2022年05月13日掲載

「人を活かすマネジメント」常識・非常識 - 第2回 リモートワークでは仕事がしづらい?

前川孝雄 まえかわ たかお
株式会社FeelWorks 代表取締役/青山学院大学 兼任講師

1.リモートワークで生産性は低下し、管理職の悩みが増大!?

 コロナ禍で、リモートワークが急速に普及し、大企業を中心に働き方として定着してきた。感染予防の効果と同時に、通勤時間削減によるストレス軽減や時間効率のアップ、ワーク・ライフ・バランスの向上といったプラスの効果が実感されている。その反面、仕事の生産性の面では疑問や課題も指摘されている。
 パソコンメーカーのレノボが、2020年に世界10カ国で実施した国際調査では、オフィス勤務に比べて在宅勤務で生産性が高まったとの回答が、全体平均で63%と高めだった。しかし、在宅勤務で生産性が低くなったとの回答では、世界平均が13%のところ日本は40%と10カ国中、最下位だったのだ[図表]

[図表]在宅勤務で生産性が低くなったとの回答

資料出所:レノボ・ジャパン合同会社「国際調査 テクノロジーと働き方の進化」(2020年7月)

 その原因に関連して、同調査では、他国に比べて日本の企業がIT機器やソフトウェアの購入などテクノロジーに十分な投資を行っておらず、従業員がこれらを自己負担で購入する割合が高いと指摘している。そして、企業の環境整備の遅れがリモートワークの生産性を阻害する、大きな要因になっていると分析している。
 また、「テレワークと人事評価に関する調査」(2020年4月・あしたのチーム〈テレワークはリモートワークと同義[以下同じ]〉)によると、「テレワークをしてみて感じたこと」(複数回答)で管理職の回答の1位は「通勤時間がない分、読書や勉強などスキルアップの時間が持てる」(37.8%)、2位は「人とのコミュニケーションがなくさみしい」(30.6%)となっていた。これに対し部下に当たる一般社員は、1位が「人間関係のストレスがなく気楽」(36.7%)、2位が「仕事態度に緊張感がなくなった」(28.0%)という結果だ。いわば「上司はさみしく、部下は気楽」という対称的な結果が表れている。
 また、「テレワーク時に管理職が部下に関して不安に感じていること」(複数回答)では、1位が「生産性が下がっているのではないか」(48.0%)、2位が「報連相をすべき時にできないのではないか」「仕事をサボっているのではないか」(いずれも32.7%で同率)とのこと。上司は部下の様子が見えず疑心暗鬼になり、テレワーク時の部下の人事評価は「オフィス出社時と比べて難しい」(73.7%)と答えている。
 同様に、「テレワーク長期化に伴う組織課題に関するアンケート」(2020年4月・Unipos)でも、「テレワーク前より部下の仕事ぶりが分かりづらい」と答えた管理職が56.1%であったのに対し、「上司や同僚の様子が分かりづらい」と答えた一般社員は48.4%で、上司側のほうが7.7ポイント高くなっている。
 日本ではリモートワークによって仕事の生産性が低下しがちだと認識されており、また上司は部下の日々の働きぶりを把握できず、管理や育成がやりづらいと悩む傾向が浮かび上がっているのである。

2.《マネジメントの非常識》最新のHRテクノロジーで部下の仕事ぶりを可視化する!?

