2015年06月18日掲載

活き活きチームを創ろう!―心理学研究×企業事例による科学的検証に基づいたチームづくりノウハウ - 第3回 高業績チームを作るノウハウとは


青島未佳
株式会社産学連携機構九州(九州大学TLO)
総合研究部門 部門長

■はじめに

前回(第2回)では、"高業績チーム"を業務上の業績・目標達成だけでなく、メンバー一人ひとりが活き活きと働いているチームと定義しました[図表1]

①チームの業績とチームの活き活き度は高い相関関係があり、業務面での成果・活動が出ると、チームやメンバーの活き活き度も高くなること、

②チームの活き活き度(チームのメンタルヘルス)を上げるためには、チームの活動的な側面(コミュニケーションや目標共有、チーム学習)が重要であることをお伝えしました。

[図表1]高業績チームと活動プロセスの関係

[図表1]のとおり、業績を上げるためには、チームの活き活き度を上げること、チームの活き活き度を上げるためには、チーム活動を活性化させることが大切であるということです(前回お伝えしたとおり、一般的なメンタルヘルス改善策は、メンバーに対するリーダーの心理的な配慮や仕事の負荷の軽減などが取り上げられますが、本研究では、チーム全体の活動や仕組みづくりがチームや個人のメンタルヘルスを改善することが明らかになりました)。

今回(第3回)は、"活き活きチームを作るためには、どのようなチームマネジメントを行えばよいのか?"――チーム成果を上げるための具体的なノウハウを研究成果に基づいて紹介していきます。

■チーム成果を高める13の要因

おさらいですが、本研究の結果、チームの成果を高める活動プロセスについて、[図表2]の13の要因が特定できました。
これらは、どの項目もチームの成果と高い相関を示したものです。

[図表2]チーム成果を高める活動プロセス

今回は、その中でも特に成果と関係性が高かった「チーム活動(仕組み)」と「チーム学習」について紹介します。

■成果を出すチームプロセスづくり

本研究で明らかになった成果を上げることと関連の深いチーム活動とは、次の四つのプロセスでした。

①【コミュニケーション】チームメンバーがお互いに遠慮や気兼ねをせずにコミュニケーションできる環境の中で、

②【相互協力】お互いの仕事の進み具合について気を配り、協力し合い、

③【目標共有】その上で、チームで同じ目的・目標を共有するとともに、その目標に向けた個々人の役割を明確にし、

④【フィードバック】お互いがお互いの仕事の進め方についてフィードバックができる(仕事のやり方に間違いがあれば指摘したり、ルールを守っていなかったら注意するなど)

■チーム成果の基盤はコミュニケーション

この四つのプロセスはチーム成果を高めるために重要な取り組みですが、ポイントは、この四つの順番です。本研究でパス解析という手法を使い項目ごとの因果関係を検討した結果、チーム内の「①コミュニケーション」が「③目標共有」や「④フィードバック」の前提となることが判明しました[図表3]

[図表3]成果を上げるチーム活動の順番

順番が大切であるということは、チームの目標設定や役割分担などのチームの形を作ることから始めるのではなく、まずはコミュニケーションの基盤を整えることが大切であるということです。
リーダーが新しくチームづくりを行う場合、チームのミッションや目的・目標を全員に共有し、各個人の役割分担を行って各自のマネジメントをしていくことが基本であり、どのチームでも実施していることだと思います。もちろん、これらの活動は必須であり、これがなければ"チーム"としても機能しません。
しかしながら、チーム力を高めるためにリーダーが注力しなくてはならない活動は、目標設定や個々人の職務設計、その後の進捗管理だけでなく、チームのメンバーがいかに話しやすい環境をつくるのかということなのです。
なぜコミュニケーションがこんなにも重要なのでしょうか?
第1回で、今求められているチームマネジメント力とは、"チーム内の相互作用を通じて、一人ひとりの能力の総和以上の成果を出す"力であるとお伝えしました。チーム内の相互作用を機能させ。1+1=2以上の成果を出すためには、メンバー同士が遠慮することなく、自由に意見や要望を言い合える環境を作らなくてはなりません。
メンバー同士が率直に自分の意見を言ったり、恐れを持たずにお互いに分からないことを質問したり、支援を求めたり、提案できる環境が整えば、チーム内で課題が発生ときに協力して乗り切ったり、個人の新しいアイデアや知恵をチーム内に還元でき、チームの成果が高まる確率が高くなります。
逆に、このような環境が乏しいチームでは、リーダーや他のメンバーからどのように思われるのか気になり、本来言うべきことが言えない状態に陥ってしまい、ミスやエラーを見逃したり、それらを他人のせいにしてしまうことが起こります。
このコミュニケーションの大切さは、エイミー・C・エドモンドソンの著書『チームが機能するとはどういうことか』(野津智子・訳、2014年 英治出版)の中でも「心理的安全」という言葉でその重要性が説かれています(組織心理学の大家であるエドガー・シャインやその他の研究者も、コミュニケーションの必要性を論じています)。
過去から現在までの研究の結果も踏まえると、気兼ねなく話すことができるコミュニケーション基盤は、チームの活動にとって最も大切であり、不可欠な要素といえます。

