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高橋睦史 たかはし あつし 2018年立教大学経営学部卒業後、人材紹介企業 JAC Recruitmentへ入社。外資系製造業のAutomotiveチームで、両面型の人材系エージェントを経験。全社表彰2回。「事業を仲間と共に創り、経営する」経験を積みたいという思いから、2020年11月株式会社Hajimariに入社。「ITプロパートナーズ」セールスと兼業で、正社員領域の新規事業をスタート。現役経営層の社外メンターを紹介する「メンタープロパートナーズ」の新規事業を立ち上げ、事業管掌。並行して、人事フリーランス向けサービス「人事プロパートナーズ」の事業管掌も行う。 |
現代のビジネスシーンは、かつてないスピードで変化し、企業は常に変化・成長の必要に迫られている。しかし、その多くは深刻な管理職不足という課題に直面している。これは単なる人手不足にとどまらず、日本企業の組織全体の成長を阻害する構造的な問題となりつつあるのだ。
「罰ゲーム」と化した管理職の現実——深刻化する管理職不足の背景
かつて「出世の象徴」とされた管理職の座が、いまや「罰ゲーム」のように敬遠される時代となった。日本能率協会マネジメントセンターの調査では、一般社員の7割以上が管理職になりたくないと回答している。
この傾向の背景には、複数の要因が複雑に絡み合って存在している。とりわけ大きな要因の一つは、“プレイングマネジャー” の常態化である。多くの管理職が、自らの専門業務をこなしながら、部下のマネジメント、コンプライアンス対応、メンタルヘルスケア、リモートワーク下での新たな管理手法の確立といった多様な責務を一人で担っている。
さらに、VUCAの時代において、予測不可能な変化への対応や多様なステークホルダーとの利害調整、進化するテクノロジーへの適応が求められる今、従来の経験だけでは太刀打ちできない局面が増えた。
加えて、こうした責任に見合う報酬水準や評価制度が十分に整っていないケースが多いことも、管理職が敬遠される要因となっている。特にワーク・ライフ・バランスを重視する若手社員にとって、長時間労働や責任の重さだけが強調される現在の管理職像は魅力的とは映らない。
こうした複合的な要因により、「管理職=つらい」というイメージが定着し、若手社員がキャリアの選択肢として管理職を避けるようになっている。企業には、この悪循環を断ち切り、管理職の魅力を再構築する新たな方策が求められているのだ。
外部人材による「上司代行」という解決策
このような課題に対し、筆者が所属する株式会社Hajimariでは、社外のプロ人材を戦略的に活用する「上司代行」というアプローチを提案している。これは、マネジメントや専門領域に精通したプロフェッショナル人材を業務委託契約にて紹介し、第二の上司として若手社員の育成や意思決定をサポートするサービスである。
従来のOJT中心の育成では、現場の管理職が多忙な中で十分な指導時間を確保することが難しかった。しかし、上司代行では、第三者の視点から若手に寄り添いながら実務レベルでの課題解決を支援する。
例えば、後輩へのフィードバックの仕方、チーム目標の設定、業務の優先順位の整理など、日々の業務に直結する指導を通じて、小さな成功体験を積ませることができる。特に若手社員にとっては、「管理職は自分にもできる」「組織に貢献できる場である」と実感するきっかけとなり、自信や納得感につながる。
また、外部の支援者がいることで、重圧を感じ過ぎることなく心理的安全性の高い環境下でマネジメントスキルを習得できるのも大きな利点といえる。
多様な組織課題に応える「外部上司」の力
実際に「上司代行」を導入している企業では、組織変革と人材育成の両立が進んでいる。
例えば、スタートアップ企業のA社では、若手プロダクトマネジャーに対して、経営経験を持つ外部メンターが上司代行として週1回のセッションを通じて実践的な支援を行った。メンターは、戦略立案やチームメンバーの巻き込み方、意思決定の進め方に関する助言を行い、若手社員は徐々に自信を持って判断し、リーダーシップを発揮するようになった。結果として、プロダクトの方向性が明確になり、組織の機動力が高まったのである。
一方、紙文書の保管や情報管理事業を展開する老舗企業B社では、グループ会社化に向けた組織再編や次世代事業戦略の立案を目的に上司代行を活用した。その結果、既存製品群のポートフォリオ見直しと、それに伴う人材配置の仕組み・評価制度の最適化が実現した。また、年上部下を持つ若手管理職の悩みにも丁寧に寄り添い、ロールモデル不在による不安を解消する支援がなされたという。
これらの事例は、組織の性質や人材構成を問わず、外部人材の「伴走型」支援が有効に機能することを示している。
重要なのは、「変革」を現場任せにせず、外部の力を取り入れながら、自ら動ける人材を育てる仕組みを整えることである。
管理職は “選べる道” へ——これからの組織づくりに必要な視点
管理職は、“やらされる役割” ではなく「自ら選び、成長し、貢献する道」であるべきである。そのためには報酬・評価など人事制度の見直しとともに、信頼できる外部人材との出会いや支援体制の構築が欠かせない。
今、企業に求められているのは、「なぜ管理職になりたくないのか」について丁寧な対話を重ね、「どうすれば前向きに挑戦できるか」をともに考える文化を育むことである。
このような視点からも、「上司代行」という新たな選択肢は、管理職不足の時代における有効な突破口となり得ると確信している。