2025年04月24日掲載

キャリアコンサルティング―押さえておきたい関連情報 - 第24回 キャリアコンサルティングは、リスキリング推進、ワーク・エンゲイジメント向上に役立つのか ~1万1820人を対象とした調査結果から~

浅野浩美 あさの ひろみ
事業創造大学院大学
事業創造研究科教授

1.はじめに

 2016(平成28)年4月にキャリアコンサルタントが国家資格となってから、9年あまりになる。この間、DXの進展など産業構造の変化が加速し、個人が自らキャリアを形成する必要性が増した。企業にも、人的資本への投資によって生産性を向上させることが強く求められるようになった。
 政府は、2022(令和4)年6月に「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」を策定するとともに、2023(令和5)年5月に「リ・スキリングによる能力向上支援」「個々の企業の実態に応じた職務給の導入」「成長分野への労働移動の円滑化」の三つを一体的に進める「三位一体の労働市場改革の指針」を決定した。令和5年度税制改正では、厚生労働大臣が指定する教育訓練給付指定講座を受講した場合、キャリアコンサルタントによる証明を受けることで特定支出控除制度の適用を認めることとされるなど、キャリアコンサルティングに対し、大きな期待が寄せられている。
 その一方で、キャリアコンサルティングに対しては、以前から、こうした期待に十分に応えられていないのではないかという懸念も示されてきた。
 これに対し、労働政策研究・研修機構は大規模な調査として「キャリアコンサルティングの有用度及びニーズに関する調査」を行っていたが、このほどその結果が取りまとめられた。報告書では、懸念に対して答えを出すべく、かなり厳密な分析も含め、さまざまな分析がなされている。紹介したいこと、この報告書を踏まえて検討してみたいことは多いが、今回は、キャリアコンサルティング経験の有無、リスキリング、職業生活に対する満足感、ワーク・エンゲイジメントとの関係に絞って、その内容を紹介する。

2.調査の概要など

 調査は、2023年8月に、調査会社のモニターを利用したインターネット調査で行われた。20~50代の1万1820人(就労者9900人、非就労者1920人)が対象で、年齢・性別による割り付けが行われている。
 調査では、対象者に対し、過去に専門家や専門の担当者にキャリアコンサルティングを受けたり、キャリアに関する相談をしたりしたことがあるか尋ねている。その結果、就労者9900人のうち1532人(全体の15.5%)が過去にキャリアコンサルティングを受けたことがあると答えている※1。2016年の同様の調査では、この割合は11.2%であった。この7年の間にキャリアコンサルティングが普及したことが分かる。
 1532人がキャリアコンサルティングを受けた機関や場については、「民間の人材サービス機関(職業紹介会社、派遣会社等)」(32.0%。490人)、「公的機関(ハローワーク、自治体等の就労支援機関)」(19.6%。300人)、「企業内(人事部や人事部が委託した社内外の相談窓口等)」(18.3%。280人)※2の順であった※3

※1 職業能力開発促進法30条の3に規定するキャリアコンサルタントでない者も含まれていることには注意が必要である。

※2 7年前には企業内(人事部)に相談した者の割合が12.5%であったことを考えると、この間に企業内において人事部等が行うキャリアコンサルティングが普及したことが分かる。

