2022年04月22日掲載

Point of view - 第203回 仲山進也 ―「組織のネコ」という働き方~イヌとネコの相互理解がある組織風土をつくるためには

「組織のネコ」という働き方
~イヌとネコの相互理解がある組織風土をつくるためには

仲山進也 なかやま しんや
楽天グループ株式会社 楽天大学学長/仲山考材株式会社代表取締役

北海道生まれ。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。シャープ株式会社を経て、創業期の楽天株式会社に入社。2000年に楽天市場出店者の学び合いの場「楽天大学」を設立。2007年に楽天で唯一のフェロー風正社員(兼業自由・勤怠自由の正社員)となり、2008年に"考える材料をつくりファシリテーションつきで提供"する自らの会社、仲山考材株式会社を設立。20年にわたって数万社の中小・ベンチャー企業を見続け支援しながら、消耗戦に陥らない経営、共創マーケティング、指示命令のない自律自走型の組織文化・チームづくり、長続きするコミュニティづくり、人が育ちやすい環境のつくり方、夢中で仕事を遊ぶような働き方を探求している。
「子どもが憧れる、夢中で仕事する大人」を増やすことがミッション。「仕事を遊ぼう」がモットー。
著書に『「組織のネコ」という働き方』(翔泳社)、『組織にいながら、自由に働く。』(日本能率協会マネジメントセンター)、『今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則』(講談社)ほか多数。

 「組織のイヌ」という表現がある。飼い主に忠実なイヌのように、会社の指示命令に従順な人のことだ。自分の意志よりも、社命を優先して行動する。
 それと対照的な存在を「組織のネコ」として考えてみよう。組織に属しつつも、自由で気まま。自分の意志がしっかりあって、会社の言うことをなんでも鵜呑(うの)みにして動くとは限らない。

 ここで注意が必要なのが「自由」という表現だ。組織にいる以上、「自由=わがまま放題、好き勝手」では成り立たない。筆者は「自由=自分に理由があること」と考える。対義語は、他人に理由がある「他由(たゆう)」。上司からの指示による他由スタートの仕事だったとしても、その意味を自分で解釈して「自分でやりたいと思える」「自分がやる意味がある」と思えたら、自由に転換できたことになる。

組織のネコ度チェック

 次の10項目で、当てはまるものはいくつあるだろうか。

【 】①「仕事は苦役であり給料はガマン料」という考え方にモヤモヤを感じる
【 】②お客さんに喜ばれない(意味のある価値を提供しない)仕事はやりたくない
【 】③指示された範囲外(KPIと直接関係ないこと)でも、よいと思ったことはやる
【 】④自分の信念に反する指示は、しれっとスルーすることがある
【 】⑤肩書きや出世競争を勝ち上がることに、興味がない
【 】⑥向いていないし自分でなくてもよい仕事をずっとやらされるのは、ムリ
【 】⑦社内キャリアのレールの先に到達している人の姿にワクワクしない
【 】⑧失敗しないことより、怒られたとしてもチャレンジすることのほうが大事
【 】⑨群れに組み込まれるのがニガテ
【 】⑩同調圧力をかけられるのも、かけるのもキライ

 これは「組織のネコ度チェック」である。ただし、「何個以上〇だったらネコ」といった厳密なものではない。当てはまるものが多ければネコっぽいし、1個でも当てはまれば、イヌだとしてもストレスが発生する働き方をしているかもしれない。いわゆるウェルビーイング的に言うと、イヌとして働いている人で該当項目が多ければ、健やかでない状態だ。
 10番目の「同調圧力を『かける』のもキライ」という点は分かれ目になる。同調圧力を「かけられる」のはイヌでもネコでも嫌なもの。ただ、自分がマネージャーになって指示する側になったとき、「社長からの指示だから」のような同調圧力的な言い方をする人はイヌだろう。ネコは、「なぜこの仕事をやるのか」を説明して、納得してもらわないと自分も気持ち悪いので、「社長の指示だから」だけでは済まさない。

