2019年02月08日掲載

採用担当者のための最新情報&実務チェックポイント - 2019年2月


ProFuture株式会社/HR総研
代表 寺澤康介
(調査・編集: 主席研究員 松岡 仁)

 ProFuture代表の寺澤です。
 今回も前回に引き続き、HR総研が2018年11月20日~30日に、株式会社リブセンスが運営する就活クチコミサイト「就活会議」会員を対象に実施した「2020年新卒学生の就職意識調査」の結果をお伝えします。前回はインターンシップを中心に取り上げましたが、今回は基本的な就職意識と活動状況について、文系・理系別の傾向を確認していきたいと思います。
 なお、「就活会議」会員は、早期から就職活動を開始する意識の高い学生の割合が多いため、他の就職ナビ発表の調査結果のデータよりも進捗率が高めに出る傾向がありますのでご注意ください。

「売り手市場」と言われようと、就活に不安を抱える学生

 2020年入社に向けて、これから本格化する就職活動をどう捉えているのかを聞いたところ、「(やや)楽観している」学生は文系・理系ともに2割もなく、「やや不安である」「とても不安である」とする学生がいずれも7割近くに上ることが分かりました[図表1]。特に文系では、「とても不安である」とする学生が26%と、4分の1を超えています。大学名を見ると、「大阪大学」「九州大学」「慶應義塾大学」「早稲田大学」「同志社大学」などの上位校の学生も少なくありません。

[図表1] 2020年入社に向けた就職活動の予想

資料出所:HR総研/ProFuture「2020年新卒学生の就職意識調査」
(2018年11月、以下図表も同じ)

 世間では「売り手市場」と言われようとも、かつてのバブル期のような誰もが恩恵を受ける「売り手市場」ではなく、「楽勝」と感じる学生と、「苦戦」を強いられる学生との"二極化"が起こることを学んでいるのかもしれません。また、上位校学生の中には、次項で見るような就活初期段階での"つまずき"がその理由になっている学生も少なからずいるようです。

不安の理由は「面接」と「エントリーシート」

 次に、「不安である」と回答した学生を対象にその理由を選択してもらったところ、文系・理系ともに最も多かったのが「面接が苦手だから」、次いで「エントリーシートが大変そう」と続き、3位「自己分析ができていないから」、4位「業界研究ができていないから」、5位「志望業界・企業が決まっていないから」、6位「筆記試験が苦手だから」と、なんと6位まではまったく同じ順位になりました[図表2]。面接やエントリーシートに不安を覚える学生の割合は理系のほうが高く、特に「面接が苦手だから」とする学生は理系が文系を10ポイントも上回り、6割近くにも及びます。

[図表2] 就職活動が不安な理由

 理系の7位には「先輩が苦労していたから」がランクインし、文系の2倍以上のポイントとなっています。一般的には、企業による理系学生の獲得合戦のほうが文系よりも熾烈で、苦労する割合は理系よりも文系のほうが多いイメージがあります。理系の学生のほうが「苦労」と感じる基準が低いのかもしれませんね。
 不安を感じている具体的なコメントも見てみましょう。

・資格の取得が必須の職種を第一志望にしているから(立教大学・文系)

・スケジュールの管理が不足(早稲田大学・文系)

・自分がしたい仕事の会社が少ない(広島工業大学・理系)

・自分の志望する業界は高倍率でわずかな人数しか通らないから(佛教大学・文系)

・大手志望で、就職の倍率は売り手市場といえど高いから(日本女子大学・文系)

・明確に受かるラインが分からないため不安(福岡大学・文系)

・インターンの選考結果が奮わない(大阪大学・文系)

・インターンシップが思うように受からないから(北海道大学大学院・文系)

・研究が忙しいから(慶應義塾大学・理系)

・学歴が良い学校に来てしまったので良いところに就職しないと、というプレッシャーがある(早稲田大学・文系)

・英語力が足りてないから(近畿大学・文系)

