株式会社リンクアンドモチベーション 代表取締役会長、経営コンサルタント
四六判/224ページ/1800円+税/日本経済新聞出版
BOOK REVIEW ―人事パーソンへオススメの新刊
■ 多くの企業が人的資本経営やジョブ型雇用、スポットワークなど、近時のトレンドを踏まえながら施策の検討を進めていることだろう。しかし、著者はかつて盛り上がりを見せ、定着することのなかったプレミアムフライデーを取り上げながら、バズワードに飛びついて施策を展開することへの警鐘を鳴らす。本書では、著者が立ち上げたリンクアンドモチベーションにより蓄積されたデータや事例を基に、世の流行とされる事柄の本質を解き明かし、社会的要請や労働市場の変化に対応するための根本となる考え方を提示している。
■ 第1章「会社・組織・マネジメントの本質」では、会社の基本的価値や組織の成立要件、マネジャーに求められる本質的役割などを取り扱い、経営者や管理職の多くが悩む「権限移譲」のポイントにも触れる。第2章では「社会的要請」として関心を集める女性管理職比率や人的資本経営、ジョブ型雇用などの本質に迫る。第3章では「個人の働き方」に焦点を当て、ワークライフバランスやキャリアデザイン、副業・兼業など、現代のビジネスパーソンに広く関わるテーマで問題を提起。第4章は「組織変革」、第5章は「環境変化適応」をテーマとし、パーパス経営やダイバーシティ、テクノロジーの発展などに踏み込みつつ、組織変革のメカニズムや企業が労働市場で生き残るための視座を示している。
■ 本書の締めくくりに「成長のカギは健全な不均衡」と述べる著者は、小さな均衡状態から脱することが個人と組織の成長に欠かせないと語る。また、女性管理職比率を高めることだけを目的にするような「手段の目的化」へ警告を発し、社会的要請の裏側にある深層部分を考え抜いて取り組みを進める重要性を訴えかけている。VUCAの時代だからこそ迷い惑わされることの多い現代の経営者や人事担当者にとって、本書は、思わずはっとさせられるような「気づき」が詰まっている。
内容紹介 本書は、日本の組織変革の第一人者である著者が「会社とは、いったい何か」「組織は、どうあるべきか」という “本質” を主軸に、経営やマネジメントの在り方を解説するものです。 近年、企業を取り巻く環境は目まぐるしく変化を続けており、今後の予測が極めて困難なため、「経営の中長期的な見通しがつかない」と言われるようになっています。その影響で、「各企業は世の中の潮流に乗るためにバズワードに飛びつくものの、いつの間にかその本質を見失い、『手段』が『目的化』してしまっているケースが多発している」と、著者は警鐘を鳴らしています。 「人的資本経営」「パーパス経営」「ジョブ型雇用」「自律分散型組織」「働き方改革」「女性管理職比率」「ダイバーシティ」……。実に多様なキーワードが広まり、国や社会からの要請も増えています。しかしながら、それらの本質を見抜くことなく、当面の対応をしがちになり、従業員の時間と労力は会社の見えないコストとして生産性を押し下げ、また対応した人間の仕事への効力感や誇りを奪っているケースが散見されると、著者は分析。 「このままでは、経営者や管理職層、働く人々が徒労感や無力感に襲われてしまうのではないかという憂いと、日本企業の国際競争力がさらに低下してしまうのではないかという危機感を抱くようになりました。私の過去の経験や現在の立場上、どうしてもこのまま世の風潮に対して沈黙していてはいけないという感情に突き動かされたのが、本書を執筆することになった理由です」と著者は語ります。 著者が経営する会社は、経営学・社会システム論・行動経済学・心理学などの学術成果をもとにした基幹技術「モチベーションエンジニアリング」を開発し、国内最大級の社員クチコミデータベース(約1860万件)や、組織状態データベース(延べ1万2650社、509万人)、人材育成関連データベース(延べ1万1640社、148万人)など、膨大なデータを蓄積してきました。 本書は、それらをもとにした統計的なファクトデータやコンサルティングの豊富な実例を交えながら、トレンドワードの本質に迫り、組織変革のあるべき姿を描き出します。 経営者や管理職のみならず、人事・経営企画・IR・広報担当者などのコーポレート部門、さらには次世代を担うビジネスパーソンにとっても企業変革のための示唆に富む一冊です。 |