 「組織のイヌ」がダメで「組織のネコ」がいい、ということではない。タイプが違うだけである。イヌは、統率の取れた状態できっちり仕事を進めていくのが得意。ネコは、新しいことを立ち上げたり、変化を起こすのが得意だ。
 良いのは「健やかなイヌ」と「健やかなネコ」であり、良くないのは「こじらせたイヌ」と「こじらせたネコ」である。「こじらせたイヌ」は他由の指示待ちで、自分の頭で考えず、うまくいかないことを他責にする。「こじらせたネコ」は言われたことをやらず、自分勝手に動いている。

「イヌの皮をかぶったネコ」は健康に良くない

 目に見える数でいうとイヌが多数派である。とはいえ、バランスの取れた状態が自然だとすると、一定数の「隠れネコ」がいると思われる。「イヌの皮をかぶっているネコ」のことだ。
 「イヌの皮をかぶったネコ」は、本来の性質とは異なるふるまいを続けているため、健やかではない状態に陥りやすい。特に、所属する組織の業績が良くないときモヤモヤしやすくなる。
 もし「自分はイヌだと思っていたけど、『イヌの皮をかぶったネコ』なのかも」という気づきがあったら、イヌの皮を脱ぐという選択肢があることを知っておいてほしい。「働くとはイヌになることだと思い込んでいたけれど、ネコという働き方でもいいんだ」と。

 藤野英人氏(レオス・キャピタルワークス会長兼社長)が「令和4年型の企業」と「昭和97年型の企業」という表現をしている。昭和に生み出した価値や組織カルチャーのまま令和を迎えてしまっている「昭和97年型の企業」でイヌとして働いている人が、今しんどくなってきている気がする。
 高度経済成長期のように事業が成長しているなら、組織の雰囲気も明るく、イヌもおおらかに生きやすかっただろう。ただ、今は時代が大きく変わっている。「組織中心」に考えるあまり、変化しそこなっているイヌ型組織は、事業も組織も賞味期限が切れてパフォーマンスが衰えている。
 昭和の働き方を振り返れば、大きな工場を分業で動かすと事業が伸びていったので、全員がイヌとして働くほうが効率的だった。ネコが「何のためにこの仕事をやるのか」と聞いても、「手を動かせ」と言ったほうが業績が伸びた。そのうち、「組織で働くとは、イヌとして活動することである」という考え方が常識化し、ネコもイヌの皮をかぶって働くようになった。
 それがここに来て、事業を伸ばすために、多様な価値を新たに生み出すことが求められるようになった結果、相対的に存在価値を増しているのがネコである。新規事業の立ち上げに「イヌのエース」を投入して、うまくいかなかったケースをよく見かける。それが得意なのはネコなのだ。

イヌとネコの相互理解がある組織風土をつくる

 イヌとネコは価値観が異なるため、放っておくと相手のことを軽蔑しがちになる。イヌはネコに対して「指示どおりやろうよ」「統率を乱すなよ」と思っていて、ネコはイヌに対して「言われたことだけじゃなくて価値ある仕事をやろうよ」「上ばっかり見て働くなよ」と思っている。
 大事なのは、それぞれ持っている資質や強みが違うことを相互に理解し、リスペクトしながら役割分担できる組織風土をつくることだ。ネコが立ち上げた新規事業が軌道に乗って、業務ボリュームが増えてくると、「そろそろマニュアルが必要では」という声が出てくるタイミングがくる。そうなるとネコは急に興味をなくして、また新しいことをしたくなりがちだ。放っておくと、せっかく立ち上がった事業がダメになりかねない。その点、イヌはきちんとマニュアルに従って、改善を進めるのは得意。したがって、ネコからイヌへのバトンタッチゾーンがしっかり設計されている組織にできれば、新たな価値が生まれやすくなるのだ。

 さらに詳細について興味があれば、拙著『「組織のネコ」という働き方』をご参照いただきたい。
 イヌとネコが共存共栄できる、健やかな組織が増えますように。