代表 寺澤康介
(調査・編集: 主席研究員 松岡 仁)
ProFuture代表の寺澤です。
6月1日、いよいよ経団連の指針による面接選考が解禁されました。大手企業では5月までに実質的な面接が水面下で進められ、この日は確認面接だけが行われ、即日内々定を手にした学生も少なくなかったようです。依然として、カタチだけの解禁日が今年も各地で繰り広げられたといえます。HR総研では、6月下旬に企業、学生双方に採用・就職活動動向調査を行いますので、その結果はまた来月以降にお知らせします。
早くも過熱する2019年卒向けインターンシップ
さて、同じ6月1日、次の世代に向けた就職ナビが一斉にオープンいたしました。正式なオープンは来年3月1日となりますので、この時期はプレオープンと呼ばれ、2018年卒者向けに掲載された採用情報と企業情報等が閲覧できるようになっています。採用情報はあくまでも前年のものになりますので、こちらにプレエントリーできるわけではありません。プレオープン期間のメイン情報は、何と言ってもインターンシップ募集情報です。
就職のナビの2強を形成している「マイナビ」と「リクナビ」に掲載されているインターンシップ情報を確認してみましょう(いずれも6月6日現在)。
まずは「マイナビ2019」です。全掲載企業数は3177社、掲載コース数は4622件。開催時期で検索してみると、早くも6月に開催の情報が397社もあります[図表1]。以下、7月開催 829社、8月開催 2256社、9月開催 1937社、10月開催 362社、11月開催 366社、12月開催 452社、2017年1月開催505社、2月開催 586社、3月以降開催 11社と、やはり8~9月開催が最初のピークになっています。後半開催の情報は、まだこれから順次追加掲載されていくのでしょうが、1~2月開催の情報がこの時点ですでに500社以上掲載されています。
[図表1]「マイナビ2019」掲載の開催時期別インターンシップ実施企業数
8~9月開催の情報だけをベースに、開催タイプ(期間)別で確認してみると、これまで経団連が規定していた5日間以上(1週間以上)は770社なのに対して、1日タイプは1650社と、圧倒的に1日タイプが多いことが分かります。1日タイプの掲載企業の中には、積水化学工業、第一生命保険、明治安田生命保険などの大手企業も含まれ、経団連が「5日間以上」の制約を外したことによる変化が早速現れています。
1Dayインターンシップが席巻
次に「リクナビ2019」の掲載情報を見てみましょう。掲載社数は、「マイナビ2019」の2倍以上の8618社にも及びます。開催時期で検索してみると、6月 371社、7月 1121社、8月 4343社、9月 2684社、10月 828社、11月 778社、12社 1006社、2018年1月 1233社、2月 2899社、3月 157社となっています[図表2]。
[図表2]「リクナビ2019」掲載の開催時期別インターンシップ実施企業数
8月開催分だけで4000社以上の企業のインターンシップ情報が掲載されていることも驚きですが、さらに驚くべきは来年2月開催分の情報がすでに3000社近く掲載されていることです。最終的には何社になるのでしょうか。昨年まで「5日間以上」の制約があった大手企業の中には、サマーインターンシップは開催するものの、1~2月に5日間以上のインターンシップの開催は難しいとの判断から開催をしてこなかった企業が少なくありません。今年、「5日間以上」の制約がなくなったことで、1~2月に開催される大手企業の1日タイプのインターンシップが急増することが予想されています。
こちらも8~9月に絞って開催タイプ(期間)別で確認してみると、1週間以上タイプは1338社なのに対して、1日タイプは実に3088社にも及びます。1日タイプは、開催日が複数設定されていることがほとんどであること、1開催当たりの受け入れ人数が1週間以上タイプよりも格段に多いことを考えると、総受け入れ人数では比べものにならないほどの差になります。学生の志向も、1週間以上タイプで深く体験するよりも、1日タイプに数多く参加することに向いてしまっているようです。本来のインターンシップとはどんどんかけ離れてしまい、ここでも日本独特の"ガラパゴス"状態になりつつあります。
学生に好評だったインターンシップに共通するのは「体感」
今回は、昨年の夏から今年の冬にかけて開催された2018年卒者をメイン対象としたインターンシップの中で、学生に評判が良かったインターンシップはどこか、また、どんなプログラム内容だったのかを見ていきたいと思います。今年開催するインターンシップの参考にしてください。
