2019年03月08日掲載

採用担当者のための最新情報&実務チェックポイント - 2019年3月


ProFuture株式会社/HR総研
代表 寺澤康介
(調査・編集: 主席研究員 松岡 仁)

 ProFuture代表の寺澤です。
 2月26日に、政府が2021年卒から採用に直接結びつけるインターンシップ(就業体験)の禁止を、近く経済界に要請する方針を固めたとの報道がありました(同日付 朝日新聞 朝刊)。報道を見る限り詳細はまだ分かりませんが、これまで経団連が定めていた倫理憲章を踏襲するものであり、「企業説明会は3年生の3月、面接は4年生の6月解禁」という現行ルールを政府は当面維持する方針を出していますので、その動きに沿ったものと言えるでしょう。
 さて、実際に要請がなされた場合、それが守られるものでしょうか。結論から言うと、おそらく無理でしょう。HR総研でのいくつかの調査結果を見る限り、21年卒採用が20年卒採用より採用時期が遅くなることは、まずないでしょう。早期の採用活動としてインターンシップがほぼ定着してきている中で、これを覆すには強烈な罰則規定が必要でしょうが、政府がそのような罰則を出す気配はまったく見られません。だいたい、経団連傘下の企業ですらこれまで守られなかった採用時期のルールが、政府が何かしたとしても、あらゆる企業が守るようになるとは到底思えません。
 また、かつては大手の就職ナビ会社がエントリーを受け付けなければ企業は採用活動を進めることができませんでしたが、SNSやダイレクトソーシング、HRテクノロジーなど、学生へのさまざまなアプローチ手法が出てきている現状において、一律的な規制を行き渡らせることは至難の業と言えます。おそらく、多くの企業が「通年採用化」(時期に縛られず、一年中いつでも採用を行う)を御旗とし、早期の活動を継続、強化して行うことになることでしょう。
 採用のルールが変わる中で、どこよりも早く動こうなどという早期化の競争に巻き込まれることなく、自社の採用力をどう高めるのか、求職者に真に選ばれる働き方をどう実現していくのか、根本的に自社の採用の在り方を見つめ直す時期に来ているのだと思います。

専用アプリでプレエントリーを促進

 さて、いよいよ採用広報解禁日である3月1日を迎え、本格的な採用・就活シーズンに突入したと言ってよいでしょう。3月1日に日付が変わるとともに、各就職ナビがグランドオープンし、2020年卒向けの採用情報の公開とプレエントリーの受付が一斉に開始されました。主要な就職ナビでは、今年も日付が変わる直前(2月28日 23時30分等)に、学生が気になるコンテンツの公開を開始するなどして学生を囲い込み、グランドオープンの瞬間を自社の就職ナビで迎えさせようとする動きが見られました。特に、就職ナビの2強を形成する『リクナビ2020』と『マイナビ2020』による、あれやこれやの施策には、はたから見ていて頭が下がる思いです。
 掲載企業へのプレエントリー数を競う両社の施策の中心は、日付が変わる前に、学生にプレエントリー先企業をいかに事前にピックアップしておいてもらうかというものでした。グランドオーブンしてから、条件を入力して企業を検索し、その検索結果ページやその企業のページからプレエントリーしてもらうのでは、手間や時間がかかるばかりでなく、学生のアクセスが集中することでサーバの負荷が高まり、下手をするとサーバのダウンを招きかねません。そこで、事前に候補企業の選択を済ませてもらい、グランドオープン後にはワンクリックで一斉にプレエントリーさせてしまおうというものです。
 今年興味を引いたのは、専用アプリの活用です。昨年6月1日に、インターンシップサイトとしてプレオープンする際にも見られましたが、『リクナビ2020』『マイナビ2020』ともにWEBと連動した専用アプリを公開・配布しており、このアプリからプレエントリーしてもらうというもの。例えば、『マイナビ2020』の『マイナビ2020-就活準備・新卒情報アプリ-』の場合、日付変更後に起動するだけで、事前にピックアップした企業に自動的に一斉にプレエントリーがされるという仕組みです。WEBを利用する必要もないわけですから、これまでよりも随分とサーバの負荷も軽減できます。風物詩となっていた、グランドオープン直後のサーバダウンが今年は見られませんでした。

