浅野浩美 あさの ひろみ
事業創造大学院大学
事業創造研究科教授
1.大学新卒者の採用状況
インディードリクルートパートナーズの「就職プロセス調査(2026年卒)」によると、2026年3月新規大学卒の2025年6月1日現在の就職内定率は81.6%(前年同期比0.8ポイント減)と、前年をわずかに下回るものの、選考解禁時点において、既に内定率は8割超えという状況である。
このような中、企業は、どの程度新卒者を採用できているのだろうか。2025(令和7)年3月25日に厚生労働省が公表した労働経済動向調査で、直近の2025(令和7)年3月新卒者の採用状況を見てみよう。
同調査は、2月1日現在の状況を調べたものだが、これによると、「採用計画・採用予定がある」事業所のうち、「採用計画数に採用内定(配属予定)が達していない」とする事業所の割合は、高校卒56%、高専・短大卒59%、大学卒(文科系)48%、大学卒(理科系)56%、大学院卒52%、専修学校卒60%で、いずれの学歴においても半数に近いかそれを上回る。それどころか、応募者数自体が採用計画数に達していないという企業も多く、その割合が最も低い大学卒(文科系)でも39%と4割に迫る。
規模別に採用内定状況を見てみると、規模が大きいところほど「採用計画数どおり採用内定した」が多くなっているが、1000人以上でも「採用計画数に採用内定数が達していない」ところが3~4割ある。また、2024(令和6)年3月卒データと比べると、100~299人で厳しさが増している※ことがうかがえる[図表1]。
※労働者数による確率比例抽出を行っているため、労働者が多い事業所ほど調査対象として選ばれやすくなっており、実質的に回答事業所で働く労働者の割合に近くなっている。また、規模により大学卒の「採用計画・採用予定がある」事業所の割合は異なり、1000人以上および300~999人で半数以上なのに対し、100~299人で40%前後、30~99人で20%台前半である。規模の小さい企業の状況把握には、注意が必要である
[図表1]規模別に見た採用計画数と比較した採用内定の状況(大学卒 文系・理系)
資料出所:厚生労働省「労働経済動向調査」(令和7年2月)
2.就職活動を巡る変化と問題点
採用計画数を充足できない企業が増え、特に、中小企業において厳しさが増していることは分かったが、企業や学生は、どのように動いているのだろうか。
採用する側の企業人事は、アプローチ時期を早めるほか、さまざまな手を打っている。人材確保面で有利だと考えられる、日本経済団体連合会会員企業の労務担当役員等を対象に、2024年9~11月に行われた「2024年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」でも、新卒採用で実施している採用方法(複数回答)としては、一括採用が83.2%と大半を占めるが、職種別・コース別採用(55.2%)、リファラル採用(30.8%)、通年採用(27.7%)、ジョブ型採用(16.5%)と多様な採用方法を用いるようになっている。新卒を「一括」で採用することをやめた富士通や、適正人員を見極めるためにあえて新卒採用を減らした大和ハウス工業のように、新卒一括採用の在り方を見直す企業も出てきている。
採用の仕方を工夫しているのは、中堅・中小企業も同じである。こぞって、自社の採用ページを充実させ、応募を呼び掛ける。しかし、各社が採用ページに工夫を凝らし、自社の良さをアピールする中で、求められる情報をうまく伝えることは簡単ではない。
一方、学生側が売り手市場を満喫しているかというと、そうでもなさそうだ。リクルート就職みらい研究所がまとめた「就職白書2025」によると、2025年3月卒の学生のエントリー数は、個人情報提供を行う、いわゆるプレエントリーが平均26.30社(前年差1.82社減)、応募理由などを記載した、いわゆるエントリーシート提出が平均12.39社(同0.32社減)と、いずれも減少している一方で、対面での面接選考は平均5.31社(同0.55社増)、内々定・内定の獲得は平均2.74社(同0.13社増)と増加している。活動時期が早まる中で、速いペースで内定先が決まっていく様子がうかがえる。そのためか、入社予定企業等への就職の納得度は、「当てはまる」が73.6%(同3.6ポイント減)と減少しており、「就職先を安易に決めてしまったと感じる」かという問いに対し、「当てはまる」と答えた者は43.6%と4割超に上る。
新卒者の早期離職についても、さまざまな報道がなされている。[図表2]は、雇用保険データを基にした大学卒者の3年離職率である。これを見ると、以前から3年離職率は3割超と高く、ここに来て、大きく伸びたとまではいえないが、やっと採用できた新卒者が離職したとなるとダメージは大きい。
[図表2]大学卒の就職後3年以内離職率の推移
[注]1.事業所からハローワークに対して、新規学卒者として雇用保険の加入届が提出された新規被保険者資格取得者の生年月日、資格取得加入日等、資格取得理由から新規学校卒業者と推定される就職者数を算出し、さらにその離職日から離職者数・離職率を算出している