 インターンシップの選考結果から不安に感じている学生が、旧帝大ばかりなことを意外と思われるかもしれません。ただ、前年の調査でもインターンシップ事前選考での落選経験の有無は、上位校ほど高い傾向がありました(2018年9月の本稿参照)。
 考えられる理由は主に二つです。一つは、応募先企業群の違いです。上位校学生の応募先は大手(競争率が高い)企業の割合が圧倒的に多くなるのに対して、そうでない大学グループ層は大手だけではない(競争率が低い)企業群にも応募していること。そしてもう一つは、上位校学生は、定員の少ない複数日程タイプのインターンシップを好む割合が多いことです。開催回数や1回当たりの定員の多い1Dayタイプのインターンシップを好む学生のほうが、選考落ちする割合が少なくなります。

就職活動の開始は就職ナビのプレオープンとともに

 就職活動(就職を意識した活動)を始めた時期を聞いたところ、トップは文系・理系ともに「2018年6月」で、文系24%、理系31%となっています[図表3]。「6月」は、「リクナビ」「マイナビ」といった就職ナビが、インターンシップ情報サイトとして「プレオープン」するタイミングと符合します。また、同時にインターンシップを紹介する合同企業説明会も解禁となります。就職ナビへの登録とインターンシップへの応募が、就職活動のスタートとなっている学生が多いことを物語っています。

[図表3] 就職活動を開始した時期

 ただ、「2018年5月」までにすでに開始していた学生の割合を見ると、文系で28%、理系で25%にも及び、就職ナビがプレオープンした「6月」時点では、半数以上の学生が就職活動を開始していたことになります。早期のインターンシップは優秀な学生や意識の高い学生との出会いの場と言われていましたが、近年では就職活動の一環として完全に定着しているので、早期のインターンシップに参加しているからといって、"優秀"とは一概には言えなくなってきているようです。

文系の4割以上がすでに説明会参加やエントリーシートを提出

 2018年11月下旬の時点ですでに実施した就職活動の内容について聞いてみました[図表4]。トップは、「『リクナビ』等の就職ナビへの登録」で、文系・理系ともにほぼ全員が選択しています。次いで、「『就活会議』『みん就』等の口コミサイトへの登録」で、こちらも実に9割近くが選択し、「インターンシップへの応募」「インターンシップへの参加」も高い割合になっています。

[図表4] これまでに行った就職活動

 ここまでは想定した割合の範疇と言えますが、文系学生の活動を確認してみると、「企業の個別セミナー、会社説明会への参加」が45%、「企業への応募・エントリーシートの提出」が43%、「企業の採用適性検査受検」と「企業の選考面接」がともに32%にも及んでいます。理系はというと、それぞれ順に23%、29%、20%、12%にとどまっており、文系学生の活動の早さが際立っています。「企業の個別セミナー、会社説明会への参加」では、文系と理系に20ポイント以上もの差があります。インターンシップに参加した企業との接触だと推測されますが、文系と理系でこれだけの開きが出るのは少々理解し難いところです。理系の参加者が多いメーカーよりも、非メーカーのほうが積極的に採用活動を実施している企業が多いということかもしれません。

今年も根強い文系学生での「商社」人気

 現時点で志望する業界を最大三つまで選択してもらったところ、文系では、1位「総合商社、専門商社」(26%)、2位「人材、教育」(20%)、3位「広告」(18%)と続きました[図表5]。「メガバンク、信託銀行」(9%)は、「生命保険、損害保険」(9%)と並んでなんとか10位にランクインしたものの、1位の「総合商社、専門商社」とは3倍近いポイント差をつけられています。「メガバンク、信託銀行」は、かつては「総合商社、専門商社」と並ぶ人気業種でしたが、今年も低迷からは抜け出せていないようです。

[図表5] 志望する業界

文 系 理 系
順位 業 界 割合(%) 順位 業 界 割合(%)
1 総合商社、専門商社 26 1 水産、農林、食品 26
2 人材、教育 20 2 情報処理、システム開発 26
3 広告 18 3 紙、パルプ、化学、素材 24
4 ホテル、旅行 17 4 医療、福祉、その他 18
5 放送、新聞、出版 16 5 通信、ネットワーク 16
6 通信、ネットワーク 15 6 電機機器、電気電子部品 16
7 建設、住宅、不動産 13 7 機械 14
8 水産、農林、食品 10 8 人材、教育 12
8 情報処理、システム開発 10 9 総合商社、専門商社 10
10 メガバンク、信託銀行 9 10 電力、ガス 7
10 生命保険、損害保険 9 10 石油、ゴム、窯業 7

