「人を活かすマネジメント」常識・非常識 - 第3回 副業をすると、本業に支障が出る?

前川孝雄 まえかわ たかお
株式会社FeelWorks 代表取締役/青山学院大学 兼任講師

1.「副業解禁」への流れ。しかし、企業の反応は鈍い!?

 「副業元年」といわれたのは、今からさかのぼること5年前、2018年のことだ。2017年に政府が働き方改革の一環として副業・兼業解禁の方針を打ち出し、2018年1月には「副業・兼業の促進に関するガイドライン」も出され、厚生労働省「モデル就業規則」の規定も、それまで「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」と禁止前提だったものが、「勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」と180度方針転換し改訂された。最近ではメガバンクなどの大手企業でも副業解禁の動きが出てきた。副業を肯定的に受け止める意識は、少しずつ高まっているようにも見える。
 しかし、この流れはまだ大勢には至っていない。労務行政研究所が2021年に行った「副業・兼業への対応アンケート」によると、就業規則で副業・兼業を認めている企業が35.4%であるのに対し、禁止する企業は49.3%。規模別では、1000人以上で認めているのが38.2%であるのに対し、300人未満では31.4%にとどまっている。
 東京都が2021年4月に公表した「都内企業における兼業・副業に関する実態調査」でも64.3%は認めておらず、条件付きで一部認めている企業が28.6%で、全面的に認めている企業はわずか6.3%にすぎない[図表1]
 副業解禁の促進は、働き方改革の一環でもあり、柔軟な働き方の選択肢を増やし、政府としては働き手が増えることで経済成長をけん引するとの見立てだ。しかし、5年越しの普及率としてみると、企業の反応はやや鈍いともいえる。
 なぜ、副業解禁は大きく進まないのか。

[図表1]従業員の兼業・副業を認めている状況

資料出所:東京都産業労働局「都内企業における兼業・副業に関する実態調査」

2.《マネジメントの非常識》副業は労働者にも企業にもマイナスの影響を及ぼす!?

 企業が副業や兼業を認めない理由については、労働政策研究・研修機構が2018年に実施した調査「多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査(企業調査・労働者調査)」が基本的な傾向を表している[図表2]。許可しない理由(複数回答)として挙げられたのは、「過重労働となり、本業に支障をきたすため」が82.7%と最も多く、次いで、「労働時間の管理・把握が困難になる」45.3%、「職場の他の従業員の業務負担が増大する懸念があるため」35.2%。また、「組織内の知識や技術の漏えいが懸念されるため」も31.4%となっている。

[図表2]副業・兼業を許可しない理由(複数回答、企業調査)

資料出所:労働政策研究・研修機構「多様な働き方の進展と人材マネジメントの在り方に関する調査(企業調査・労働者調査)」

 すなわち、「社員の副業は働き手にも企業にもマイナスの影響が大きく、本業に支障が出るのでNG」という旧来型の「常識」が、依然として優勢なのだ。

3.《マネジメントの新常識①》副業は社員の成長と企業のイノベーションにつながる

 しかし、積極的に副業を推進する企業に定着しつつある新常識は、「副業は本業にとってプラスになる」ということだ。それはなぜか。
 いまや、第4次産業革命やDXの潮流などから、多くの企業が変革を迫られている。新たなイノベーションを起こせるか否かが、企業の存続を左右する。自社組織内の常識や発想の範囲内からは、革新的な変化を起こすことは難しい。また、たとえ良いアイデアが浮かんでも、その実現に必要な新たな資源獲得やアライアンス(連携)のためのパイプや人脈がなければ、実行には移せない。
 そう考えた時に、副業とは正に「越境」の働き方であり、社員が社外の知見やノウハウに触れ、新しいアイデアや能力を開発できる機会となる。また、社員一人ひとりが社外ネットワークを広げ、多様な人材や組織とつながることで、新たなコラボレーション(協働)やアライアンスの可能性も広がるのだ。
 もちろん、社員の過重労働や健康問題、情報漏えいなどのリスクは高まる。だが、それ以上に、社員の能力向上と企業成長にとって、大きなプラスが期待されているのだ。

4.《マネジメントの新常識②》社員のキャリア自律を支援する企業こそが選ばれる

 社員個人の視点から見た場合、副業は副収入を得るサイドビジネスと捉える向きもあるかもしれない。しかし、これからは自らの成長とキャリアアップのための機会として捉えるべきではないだろうか。社員一人ひとりがキャリアビジョンを明確化し、そのために自社での仕事と副業での仕事に意味づけし、さらには相乗効果を目指すことが理想だ。そうなれば、本業と副業ではなく、いずれも意義のある「複業」になる。さらには、会社の枠を越えて自身のキャリア自律を実現できるようになれば、働く幸せを高める「福業」とも呼べるものになるはずだ。
 変化のスピードが速く、人の働く年数が延び続ける現代は、もはや企業が社員全員に終身雇用を保障できる時代ではない。優秀な若手ほど、そうした現実を自覚しており、自らの成長を実現できる企業を選ぶ傾向がある。企業には社員を囲い込むのではなく、副業を通じて多様な仕事の機会を認める発想が求められている。
 最近では、企業が社員に対して、どのような価値のある経験を提供できるかというエンプロイーエクスペリエンス(Employee Experience、従業員体験)が注目されている。社員が自らのキャリア形成にとって有用だと実感できる価値経験が多いほど働きがいが高まり、組織の定着率も向上するといわれている。
 要は「かわいい子には旅をさせよ」である。副業や兼業を含む多様な「善き経験」によるキャリア磨き、キャリア自律を促しながら、なおかつ魅力ある仕事のステージを提供し続けられる企業こそが選ばれるのだ。

前川 孝雄 まえかわ たかお
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師
人を育て活かす「上司力®」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団(株)FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力®研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員、(一社)ウーマンエンパワー協会 理事等も兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『本物の「上司力」』(大和出版)、『ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)、『「仕事を続けられる人」と「仕事を失う人」の習慣』(明日香出版社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)および『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)