■コミュニケーションの基盤づくりの鍵はリーダー

この基盤は、メンバー同士の横のコミュニケーションだけでなく、リーダーとメンバーの縦のコミュニケーションが重要です。各企業の優秀チームと課題がある非優秀チームをサンプリングし双方にインタビューをした結果、メンバー同士は円滑なコミュニケーションでも、縦のコミュニケーションがうまくいっていないチームは成果が上がっていませんでした。

[図表4]ある企業の優秀チームと非優秀チームの違い

では、このようなコミュニケーション(心理的に安全な場)は、どのように作るのでしょうか?
本研究では、コミュニケーションに影響を与える要因はリーダーのリーダーシップであることが分かりました。
このような目に見えない環境や風土は、得てしてチームを率いるリーダーのマネジメントに影響を受ける部分が多く、リーダーが意図的にチーム内で遠慮せずに発言できるコミュニケーション基盤(心理的に安全な環境)を作ることが大切となります。
この基盤づくりに欠かせないことは、リーダー、サブリーダーのマネジメントスタイルであり、これらの基盤づくりを行えるスキルがチームマネジメント力であると考えます。
コミュニケーションの基盤づくりに限って言えば、リーダーは、戦略立案や資源配分、プロジェクト管理スキルではなく、対人関係リーダーシップのスキルを発揮する必要があります(注:どのようにしたらコミュニケーション基盤を作れるかという方法論は、リーダーシップを論じる第5回、第6回でご紹介します)。

しかしながら、このようなコミュニケーションの基盤が乏しいチームのインタビューを行うと、日々の業務に追われる忙しいリーダーたちは、このことに気づいていなかったり、本来は大切であると分かっていても、気づかないふりをして心の片隅にしまっているようです。

あなたのチームはいかがでしょうか? 目に見えないものであるからこそ、一度客観的に把握することが大切と考えます。

■メンバーが同じ目的・目標を共有する

コミュニケーションの基盤づくりの次に大切なポイントは、チーム内の「目標共有」です。この重要性は"チーム"の定義からも推測できます。チームと集団は違います。チームの定義はいろいろな研究者がしていますが、"共通の目的・目標に向かって、役割や責任を分担する2人以上のメンバーが、相互に協力・補完し合いながら課題や作業に取り組む組織"といえます。
この定義に従うと、チームとして機能する要素は「目標・目的を共有していること」になります。しかしながら、さまざまなビジネス上のチームを調査すると、チームの目的や目標を明確に共有しているチームは多くありません。
例えば、プロスポーツチームの場合、目的・目標は試合に勝つことであり、明確です。一方で、ビジネス上のチームは、その設定が時として曖昧になってしまいがちです(プロスポーツチームの場合は、単に勝つだけではなく、どこまで目指すかを含めて共有化されています。サッカーのワールドカップだとすると予選突破なのか、準決勝なのか、優勝なのかなどです)。

ビジネスチームの場合、以下のようなケースがよく見受けられます。

①一人ひとりの数値目標は管理しているが、チーム全体の目標を明確に掲げていない営業チーム

②所長・副所長だけがコスト・品質・納期を気に掛けており、メンバーは自分の業務のみに追われている現場チーム

③本来のチーム(課)のミッションを把握せず、漫然と日々のオペレーションに追われている人事や経理チーム

今回調査をした成果を上げているチームのほとんどは、チームリーダーがチームの目標・方針を明確にして、メンバー全員に共有していました[図表5]。また、メンバー一人ひとりの目標や役割についても、メンバー内で共有し、メンバー同士で目標達成に向けた取り組みを刺激し合える環境を構築していました。
これは、単純に人事制度上の仕組みとして導入している目標管理制度を導入すればよいということではありません。年に1回の全体会議や個別面談等での目標共有や振り返りは、その取り組みが形骸化してしまい、実際のメンバー同士のパフォーマンス向上やチーム内の活動変革に結びつきません。ここでのポイントは、日々の業務の中で全員が目標を意識し、支援し合える環境を作ることが大切です。
そのためには、リーダーは、チームの目標と一人ひとりの目標を日々共有し合ったり、確認する仕掛けづくりが必要となります。

[図表5] 某企業の目標の共有例
(毎週のミーティングの中で確認し合っている)