[図表3]印象のよかったインターンシップ(文系)
順位 | 企業名 | 得票数 |
1 | 損害保険ジャパン日本興亜 | 11 |
2 | ニトリ | 10 |
3 | 全日本空輸(ANA) | 8 |
4 | SCSK | 6 |
5 | 日本生命保険 | 5 |
6 | 野村證券 | 4 |
6 | 富士通 | 4 |
6 | りそなグループ | 4 |
9 | 東京海上日動火災保険 | 3 |
9 | 第一生命保険 | 3 |
9 | 船井総合研究所 | 3 |
9 | 水上印刷 | 3 |
9 | 三越伊勢丹 | 3 |
9 | 三井住友信託銀行 | 3 |
9 | 伊藤忠商事 | 3 |
9 | ユニリーバ・ジャパン | 3 |
9 | クラブツーリズム | 3 |
9 | アクセンチュア | 3 |
9 | Plan・Do・See | 3 |
資料出所:HR総研/楽天・みんなの就職活動日記「2018年就職活動動向調査」
(2017年3月、[図表4]も同じ)
文系のトップは、「損害保険ジャパン日本興亜」です[図表3]。プログラム内容は次のようなもので、あえて「体験」ではなく、「体感」という言葉を使っている学生が目につきます。
・グループワークでの業務体験があり、フィードバックがもらえた。内定者の方とたくさん話ができた(中堅私立大)
・自動車事故責任の算出、リスクコンサルティング、未来の保険の提案(上位国公立大)
・保険金サービス体感、商品企画体感(早慶クラス)
・会社説明、業務体験、社員講話、懇親会(上位私立大)
・営業同行プログラム(上位私立大)
・職業体験、社員との座談会(中堅私立大)
・プレゼン大会(その他国公立大)
・グループワーク(その他国公立大、上位私立大)
・業務体験(旧帝大クラス)
・業務体感、プレゼンテーション、座談会(その他私立大)
2位は、「ニトリ」。こちらのプログラムは次のとおりです。
・経営体感インターンシップで、本部勤務の模擬体験の内容(中堅私立大)
・社員目線で実際に会社が抱えている問題を解決していくプログラム(早慶クラス)
・1Dayが何ステップかあり、経営や配転教育について理解できた(上位私立大)
・グループワークで経営ゲームを行う(その他私立大)
・グループワーク(中堅私立大)
・経営体感ワーク(その他私立大)
・経営戦略のワーク(上位私立大)
・体感プログラム(中堅私立大)
こちらも「体感」という言葉が数多く使われています。現場での実際の業務の「体験」ではなく、あくまでもグループワークやゲームを通じて「体感」してもらう内容ということなのでしょう。「体感」がインターンシップにおいては、流行り言葉になっていると言ってもよいでしょう。
3位の「全日本空輸(ANA))でも、プログラム内容として、
・CAの業務内容について(早慶クラス)
・社員との交流が多かった(旧帝大クラス)
――などと混ざって、
・体感ワーク(上位私立大)
という声が上がっています。
4位の「SCSK」のプログラムでは、
・グループワーク(上位私立大)
・社員対話会(早慶クラス)
・業務体感(早慶クラス)
・新規事業立案(上位私立大)
のほか、
・SE体験(早慶クラス)
――といったIT系企業らしい内容もあります。
文系では、誰もが知る企業と並んで同率9位にランクインした「水上印刷」が目を引きます。この企業は、西新宿にある従業員150名ほどの印刷会社です。プログラムは、
・会社説明→職場の説明→工場見学(中堅私立大)
・工場見学、会社説明会、懇親会(その他私立大)
となっています。
学生に「働き方改革」が寄与しているSCSK
理系の人気トップは、文系でも4位に入った「SCSK」[図表4]。プログラムを見てみると、
・医用画像のビューアーのチーム開発(その他国公立大)
・擬似システム開発(上位私立大)
・仕事理解ワーク(早慶クラス)
・業務内容を体感(上位国公立大)
――というように、文系とは異なる理系専用のプログラムが展開されたようです。「SCSK」は働き方改革実践企業として、数多くのメディアやセミナーで取り上げられましたので、新卒採用においても企業ブランディングに大きく寄与しているのでないかと思われます。
[図表4]印象のよかったインターンシップ(理系)
順位 | 企業名 | 得票数 |
1 | SCSK | 8 |
2 | NTTデータ | 5 |
3 | 三菱重工業 | 4 |
3 | 小林製薬 | 4 |
3 | 新日鐵住金 | 4 |
3 | 日立製作所 | 4 |
