2022年06月10日掲載

「人を活かすマネジメント」常識・非常識 - 第4回 女性の活躍は進んでいる?

前川孝雄 まえかわ たかお
株式会社FeelWorks 代表取締役/青山学院大学 兼任講師

1.結婚・出産後も働き続ける女性は劇的に増えている

 平成28年(2016年)施行の女性活躍推進法や、平成31年(2019年)から順次施行された働き方改革関連法などによって、職場における女性の働きやすい環境の整備が一定程度進んでいる。企業には、「事業主行動計画」により女性活躍に関する状況把握、課題分析、行動計画の策定・公表などが義務化された(2022年4月から中小企業も義務化)。育児・介護休業制度の充実によって、仕事とライフイベントとの両立支援も進み、2022年10月からは産後パパ育休の創設で男性の育休の取得促進も図られる。セクハラ・マタハラなどのハラスメント防止の法整備も進んだ。企業の女性採用や女性の管理職登用も拡大している。
 昭和50年代から平成の30年間をかけて、女性の年齢階層別就業状況がM字カーブから台形カーブへと徐々に変化し、結婚・出産によって退社をせざるを得なかった状況は、劇的に改善されてきたことが読み取れる[図表1]。女性の活躍は着実に進んできているようにも見える。

[図表1]女性の年齢階級別労働力率の推移

資料出所:内閣府「令和3年版男女共同参画白書」(2021年6月11日公表)

[注]1.総務省「労働力調査(基本統計)より作成。
2.労働力率は、「労働力人口(就業者+完全失業者)」/「15歳以上人口」×100

 ところが、少しさかのぼること2020年7月に公表された政府の「選択する未来2.0 中間報告」では、実は女性の正規雇用労働者に限定するとM字カーブは解消していない。それどころか、女性の正規雇用比率は、25~29歳をピークに年齢が上がるにつれて低下する「L字カーブ」を描いていることが指摘されたのだ[図表2]

[図表2]女性の就業率と正規雇用率(M字カーブとL字カーブ)

資料出所:内閣府「選択する未来2.0 中間報告」(2020年7月1日公表)

[注]総務省「労働力調査(詳細集計)」により作成

 もう一つ注目したい数字がある。
 内閣府によると、現在、日本における管理的職業従事者に占める女性の割合は13.3%(2020年時点、「令和3年版男女共同参画白書」)。これは、国際的水準の30~40%台に比べ著しく低い。一方、女性活躍推進に向けて、日本政府が長年にわたり声高に唱えてきたのが「202030(ニーマル・ニーマル・サンマル)」。すなわち「2020年までに指導的地位に占める女性の割合を30%程度に」という政策目標だった。実態はいまだこの目標の半分以下という惨憺(さんたん)たる状況なのである。
 政府は、2020年12月に公表した「第5次男女共同参画基本計画」の中で、目標数値と期限を曖昧にした上で先送りにし、「2020年代の可能な限り早期に指導的地位に占める女性の割合を30%程度」と、白旗を上げたようにも映る。女性活躍推進を叫ぶ声は、一時期に比べ下火になったようにも感じられる。

2.《マネジメントの非常識》正規雇用で働き続ける=女性の活躍ではない!?

 以上のことから、「女性活躍は進んでいる」と考えることが常識とは言えないことは、明らかだろう。
 「L字カーブ」の問題提起は、政府の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)2020」(2020年7月公表)に反映され、出産後女性の正規化を図ることが政策課題に掲げられた。就業調整の解消や女性に集中する子育ての負担の軽減に取り組み、正規雇用にとどまれるようにすべき、ということだ。少々古いデータだが、出産退職の状況を見ると、第1子出産前後の女性の継続就業率は、育児休業等の活用で就業を継続する割合は53.1%と上昇しているものの、第1子出産を機に離職する女性の割合は46.9%と依然として高い状況にある。また、第2子の場合は21.9%、第3子は20.9%になっている(国立社会保障・人口問題研究所「第15回出生動向基本調査(夫婦調査)」2016年)。
 その後、コロナ禍では非正規雇用の女性が失業や収入減という困難に直面するなど、非正規雇用の多くを女性が占めてきたことが課題であることは事実だろう。最近では男女の賃金格差も問題視されており、不当な格差は看過できない課題となっている。
 こうした背景からも、働く女性の正規雇用化こそが、女性活躍の重点課題だと思われがちである。しかし、果たしてそうなのだろうか。
 社会・経済システム自体が大きく変動し不安定化している今日、正社員なら安泰という構図そのものがほころび始めている。筆者は、女性活躍を進めるために、既存の日本型雇用の仕組みの中で正規雇用化することだけが正解とすることは、真の課題を見誤るのではないかと考えている。

