2025年11月28日掲載

Point of view - 第288回 木内康裕 ― 生産性向上にAIを寄与させるには

木内康裕 きうち やすひろ
公益財団法人日本生産性本部 生産性研究センター 上席研究員
学習院大学 経済学部 特別客員教授

立教大学大学院修了。政府系金融機関勤務を経て日本生産性本部入職。2024年4月より学習院大学経済学部特別客員教授を兼任。生産性に関する統計作成・経済分析が専門。国際的に見た日本の労働生産性の実態などに詳しい。主な著書等に「労働生産性の国際比較」(日本生産性本部)、『日本経済の未来と生産性——豊かさの基盤としての資本と技術力』(共著、東京大学出版会)、『人材投資のジレンマ』(共著、日本経済新聞出版)、『新時代の高生産性経営』(共著、清文社)など。

生成AIは雇用への「脅威」なのか? それとも「救世主」なのか?

 「生成AIは人から仕事を奪う」。そんな懸念を裏づけるように、多くの企業が競争力強化や生産性向上に生成AIをはじめとするデジタル技術を活用するようになり、ホワイトカラーが担ってきたさまざまな職務が置き換えられつつある。
 実際、米国では、AIの影響で大卒以上の新卒や若年層の採用が減少していることがしばしば報道されるようになっている。スタンフォード大学教授であるエリック・ブリニョルフソンらが2025年8月に発表した研究[注1]を見ても、米国ではAIの普及によって若年労働者の雇用が13%減少している。特に、ソフトウエア開発やカスタマーサービスなどAIの影響を最も受けやすい職種では、経験豊富でハイスキルな雇用は比較的安定しているものの、初歩的な職務を担う22~25歳の雇用が著しく減少している。
 看護助手のようにAIの影響が少ない職種では、年齢に関係なく雇用が比較的安定していることからすると、少なくとも米国ではAIで自動化されやすい分野の初歩的なタスクを担う雇用が急速に消失しつつあることが分かる。
 人手不足が深刻化する日本は、こうしたインパクトのある変化にはまだ見舞われていない。日本生産性本部の調査(第3回「生産性課題に関するビジネスパーソンの意識調査」2024年)によると、日本では生成AIを “雇用への脅威” よりも “人手不足解消のための救世主” として期待する企業人のほうが多い。しかし、いずれ日本でも米国のような変化が起きる可能性を否定することはできないだろう。
 また、ブリニョルフソンらの研究では、人が行ってきた職務を代替させるためにAIを利用しているケースでこそ雇用が減少しているものの、人が担う業務を補完するためにAIを利用する場合、雇用は減少しておらず、むしろ増加しているケースもあるという。テキサス大学准教授であるアンドリュー・ジョンストンらの研究[注2]でも、AIが人間を補完する職務が多いセクターでは、雇用と賃金がともに増加していることが示されている。
 このことは、AIを省力化や業務効率化のために用いるものとしてのみ捉えるのではなく、業務をより創造的で価値の高いものとするために利用できれば、必ずしも雇用を脅かすことにはならず、雇用増や事業拡大に寄与し得ることを示唆している。

AIで生産性はどのくらい向上するのか?

 筆者が日本生産性本部で毎年行っている調査の2024年版(「労働生産性の国際比較2024」)によると、日本の労働生産性(就業者1人当たり付加価値)は主要先進7カ国の中で最も低く、近年ではポーランドやエストニアといった東欧圏の国々やバルト諸国と同程度にとどまる。コロナ禍の経済活動自粛が欧州諸国より長引いたことなども影響しているが、OECD加盟国の中で見た日本の労働生産性(就業1時間当たり付加価値)の順位は、これまでの20位前後から2023年調査で29位まで落ち込んでいる。日本が豊かさや経済成長を持続的に維持するためには、こうした状況の打開が欠かせない。
 そのためには、イノベーションの創出や人材への投資拡大が重要とよく指摘されるが、AIをはじめとするデジタル技術の積極的な活用も効果が大きい。
 実際のところ、AIを活用することで生産性はどのくらい向上するのだろうか。森川正之経済産業研究所特別上席研究員の研究[注3]によると、AIを業務に利用する労働者は5.8%にとどまるが、業務効率を見ると21.8%向上している(単純平均)。改善幅は個人差が大きく、職務内容やスキルレベルなどにも左右されるが、生産性を概算すればAIを全く利用しない状態から全体で1.2%程度向上したことになる。
 もちろん、AIを導入する際は効果が大きい職務から代替していくと予想されるため、上記のような効果が逓減していく可能性もある。一方で、急激な技術進歩を勘案すると、生産性向上がさらに進むとも期待されている。
 また、AIによる生産性やパフォーマンス、雇用などへの影響をめぐっては、比較的新しいテーマということもあってさまざまな研究があるものの、AIによる効果をどう見込むかなどによって結果が異なる。そのため、これからをどう見通すかを判断するのはまだ難しいところもあるが、AIが今後の生産性を左右することは確かだろう。

働き方への影響と望ましい未来

 AI導入が進むと、これまで中間層が担っていた事務的な仕事がAIに代替されてしまい、高スキルで高所得な一部の層と(社会的に必要だが)低スキル・低所得層に二極化してしまうといった悲観的な予測もある。
 だが、目指すべきなのは、AIをはじめとするデジタル技術によって、働く人がしたがらない仕事が減り、ILOが提唱する「ディーセント・ワーク」(働きがいのある人間らしい仕事)が少しでも増えていくことではないだろうか。そのために、デジタル技術とうまく付き合っていくことが求められている。デジタル技術を使いこなせるようになることは非常に重要だが、それだけでは十分ではない。それを課題解決や成果に結びつけていく姿勢や環境が重要だ。
 守島基博学習院大学教授、山尾佐智子慶應義塾大学教授、初見康行実践女子大学准教授(調査当時:多摩大学准教授)と日本生産性本部(筆者)が行ったアンケート調査[注4]によると、スキルの習得は重要だが、それだけでは成果や生産性向上にうまく結びつかず、「マインド面のケア」(こころのケアを丁寧に行う)が重要な媒介要因になっている。
 具体的には、スキルアップに加え、①組織文化や企業理念の共有、②従業員がイキイキと働く職場づくり、③主体的に考え、行動することを後押しするような職場環境、④自己効力感を高める取り組み、などによって従業員が自律的にイキイキと行動するようになるかどうかが成果や生産性向上に大きく影響している。
 代替可能な職務をAIに任せ、人間は創造性や判断力を要する活動に専念する。AIを脅威と見なしがちな欧米と異なり、人手不足が深刻な日本はそれを受け入れやすい環境にある。人手不足への対処や日本経済の持続的成長、ディーセント・ワークの拡充を同時に実現するのは難題だが、それを実現するための重要な手段としてAIとの共存を考えることが求められている。

注1 Erik Brynjolfsson,Bharat Chandar,Ruyu Chen (2025) "Canaries in the Coal Mine? Six Facts about the Recent Employment Effects of Artificial Intelligence" Stanford University WORKING PAPER, August 26, 2025

注2 Andrew C. Johnston & Christos Makridis (2025) "The Labor Market Effects of Generative AI: A Difference-in-Differences Analysis of AI Exposure", SSRN

注3 森川正之(2024)「日本企業・労働者のAI利用と生産性」RIETI DP24-J-011
https://www.rieti.go.jp/jp/publications/rd/149.html

注4 守島基博・初見康行・山尾佐智子・木内康裕(2023)『人材投資のジレンマ』日本経済新聞出版