3月1日にはもう第1ラウンドが終了

 上記で見たように、表向きは2020年卒向けの企業・採用情報を公開と同時に、プレエントリーを開始していますが、その企業・採用情報を見て関心を持った学生がプレエントリーするというかつてのような手順はもう幻想になっています。公開前にプレエントリーする企業をすでに決めており、就職ナビがオープンしたら掲載されている企業・採用情報を見ることもなく、プレエントリーをしているわけです。もちろん、これから新しい企業を見つけることもあるでしょうが、第1ラウンドは、就職ナビがグランドオープンする前に終わっていると言っていいでしょう。いかに、2月までに自社の存在を知らしめ、興味を持ってもらえるかが大事になってきたということです。
 定番となったインターンシップはもちろんですが、WEB上での情報公開も早いに越したことはありません。経団連傘下の企業は、2020年卒向けの募集要項の公開やプレエントリーの受付を3月1日まで規制されていましたが、WEB上で自社の業務内容や仕事内容、各種制度、行事の紹介などを掲載することについては、一年を通して時期の規制は一切ありません。つまり、年中公開していても構わないわけです。かつては、「○○年新卒採用向け採用ホームページ」として、就職ナビのグランドオープンに合わせて公開する、あるいは前年度のものと差し替えることが通例でしたが、もはやそんな必要はありません。
 3月に入り、2020年卒向けの採用活動が本格スタートしたと述べましたが、実は2021年卒採用もすでに始まっていると思ったほうがよいでしょう。6月1日の2021年卒向け就職ナビのプレオープンが2021年卒採用のスタートではなく、意識の早い学生はすでに企業を選別し始めています。WEB上での業務内容や仕事内容等の情報公開は、「○○年卒向け」と区別することなく、通年でいつでも見られるようにして、随時更新するのがよいでしょう。

「100人未満」の中小企業を除いて、掲載社数がきっ抗する2強

 次は、就職ナビ2強の今年の掲載企業の状況を見てみましょう。2020年卒向けの就職ナビの掲載社数は、2019年3月3日時点のものになります。
 掲載総数では、『リクナビ2020』は昨年の3月1日時点と比べてみると、3万154社から3万1490社へと1300社以上も伸ばしています。一方の『マイナビ2020』も2万2610社から2万4008社へと、こちらも1400社近くも伸ばしています。ただ、一昨年(2018年卒向け)から昨年(2019年卒向け)にかけては、双方とも約2600~2700社も掲載社数を伸ばしたことを考えると、今回の伸びは半分ほどにとどまっています。ただ、興味深いのは、毎年二つの就職ナビが似たような社数の伸びになっている点ですね。
 まずは、掲載企業を従業員規模別で見てみましょう[図表1]。総数では、『リクナビ2020』のほうが約7500社も上回っていますが、「3000人以上」「1000~3000人未満」「500~1000人未満」の掲載企業数はものの見事にきっ抗しており、100社以上の社数差がある従業員数区分はありません。「100~500人未満」では500社近い差がありますが、掲載社数の差は圧倒的に「100人未満」の従業員数区分になります。ここだけで7000社も『リクナビ2020』のほうが多くなっています。

[図表1]『リクナビ2020』と『マイナビ2020』の掲載企業数比較(規模別)

 全掲載企業に占める「100人未満」の企業の割合は、『マイナビ2020』の35.2%に対して、『リクナビ2020』は49.4%、つまり半数にも及びます。今年も掲載料金無料の『リクナビダイレクト2020』からの転載オプションによる社数がかなりの割合を占めているようです。「100人未満」の企業1万5553社のうち、検索結果ページから推測するに、優に1万社以上が『リクナビダイレクト2020』からの転載情報のようです。そう考えると、純粋な掲載企業数は『マイナビ2020』のほうが多いということになりますね。

ブロック別の掲載社数バランスもほぼ同じ

 次に、本社所在地別の掲載企業数を比較してみましょう[図表2]。『リクナビ2020』の内訳は、「北海道・東北」2467社、「関東」1万4691社、「北陸・甲信越」2381社、「東海」4119社、「近畿」5197社、「中国・四国」3115社、「九州・沖縄」2793社。一方の『マイナビ2020』の内訳では、「北海道・東北」1773社、「関東」1万1117社、「北陸・甲信越」1740社、「東海」2836社、「近畿」4041社、「中国・四国」1816社、「九州・沖縄」1728社、さらに「海外」21社となっています。「海外」を除き、すべてのブロックで『リクナビ2020』の掲載企業数が『マイナビ2020』を上回っています。

[図表2]『リクナビ2020』と『マイナビ2020』の掲載企業数比較(本社所在地別)

 [注]2本社制の企業を含むため、地域別社数の足し上げと「合計」は一致しない。

 全体の掲載企業数に占める各ブロックの割合を見てみると、両サイトでほぼ似たような割合になっていますが、「東海」「中国・四国」「九州・沖縄」の企業の割合については、『リクナビ2020』のほうが少々多くなっているようです。