※3 このほか、企業内に関しては「企業内(上記以外)」が8.0%(123人)を占めた。

3.キャリアコンサルティング経験の有無とリスキリング、ワーク・エンゲイジメント

 まず、キャリアコンサルティング経験の有無とリスキリングの関係から、見てみよう。
 報告書には、キャリアコンサルティング経験の有無で、リスキリングを「行った」者の割合が大きく異なることが示されている(有:32.0%、無:10.9%)が、その一方で、キャリアコンサルティング経験の有無によって、性別、年齢、学歴、雇用形態、従業員規模、職業のほか、キャリアについての考え方、転職意向、リスキリングについての考え方などに差があることが報告されている。
 キャリアコンサルティング経験のある者では、男性の割合や若年層の割合が高く、高学歴であるほか、正社員率が高く、従業員規模が大きく、管理職や専門職の割合が高い。また、キャリアについて自分で考えたいという者の割合が高く、転職志向が強く、リスキリングを重視している傾向にあった。
 そのため、このままの状態で比べてしまうと、キャリアコンサルティング経験があるグループとないグループで違いがあったとしても、それが、キャリアコンサルティング経験の有無によるものなのか、それとも、属性や考え方が異なることによるものなのかは分からない。
 この問題を解決するため、報告書では、傾向スコアマッチングという方法を用いて厳密な分析をしている。これは性別、年齢などといった要因の傾向をそろえ、疑似的な実験環境をつくり出して、グループ間の比較をするという方法である。今回の場合は、性別、年齢などの属性のほか、考え方についても着目し、キャリアコンサルティング経験のない者の中から、キャリアコンサルティング経験がある者と似た特徴を持つ者を選び出し、それぞれ701人ずつのセットを作って比較を行っている。
 分析結果を見ると、属性や考え方を調整しても、キャリアコンサルティング経験ありの場合、リスキリングを「行った」者の割合が高くなっている。リスキリングには、効果があったといえそうである。
 調査では、さらに職業生活に対する満足度や、ワーク・エンゲイジメントについても尋ねている。これらについても、キャリアコンサルティング経験ありのほうがスコアが高かった(1%水準で統計的に有意)。
 すなわち、属性や考え方を調整しても、キャリアコンサルティングを受けた経験は、これら三つのことに対してポジティブな影響を与えていることが分かる[図表1~3]

[図表1]キャリアコンサルティング経験の有無別のリスキリング経験(傾向スコアマッチング後)

図表1

[図表2]キャリアコンサルティング経験の有無別の職業生活に対する満足感(傾向スコアマッチング後)

図表2

[図表3]キャリアコンサルティング経験の有無別のワーク・エンゲイジメント(傾向スコアマッチング後)

図表3

資料出所:労働政策研究・研修機構(2025)「キャリアコンサルティングの有用度及びニーズに関する調査」労働政策研究報告書No.233, P.52-54.

 この結果に対し、一度や二度、キャリアコンサルティングを受けたからといって、そんなに効果があるのかと、疑問を呈する方もいるかもしれない。
 これに対しては、キャリアコンサルティングの流れ、すなわち、①自己理解、②仕事理解、③啓発的経験、④意思決定、⑤方策の実行、⑥新たな仕事への適応といったステップを思い起こしてみてはどうだろうか。
 これらのステップはキャリア形成の大きな流れであり、1回の相談ですべてを行うものではないが、キャリアコンサルティングを受けることによって、自分自身や周りの環境について知り、気づき、それが、さらに何かに取り組むことにつながり、結果としてポジティブな影響につながっているというふうに考えられないだろうか(第12回)。

4.おわりに

 調査では、キャリアコンサルティングの実態など多くのことが明らかになった。また、報告書では、キャリアコンサルティングを受けた機関や場の特徴などについても分析がなされている。
 2025(令和7)年2月26日からは、「経済社会情勢の変化に対応したキャリアコンサルティングの実現に関する研究会」において、キャリアコンサルティングに必要な能力やこれを得るために有効な制度・施策の在り方、活用活性化策などを中心に議論が進められている。同年夏ごろをめどに中間取りまとめ、年末ごろをめどに最終的な取りまとめを行う予定だという。本報告書の結果なども踏まえ、活発な議論が行われることを期待したい。

【参考文献】

・労働政策研究・研修機構(2025)「キャリアコンサルティングの有用度及びニーズに関する調査」労働政策研究報告書No.233.

浅野浩美 あさの ひろみ
事業創造大学院大学 事業創造研究科教授
厚生労働省で、人材育成、キャリアコンサルティング、就職支援、女性活躍支援等の政策の企画立案、実施に当たる。この間、職業能力開発局キャリア形成支援室長としてキャリアコンサルティング施策を拡充・前進させたほか、職業安定局総務課首席職業指導官としてハローワークの職業相談・職業紹介業務を統括、また、栃木労働局長として働き方改革を推進した。
社会保険労務士、国家資格キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、産業カウンセラー。日本キャリアデザイン学会専務理事、人材育成学会常務理事、国際戦略経営研究学会理事、NPO法人日本人材マネジメント協会執行役員など。
筑波大学大学院ビジネス科学研究科博士後期課程修了。修士(経営学)、博士(システムズ・マネジメント)。法政大学大学院キャリアデザイン学研究科兼任講師、産業技術大学院大学産業技術研究科非常勤講師、成蹊大学非常勤講師など。
専門は、人的資源管理論、キャリア論

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