2023年04月28日掲載

Point of view - 第227回 嵯峨生馬 ―「プロボノ」を企業が推進していく上でのポイント ―高まる従業員の社会参加への期待

嵯峨生馬 さが いくま
認定NPO法人サービスグラント 代表理事

シンクタンク研究員を経て、2005年、仕事の経験・スキルを活かしたボランティア活動「プロボノ」により、NPOの基盤強化を支援するサービスグラントの活動を開始。以来、7800人を超える社会人の登録を集め、1200件以上のプロジェクトを実施。併せて、オンライン上でプロボノ等のマッチングを促進する社会参加プラットフォーム「GRANT」の開発を推進している。著書に『プロボノ―新しい社会貢献 新しい働き方』(勁草書房、2011 年)ほか。
https://www.servicegrant.or.jp/

社会課題解決に向けられる企業の熱視線

 経団連の調査(「社会貢献活動に関するアンケート」2020年9月15日)によると、2005年と2020年とで、従業員のボランティア活動に対する企業の期待は大きく変化している。従業員の社会貢献活動の役割や意義を、「経営理念やビジョンの実現の一環」と捉える企業は、2005年の37%に対し2020年は83%と大幅に増加している。「社員が社会的課題に触れて成長する機会」と捉える企業は、2005年のわずか4%に対し、2020年には53%と急激に伸びている。
 2005年当時、ボランティアは社外とのお付き合い程度で、会社にとってさほどメリットのある活動ではないように映っていたかもしれない。しかし2020年には、ボランティアは経営戦略の中に位置づけられ、従業員の成長に役立つ人材開発の意味合いをも期待されるようになった。この調査結果を受けて2022年12月に改訂された「企業行動憲章 実行の手引き(第9版)」においては、従業員の社会参加の重要性が色濃く強調されている。
 人材開発の文脈でも「越境学習」や「他流試合」への注目は高まり続けている。そこに「社会課題解決」の要素が掛け合わされることもしばしばだ。複雑化・多様化する社会において、まずは社会課題に対する感度を高めること、課題を的確に捉え解決につながる成果を生み出すこと、ひいては、新しいアイデアを持ち帰って本業にイノベーションを起こすこと――。そうした動きができる人材を育てるために、内向き志向を打破し、外部の環境で腕試しする場を求める企業が増えている。
 これほどまでに、企業から社会に対して熱視線が向けられたことは、いまだかつてなかったことかもしれない。

社会参加に対する受け皿と課題

 では、受け皿のほうはどうか。
 日本国内にはNPO法人だけで5万団体、一般社団法人や法人格を持たない任意団体まで含めると何十万もの地域活動や市民活動の団体が存在している。それらの多くが、課題を抱える当事者と向き合いながら、ごく限られたリソースで活動しており、担い手の不足や運営上の課題を抱えている。それでもリーチできていない人がたくさんいる。SDGsの「誰一人取り残さない」を実現することは、「言うは(やす)く行うは難し」だ。それくらい、社会課題に触れる場は、日本中のありとあらゆるところに無数に存在している。
  企業は社会に目を向け、社会は担い手を必要としている。後は、具体的な一歩をどのように踏み出すか、にかかっている。今こそ、「プロボノ(仕事の経験・スキルを活かしたボランティア活動)」の実践に踏み出してほしい。

プロボノを推進する上での五つのポイント

 従業員の成長や事業におけるイノベーション創出などを目的として、従業員の社会参加を前向きに推進したいと考える企業において、プロボノを推進する際にあらかじめ考えておくとよいポイントは何か。技術的な詳細は割愛し、ここでは簡潔に五つのポイントを挙げておきたい。

①トップ自らコミットメントを表明する
 まず、企業としてプロボノに取り組む意義や位置づけを言語化し、従業員に分かりやすく説明する必要がある。そうしたメッセージを経営陣自らの言葉で従業員に向けて発信することで、取り組みの本気度も伝えられる。また、活動の節目となる主要な会合に経営陣が同席するなど、経営陣が関心を持っている姿勢を表現することも効果的だ。

②社内制度との関連を整理する
 プロボノを業務時間とするかどうか、ボランティア休暇などが取得できるか、メールやパソコン・会議室の使用ルール、経費精算ルールなどをどうするかを整理することは、参加を促進する大きな後押しになる。また、プロボノへの参加の前後に面談やアセスメントを行うことで、人材開発の観点からの効果を把握することにもつながる。

③中間支援組織と連携する
 プロボノの受け入れ先の団体を開拓する方法の一つとして、中間支援組織との連携は、ぜひ選択肢に加えてほしい。中間支援組織とは、「NPOを支援するNPO」ともいわれ、ある地域やある分野・テーマに関連する団体のネットワークを持つ組織のことである。中間支援組織が持つネットワークを活用することは、社会参加の機会を広げることに効率的だ。

④従業員のコミュニティーを創出する
 団体の活動に深く入り込んで課題解決を経験できる従業員の数には限りがある。それでも、プロボノを経験した従業員には、短期間に豊かな経験や知識が蓄積する。その知見をより多くの従業員と共有することで、企業の資産としての活用につながる。具体的には、幅広く興味・関心を持つ従業員に向けた報告会の開催や、社内広報でのインタビュー記事を企画したり、また、参加経験者が定期的に集まり会社への新事業や改善提案を話し合ってもらったりするような場づくり(コミュ二ティーの創出)なども有効かもしれない。

⑤団体との継続的な協働を模索する
 プロボノは、団体との継続的な連携の可能性を探るきっかけにもなる。プロボノによる支援終了後に、寄付や寄贈品の提供、従業員の継続的なボランティア参加といったライトなものから、団体の知見を活かした従業員向け研修プログラムの実施、さらには、既存事業の改善や新事業開発に向けたアドバイス提供、監修といった連携などの協働も考えられるかもしれない。

 社会課題を前に、仕事の経験を活かし、課題解決に取り組む。プロボノには、これからのビジネスに求められる大事な要素がコンパクトに詰まっている。
 企業にとって、プロボノは格好の社会参加の入り口となるだろう。プロボノを企業とその従業員の社会性を高めるような契機として役立ててほしいと思う。