JALがAIチャットボットを試験導入

 ここからは、就職ナビとは離れて、個別の企業の新しい動きをいくつかご紹介したいと思います。
 まずは日本航空(JAL)です。同社は、志望学生とのコミュニケーションチャネルとして「JAL就活AIチャットボット"AIまるこ"」(チャットボット:自動会話プログラム)を試験導入しました。これは、NTTレゾナントが提供する「goo AI x DESIGN」を活用したもので、「先輩社員にチャット上で気軽にOB・OG訪問を行える」をコンセプトに、AI社員が応募者から寄せられる各種質問に会話形式で回答するサービスです。「goo AI x DESIGN」のHR領域への導入としては初のケースになります。NTTレゾナントの「gooのAI」エンジンは、「教えて!goo」の約3000万件のQ&Aデータを学習しており、JALが保有するOB・OG訪問時によくある質問への回答データなどを組み合わせ、仮想の「JALで働く先輩社員」を作り上げるというものです。学生はOB・OG訪問をすることなく、業務内容や働き方、採用情報など、JALの社員に聞きたい疑問を気軽にいつでも質問ができることになります。
 学生は、「LINE」上で、QRコードもしくは、「友だち追加」から「AIまるこ」と検索して友だちになることで利用が可能になります。今回の導入対象は、2020年度入社の新卒採用のうち「業務企画職」に限定され、期間は2019年3月1日~6月30日までの予定。今後、ニーズや技術的な検証結果を踏まえ、他の職種や中途採用への展開を検討していく方針のようです。学生はいつでも気軽な会話を通じて企業理解を深められるだけでなく、企業にとっても採用担当者の問い合わせ対応への負荷軽減につながる面白い施策だと思います。

住友生命はWEB面談導入

 続いては、住友生命保険です。同社は、地方の学生と本社で働く社員とがインターネット上で直接対話することで、業務理解を深めてもらい、入社意欲を向上させるべく、「WEB面談」を導入しました。「WEB面接」ではなく、あくまでも「WEB面談」で、採用の合否とは切り離し、学生が率直に質問できる場をつくることが目的です。
 主な対象は総合職を志望する地方在住の学生で、希望者は資産運用や商品開発などに従事する本社社員と1時間程度、平日を中心に面談できるようにするとのこと。地方の学生の窓口は、札幌、仙台、名古屋、福岡の各都市の拠点になるものの、地方拠点には営業や販売部門の社員が多く、本社が担う業務の現場に詳しい社員は必ずしも配属されていません。学生からの専門的な部分にまで踏み込んだ質問に対して、地方拠点では満足な回答ができておらず、本社から社員を休日に出張させることもありましたが、対応には限界があり、地方の優秀学生を逃さないためにも今回の導入に至ったようです。国内の生命保険会社では初の試みになります。

パナソニックは、職種確約コースに「人事」と「経営戦略」を追加

 2019年入社の採用活動から事務系の職種確約コース(初期配属)を設けていたパナソニックは、2020年入社の採用から同コースの対象職種を拡充すると発表しました。これまでは、「経営経理職」と「法務・知財職」だけでしたが、新たに「人事職」と「全社経営戦略職」を加えました。
 「人事職」の対象は、「パナソニックの企業価値最大化のための"人・組織・風土"の実現にチャレンジし経営貢献したい方」「人事部門の仕事に興味を持ち、会社活動の担い手である"人"に関わる仕事に携わりたい方」としているだけで、特に資格等の条件はつけていません。これに対して「全社経営戦略職」の対象は、「パナソニックのコーポレート戦略部門で経営企画、財務IR戦略、事業開発 M&A、次世代モビリティ事業戦略など全社経営戦略に関わる仕事に挑戦したいという強い希望をお持ちの方」「事業での幅広い経験を通じて企画力を高め、企画のスペシャリストとして経営に貢献したい方」「経営学修士課程や、経営・財務などの分野を専攻している方で、ビジネスレベルの英語(TOEICスコア 750程度)、又は中国語(HSK 5級程度)を活用できる方」との条件を課しています。また、提出する自己PR書には、「パナソニックの経営・競争環境を分析し、課題を抽出した上でその解決策の提案」「上記の実現のために自らの果たしたい役割」「これまで困難な目標を達成するために、多様な人々とコラボレーションをして取り組んだ経験について、自らの役割を明確にし、具体的に記述」を求めるとともに、4月下旬から5月上旬に2回予定されているWebセッションへの参加も条件になるなど、他の3職種と比べるとハードルが高く設定されています。
 意欲が高く優秀な学生を取り込む施策として、日本企業においても配属する職種を確約しての採用方法を導入する企業は、今後も増えてくるものと思われます。日本固有の「メンバーシップ型」雇用から、欧米の「ジョブ型」雇用へ向けての一歩につながる動きと言えます。

寺澤 康介 てらざわ こうすけ
ProFuture株式会社 代表取締役/HR総研 所長
86年慶應義塾大学文学部卒業、文化放送ブレーンに入社。営業部長、企画制作部長などを歴任。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。07年採用プロドットコム(ProFuture)を設立、代表取締役に就任。約25年間、大企業から中堅・中小企業まで幅広く採用コンサルティングを行ってきた経験を持つ。
著書に『みんなで変える日本の新卒採用・就職』(HRプロ)。
http://www.hrpro.co.jp/