■創発チームづくりに向けたチーム学習

これまで説明したコミュニケーションや目標共有の活動プロセスづくりは、第1回で紹介したチームに求められるレベル(レベル1:安心チーム、レベル2:自律チーム)を作り上げるための基本となる活動といえます。これから求められるチームはレベル3の創発チームであり、創発チームになるためには、コミュニケーションや目標共有にとどまらず、もう一つ工夫が必要です。

[図表6]課題の明確性と付加価値の源泉によってチームに求められるレベルは変わってくる

創発チームにレベルアップするためには、コミュニケーションや目標共有の活動が整っている上で、チーム内で学習を促進することです。
本研究では「チーム学習」として、データベース等を活用しながら、メンバー同士で成功事例や失敗事例やそこから得た示唆などのノウハウ(know-how)を共有したり、誰がどのような情報を持っているのか、どのような専門家なのかというノウフー(know-who)を共有することが創発チームの育成にとって大切であることが明らかになりました。

ここで申し上げている「チーム学習」とは、ナレッジマネジメントシステムなどのデータベースを作って各社員の知恵やアイデア、成功例を共有する仕組みを言っているのではなく、(チーム独自の仕組みであれ、会社全体の仕組みであれ)このような仕組みを日々の業務の中に組み込んで運用しており、日々のメンバーがアイデアをお互いに伝え合ったり、アドバイスをし合ったりできる学習する組織を設計することです。

例えば、某エンジニアリング会社のプロジェクトチームでは「メンバー全員分の作業日報を公開し、一人ひとりが全員分の日報をチェックしないと朝ミーティングが始まらない。ミーティングでは、日報に書かれていた悩みや解決すべき点について、メンバーにアドバイスをもらう時間を必ず設ける」などの取り組みがされていました。日報を単に部下が上司に提出するだけの報告書ツールとせず、学習ツールとして活用していました。

また、エンジニアリング会社のプロジェクトと違い、外勤が多く日々顔を合わせることが少ない営業部では、リーダーが毎日のメールで、営業ノウハウを伝える取り組みをしたり、週1回集まる朝の全員ミーティングの時間に実際の商談事例を使ったロールプレイングを行っていました。このような活動が定着しているチームでは、メンバー内で営業成績を上げるために必要なノウハウを価値あるものと考える共通認識が形成されており、チーム内で相互に教え合う雰囲気が自然と醸成されていました。

要するに、チーム成果に直結するチーム学習とは、いつでも見ることができるが、誰も使っていないようなナレッジマネジメントシステムを作ったり、一過性の研修・勉強会を行ったりするのではなく、日々の業務の中に組み込んで、タイムリーに学習できる仕組みを設計することが大切だということです。

■日々の業務に組み込まれたチームプロセスを作り上げることが大切

チームは人の集まりでできています。人と同じで、機械的なマネジメントだけではうまくいきません。チームの成果を上げるためには、チーム内の心理的な対人不安を解消し、お互いが遠慮なく話すことができるコミュニケーションの基盤を作りながら、日々の業務の中で目標共有やチーム学習をフォローする仕組みが必要となります。
チームリーダーが、メンバー一人ひとりの気持ちやチームの組織風土に配慮しながら、チーム内で日々継続できる業務設計を行うことが重要なのです。
成果を上げているチームで行われている活動は、決して難しいことではありません。どのチームでも明日から実践できることばかりです。成果を上げるチームになれるかどうかは、その取り組みを継続して運用していけるかどうかにあるといえるでしょう。

なお、今回は、紙面の都合上、チーム成果を上げる13の要因(前掲[図表2]参照)のうち、特に重要な「活動プロセス」と「チーム学習」について紹介しました。他の項目について興味がある方は、(株)産学連携機構九州にお問い合わせください。
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第4回:どのようなメンバーを集めるとよい?
第5回:どのようなリーダーとなるべき?
第6回:チームマネジメントの知恵~アプリで行動を見える・継続化する

(つづく)

参考文献
古川久敬(2004)『チームマネジメント』日経文庫
山口裕幸(2008)『チームワークの心理学』サイエンス社
エイミー・C・エドモンドソン(2014)『チームが機能するとはどういうことか』英治出版

青島未佳 あおしま みか
株式会社産学連携機構九州(九州大学TLO)
総合研究部門 部門長

大学卒業後、日本電信電話(NTT)に入社。その後、アクセンチュア、デロイトトーマツコンサルティングを経て、2012年1月より現職。人事制度改革、人事業務プロセス改革、人事システム導入支援、コーポレートユニバーシティの立ち上げ支援、グローバル人事戦略など組織・人事領域全般のマネジメントコンサルティングを手がけるとともに、製造業の業務改革、全社改革プラン策定、営業・マーケティング改革のコンサルティング経験を有する。