 こうした経営層や管理職側のニーズに応えるべく、新しいHRテクノロジーサービスが続々と生まれている。会社のホストサーバーにつないだパソコンを社員に貸与し、何時から何時まで仕事をしているのか正確にログ管理をしたり、部下のパソコン画面を上司がいつでも閲覧して、どんなサイトにアクセスして、どんなメールやチャットをしたのか記録したり、AIが表情からやる気を測定するものや、コミュニケーション量の多寡でAIがアラートを上げるなど新技術を使ったシステム導入が、各社で進みつつある。
 しかし、部下や社員の立場からすると、仕事や言動を常時会社や上司に監視されることになり、とても心地よいものとはいえない。リモートワークで働きやすくなったと思いきや、新技術で一挙手一投足を把握されるのだから当然だ。
 この束縛された環境では、主体的で創造的な仕事が進むとも思えない。それどころか、過度なプレッシャーからメンタルを病んでしまう懸念すらあるだろう。こうした監視のシステム化がリモートワーク時代のマネジメントとして望ましい在り方かといえば、大いに疑問だ。決して新しい技術がダメなわけではない。技術を使うのは人間だから、会社や上司側の姿勢に問題があるといえるだろう。
 では、どのようにマネジメントを改めるべきか。結論から言うと、会社や上司は性悪説で社員を監視し、管理しようとするのではなく、性善説に立って社員一人ひとりが才能を開花・発揮できるよう支援する姿勢に変わらなければならない。以下、そのためのポイントを押さえておこう。

3.《マネジメントの新常識①》責任の明確化:信じて任せた仕事の当事者は部下自身

 部下がサボっているのではないかと逐一報告を求めたり、ITツールで常時監視したくなったりする上司の職責意識は分からないではない。しかし、進捗や成果が気になるのは、部下を信じて任せきれていないからではないだろうか。また、上司自身が上からの評価を気にして、仕事が手離れしていないのではないか。
 上司の役割は、部下に命令をして指示どおりの仕事を強制することよりも、部下の意欲と行動を引き出し、自律的な創意工夫を促すこと。また、働きがいと成長を支援する伴走者であると意識を変えよう。もちろん結果責任を取る覚悟は必要だが、勇気を出して、部下を信じて任せきる。任せた仕事の当事者は部下自身と心得るのだ。
 部下の当事者意識を高めるためには、仕事を任せる際に、本人に「やる気ややりがい」が感じられるよう内発的に動機づけることが重要である。部下がチームと自身が担う役割の目的に共感し、仕事への情熱を持てるようにしよう。その上で部下自身に目的達成に向けた目標とスケジュールを立てさせて、上司はこれを承認するのだ。このプロセスを経れば、上司は、上からノルマや作業を押し付けるのではなく、部下が自ら決めた仕事への挑戦を応援し、支援する役割に変われる。

4.《マネジメントの新常識②》仕事の具体化:脱あうん! 非言語コミュニケーションを言語化する

 日本の職場にありがちなのは、上司がすべてを語らずとも部下が真意を察し、あうんの呼吸で理解・行動すべしという風土だ。空気を読むことを求められる日本のハイコンテクスト文化の特徴ともいえる。しかし、そうした考え方やマネジメント・スタイルは、リモートワークでは通用しない。
 リモートワーク下でのメールやチャットなどの文字情報だけのコミュニケーションでは、お互いの表情やボディランゲージも伝わらず、真意の理解が困難になる。また、ただでさえ上司からの指示に対し、部下は質問や意見をしにくいもの。遠隔ならなおさらだ。そのことが、「上司の指示がよく分からない」「部下が言うことを理解していない」といったすれ違いを助長しやすくしている。
 そこで上司には、これまで以上に自分が伝えたい内容をしっかり言語化し、丁寧に具体的に語ることが求められる。例えば「後で営業状況を報告してほしい」などとあいまいに告げずに、「エリア内の顧客動向を把握したいので、明日の12時までに業務週報の備考欄に担当のお客様からの要望を箇条書きにして提出してほしい」と、自分の持つイメージをより明解に伝えることで、意思疎通の齟齬(そご)を防ぐのだ。

前川 孝雄 まえかわ たかお
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師
人を育て活かす「上司力®」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団(株)FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力®研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員、(一社)ウーマンエンパワー協会 理事等も兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『本物の「上司力」』(大和出版)、『ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)、『「仕事を続けられる人」と「仕事を失う人」の習慣』(明日香出版社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)および『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)