7 | アステラス製薬 | 3 |
7 | キヤノン | 3 |
7 | セイコーエプソン | 3 |
7 | 旭化成 | 3 |
7 | 住友生命保険 | 3 |
7 | 博報堂/博報堂DYメディアパートナーズ | 3 |
2位は、こちらもIT系企業の「NTTデータ」。プログラムは、
・最新のシステムの見学と最も業務体験に近い経験ができた(旧帝大クラス)
・企業研究、新規事業企画(上位国公立大)
・チーム開発(上位国公立大)
――とされています。
3位には、「三菱重工業」「小林製薬」「新日鐵住金」「日立製作所」が同数で並びました。プログラムは、それぞれ以下のとおりです。
〔三菱重工〕
・実際に業務を体験するプログラム(旧帝大クラス)
・実際の現場を知れた(早慶クラス)
〔小林製薬〕
・会社説明、グループディスカッション、座談会(中堅私立大)
・座談会(上位国公立大)
〔新日鐵住金〕
・新設ラインにおける操業安定に向けたシミュレーション検証(旧帝大クラス)
・実際の研究に携われる(上位私立大)
・一つの課題テーマについて、指導役の社員の方に教えてもらいつつ実験とデータ分析を行い、課題の解決案をプレゼン形式で提案する(その他国公立大)
〔日立製作所〕
・研究開発(もともとあるアプリケーションの改善や新手法提案等)(上位国公立大)
・グループワーク(中堅私立大)
・職種体験(早慶クラス)
1Dayに肯定的な学生たち
今年のインターンシップは、先に見たように1Dayタイプが圧倒的な件数となっていますが、もともと学生は1Dayインターンシップに対しては好意的な感想を持っていましたので、多くの学生がそちらに向いてしまうのも致し方ないのかもしれません。
学生の1Dayインターンシップに参加しての感想を紹介します。
・その企業の方向性と合うかどうかを知ることができた(早慶クラス)
・仕事内容を理解できた。社員に好きなだけ質問ができた(その他国公立大)
・特別選考枠があるところもある(上位私立大)
・充実した説明や社員の方々と交流する機会が多くあり、企業の雰囲気にしっかりと触れることができた(上位国公立大)
・イメージと違うところを知ることができた(その他国公立)
・短い時間だからこそ全員が詰めた思考ができ、なおかつ一期一会意識が強くなるため必然的にコミュニケーションも活発になる(早慶クラス)
・短い時間で業界研究、企業研究ができ、仕事内容等についても体験できた(上位私立大)
・自分に足りない能力を知ることができ、その業界、企業について詳しく知ることができた(中堅私立大)
・事業内容、社風に触れることができ、社員の方の生の声も聞けた(その他国公立大)
・社員の方々からたくさんお話を聞き、仕事のイメージが湧いたから。また、営業職に魅力を感じることもできた(上位私立大)
・求められる人材についてのインターンシップで、自己PRについて強化でき、人事がみるポイントについて理解が深まった(上位私立大)
・半日・1日であっても、実際に行っている業務内容を凝縮したものだった(上位国公立大)
・その企業の雰囲気など良い意味でも悪い意味でもが分かり、企業選択に大いに役立った(その他私立大学)
・会社の説明をきちんと聞けて、かつ短いワークでありながらもフィードバックをいただけた(その他私立大学)
・内容が凝縮されていて長くなくスピーディに体感できた(その他私立大学)
学生が1Dayインターンシップに数多く参加するようになると、当然参加した企業同士を比較して考えることになります。1Dayインターンシップの解禁は、インターンシップ自体を開催しやすくはなりましたが、限られた時間の中で、いかに他社とは異なるプログラムや仕掛けを用意して差別化を図るかが求められます。1Dayの当日だけでなく、応募から開催後のフォローまでを含めたフローをインターンシップのプログラムとしてとらえて工夫を凝らすことが求められてきます。
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寺澤 康介 てらざわ こうすけ ProFuture株式会社 代表取締役/HR総研 所長 86年慶應義塾大学文学部卒業、文化放送ブレーンに入社。営業部長、企画制作部長などを歴任。2001年文化放送キャリアパートナーズを共同設立。07年採用プロドットコム(ProFuture)を設立、代表取締役に就任。約25年間、大企業から中堅・中小企業まで幅広く採用コンサルティングを行ってきた経験を持つ。 著書に『みんなで変える日本の新卒採用・就職』(HRプロ)。 http://www.hrpro.co.jp/ |