3.《マネジメントの新常識①》既存の枠にとらわれず、女性の「働きがい」創出とキャリア支援を

 そもそも、官民を挙げて多様な女性活躍推進施策が講じられているにもかかわらず、今なお多くの女性が出産・育児期に正規雇用の安定待遇を手放すのはなぜだろうか。先に結論を言えば、政府や企業が女性の「働きやすさ」の整備には注力してきたものの、より大切な「働きがい」への取り組みがおろそかだったからというのが、筆者の見立てである。
 もちろん、いまだに両立支援施策が不十分な企業もあるだろう。しかし、いかに産前産後休業、育児休業、短時間勤務、在宅勤務など働きやすい環境が整っても、仕事と育児・家事を両立させる負荷は相当に大きいものである。それを乗り越えてまでも、正社員として働き続けたいと思える状況にないことが本質的な課題ではないだろうか。つまり、「そこまで無理して正社員にこだわる気持ちになれない」ということである。
 政府発表のデータで、私が着目する別の数字がある。それは、「起業家に占める女性の割合の推移」である。ここ40年来、若干上下しつつも3~4割を保っており、2017年調査では34.2%。働く人たちの9割は雇用者(会社、団体、官公庁等に雇われて給料、賃金を得ている者)で、起業家を含む自営業者は約1割にすぎないにもかかわらず、その中の女性比率は30%を早くからクリアしている。組織の中で昇進して経営者になっていく女性は少数派だが、起業家として活躍する女性経営者は常に30%以上いるのである。
 それはなぜか。私はこう見立てている。女性にとって、男性優位に作られてきた昭和を引きずった既存組織の枠組みの中で、リーダーシップを取るのは至難の業である。過去や先人を否定しなければならない状況が多発するからである。しかし独立・起業すれば、そうした壁が立ちはだかることは少ないので活躍しやすいのではないか。
 いま真剣に取り組むべきは、各企業で女性がライフイベントとの両立の壁を乗り越えながらも、キャリアアップしたいと思える環境を作ることである。
 私が見てきた企業の中では、ワーキングマザーたちが活き活きと働き、大きく業績を伸ばしたところもある。共通するのは、顧客・社会貢献に向けた企業理念やビジョンがしっかり共有されており、常に変革し続ける風土があることだ。その原動力となっているのが、男女を問わず一人ひとりの働きがいとキャリアを重視し、活躍と成長を支援する企業の本気度である。たとえ育児などの制約があっても、本人がコミットした目標への取り組みは厳しく求めつつ、働き方や仕事の進め方は社員一人ひとりの裁量に任せている。

4.《マネジメントの新常識②》女性活躍推進は、企業の枠組み改革とセットで進める

 企業は本来、顧客や社会に貢献することを目的とし、結果として収益を得る仕組みである。企業の目的と、結果としての収益を取り違えてはいけない。しかし、企業の多くは、山積する社会問題の解決に向けて自らを変革しきれていない。この企業の変革と切り分けて、女性活躍だけを目指すことにも無理があったのではないだろうか。
 男性中心、利益第一主義で走ってきた組織体質は変えることなく、法対応もあって女性の働きやすさを追求する一方で、女性管理職比率は上げようと、横車を押す状況になっていたのではないだろうか。これが、女性活躍が進まなかった主因と思えてならない。
 真の女性活躍推進は、社会や企業の枠組みそのものの改革とセットで進める視点が大切だ。古い企業のパラダイム改革を目的に据え、そのために旧弊とは一線を画すために、女性の活躍を図るのである。
 実際、筆者たちが関わってきた女性活躍が進んでいるある経営トップは、「私は経営者であり、経営の結果を出す責任があるから、女性の活躍に力を入れている」と話している。
 これは何も女性に限った話ではないことが分かる。これまで十分に力を発揮する機会が少なかった多様な人たちに、イノベーションの起爆剤を託すことで、組織が生まれ変わる可能性が高まるはずである。

前川 孝雄 まえかわ たかお
株式会社FeelWorks代表取締役/青山学院大学兼任講師
人を育て活かす「上司力®」提唱の第一人者。(株)リクルートを経て、2008年に人材育成の専門家集団(株)FeelWorks創業。「日本の上司を元気にする」をビジョンに掲げ、「上司力®研修」「50代からの働き方研修」「eラーニング・上司と部下が一緒に学ぶ、バワハラ予防講座」「新入社員のはたらく心得」等で、400社以上を支援。2011年から青山学院大学兼任講師。2017年(株)働きがい創造研究所設立。情報経営イノベーション専門職大学客員教授、(一社)企業研究会 研究協力委員、(一社)ウーマンエンパワー協会 理事等も兼職。連載や講演活動も多数。
著書は『本物の「上司力」』(大和出版)、『ダイバーシティの教科書』(総合法令出版)、『50歳からの逆転キャリア戦略』(PHP研究所)、『「働きがいあふれる」チームのつくり方』(ベストセラーズ)、『一生働きたい職場のつくり方』(実業之日本社)、『「仕事を続けられる人」と「仕事を失う人」の習慣』(明日香出版社)、『50歳からの幸せな独立戦略』(PHP研究所)、等30冊以上。近刊は『人を活かす経営の新常識』(FeelWorks、2021年9月)および『50歳からの人生が変わる痛快! 「学び」戦略』(PHP研究所、2021年11月)