これは、会議を単なる業務の文脈変数として扱うのではなく、会議そのものを分析対象とする点に特徴がある。現在では、経営学・組織行動論、組織心理学、社会学、コミュニケーション研究など、複数分野の研究者が、会議がどのように計画・運営されているのか、会議の中でどのような相互作用が生じているのか、さらには会議が個人・チーム・組織全体の成果にどのような影響を及ぼすのかといった会議の多面的側面を明らかにするため、学際的な研究に取り組んでいる。
会議の定義は複数存在するが、本稿では、引用頻度の高い定義として、「少なくとも2名以上の個人間で行われる、目的を持った業務関連の相互作用であり、単なる雑談よりは構造化されているが、講義ほどには構造化されていないもの」を採用する。
会議の良しあしとそのアウトカム
会議には、従業員の時間や労力といった貴重な組織資源が投入されている。多くの組織では、人件費予算の7~15%が会議に費やされている一方で、実態としては、最大で半数に及ぶ職場の会議が「質が低い」と評価されている。これは、組織が年間を通じて相当な規模の会議関連コストを非効率的に消費している可能性を示唆している。
さらに問題となるのは、「質の低い/悪い会議」がもたらす心理的・行動的影響である。質の低い会議は、従業員に強い不満感を抱かせ、ネガティブな集団感情を喚起し、チームを負の下降スパイラルへと導き、チーム・プロセスを混乱させる傾向がある。その結果、会議の文脈を超えて、疲労感や燃え尽き(バーンアウト)を引き起こす可能性があり、創造性やパフォーマンスにも負の影響が及ぶことが示されている。
また、過剰な会議負荷(会議数の多さや会議時間の長さ)は、従業員のエネルギーや心理的資源を消耗させ、一日の業務終了時点における職務態度やウェルビーイングを低下させることが明らかになっている。多くの従業員は、会議を個々のタスクや目標に取り組む時間を奪う「中断要因」として認識しており、とりわけ、認知的要求の高い業務に深く集中する「ディープ・ワーク」が会議で妨げられる場合、生産性やウェルビーイングの低下につながりやすい。
一方で、「質の高い/良い会議」は、同様に会議の文脈を超えて、従業員の士気や心理的エンパワメントなどを高める効果を持つことが示されている。良い会議とは、従業員間の信頼が育まれ、リーダーとフォロワーの関係性が形成・維持されるとともに、ポジティブなリーダーシップの影響力が発揮され、チーム・ダイナミクスが望ましい成果に向けて効果的にマネジメントされる場である。適切に運営された質の高い会議は、ポジティブ感情を喚起し、会議満足度を高め、ひいては全体的な職務満足とも正の関連を示す。また、従業員のエンパワメントやエンゲージメントを促進し、特に会議中の意思決定への参加裁量が与えられている場合に、その効果は顕著となる。
「質の高い会議」を生み出すリーダーの役割
では、会議を効果的に運営し、「質の高い会議」を実現するためには、どのような要素が必要となるのだろうか。
Meeting Scienceの研究では、議題の設定と事前共有、時間厳守、会議を円滑に進行するリーダーの行動、目標の明確さ、議題に焦点を絞ったコミュニケーション、会議ルール/手順の明示など、複数の要素が重要であることが報告されている。加えて、「会議市民行動(meeting citizenship behavior:会議参加者が、公式な役割や義務を超えて自発的に行う、会議を円滑かつ効果的に進め、上司やチームを支援する行動)」として概念化されている参加者の行動も、会議の質を左右する重要な要素である。すなわち、会議の成功には、リーダーと参加者の双方による効果的な遂行が求められる。ただし、会議の計画責任はリーダーに帰属することから、効果的な会議の実現においては、特にリーダーの行動が重要な役割を果たす。
近年の研究は、会議を通じて従業員のエンゲージメントを高める上で、リーダーの会議への関わりとして主に以下の3点が重要であることを示している。
① 会議の目的に照らして参加者を厳選し、会議が各参加者にとって十分な関連性を持つものとすること
② 心理的安全性を高める基本ルールを設定し、参加者に発言の機会(voice)を提供すること
③ 会議の開始・終了時刻を厳守し、会議進行中の時間の使い方にも配慮すること
リーダーがこれらの行動を意図的に実践することで、会議は効果的に運用され、その結果として会議の質が高まり、従業員のウェルビーイングの向上にもつながる。幸いなことに、会議の質を高めるための行動の多くは、研修やトレーニングを通じてリーダーが学習することが可能である。同時に、リーダーには、会議を組織生活における「必要悪」としてではなく、戦略的な機会として捉えるマインドセットが求められる。すなわち、会議の運営はリーダーシップの周辺的活動ではなく、その中核を成すものであり、リーダーの役割と責任を構成する重要な要素なのである。
