2025年12月12日掲載

Point of view - 第289回 樫原洋平 ― 採用活動の新潮流、人を奪い合う「青田買い」から育て合う「青田創り」へ

樫原洋平 かしはら ようへい
株式会社リンクアンドモチベーション エグゼクティブディレクター
一般社団法人エッジソン・マネジメント協会 代表理事

一橋大学経済学部を卒業後、2003年にリンクアンドモチベーション入社。入社以来、100社以上の採用・育成コンサルティングに従事。また、大阪大学などで非常勤講師も務めるなど、産官学連携での教育プログラムを開発・実行。2022年に一般社団法人エッジソン・マネジメント協会を立ち上げ、年間6000人以上の若者に教育機会を提供している。最新著書に『エッジソン・マネジメント2.0 次代を担う若者を産官学連携で育み、活かす方法』(PHP研究所)。

「青田買い」が、若者の成長を阻害する

 「採用面接解禁日」の6月1日時点で、学生の内定率が8割を超える——こうしたデータに表れているように、政府が定める就活ルールは形骸化しつつある。人材獲得競争が激しさを増す中、優秀な学生をいち早く囲い込もうとする企業は少なくない。いわゆる「青田買い」である。
 採用の早期化は、企業にとって合理的な判断といえる。実際、「出遅れれば母集団が集まらない」という声は多く、早期から動くのは自然な行動だろう。だがこの早期化が、知らぬ間に若者の成長機会を奪ってはいないだろうか。
 本来、大学後半は、ゼミ・研究・課外活動などを通じて「自ら考え、行動し、協働する力」を養う重要な時期である。しかし、企業による早期選考の拡大は、そうした挑戦の機会を学生から奪いかねない。社会で活躍する人材は、最初から完成されているのではなく、経験の中で育つものだ。その機会を狭めておきながら「良い人材がいない」と嘆くのは、矛盾してはいないだろうか。
 もちろん、自社の採用目標を考えれば「青田買い」に走るのも理解できる。だが、これからの社会に必要なのは、“奪い合い” ではなく、“育て合い” という視点だ。短期的・狩猟的な「青田買い」ではなく、長期的・農耕的な「青田(づく)り」こそが、日本社会の持続的な成長を支える土台になると私は考えている。

※出典:株式会社キャリタス「<確報版>6月1日時点の就職活動調査 ~キャリタス就活 学生モニター2026(2025年6月)」
https://www.career-tasu.co.jp/press_release/11874/

「青田創り」に必要な三つの視点

 この「青田創り」を実現するため、私は2022年に一般社団法人エッジソン・マネジメント協会を立ち上げた。企業や教育機関と連携し、社会人が学校を訪れて仕事の魅力を伝える「キャリア教育」や、大学生がチームで社会課題に挑戦し、社会人がそれを支援する「リーダーシップ教育」の機会を提供している。ここでは、こうした実践から見えてきた「青田創り」に欠かせない三つの視点を紹介したい。

① 採用活動から一線を画す
 まず、「青田創り」は採用活動(学生側から見れば就職活動)とは切り離すべきである。採用は、学生と企業が互いに良い面をアピールし合う関係性である。だが、育成には時に本音の議論や厳しいフィードバックが必要であり、この関係性では本質的な成長支援が難しい。だからこそ、大学1・2年生や高専生、高校生など、就職活動前の生徒・学生を主な対象とするのが適切だ。

② 産学連携で取り組む
 就職活動前の生徒・学生と接点を持つには、教育機関との連携が不可欠だ。企業単独では、そうした若者にリーチする手段を持ち得ない。筆者にも苦い経験がある。かつて、日本有数の大手企業のエース社員を集めて座談会を企画したが、参加した学生はわずか10人だった。それくらい、この層と継続的に接点を持つのは難しい。
 そこで、教育機関と連携し、学校内での正式プログラムとして「青田創り」を組み込むことが有効だ。

③「1対1」から「N対N」へ
 いざ、産学連携で取り組もうとした際に課題となるのが、「説明責任の壁」である。企業から特定の大学に連携を申し出ると、「なぜその大学なのか」「なぜこの企業と組むのか」という説明が、企業と大学の双方に求められる。特定の利害関係があると見なされれば、批判の対象になりかねない。
 この壁を越えるカギが「N対N」の発想だ。複数の企業と複数の教育機関が連携することで、公共性・中立性が担保され、連携へのハードルが一気に下がる。行政も参画できるようになるほか、学生も多様な価値観に触れることができるようになり、メリットが多い。
 この「N対N」の仕組みを支えるためには、連携のハブとなる「第三者的存在」が欠かせない。特定の企業が前面に出ると、利益目的だと誤解されかねない。エッジソン・マネジメント協会は、まさにその中立的役割を担うための組織である。

“奪い合い” から “育て合い” へ

 当協会では、日立グループ、パナソニックグループ、京セラ、清水建設、みずほフィナンシャルグループ、川崎重工業など100社超の企業、70校以上の教育機関と連携し「青田創り」を実践してきた。
 例えば、社員が学校を訪れて仕事のやりがいを語る「しごとーく」、社会人が学生のメンターとなり8カ月かけてリーダーを育てる「Co-Lab Gears(以下、コラギア)」、中高生と大人が対等に議論する「MIRA-GE(以下、ミラッジ)」など、多様なプログラムを展開している。「しごとーく」は国立高専の約4割に当たる19校へと拡大し、「コラギア」では大阪・関西万博で学生による成果発表を実施。「ミラッジ」では、全国25都道府県・30校の高校から130人以上が参加する合宿を開催するなど、実践の場が広がっている。さらに、参加をきっかけに学生団体を立ち上げ、企業や行政と連携したプロジェクトを推進し、メディアでも多数取り上げられるなど、社会を動かす若者も現れている。
 こうした取り組みでは、学生の連絡先を企業に提供していない。そのため、直接的な採用にはつながらないにもかかわらず、多くの企業が継続的に関わっているのは、「人づくり」が社会の未来をつくり、結果として自社にも還元されるという確信があるからだ。実際、「良い学生が育てば、自社に入社しなくても構わない」という声も聞かれるようになってきた。
 資源に乏しい日本にとって、最大の資源は「人」である。これからの社会に必要なのは、人材を奪い合う「青田買い」ではなく、ともに育て合う「青田創り」だ。私たちは今、その転換点に立っている。