2.各数値は、各年の3月に卒業する新規学卒者の卒業年から3年後の6月時点で把握した離職率である(例えば、2018年3月に卒業する新規学卒者の数値とは、2021年6月時点で把握した、就職後3年以内の離職率である)。ただし、2022年3月および2023年3月卒の数値は、2024年6月時点で把握した離職率である
3.離職率は、小数第2位を四捨五入している。なお、「合計」の離職率は、四捨五入の関係で1年目、2年目、3年目の離職率の合計と一致しないことがある
資料出所:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」
3.本当の情報をどう伝えるか
このような中、中小企業に打てる手はあるのだろうか。
「リアリスティック・ジョブ・プレビュー」という考え方がある。産業心理学者のワナウスが提唱したもので、採用活動において、企業のポジティブな部分のみを求職者に開示するのではなく、ネガティブな部分も含めてありのままを開示することにより、「こんなはずではなかった」というショックを軽減し、離職を防ぐ効果があるとされる。ポジティブな面、ネガティブな面の両方を知った上で検討することにより、納得度の向上も期待できそうだが、実施には留意が必要なところがある。
課題も含めたありのままの情報を、自社サイトに載せることにはリスクが伴うし、載せ方も難しい。面接時などに伝えることもできるが、伝え方を工夫する必要があるし、手間も掛かる。採用に人員を割きにくい中小企業には、つらいところもある。
一つの考えとして、厚生労働省の「しょくばらぼ」を活用するのはどうだろうか[図表3]。同サイトには、現行の労働関係法令等で定められている開示項目が整理された形で掲載している。開示に当たってこのサイトを用いなければいけないわけではないため、このサイトに職場情報を掲載していない企業もある。企業によって、掲載内容・掲載情報量にかなりの差があるが、都合の良い情報だけでなく、属性別・社員区分別の継続雇用割合、具体的な所定外労働時間など改善の余地のある情報を載せている企業もある。認定・表彰情報についても掲載できる。公的サイトであることから、「正直な企業」であり、かつ、「従業員の働きやすさに気を配っている企業」であることをアピールできる。
同サイトに掲載し、自社サイトにはリンクを貼るだけで足り、自社サイトにポジティブでないことを掲載することなく、ありのままの情報を伝えられる。大学新卒者の減少が見込まれる中、母集団形成よりも必要な学生を確保する時代となりつつある。こちらが伝えたい情報に加えて、学生・求職者たちが求めている「本当の情報」をいかにうまく伝えることができるかが重要となってきている。
[図表3]職場情報総合サイト しょくばらぼ
【参考文献】
・Wanous, J. P. (1992). Organizational Entry: Recruitment, Selection, Orientation, and Socialization of Newcomers. Addison-Wesley Publishing Company.
・厚生労働省(2025)「労働経済動向調査」(令和7年2月)
・リクルート就職みらい研究所(2025)「就職白書2025」
・日本経済団体連合会(2025)「2024年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」
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浅野浩美 あさの ひろみ 事業創造大学院大学 事業創造研究科教授 厚生労働省で、人材育成、キャリアコンサルティング、就職支援、女性活躍支援等の政策の企画立案、実施に当たる。この間、職業能力開発局キャリア形成支援室長としてキャリアコンサルティング施策を拡充・前進させたほか、職業安定局総務課首席職業指導官としてハローワークの職業相談・職業紹介業務を統括、また、栃木労働局長として働き方改革を推進した。 社会保険労務士、国家資格キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。日本キャリアデザイン学会専務理事、人材育成学会常務理事、国際戦略経営研究学会理事、NPO法人日本人材マネジメント協会執行役員など。 筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程修了。修士(経営学)、博士(システムズ・マネジメント)。法政大学大学院キャリアデザイン学研究科兼任講師、産業技術大学院大学産業技術研究科非常勤講師、成蹊大学非常勤講師など。 専門は、人的資源管理論、キャリア論 |
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