 理系では、1位「水産、農林、食品」(26%)、2位「情報処理、システム開発」(26%)、3位「紙、パルプ、化学、素材」(24%)という順になっています。1位の「水産、農林、食品」は、主に女性の支持が高い「食品」、3位の「紙、パルプ、化学、素材」は主に「化学」が人気を集めているものと推測されます。

「メガバンク」は今年も不人気業界の上位に

 逆に「敬遠したい」業界も最大三つまで選択してもらいました[図表6]。その結果、文系では、1位「メガバンク、信託銀行」(20%)、2位は「水産、農林、食品」と「外食」(18%)が同率で並びました。かつては「名ばかり管理職」問題や低賃金でブラックなイメージがつきまとった「外食」が、「敬遠したい」業界の断トツのトップとなることが続いていましたが、昨年からは「メガバンク、信託銀行」がトップに躍り出ています。RPA普及による大幅な人員抑制のほか、ある程度の年代になると行内にとどまれる割合はごくわずかで、大半の行員は外部出向・転籍となる勤務実態が明らかになってきたことも大きく影響しているものと思われます。

[図表6] 敬遠したい業界

文 系 理 系
順位 業 界 割合(%) 順位 業 界 割合(%)
1 メガバンク、信託銀行 20 1 外食 25
2 水産、農林、食品 18 2 メガバンク、信託銀行 17
2 外食 18 3 繊維、アパレル服飾 12
4 石油、ゴム、窯業 16 3 建設、住宅、不動産 12
5 繊維、アパレル服飾 15 5 生命保険、損害保険 11
6 地方銀行、信用金庫 14 6 水産、農林、食品 11
7 紙、パルプ、化学、素材 13 6 倉庫、運輸 11
7 外資系金融 13 8 石油、ゴム、窯業 10
9 鉄鋼 12 8 外資系金融 10
10 医療、福祉、その他 12 8 公務員 10

 理系の結果でも、1位こそ「外食」(25%)に譲ったものの、2位は「メガバンク、信託銀行」(17%)で、3位の「繊維、アパレル服飾」や「建設、住宅、不動産」(12%)とはやや大きな開きがあります。「メガバンク、信託銀行」が人気業種として再度浮上する日は来るのでしょうか。

今年も根強い大手志向

 就職先として希望する企業規模を聞いたところ、文系では「絶対大手企業に行きたい」(18%)、「できれば大手企業に行きたい」(49%)の合計67%の学生が大手企業を志向しています[図表7]。3人に2人は大手志向ということになります。

[図表7] 就職先として希望する企業規模

 理系では「絶対大手企業に行きたい」(16%)、「できれば大手企業に行きたい」(55%)の合計は71%となり、例年と同じく文系よりもさらに大手志向が強くなっています。理系が志向するメーカーは、製造ラインの現業職の分だけ従業員規模は大きくなりますので、具体的な志望企業をイメージした場合には、大手志向になりがちです。
 ちなみに、昨年3月に「楽天みん就」の2019年卒業予定の会員学生を対象に実施した調査では、「絶対大手企業に行きたい」と「できれば大手企業に行きたい」の合計は、文系で56%、理系で71%となっておりましたので、文系では大手企業志向がさらに加速した結果となっています。

※本設問での学生に向けての企業規模の定義は、「大手企業=1,000人以上、中堅企業=300~1,000人未満、中小企業=300人未満」としています。

エントリーシート書類選考へのAI導入には賛否が半々

 近年増加傾向にある、エントリーシート(ES)の書類選考にAIを導入する動きについて聞いてみました[図表8]。文系・理系ともに「どちらともいえない」とする学生が5割を超え、「賛成である」とする学生は、文系で25%、理系で21%。対して「反対である」とする学生は、文系で21%、理系で29%ときっ抗しています。

[図表8] ES書類選考へのAI導入の賛否

 これまでの調査では、AI導入に対して、文系よりも理系学生のほうが比較的容認する傾向が見られたものですが、今回の調査では逆に理系学生のほうに反対派が多くなっています。
 それぞれの理由も聞きましたので紹介しておきましょう。

【賛成である】

・採用担当者個人の好みが反映されにくくなると思う(立教大学、文系)

・エントリーシート選考に合格/不合格する基準が今よりは分かりやすくなる(早稲田大学、文系)

・人がやるべきところは人がやり、代替できるところはAIがすればいいと思うから(同志社大学、文系)

・年を重ねることに学習して選考が感情に左右されなくなると思うから(名古屋工業大学、理系)

・人気企業の場合は、人がすべてのエントリーシートを見ることは難しい。AIを導入することで、見る側の負担が減少することに加えて、一つの尺度上で判断することが可能になると考えるから(山形大学、理系)

【反対である】

・傾向で判断するのではなく、人柄で判断してほしい(東京外国語大学、文系)

・機械に否定されたら人権を失う気分になるから(大阪大学、文系)

・一緒に仕事をするかもしれない人間に判断してほしい(静岡大学、理系)

・人と人のつながりに人工知能が入る余地はないと考えている(鹿児島大学、理系)

・人でしか判断できないパーソナルなところまではAIでは見ることができないと思う(明治大学、理系)

・結局変数を指定するのは人間だから(東北大学大学院、理系)

エントリーシートよりも抵抗感が強いAI面接

 最後に、面接の判定支援にAIを導入することについても賛否を聞いてみました[図表9]。こちらも「どちらともいえない」とする学生が文系・理系ともに4割以上で最多です。

[図表9] 面接へのAI導入の賛否

 ただ、賛否となるとはっきりしています。「賛成である」とする学生は、文系で19%、理系で21%と2割程度にとどまるのに対して、「反対である」とする学生は、文系で33%、理系では36%にも及びます。明らかに反対派のほうが多くなっています。エントリーシート同様、文系よりも理系のほうに反対派が多くなっています。
 こちらもそれぞれの理由を紹介しましょう。

【賛成である】

・就活にかかる費用を抑えることができるし、表情やしぐさなども問題なく伝わるように思う(岡山大学、文系)

・採用担当者個人の好みが反映されにくくなると思う。また、会社が掲げている採用方針に完全に沿った面接評価方法になると思うので、対策がしやすくなる(立教大学、文系)

・時代の流れ的に新しい方式に挑戦してもいいと思う(名古屋学芸大学、文系)

・遠方の学生などの、距離的なデメリットを最大限抑えることができる。また企業側としても、AIによる合理的な判定を参考にすることができ、採用にも一貫性が出ると思われる(京都大学、理系)

・大ざっぱな性格などはAIもわかると思う(千葉大学、理系)

・参考にする程度であるなら、人の気づかなかった点をAIに指摘してもらえるのは採用側からするといいと思う(立命館大学、理系)

【反対である】

・面接は人の雰囲気も考慮するためAIでは判断しきれない部分があると思う(お茶の水女子大学、文系)

・面接は人と人の対面の場なので、面接官の受けた印象の方が重視されるべきであると思う(早稲田大学、文系)

・対面でしか伝わらない要素が面接には多い(慶應義塾大学、文系)

・自分が人事だとして、一緒に働きたい人をAIの判定で決めるなど理解ができない(北海道大学、理系)

・態度や雰囲気は画像認識で取得するのは難しいと思う。そのようなことを考えている企業ほどこちらとしても人材を大切にしていないと考える(電気通信大学大学院、理系)

 エントリーシートは、AIが合否の判定を出すのに対して、面接は合否の判定までを出すのではなく、あくまでも判定材料としてのデータを示し、最終判定は「人」が行うというサービスが多くなっています。ただ、イメージとしてはAIに合否判定までされてしまうと捉えている学生は少なくありません。もしかしたら、人事担当者の中にも誤った認識を持たれている方が少なくないのかもしれませんね。

寺澤 康介 てらざわ こうすけ
ProFuture株式会社 代表取締役/HR総研 所長
86年慶應義塾大学文学部卒業、文化放送ブレーンに入社。営業部長、企画制作部長などを歴任。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。07年採用プロドットコム(ProFuture)を設立、代表取締役に就任。約25年間、大企業から中堅・中小企業まで幅広く採用コンサルティングを行ってきた経験を持つ。
著書に『みんなで変える日本の新卒採用・就職』(HRプロ)。
http://www.hrpro.co.jp/